第8話、アタック!

 一瞬、体にふわっと、無重力を感じる。 続いて、車体が着地する衝撃。 5台の兵員輸送車が、砂丘をジャンプしながら、一斉に、戦場へ突入した。

 もうもうたる黒煙・・! 乾いた機関砲の発射音、爆発音・・!

「 周りは、ロボばっかりだッ! 連中の後方に突入したらしいぞォッ! 」

 機関銃を撃ちながら、ベラルスが叫んだ。

 側板から身を乗り出し、機銃を乱射しながら、ペレスも叫んだ。

「 とにかく、撃ちまくれッ! 周りは全部、敵だッ! 蹴散らせえぇ~ッ! 」

 ふいを突かれた形となったアンドロイド兵たちが、慌てふためいている。 指揮官らしきアンドロイドが、コンピュータ言語で、キイキイと叫んでいたが、ベラルスが機銃掃射をブチ込むと、指揮官アンドロイドは、上半身を粉々にされながら、後へとフッ飛んだ。

 ベラルスが撃っている車載機銃は、チェーン・ガンだ。 毎秒、24発の17・7ミリ鉄鋼貫通弾を発射させる。 破壊力は、抜群だ。

 廃莢される、物凄い数の薬莢が、キャビン内に雨のように降り注ぐ中、ペレスが、ドライバーに叫ぶ。

「 停まるなよォッ、グラコフっ! 停まったら、最期だぞ! 分かってんなッ? 」

「 分かってますっ! 」

 ドライバーが答える。

「 前方、ロボの集団っ! 」

 撃ちまくる、ベラルスが叫んだ。 見ると、指揮されていないアンドロイド兵たちが、一塊になっている。

「 踏み潰せえェッ! 歯向かうヤツは、ことごとく、弾き飛ばせえェ~ッ! 」

 頭に被ったテンガロンハットを、手で押さえながら、ペレスが叫んだ。

 カン、カン、キイーンと、装甲に弾く、機銃弾。 耳元を、弾が幾つもかすめて行く。

 物凄い揺れに、銃の狙いをつける余裕など無い。 車から振り落とされないように、側板の取っ手に掴まっているのが、精一杯である。

「 イッキまァァ~すッ・・! 」

 ドライバーの、グラコフが叫んだ。 一際、物凄い衝撃と共に、数体のアンドロイド兵が、左右に弾き飛ばされていく。 先程のアンドロイド兵の塊に、車を突っ込ませたのだ。

「 ストラ~イクッ! 」

 ベラルスが叫んだ。

 数体のアンドロイド兵が、車体の下で、メキメキと音を立てて潰されていく。 前輪は防弾タイヤだが、後輪は、キャタピラ形式のクローラタイプ兵員輸送車で、車重は5tを超える。 いかに甲殻仕様のアンドロイド兵でも、ペシャンコだろう。

 無線機から、先頭を行くロメルの声が聞こえる。

『 お祭り会場での長居は、無用だ! ヘインズの所へ行くぞ! ピートの連中に、花火を上げさせろっ! 』

「 了解ッ! 」

 ペレスが、グラコフに向かって叫んだ。

「 そろそろ、ロボ共も、大勢を立て直して来るぞ! エリアを離脱しろ! 中央区へ向かえっ! 」

「 イエッサーッ! 」

「 他の連中は、どうしているっ? 」

 リックが、周りを確認して答えた。

「 ・・ハデに、撃ちまくっているようだ! 全車、健在だ! 」

「 ようし! 中央区の109空挺たちに加勢するぞ! クライド伍長、ピートの連中に無電ッ! 砲撃よしッ! 」

「 イエッサー! 」


 指揮所に、片腕を負傷した兵士が、転がり込んで来る。

「 もっと、奥へ入れっ! そこじゃ、弾が入って来るぞ。 どうしたッ・・? 」

 薄暗い塹壕の中に引き込まれた兵士が、報告した。

「 大隊長・・! 前線が、突破されました・・! 12高地の2号壕・3号壕・7号壕、共に全滅です・・! 」

 数人の兵士が駆け寄り、腕の止血をする。 大隊長、と言われた将校も駆け寄る。 ロメルと同じ、50代くらいの将校だ。 ガッチリした体格に、日焼けした顔。 左頬から顎にかけて、5センチくらいの古い傷痕があった。

「 中央の5号壕は、どうか? あそこを突破されたら、お終いだぞ! 」

「 まだ・・ もっています。 しかし、9高地の6号壕との連絡は先程、途絶えました・・! 」

 ぐっと、唇を噛む、大隊長。

「 最前線、2高地は・・ 突破されてたな。 11高地の1号壕・4号壕は、どうしてるっ? 無線には、まだ誰も出んのかっ?」

 傍らで、簡易無線機の受話器を握り締めている通信兵の方を向いて大隊長が尋ねると、迫り来る恐怖に青ざめ、震える声で通信兵は答えた。

「 ロ・・ ロボ共の・・ キイキイ言う声しか、聞こえません・・! 」

 再び、壕の外に目をやりながら、大隊長は、吐き捨てるように言った。

「 ・・何て顔、してやがる・・! シャキッとせんか! 」

 壕の外では、散発的な戦闘が続いている。 機銃の発射音、ランチャーの炸裂音・・・ およそ、7~800メートル先の最前線では、堀り巡らされた塹壕の中を、行ったり来たりしている兵士の頭が小さく見える。 有刺鉄線のバリケードや大破した車両の陰から、機銃を伏せ撃ちしているガン・クルーの姿・・・ その向こうからは、アンドロイド軍の、数台の装甲砲車が迫って来ていた。

「 ・・くそう・・! 戦車相手じゃ、歩兵では、話しにならん! 3軍の阻止火器要請は、どうなった? 」

 ドラム缶の上に置いた大型無線機を操作していた、大隊所属の無線士に尋ねる。

「 ・・向こうも、手一杯のようです。 新たな機甲部隊と、交戦中です・・! 」

 大隊長は、再び、唇を噛みながら呟いた。

「 くそう・・! 頼りは、政府軍の戦車砲だけか・・! 」

 塹壕の奥に横たわっていた政府軍の軍服を着た将校が、上半身を起こしながら言った。

「 ・・すまん、ヘインズ少佐。 燃料が無くては、どうしようも無い・・! 」

 足を負傷している。 その傍らにも、数人の負傷者が転がっていた。

「 仕方の無い事だ、パーク中佐・・ あんたの師団は、2ヶ月も前から遠征してたんだ。 ・・しかし、機銃座・砲座として使ったんじゃ、狙い撃ちされるぞ? いいのか? 」

 中佐は、上半身を斜めに起こしたまま、答えた。

「 我々の機甲部隊の火器車両は、装甲が40ミリもある。 突撃砲クラスの弾じゃ、貫通出来んよ。 問題は、歩兵アンドロイドだ・・! 排気管から迫撃砲弾を入れられたり、VXガスなんぞ入れられたら、それこそ、鉄の棺桶だ・・! 」

 ヘインズは答えた。

「 白兵戦は、コッチのお家芸だ。 任せておけ・・! 問題は、そこまで持って行けるかどうか、だ。 引き付けて機甲部隊を撃破し、反撃に転じるしかない。 それまで我々が、もつか・・! 」

 塹壕の外に、また1人、兵士がやって来た。 倒れ込み、唸っている。

「 ヤラれてるぞ! 早く、引き込め・・! 」

 腹部から出血している。 数人がかりで、塹壕内に引きずり込む。

 ヘインズが言った。

「 シンプソンのトコのヤツだなっ? しっかりしろッ! 5号壕は、どうなったッ? 」

 彼は、血だらけの震える手でヘインズの袖を掴み、うめきながら答えた。

「 ・・ロボ共が・・ ロボ共が、攻めて来て・・・ 物凄い、数・・・! 」

 そう言って、彼は、事切れた。

「 ・・・・・ 」

 その時、塹壕の外から、ガチャガチャという音が聞こえて来た。

「 来おったな、ロボ共が・・! 」

 アンドロイド兵の、進軍する足音だ。

 塹壕から、外を見渡す、ヘインズ。 銃座・砲座とした、政府軍 第12師団 機甲部隊の車両の向こうに、横1列となって進軍して来るアンドロイド兵の姿が確認出来た。 その後には、軽砲を装備した装甲砲車が続く。

 ・・・いよいよ、総攻撃らしい・・・!

 ヘインズは、無線士に言った。

「 政府軍の機甲部隊に、無電ッ・・! 弾は、残り少ないはずだ。 こちらの被害は考えず、確実に引き付けてから撃て、と言え・・! 」

「 了解しました・・! 」

 数千体は、いるだろうか・・! 一糸乱れず、無機質に行進して来るアンドロイド兵・・・ アーマーに反射する鈍い日の光が、非情な雰囲気を漂わせている。 右手の先には、16ミリの機関砲。 携帯弾薬数は、約2000発。 左手には、小型のグレネードランチャーが装備されている。 元、政府軍、32型の改良型だ。 その他に、火炎放射器や迫撃砲を装備したタイプもあるが、今、進軍してくるのは、32型だけのようだ。 通称、『 ジミー 』と呼ばれていた32型は、最も量産されていた型である。 人工皮膚を装備し、将官の侍従兵として使用していた型もある。

 ヘインズは、憎々し気に見ながら、呟くように言った。

「 機械の分際で、人間様に歯向かいやがって・・ 貴様らなどに、文明を築く資格など無いわ・・! 」

 その時、シャ、シャ、シャ、シャ・・! と言う、空気を切り裂く音と共に、どこからともなく砲弾が飛んで来て、進軍して来るアンドロイド軍のド真ん中に落ち、炸裂した。 続いて、2発・3発・・! 次々と、空中高く吹き飛ばされ、粉々に四散するアンドロイド兵。

「 ・・な、何だっ・・? 誰が撃っているっ? 機甲部隊か・・? 」

「 違う・・! あれは、野砲の砲撃だ! 88ミリ砲弾だ! 我々の戦車砲ではない・・! 」

 ヘインズの問いに、傍らにいたパーク中佐が答えた。

「 野砲だとっ・・? 第4師団が、到着したのかっ・・? それにしては、早過ぎる・・! 」

 再び、着弾し、炸裂する砲弾。 アンドロイド兵たちの一糸乱れぬ行進が、瞬く間に混乱を極める。

 パークが注進した。

「 貴殿の友軍、解放軍 第4師団には・・ 確か、砲術部隊は無かったはずだ。 高精度の88ミリを持っているのは・・ 遊撃部隊だ! 」

 ヘインズは、ハッと気が付き、言った。

「 ・・レンジャーか・・! ロメルだッ・・! 第1レンジャーだッ! ・・そうだ、ヤツの所には、88ミリの自走砲がある! 」

 元々、中距離野砲だった88ミリ砲。 それを、砲台として車載し、自走砲としていたロメルの第1レンジャー。 高精度な照準能力の本領発揮である。

 次々と吹き飛ばされる、アンドロイド兵。 各、塹壕からは、歓声が揚がった。

「 いいぞッ! もっとやれっ! いけえーッ! 」

 塹壕の中で、小躍りするヘインズたち。 その塹壕の前を、黄色いひし形に『 1 』の黒い文字が描かれた部隊章をペイントした装甲車両が、猛スピードで駆け抜けて行った。

「 ・・うおっ・・ ロメルだッ! オレの、ダチの部隊だッ! みんな、第1レンジャーに続けェーッ! 」

 脇にあった軽機関銃を手に取り、ヘインズは、塹壕を飛び出した。 他の兵士たちも、それに続く。 燃料切れで座したままの政府軍機甲部隊の戦車砲も、一斉に、火を噴いた。


「 ピートの連中に、無電ッ! 砲撃中止! 前進して待機ッ! 」

 ロメルが叫ぶ。

「 野郎共は、付いて来ているかっ? 」

 ロメルの問いに、後を振り返りながら、傍らにいた兵士が答える。

「 ペレス曹長以下、全車、みんな付いて来てますっ! 」

「 ようし! タフな野郎共だ。 ロボ共の中に、突っ込むぞ! 」

 アンドロイド兵たちが、応戦して来る。 装甲に弾丸が跳ね返り、キン、キンと音を立てる。

 砲撃により、大勢を崩したアンドロイド兵は、右往左往しているだけだ。 容赦無く踏み潰し、機銃弾を、お見舞いする。

 ロメルが叫んだ。

「 アタマに、無線重複機を付けているヤツが、指揮官だ。 徹底的にマークし、撃破しろ! 指揮・指令系統を分断してやれば、連中は、タダの鉄クズだ! 」

 数台の装甲砲車が見える。 ヘインズたち歩兵部隊の脅威となっている、機甲車両だ。

 ロメルは、無線機を取り、再び叫んだ。

「 亀( 装甲砲車の事 )が、5台いる! 全車、グレネードで応戦しろ! だが、油断するな。 モタモタしてると、36ミリが飛んで来るぞッ! 」

 装甲砲車よりは、こちらの方が、断然早い。 各車、回避行動を取り、蛇行運転をしながら、装甲砲車を取り巻くようにして走行する。

 装甲砲車から、砲撃があった。

 ロメルが叫ぶ。

「 苦し紛れの、目くら撃ちだ。 ビビるな! いてこましたれッ! 」

 グレネードランチャーが、発射された。 白い噴煙を上げながら、真っ直ぐ、装甲砲車の方へ向かい、吸い込まれるようにキャタピラに命中した。 ロメルの装甲車から発射された、もう1発が、砲身の根元に炸裂。 装甲砲車は、砲身を根元から吹き上げ、爆発、炎上した。

「 一丁、上がり! 」

 赤子の手を捻るようなものである。 これほど、移動スピードに差があっては、話しにならない。

 装甲砲車は、次々と撃破されていった。

 ロメルの傍らにいた兵士が、報告する。

「 大隊長! 塹壕から、友軍と政府軍が出て来ました! 一緒に、応戦してくれています! 」

「 ふわぁっ、はっはっはっは! 我々は、十字軍だ。 くされロボから、民を解放するのだ! 共に戦え! 人類の興廃、この一戦にあり、だ! 」

 意気高々に、拳を振り上げるロメル。 その様子は、後続のペレスの車上からも、見て取れた。

 ドライバーのグラコフが言った。

「 大隊長が、何か・・ 手を挙げて叫んでまァ~す! 」

 薬莢だらけになったキャビン内を、ザクザクと踏みしめながら前に来たペレスが言った。

「 あの様子じゃ、突撃精神に火が付いたと見えるな。 どうやら、突っ込む気らしい・・! 」

 耳元をかすめた銃弾に、テンガロンハットを押さえながら、苦笑いするペレス。

「 どのみち、左翼の第3軍のトコへは、中央突破しかねえですぜ、曹長! 」

 デビーが、ベラルスのチェーン・ガンに、弾帯を補給しながら言った。

「 そういう事だ・・! 109空挺の水先案内人をしつつ、突っ込むぞ! 友軍の花道を付けてやるんだ! 」

 側板の装甲に、カン、カンと銃弾が跳ねる。 新たに補給した弾帯が、勢い良く銃身に引き込まれ、ベラルスのチェーン・ガンが、再び、火を噴き始めた。




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