第27話 秘密とされていた、過去の因縁

香園かおんに飛び膝蹴りを食らわす数十分前――――――――――――――ルシアト・ファミリーの連中による協力の元、俺達はとある鉄道の地下線路にたどり着いていた。

「さて…と。この辺りでいいか」

「ヤド…?」

壁際に張り付いているコンクリートに両手で触れながら、俺はその場で呟く。

何をしているのか気になったベイカーが、首を傾げながら俺の名前を呼んでいた。今現在、この場には俺・ソルナ・ベイカー・デュアン。そして、スクワースの5人がいる。ルシアト・ファミリーのアングラハイフは、代表してスクワースをこちらに出向かせているが、それ以外の人員を裂くつもりも余裕もないようだった。

「ヤド…その鍵は…」

俺が上着のチャック付きポケットから取り出したのは、銅でできた鍵だった。

ポケットから取り出した俺は、閉じていた口を開く。

「これから、奏の奪還と香園やつが聖杯を手に入れるのを阻止しに行く…が、その前に聞いてほしい事があるんだ」

「聞いてほしい事…?」

その台詞ことばを聞いたソルナ達は、何を意味するのかがわからずに首を傾げていた。

ただ一人を除いて――――――――――――――

「最初に顔を見た際、誰かに雰囲気が似ているなと思ったが、あんたまさか…」

デュアンが、俺に対して口にする。

 やっぱり、デュアンはラヴィンが遺した書物で知っていたか…

俺は、横目でデュアンを一瞬見据えた後、再び話し出す。

「“俺ら”の間でよく知られている事実は、“リヴリッグが自身のからだの一部を提供し、ラヴィンがその一部で聖杯へ続く扉の鍵を製造した”だ。だが、実は…“鍵”はもう一つ存在する」

「なっ!!?」

俺の台詞ことばを聞いたソルナ・ベイカー・スクワースの3人が、目を丸くして驚く。

一方、デュアンは俺が手にしている鍵をまじまじと見つめていた。

「“鍵”の存在を知っていたにも関わらず、今まで誰にも話さなかった…。というよりは、話せなかったと捉えてもいいんだな?」

「…あぁ。この事実ことはおそらく、リヴリッグですら知らなかったはずだ」

デュアンから問いかけられ、俺はすぐに返答する。

俺達の間で、緊迫した空気が流れていた。

「もしかして…“秘密を明かす事”が、その鍵を使えるようにする方法…とかだったりするんっすか?」

「…ほぼ正解だ」

ソルナが不意に呟くと、俺は一瞬だけ考えて答えを述べる。

俺は改めて、ソルナの洞察力に感心していた。

「一つ、お前らに謝らなくてはならないのは…。この日本くにでは“コミュニティーに属さないアングラハイフ”としてきた俺だが、本当は…。海外に拠点を置く大きなコミュニティーに属している事を明かしていなかった事だ」

「でもそれは…“鍵の存在を秘密にする”のと同様、教えられなかった事ですよね?」

俺が少し俯きながら語ると、ベイカーが問いかけて来る。

「…まぁな。あとは、香園の前に宿っていたラテに出逢ったのも…偶然ではなく、出逢うべくして出逢ったって事だからな…」

冷めたような表情を浮かべながら、俺は手にしている鍵を見つめる。

その後、俺は“鍵を使用できるようにする条件”に値する、鍵と俺の一族に纏わる因縁を、仲間達に語りだすのであった。



「人間の言い方でいうと、“俺の一族”…すなわち、このからだは代々とあるコミュニティーに属する事に決められていたんだ」

「そのコミュニティーとは…?」

俺の語りに対し、スクワースが問いかける。

「“聖杯の秘密を守り、代々それを伝えていく事”をモットーにしてできたコミュニティーだ」

「そういえば、ラヴィンもそのコミュニティーに属していたと伝え聞いたな!」

話の途中で、デュアンが口を挟んでくる。

「あぁ。一方でリヴリッグは、元々どのコミュニティーにも属していなかった。故に、何も知らないのだろう」

デュアンの台詞ことばを聞きつつも、俺は自身の話を続けた。


はるか昔------------西暦という暦があったかも定かではない時代より、俺のからだに宿っていたアングラハイフはいた。その名前が、アールアイ。そして、彼と同じコミュニティーでアールアイ自身が世話になっているアングラハイフに、クルツという青年がいた。

「扉の守り手であるリヴリッグ…。最近のあいつの様子は、どうだ?」

「相変わらず、自分の居場所でおとなしくしているが…最近、少し明るくなったような気がする」

クルツとアールアイが、その場で会話をしていた。

「ラヴィン…君は、どう思う?彼とは最も親交が深い君から見て、彼は…」

「そうですね…」

そして、少し離れた場所では、椅子に腰かけたラヴィンも会話に参加していたのである。

彼は腕を組み、その場で考え事をしながら答える。

「アールアイの言うことも、一理あるかと…。今度会ったら、それとなく話してみましょう」

ラヴィンのこの台詞ことばを皮切りに、彼らの会話は一旦終了する。


そして、再び時は流れ――――――

「どうやらリヴリッグは、人間の娘に好意を抱いているようです」

「ほぉ…」

「因みに、どのような出自の人間か?」

リヴリッグから話を聞いたラヴィンが話を切り出し、その場でクルツとアールアイも聞いていた。

アールアイは、アングラハイフが――――もとより、聖杯への扉の守り手が心寄せる人物がどのような人間ものかを、ラヴィンに問う。

「…なに。人間の集落で暮らす、どこにでもいる普通の娘ですよ。…ほら」

ラヴィンはクルツの問いに答えながら、一つの水晶玉を取り出す。

光が発した後には人間の集落を映し出し、そこには一人の娘が映っていたのである。

「彼が“普通の者”であれば、誰を好きになろうが、交流しようが構わないのだが…。彼の立場…そして、あのからだでは…」

アールアイは、水晶玉に映る娘を見つめながら、ラヴィンと会話を続けていた。

クルツはこの時は黙ったまま話を聞いていたが、彼の視線が水晶玉に映りこんでいる娘に釘付けになっていたのは、アールアイもラヴィンも気が付かなかったのである。


「…とまぁ、具体的な事がわかっているのは、このやり取りまでだ。これ以降の話は、口伝で伝え聞いただけだから、少し曖昧になる」

俺は、仲間達を見渡しながら、一度話に区切りをつけた。

「今の話の展開から察するに…。その後の展開、悪い臭いがプンプンするな…」

「…あぁ。あんたの言う通り、良くない事がこの後に起こるんだ。結末として、“聖杯”自体は特に問題は起きなかったがな」

デュアンの台詞ことばを聞いた俺は、補足するように述べてから、話を再開する。

「リヴリッグは五体不満足だったが、遠くから見つめる事しかできなかったが…。一人、その“娘”に心を惹かれ、会いに行った同胞やつがいた…」

「それって、もしかして…」

すると、ソルナが緊張した面持ちで俺を見つめていた。

俺は、ソルナを横目で見た後に、黙ったまま首を縦に頷く。

「…あぁ。クルツが、その娘に一目ぼれしたんだ。奏とそっくりな風貌を持つ人間に…。しかも、クルツは…かつては“ラテ”であり、現在は“香園”が宿っている同胞やつなんだ」

「なっ…!!?」

その台詞ことばを聞いた仲間達は、目を丸くして驚く。

全員の表情を見渡した後、深呼吸をした俺は、再び話しだす。

「その後、何がどうなってその結末に至ったかは伝わってないが…クルツはその娘に会いに行き、気持ちは伝えたんだろうな。だが、断られた事で怒ったクルツはその娘及び、近くにいた集落の人間達を皆殺しにしてしまう…」

「“感受性が強い”という香園の噂は…“ラテ”よりも以前からあった性質かもですね…」

今度は流石に驚かなかったのか、俺の話を聞いていたスクワースが不意に呟く。

「そんな事が過去にあった関係で、俺は“ラテ”が行方不明になった後に、例のコミュニティーに呼ばれた。一つは、リヴリッグの後継種を見つけ、聖杯の無事を確認する。もう一つは……消息を絶ったクルツの後継種を見つけ、彼を支える事を俺は命じられた」

「“支える”…か。どうやら、そのアールアイは、友をずっと支えることができなかったのを、後悔しているのかもしれませんね」

「…だな」

ベイカーの呟きに対し、俺は素直に同調していた。

「……これで、俺が抱えている秘密は以上だ。この鍵はアールアイが生きていた時代に作られ、“このコミュニティーの存在意義と秘密を口伝で明かされた時のみ効力を発揮する”というまじないがかけられている。だから、これで…」

「わっ!!?」

すると突然、鍵から光が発し、俺以外の奴らは目をふさぐ。

 …話せて、少し気が楽になったな…

俺は、鍵から発せられる光に対して目をつむりながら、少し安堵した表情を浮かべていた。

「鍵が…すごく綺麗になっている」

「さっきまでは、錆びて使えないような色をしてたっすからね!」

光が消えた鍵は、新品のように光沢を帯びていた。

それに対して、スクワースやソルナが感じたことを述べる。

「さて。俺らが今いる場所は、確実な“扉”の前ではないが…。大分“扉”には近づいているはずだから、鍵を使って入るぜ!」

「だとすると…俺様は、足手まといになるから、地下ここに残っていた方がいいか!」

満面の笑みを浮かべたデュアンが、進んで残る事を進言する。

「だとしたら…彼一人だと何が起こるかわからず不安なので、僕も残りますよ」

すると、スクワースがデュアンの護衛も兼ねて残る事を口にする。

 …それが、一番ベストな組み合わせかもな

俺はその場で一瞬だけ考えた後、すぐに答えを出す。

「じゃあ、おっさんとスクワースはここに残っていてくれ。なので、ベイカー!ソルナ!!」

「もちろん、奏ちゃん救出は行くに決まってるっす!!」

「…お供しますよ」

俺が奴らの名を呼ぶと、二人はすぐに応じてくれた。

その後、地下鉄線路の壁に向き直した俺は、緊張した面持ちで鍵を壁に近づける。

 はるか1000年近く続く、このしがらみ…。俺自身のためにも、必ずアホ猫を助け出して、香園のバカを止めなくては…!!

俺は、仲間達みんなに秘密を明かした事で新たに心を引き締め、自分が為すべきことを成そうと改めて決意する。


そうして、香園や奏が通った“正規の道”でない場所を通り抜け、俺達は彼らに追いつくのであった。

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