第13話 生死を賭けたクイズ勝負

『俺様からのクイズ、第一問~~!!』

如何にも楽しんでいるような口調で、一人のアングラハイフが告げる。

 何故、人間相手にクイズなんてしているんだろう…?

私は、このカプセルの外にいるであろう犯人の考えがまるでわからなかった。

『俺達は、どうやってこの島国に来ているでしょう?』

「え…?」

1問目からいきなりわかりづらい問題だったため、私は目を見張る。

人間わたしたちならば、飛行機や船…だけど、そんな単純な答えではないよね

答えを考えながら、私の脳裏にはそんな確信だけは浮かんでいた。確かに、一部の人間には視認されないアングラハイフだが、そういった国の玄関口に“彼らを視える人”がいない事はまずないのだと、以前に極羽警部から教えてもらった事がある。それは、“彼ら”や他の人外による不法入国を防ぐためだ。

『…って、答え断然出ねぇじゃねぇかよ!!仕方ねぇなぁ…』

どうやら誰からの回答もなく、相手はしびれを切らしているようだ。

『一つ、ヒント。日本このくにが、世界でもかなり多い頻度で起こりうる出来事』

「あ…」

そのヒントを聞いた途端、私は“ある出来事”を思いつく。

それを利用してどのように彼らが移動するかは不明だが、“大地”に関わる彼らならば何かしらの方法でこなすのだろう。私は、恐る恐る店員呼び出し用のスイッチを押す。

「日本でよく起こりうる、地震……によっておきる、地盤プレートの移動を利用して来る…?」

私は、インターホンに向かって声を絞り出す。

ただのレクリエーションでやっているクイズではないため、ひどく緊張していた。ほんの数秒の沈黙ですら、数10分待たされているような気分だ。

『正~~解~~~!!まぁ、ヒントやれば流石に答えられるか』

相手は、さも当たり前かのように言い放っていた。

兎に角、間違いでないとわかったため、安堵している自分がいたのである。


そうして1問・2問と出してくる質問に対し、正解をしていく。

 今回、コデックスさんと会うために澪にも来てもらっていたけど…思わぬ所で救われたかもな…

私は、自分のスマホ画面を見て犯人からの声も聞きながら、そんな事を考えていた。

幸い、通信機器が繋がるため、彼女とのやり取りは可能。また、アングラハイフの事に限らず、割といろんな事を知っている澪が答えてくれたのは大きい。別行動をとっているヤドの動向も気にしている中、クイズは最後の問題になろうとしていた。

『最後の問題!!俺様の先祖が創った、“願い事を叶えられる聖杯”。キリスト教とやらでは“イエスの流れる血を受け止めた”なんて話があるように、そこに何が溜まる事で願いが叶えられるかな??』

「は!?」

まるで答えられないような問題に、私は声を張り上げる。

無論、酸素カプセル内は多少音を立てても外には響かないため、今の声が相手に聞こえて怒られる心配はない。

 というか、こいつ…さらっとすごい事言った…?

普通に話していたからすぐには気が付かなかったが、聖杯に関する思わぬ情報を得たのである。“聖杯を守る番人”や“番人を世話するもの”の話は先程コデックスから聞いたばかりだが、肝心の聖杯自体の事を聞いたのは、これが初めてだ。ただし、先の人物の話と違い、今私達を脅しているアングラハイフの台詞ことばが真実かどうかは怪しいものだ。

 でも、1つの石に魂が宿る事で、何代と続いていくのが“彼ら”の生態だし…

一方で、案外その発言もでまかせではないのかもしれないという考えがよぎる。

澪に急いで連絡をつけてみると、「わからない」という返事が即座に返って来た。聖杯を探すヤドと行動する私や、アングラハイフと接する機会が多い澪ですら知らない話だ。

 そもそも最後の奴、わざと答えられない問題を出している…?

ふとそう考えた途端、嫌な予感がしてくる。

『じゃあ、あと5秒数えて誰も答えなければ、俺様の勝ちって事になるぜ~!!』

一方、機嫌がよさそうな犯人の声を聞いた途端、予感は仮説へと進化をする。

『5…4…』

気が付くと、相手はカウントダウンを始めていた。

 どうしよう…ヤド…!!

答えらしいものが全く浮かばなかった私は、苛立ちを隠すように右手の爪で酸素カプセルの壁をひっかく。

『2…1…』

5秒のカウントダウンが、スローモーションで進んでいるように感じていた。

しかし、死が近づいているという現況で今の感覚は、きつすぎて発狂しかねない。

 もうダメか…!!

“打つ手がない”と思った私は、瞬時に瞳を閉じて体を丸め、防御するような体勢で固まっていた。


「きゃぁっ!!!」

“0”の声が聞こえたのとほぼ同時に、カプセルの蓋にある窓からかなり眩しい光が突如入り込んできたため、私は反射的に目をつぶった。

その後、ゆっくりと瞳を開いた私は、何が起きたのかと窓の隙間を何とか覗き込もうとする。

 わずかに聞こえる音は…足音…?

外の音もカプセルの中からだと聞こえにくいが、ほんの僅かに足音らしい音が響いていたのである。ひとまず、カウントダウンが終わっても何も起こっていないため、まだ青酸カリをカプセルに投入されてはいないのは確実のようだ。

『あー…あー…これで、いいのかな?』

「極羽警部!!?」

スピーカーから何かが落ちるような音が聞こえた後、私の耳に聞き覚えのある声が響いてくる。

逆に澪は面識ないらしいので、彼を知らない人は驚いてであろう。

『えっと…。新宿署・特人管理課の極羽と申します。皆さんを脅していたアングラハイフは、先程現行犯逮捕致しました。お店の女性スタッフも無事目を覚ましたようなので、この後皆さんをそこからお出しします。そのため、少々お待ちください』

スピーカーから聞こえる警部の声は、ゆっくりではっきりとした口調をしていたため、とても聞きやすかった。

 それにしても、特人管理課かれらを呼ぶとは…

私は、女性スタッフがカプセルの蓋を操作している一方で、ヤドがこの場を離れて何をしていたのかを悟る。

自分で動けない以上は、“彼らが視える人”に助けを求めるのが最善策であり、警察は最も確実に犯人を捕まえてくれる機関でもある。一方、ヤドはあまり他人に助けを求めないタイプと私は考えていたため、“助けを求めに行った”事自体が何か不思議なかんじがしたのである。

あー…長時間寝転がっているのも、あまりいい体勢じゃないって事かな…

そんな事を考えながら、酸素カプセルから外へと出る私と澪であった。



それから澪やヤドと合流した私達は、酸素カプセルのお店を出て外を歩き出していた。

「ひとまず、ソルナ達がいる所へ行く?」

「そうしたいのも山々だが…おい」

「ヤド…?」

澪とヤドが二人で話しているさ中、彼が私に声をかけてきた。

「お前、その女と一緒に今日は帰れ。俺はこの後、行きたい所があるから…報告は明日以降聞く」

「う…うん…?」

そう告げた後、ヤドは足早にその場から姿を消してしまう。

彼は気まぐれな部分はありつつも、あのように急いでどこかに向かう姿はほとんど見た事がない。

「それにしても…今日は情報もすぐに得られて早く帰れるかと思っていたのに…」

「とんだ災難な日だったよね」

ヤドがその場を去った後、私と澪は今日の事を振り返っていた。

「何をためれば、聖杯で願いが叶えられるのかな…」

「奏…」

私は、犯人が述べていた最後の問題について考えていた。

その表情が深刻そうだったせいか、心配そうな表情かおで澪は私も見つめている。ある種愉快犯ともいえる今回現れたアングラハイフに対し、今後何か情報が得られればよいなと少なからずは考えていたのである。

こうして、短いようで長いひと時が終わるのである。

また、私達が今回得た情報には続きがあるため、その情報を探す必要になる。それらの詳しい事がわかるのは、もう少し先の話になりそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る