第6話、一撃!

 交信を終えると、伍長が、シートから出て来た。 リックを座らせ、説明する。

「 ターミナルは、これです。 多分、シリアルで入力してあるはずです。 回線の操作パネルは、これです。 送信機は、これで・・ 」

 早速、操作を始めるリック。

「 1度、リセットが必要だな・・ 主回線のシールドは、どれだ? ポートが無いぞ? 」

 グローブボックスから説明書を出し、クラウドが調べる。

「 え~と・・ 真ん中の2番ポートです。 シールドは、基盤の裏に・・ あ、違った! 3番ポートです 」

 ベラルスが言った。

「 おいおい、しっかりしてくれよ、伍長さんよ? 間違って、味方にランチャー、ブチ込んだら、また大戦が始まっちまうぜ? 」

 リックは言った。

「 ランチャーには、識別コードが付いているはずだ。 味方の頭上には落ちないから、安心してくれ 」

「 でも、政府軍の上にゃ、落ちるんだろが? 」

「 ・・・・・ 」

 ペレスが言った。

「 GPSに回線をつなげば、地上30センチ角を、出歯ガメ出来るんだ。 座標の着弾予定地を、モニターで確認すりゃいい! とにかく、回線をつないでくれ、リック 」

「 分かった。 砲撃座標は? 」

 ペレスが、座標データを書き込んだメモ用紙を、リックに渡しながら言った。

「 向こう( 109空挺の事)の無線士は、戦闘経験の無い新兵だ。 無線指揮所に、直撃弾が落ちたらしい。 この座標が、正確だと良いんだがな・・ 」

 シールドをポートに装着し、キーボードを操作するリック。 ターミナルのLED赤ランプが点灯し、誘導器の操作パネルにグリーンのランプが点灯した。

「 誘導器からの信号に反応して、自動的に情報を更新していくタイプのヤツだな? となると・・ 送信機と同調させるには、仮のパスワードが要るか・・ 」

 呟くように言うリック。

 ベラルスが言った。

「 既に、ナニ言ってんだか、ワケ分からねえ・・・ 」

 クラウドが、苦笑いをベラルスに返す。

 リックが、数個の機器類のスイッチを入れ、キーボードを複雑に操作してエンターキーを押した。

「 つながったぞ・・! ・・何だ、これ? 」

 モニターに、何かの機械らしき物体が映った。

 一同、モニターをのぞき込む。

「 ・・解像度が大き過ぎて、ワケが分からん。 リック、もっと落としてくれ 」

 ペレスの言葉に、キーボードを操作するリック。 画像が引かれ、機械らしき物体の全容が、ようやく確認出来た。

 クライドが言った。

「 バッテリー・チャージャーだ・・! ロボ共の、メシの種ですよ! 」

 アンドロイドのバッテリー充電器らしい。 大きさは、事務机くらいのようだ。

 ペレスが言った。

「 ・・2台、見えるな・・ いや、3台か・・ もっと、落としてくれ 」

 再び、操作するリック。

 2階の高さから、見たような画像だ。 数体のアンドロイドが、忙しそうに動き回っている。次々と運び込まれる、アンドロイド兵・・! 足の無いものや、バラバラのものまで、多種多様だ。

 ペレスが言った。

「 ・・どうやら、座標は正確なようだな。 おそらく、指揮所だぞ、ここは・・! 」

 リックが答える。

「 座標をロックしよう・・! いつでも、撃てるぞ? 」

 無線機を取る、ペレス。

「 こちら、ペレスです。 中隊長! リックがやってくれました! ロボ共のレストランの、ド真ん中です 」

『 でかした! あと少しで、射程距離に入る。 PX( 軍隊駐屯地の購買:雑誌や衣服、飲み物などを売っている所 )ごと、景気良くフッ飛ばせっ! 』

「 了解! 砲撃指示を待ちます 」

 クライドが、ランチャーを搭載している後続の車両に向かって叫んだ。

「 1番から24番まで、全弾装填―ッ! 6番までセンサー解除! 待機しろーッ! 」

 後続の車両から、手を振って了解の合図をする兵士の姿が確認出来た。

 いよいよ、戦闘開始だ・・!

 まずは、ランチャーを打ち込み、敵指揮所を破壊するのだ。 その後、着弾修正を行いつつ、更なる砲撃となるだろう。 弾を撃ち尽くした後は、前進し、今度は自走砲からの砲撃だ。 その後は・・!

 白兵戦を経験した事の無いリックにとって、どうやって戦えば良いのかは、全くもって未知数の範囲だ。 渡された機銃は、歩兵支援機銃である。 ある程度、前線まで突撃し、更に前進する歩兵を、支援する役にある。 重機銃は、その重さから、頻繁な移動が困難だ。 遮蔽物に隠れながら、1ヶ所に留まって攻撃をする。 従って、敵にその存在が確認された場合、狙い撃ちされたり、迫撃砲を打ち込まれたりする危険が非情に高い。 まあ、戦場なのだから、どこにいても危険は伴うが、なにせ、初めての戦闘だ。 その任を、うまく、全う出来るかどうか・・・

 戦闘ヘリの攻撃に、思わず立ち尽くしてしまっていたターニャの姿を思い出す、リック。

( 俺も、似たような行動を取るのかもしれないな・・! )

 揺れる、兵員輸送車のサブシートに座り、待機しながら、そんな事を思ったリックだった。


『 射程距離圏内に入った! 方位レーダーで、上空を警戒しながら、第1次 攻撃を行う! 停滞時間は、1連射のみだ。 発射後は、即時移動して連続攻撃! 』

「 了解! 適時、発射しますっ! 」

 無線から聞こえるロメルの声に、ペレスが答えた。

 車両群が、一斉に停止する。 辺りは、相変わらず、砂丘が続く砂漠地帯である。

「 ランチャーの、アンカーを出せっ! 」

 兵員輸送車の横から飛び降りながら、ペレスが叫ぶ。

 ランチャーのオペレータらしき兵士たちも数人、あちこちの車両から飛び出し、ランチャーが装備してある『 115 』と車体に書かれた、後続車両の方へ走って行く。

 ペレスが言った。

「 リック! データインターセプトの危険性があるから、座標の転送はモノラルでやる。 用意しておいてくれ 」

「 了解だ。 情報量は単純だから、起爆用のリード線でも大丈夫だぞ? 」

 親指を立てて応える、ペレス。

 リックは、キーボードを操作し、待機した。

 ランチャーから戻って来たベラルスが、115号から引いて来た細いリード線の端を、車両越しにターニャに渡した。

「 はい、リック! 」

「 おう! 」

 ターニャから渡されたリード線を、ジャックに接続し、ポートに差し込む。 兵員輸送車から身を乗り出し、リックは叫んだ。

「 座標データを、転送するぞォーっ! いいかァーっ? 」

 1度、インプットすれば、微調整は115号車でも出来る。 115号車の天蓋上に立つペレスが、手を振っている。 リックはキーボードを操作し、データを転送した。

「 ・・これで、俺の仕事は、半分、終わったな・・! 」

 リックが言うと、ターニャは微笑みながら答えた。

「 有難う、リック・・! あなたでなければ、出来なかったと思うわ 」

「 クライド伍長でも、出来たさ。 な? 」

 クライドの方を向き、ウインクしてみせるリック。 頭をかきながら、クライドは言った。

「 いやあ~・・ 正直、自信、無かったです。 接続は、分かりますが、アクセスが・・ お? 花火が上がりそうですよ? 」

 115号の方を指差す、クライド。 他の兵士たちも、輸送車の側板に座り、見物している。リックとターニャも、砂だらけのボンネットの上に立ち、見守った。

 ペレスが、何かを叫んだ。

 途端、60度くらい上を向いていた、ランチャーのガードから、小型のミサイルが発射された。 物凄い噴煙。 砂塵が巻き上げられ、一瞬、115号の姿が視界から消えた。

 オレンジ色の炎を噴射しながら、彼方の空へと飛んで行くミサイル。 続いて、2発目・3発目・4発目が発射され、合計で6発のミサイルが順次、雲に覆われた空へと吸い込まれて行った。

 ガードには、横に6個、縦に4段の発射口があった。 1列目の6発を、1連射させたらしい。

「 撤収~っ! 」

 ペレスが叫んでいる。

 ランチャーのアンカーを格納し、移動である。 無線機から、ロメルの声が聞こえた。

『 リック中尉! モニターで、着弾確認してくれ。 必要であれば、着弾修正の指示だ 』

「 了解! 」

 早速、シートに戻り、モニターを確認するリック。

 先程と変わらない画像。 キーボードを操作し、リックは言った。

「 着弾は、1分・・ 24秒後だ。 みんなで観戦しよう 」

 傍らにいた若い兵士が、おどけて言った。

「 え~、コーラ、いかあっすかァ~? アイスに、コーラ~・・ 」

 ターニャが笑った。

「 そう言えば、デビーって、メトロポリスのファイヤーボウルで、売り子のバイトしてたんだよね? 」

 デビーと言われた、若い兵士が答える。 先の野営地で、ロメルに、リックの勤務データを報告しに来た、腕に刺青のある兵士だ。

「 ああ。 ミゲルのヤツと一緒にね・・! ヤツは、いつもアイスを、盗み食いしてたな。チケットの販売をしていた主任が、フーパーさ 」

「 まあ、そうだったの? ちっとも知らなかった。 だから、デビーとミゲルは、フーパーに頭が上がらなかったのね? 」

「 怖ええんだぜ? フーパーは。 スラム街出身の中でも、あの人は別格だ。 ケンカじゃ、負け知らずの、36勝・無敗よ。 ロボコップを、修理不能のスクラップにした事もあるんだぜ? ・・もっとも、そんときゃ、フェラー・センタービルの屋上から、ブチ落としたんだがな・・ 」

「 ナンだ? オレの武勇伝、語ってんのか? 印税、払わんか、テメー 」

 ペレスと共に、フーパーが戻って来た。

「 最終日のバイト代、もらってないんだから、いいだろ? 」

 デビーが言う。 動き出した兵員輸送車の、砂だらけのシートにドッカと腰を下ろし、フーパーは答えた。

「 テメ~、ポテトチップスを、3ダースもチョロまかしやがって・・ オレが、知らねーとでも思ってたんか? コラ 」

 クスクスっと、ターニャが笑う。

 フーパーは、更に続けた。

「 オレンジジュースの濃縮パックを、2t車のアルミバンごとガメたのも、てめえらだろが? ご丁寧に、事故まで偽装しやがって・・! 始末書、書かされたのは、オレら総務だったんだぞ? おい、コラ・・! 何とか言わんか 」

 それきり、デビーは、沈黙モードに入った。

「 もうすぐ、着弾だ・・! 」

 リックの言葉に一同、モニターに注目する。

 ・・・変わり無い、画像風景。 だが、次の瞬間、モニターは、真っ赤な炎に包まれた。 一瞬、アンドロイドの腕が、炎の中に浮かび上がったのが確認出来たが、やがて、飛び散る破片と共に、見えなくなった。 激しく吹き上げる、黒煙。 小爆発を繰り返しながら、画像に映し出されている指揮所は、壊滅した。

「 やったぞう~ッ! 」

 狂喜する、兵士たち。

 ペレスは、後続車両に向け、拳を高々と突き上げて見せた。 それに応え、各車両からも歓声が挙がる。

 無線機から、ロメルの声が聞こえて来た。

『 その様子だと、大当たりのようだな? 』

「 ロボ共のレストランは、PXごと、フッ飛びました! 」

 報告をする、ペレス。

『 よしっ! 河岸を変えて、反復攻撃するぞ! ヘインズの話しだと、砲撃を受けているらしい。 どこかに、野砲陣地かミサイル基地があるはずだ。 リック中尉、GPSで索敵してくれ 』

「 了解です! 」

 無線に答える、リック。

 ペレスが言った。

「 さ~て、忙しくなるぞ・・! 」

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