第7話、戦場へ・・・

 荒涼とした平原に、国道らしき道が伸びている。

 道の横に、黒い影・・・

 兵員輸送装甲車の助手席後ろにある通信士席のPCで、アンドロイド軍の野砲陣地を探索していたリックは、キーボードを操作し、影をズームアップした。

 影は、遺棄されたトラックだった。

「 シトロエンの、D型だ。 政府軍のものだな・・ 」

 ズームを戻し、道沿いに画像を移動させる。

 渓谷沿いに、移動している長い影を発見。 再び、ズームする。

「 武装したアンドロイドだ・・! 3個小隊くらいか・・ 甲殻戦闘タイプだな。 政府軍の32型に似ているが、改造されている。 最近、アーマーの装備が、重装になったようだ。 考えやがったな、連中・・・! 」

 渓谷は、ライトポリスまで伸びている。 おそらく、これは補充兵だろう。 どこに行くのか・・・?

 ズームを高度に戻し、アンドロイドたちが進む方角を探索するリック。 瞬間、何かが画面を、真っ直ぐに横切った。

「 ! 」

 今のは、高速の飛行物体だ。

 ・・また、横切った・・!

 傍らにいたターニャに、リックは言った。

「 ミサイルの軌道らしきものを発見したぞ・・! 」

「 ホント・・? 」

 モニターを食い入るように見つめる、ターニャ。

「 ・・あ、ホントだ! 何かが、横切ってる・・! 」

 助手席に立ち、装甲車の天蓋から双眼鏡で遠方を監視していたペレスも、ターニャの声を聞き、モニターをのぞき込んだ。

「 ・・むうう・・ 確かに、ミサイルだな! コイツだ。 発射地点は、分かるか? 」

「 今、追跡中だ。 誘導式でなければ、発射地点は、直線状のはずだが・・ 」

 画像を移動させながら、リックが答える。 ほどなく、短い木が茂っている地域に行き着いた。

「 ・・クサイな 」

 じっと、画面を監視をするリック。

 やがて、木々の間から小さな炎の点が一瞬、点滅し、モニター画面を、斜め上に横切っていく曳航が確認出来た。 辺り、数十メートルに渡って、絶え間無く小さな炎が点滅し、曳航が確認出来る。

「 ここだ・・! アンドロイド軍のミサイル陣地だ! 木でカムフラージュしてある。どうやら、ランチャーから発射しているみたいだな・・! 」

 画像をズームアップする、リック。 木々の間から、車両の一部が見える。

「 やっぱり・・! 移動しながら、砲撃しているんだ 」

 ペレスは、ニヤリと笑いながら言った。

「 ロボ共も、考える事は一緒か・・! 機械仕掛けの脳ミソも、元は、人間がプリセットしたんだからな。 だが、ヤツラは、衛星を持っていない。 コッチの方のが1枚、上手を取れるワケって事よ 」

 ペレスは、無線機を掴むと、ロメルに報告を入れた。

「 大隊長! ロボ共の、花火打ち上げ地点を発見! 次の発射地点で、目標を変更します! 」

『 了解だ! でかしたぞ、リック中尉! 帰ったら、1杯おごらせてくれ 』

「 出来る事をしたまでですよ、大隊長! 」

『 謙虚だな、エリート野郎。 祝杯は、受けるものだぞ? 』

「 この戦いが終結するまで、祝杯は延期です 」

『 エリート野郎・・ 貴様、本当に政府軍の人間か? 連中は、戦況よりシャンパンの冷え具合の方を重要視しているはずだが? 』

 ターニャが、無線機のマイクに顔を近づけ、言った。

「 リックは、別格なのよ? 大隊長! 」

『 なるほど。 さすがターニャだな。 捕虜も、厳選して拉致して来たってワケか。 ペレスも、良い教育をしているようだな 』

「 お褒めに預かり、光栄であります、大隊長 」

 ペレスが、リックの顔を見ながら答えた。

 苦笑いするリック。


 やがて、次の発射地点に着いた。

 遥か遠くの砂丘の稜線から、煙が昇っている。 戦闘地域であろう。 およそ、10キロ範囲だ。

 再び、ペレスが叫ぶ。

「 座標を変えるぞ! 今度は、ロボたちの花火打ち上げ現場だ。 盛大に散らすぞ! 2列、7番から13番! 3列、14番から20番だ! 1発ごとに、座標をコンマ5、ずらせ! 絨毯爆撃だ! 」

 12発のランチャーの、一斉発射である。

「 見ものですよ? リックさん! 」

 デビーが、兵員輸送車の天蓋枠に腰掛け、ワクワクしながら言った。

「 アンカーの補強をしろ! 連射は、風圧で車体が揺れる。 おい、ジャッキを持って来んか! 油圧ハンドリフトは、どうしたっ! 」

 115号の脇で、ペレスが怒鳴っている。

 ベラルスが叫んだ。

「 総員、耳塞げーッ! 発射ァーッ! 」

< キシュン、キシュン、キシューン! > と、耳をつんざくような発射音と共に、次々と発射されるランチャー。 115号は、瞬く間に、粉塵と砂塵に覆われ、何も見えなくなった。 その中からオレンジ色の炎が、白い曳航を引きながら、次々と空へ吸い込まれて行く。

「 行ってらっしゃ~い! 帰って来なくって、いいぞおぉ~! 」

 デビーが指笛を鳴らし、叫んだ。

「 着弾観測、出来る? 」

「 もちろんだ 」

 ターニャの問いに、躊躇無く答えるリック。 早速、キーボードを操作し、着弾確認の準備に入る。

 緑の木々の間から、見え隠れしているアンドロイド軍ランチャーの発射光。 画面、右下から、数本の曳航が近付いて来た。 先程発射した、ミサイルの曳航だ。

「 いいぞ! 行け、行けっ! 」

 デビーが、野球観戦するかのように両拳を構え、言った。

 次の瞬間、次々と着弾するミサイル群。 赤いフリップのような点が、モニター画面上に次々と点滅し、やがて大きなオレンジ色の火の玉が、そこいら中に花咲いた。

 リックが言った。

「 全弾、命中だ! どうやら、誘爆しているぞっ! 」

「 よっしゃあーッ! 」

 デビーは、ターニャと手を取り合い、飛び跳ねながら喜んだ。

 115号から戻って来たペレスが、聞いた。

「 ・・やったかっ? 」

「 やったわよ、ペレス叔父さん! 敵陣地は、全滅よっ! 」

 ターニャの嬉しそうな答えに、ペレスも両腕を上げ、歓喜する。

「 ラリホーッ! 」

 後続の車両からも、歓声が揚がった。

 ペレスが、モニターを見ながら、ロメルに無線を入れる。

「 大隊長! 花火大会の会場は、火の海です! 」

『 ようしっ! 良くやった! 友軍と合流するぞ。 白兵戦、用意! 』

「 イエッサー! 騎兵隊のように、カッコ良く登場しましょうや! 」



 幾つもの砂丘を越え、煙たなびく戦闘区域へと近付く部隊・・・ 大きな砂丘の、稜線の手前で一時停止し、ロメルとペレスが双眼鏡を手に、車を降りた。 稜線へ、腰をかがめながら近付く。 数人の兵士が、それに続き、リックも車を降りた。

 稜線の頂上に着くと、腹ばいになり、双眼鏡をのぞきながらロメルが言った。

「 ・・こっぴどく、ヤラれてるな・・! 」

 稜線の向こうは、戦場だった。 おびただしい数の車両が、遺棄されている。 その多くは黒煙を上げ、炎上中だ。 破壊された車両の間には、兵士やアンドロイドたちが、無数に横たわっている。

 ・・およそ、1キロ前方が前線のようだ。 爆発し、吹き上げられている黒煙が、幾つも確認出来る。 噴火の如く吹き上げられる、弾着の砂埃。 絶え間無い、機関砲弾の発射音・・ 動き回っている兵士の姿も見える。

 ペレスが言った。

「 あの弾着は、戦車砲ですな。 迫撃弾じゃない・・! 」

 双眼鏡をのぞいたまま、ロメルが答えた。

「 正面から、中隊規模の機甲部隊が来ている・・! 装甲砲車を中心とした、突撃兵ロボ共だ。 応戦しているのは、ヘインズの歩兵部隊だな。 ハダカの歩兵部隊では、キツそうだ・・! 右翼は、第3軍の機甲師団の残存兵か・・ コッチは、戦車もあるし、任せて大丈夫だろう。 問題は、左翼の第25軍だ。 友軍の突撃砲戦車が、数台あるが・・ 見えるか? 」

 双眼鏡をペレスに渡す、ロメル。

 渡されたペレスが、双眼鏡をのぞき込み、答えた。

「 ・・はい。 軽戦車も、見えるようですが・・ 」

「 エキゾーストから、排煙が上がっていない・・ 全車、燃料切れだ。 第4師団は、まだ、到着していないと見えるな・・! 」

 傍らにいた、ベラルスが言った。

「 東方には、クレンメリー渓谷がありますから、進攻が遅れているんでしょう 」

 ロメルが、舌打ちをしながら言った。

「 我々で、救援せにゃ、ならんな・・! 」

 後にいた、フーパーが言った。

「 しかし・・ これだけ広範囲の戦場では・・ 機械化歩兵部隊の無い大隊規模の我々では、あまり大した成果は、期待出来ませんな・・! 」

 皆の後ろから、リックが言った。

「 自走砲で、砲撃だな・・! 中央突破しようとしている機甲師団にブチ込んで、残りは、風下である左翼から殴り込みだ。 戦場を、かく乱する内に、109空挺がロボ共の後方に廻り込んで、補給を分断する・・ 退路を絶つんだ 」

「 ・・そう言う事だな! エリート野郎、貴様・・ 作戦参謀もしていたのか? 」

 ロメルが立ち上がり、軍服に付いた砂を手で払いながら、リックに言った。

「 士官学校での話です。 担当教官の課程評価は、Bでした 」

「 今の立案は、Aだ。 ・・ピート( 自走砲の事 )、砲撃準備ッ! 合図で、ロボ共の、ド真ん中に落とせッ! 残りは、900メートル先の左翼から迂回し、1キロ北西の中央を突破して、109空挺を援護しつつ、右翼の第3軍に合流するっ! とにかく、バラ撒いて突っ込むぞ、野郎共ッ! 」

「 うおおっ! 」


 戦場を左方から迂回する為、砂丘を疾走する兵員輸送車群。 風下なので、車両が巻き上げる砂塵は砂丘に隠れ、敵からは見えない事だろう。

 各自、銃に弾を装填する。

 ペレスが、機銃を構えるリックに言った。

「 客人。 装甲の陰に隠れて撃て。 この車両の装甲は12ミリある。 ロボ共の装甲弾も貫通しない。 焼夷鉄鋼弾くらいまでなら、大丈夫だ 」

「 分かった。 だが、隠れていては撃てないぞ? 弾が無くなったら、そうさせてもらうよ 」

 ペレスは、ニヤリと笑いながら答えた。

「 ・・いい心掛けだ。 お前さんは、さっきの攻撃で、充分、職務を果たしている。 今度は、オレたちの働きを見ていてもらおうか 」

「 凄そうだな 」

「 小便、漏らすなよ? 」

「 もぉう! 汚いんだから、叔父さん! 」

 傍らにいた、ターニャが制する。

 ペレスは言った。

「 お前は、奥に引っ込んどらんか! ライトポリスの内部を知る、ただ1人の人間なんだぞ? 何で、ピートの連中の所に残らなかったんだ! 」

「 ・・だって・・ もう、1人はイヤなんだもん・・! 」

 ターニャの答えに視線を反らし、リックを見るペレス。

 リックは言った。

「 寂しがり屋で、勇猛なお嬢さんだ・・! 」

 ペレスは、フッと笑いながら言った。

「 オレの、姪っ子だからな・・ 」

「 曹長も、寂しがり屋なのか? 」

「 まあな 」

 傍らにいた、デビーが言う。

「 ・・信じられんっス 」

 ペレスが、軍靴で、デビーの腰を蹴りながら言った。

「 てめえは、もうち~と、謙虚になりやがれ 」

 兵員輸送車のドライバーが叫んだ。

「 突入予定地点、到着ッ! ・・イキまっせえぇ~っ! 」

 天蓋の車載機関銃を構えたベラルスが、コッキングレバーを引きながら言った。

「 砂丘の稜線を、ハデにジャンプして突っ込めえ~ッ! 騎兵隊の登場だ! 」

 先頭を行くロメルが、後続車両に向かって、大きく手を回すのが見える。

 各車、一斉に右ハンドルを切り、平行して走っていた砂丘の稜線めがけて、突っ込んで行った・・!

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