胸が高鳴る瞬間

 藤原さんの剣幕に押されたのか、気持ちの悪いナンパ男は慌てて退散していった。その後誰もナンパ男に近寄って行かなかったのを見ると、友達が戻ってきたっていうのも嘘だったのだろう。そもそもあんなのに友達がいるのかどうかも疑わしいけど。

 なんて頭の中で考えつつも、体は恐怖から解放された安堵からかずるずるとその場にへたり込んでしまう。

 ああ、よかった。もうほんとに、よかった。

 心から安堵する。本当に怖かった。連れていかれて、どうにかされると思った。どうしようもできなくて、恐怖で心が震えた。

 あのいやらしいにやついた顔。振りほどけないくらいの強い力。今までの人生で一二を争う恐怖体験だった。なんかこんな言い回しすると心霊的な恐怖みたいに見える。そんな風に考えるくらい、混乱していた。

 混乱の原因? ナンパ男から助かったっていうのもあるけど、一番は――


「大丈夫、楓ちゃん? けがとかしてない?」


 なんて言いながら心配そうに私の顔を覗き込む藤原さんの存在だった。


「だだだ、大丈夫です! 何にもされてません!」


 何かされる前に藤原さんが助けてくれましたから!

 そんな風に動揺している私に、藤原さんは


「そっか。よかった」


 といって、ポンポンと頭をたたいた。というか撫でた。

 その瞬間、沸騰するみたいに顔に熱がこみ上げる感覚がする。心臓がうるさいくらいにドキドキしだした。

 やだ……! 今絶対顔真っ赤になってる! 心臓の音聞こえちゃってるよぉ……!

 ああ、もう、なにこれ!? なんで顔こんなに熱くなってるの!? なんでこんなにドキドキしてるの!? 前藤原さんにこんなに近くに来られた時でもこんなにならなかったのに!

 ナンパ男から助かったから? でも、それは安堵することでも、心臓がうるさいくらいドキドキするようなことにはならないんじゃ――?

 頭が煮詰まったようにグラグラする。恥ずかしすぎて藤原さんの顔を見れない。

 あこがれの人に助けてもらったからこうなってしまったのだろうか? それとも、和樹に助けられてもこうなってたかな? ……ううん、それはないな。

 じゃあ、やっぱり、藤原さんだから……?

 そんな風に自分でも結論が出そうにならないことを考えていると、少し遠いところから「たいよおー!」と藤原さんを呼ぶ女の人の声が聞こえた。

 その瞬間、ドキッとも、ズキッとも言えない感覚が、私の胸にほとばしった。今まで感じたことのないような、何とも言えない不思議な感覚だった。

 藤原さんのことを親しげに名前で呼ぶ女性がいることに、何故かえもいわれぬような思いがした。

 声の主は走って寄ってきた。

 明るい茶髪を肩口で切りそろえていて、前髪をカチューシャで上げて、おでこが見えるようにしている。快活そうな目に、年の割に少しだけ幼い雰囲気。飾りっ気の少ないシャツと、ハーフパンツを穿いている。

 『Bedeutung』のキーボード、宮國朱里さんだった。


「おー、朱里。やっときたか」

「やっときたか、じゃないわよ! ビーチに辿りついたと思ったら急に一人で走り出して! おかげで祐輔と翔樹は置いてけぼりになってるわよ」


 着いたと同時に、そう言って藤原さんを叱り始める宮國さん。その様子からは、二人がとても親密な関係を気づいていることがうかがえる。

 まあ、それは当たり前だろう。何せ同じバンドのメンバーなのだから。しかも昨日今日の即席ではなく、もう数年ずっと一緒に組んでいる間柄だ。親しいのも当然だ。

 それなのに、そんな二人の様子を見て、私は少しだけ、本当に少しだけ、嫌な気分になってしまった。

 なんでだろう。あこがれの人たちが会話をしているだけだ。ライブでだって散々見てきた。今までこんな気持ちになったことなんて一度だってなかった。なのに、なんで今だけこんな気持ちになっているのだろう。

 そんな困惑する私を視界に捉えたのだろう、宮國さんが藤原さんに「この女の子は?」と尋ねていた。

 藤原さんはさっきとは違い、乱暴な手つきで私の頭をガシガシすると、宮國さんに私を紹介した。


「この子は楓ちゃんっていうの。福本楓ちゃん。ほら、海に行くって話したでしょ? それがこの子だよ」


 そう言ってへたり込んでいた私に「自己紹介する?」と促してくれる。促すというか確認というか。私に自分からしゃべる機会を作ってくれた。でも、さっきのこととか、顔が熱くなってることとか、私的になんかいろいろあって顔を上げて自己紹介することができない。

 そんな私を見かねてか、宮國さんは「あー! この子が! へえ、そうなんだぁ」なんて言って私の顔に視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。


「私は『Bedeutung』のキーボードをやっている宮國朱里です。あなたは? あなたの口から直接聞きたいな」


 優しくそう語りかけてくる宮國さん。顔は微笑んでいて、私を安心させようとしているのがすごく伝わってきた。というか「私怖くないよー。優しいお姉さんだよー」と自分の口で言ってたりする。それを見た藤原さんが「朱里馬鹿っぽく見える」なんて呆れていたけど、私はそんな宮國さんの様子に心が落ち着いた。いや、どっちかというと和んだ、の方かな?

 とにかく、なんとか喋れるようになったのだ。


「わ、私は福本楓っていいます! あ、あの! 『Bedeutung』の大ファンでしゅ!!」


 噛んだ! 死にたい! 何やってんの!

 「あ、また噛んでる」って藤原さんに笑われてるし! 「噛んでるかわいい」なんて宮國さんに言われてるし!

 なんで私ってこう、憧れの人の前で緊張すると噛むの!?


「私のことは朱里って呼んでくれていいよ。ね、楓ちゃん」


 今度は羞恥で顔を真っ赤にしている私に対して宮國さんがそう言ってくれた。私の緊張やら恥ずかしさやらを和らげようとしているのだろう。なんという優しい方……! やっぱり、ライブや雑誌とかだけじゃ知れない人間性っていうのがあるんだね……!

 でも、いきなり宮國さんのことを名前で「朱里さん」なんて呼ぶのはハードルが高くないですか……?

 いやでも、せっかく宮國さんが名前で呼んでいいって言ってるんだから、名前で呼んでもいいんじゃ――

 なんて私が一人で葛藤していると、藤原さんが宮國さんに便乗して


「朱里のことを朱里って呼ぶんなら俺のことも大洋さんでいいよ」


 と言ってきた。それを聞いた宮國さんが「自分でさん付けって恥ずかしくないの?」とつっこんでいる。

 藤原さんを名前で呼ぶなんて、そ、それは――宮國さんを朱里さんと呼ぶのよりハードルが高いのでは!?

 宮國さんは同性だから、名前で呼んでもそれほど違和感がないというか、なんというか。でも藤原さんは異性で、大人で、しかもあこがれの人で――私の心臓がめちゃくちゃドキドキしてしまう人なのだ。

 名前なんかで呼んだら、私の心臓爆発しちゃうんじゃない? 口から飛び出ちゃうんじゃない? 死んじゃうんじゃない?

 そんな風に頭の中で思考が回って、くらくらしつつ結局何も言えないでいると焦れた宮國さんから「ほら、はやくはやく!」なんて催促されてしまう。

 ああ、そんな早く呼んでほしそうな、わくわくしたような顔で私の顔を見ないでください……! 眩しすぎて溶けてしまいそうです……!

 宮國さんから視線を外して藤原さんの方を見ればにやにやと笑っている。でもそのにやにやはさっきのナンパ男と全然違って、全くいやらしくないというか、嫌な気分にならないというか……。

 そんな状態が一分くらい過ぎて、私は諦めた。この二人は引かないのだろう。

 断らない私が悪いと言う人もいるかもしれないが、あこがれている大人二人からそんな風に迫られてノーと言える人がいたら見てみたい。そもそもが、恐れ多いとか恥ずかしいとか思っているだけで、名前呼びの要求自体は嫌がっていない自分がいるのだから。


「あ、あかり、さん……」


 さっきとは違う意味で声が震えそうになる。緊張して、うまく言えたかどうか。

 でも、私のつぶやきみたいな声はしっかりと宮國さんに届いていたみたいで


「きゃー! 呼んでくれた!」


 なんて喜んでいた。かわいい。


「んー? 俺はー?」


 そんな宮國さん――朱里さんをちらりと見てから、藤原さんが今度は俺も、というように声を上げた。

 朱里さんは純粋に私に名前で呼んでほしそうな感じだったけど、藤原さんは私をからかっているだけに違いない。名前で呼んでって言いだした時からずっと表情がにやにやしてるから。

 大方私が恥ずかしがって呼ばないか、何か言い訳するか、それとも呼ぶんだけどさっきみたいに噛むかとか、そのあたりを期待しているのだろう。

 そりゃあ、藤原さんを名前で呼ぶなんてことは恥ずかしいに決まっている。決まっているが、だからと言って藤原さんの思い通りに事を進めるのもしゃくである。ハンバーガーショップの時もそうだけど、この人は人をからかうのが好きに違いない。

 だから私はしっかり息を吸って、口を開いて――


「さっきはありがとうございました、大洋さん!」


 と、噛まずにきっちりと言った。私の精一杯の笑顔付きだ。

 お礼を言ってなかったから、きちんと伝えなければと思った。なんか、このままだとなあなあでお礼を言うタイミングを逃しそうだったから、この場で言うことにしたのだ。

 もちろん名前で呼んだことは恥ずかしい。顔から火が出そうなほど恥ずかしい。なんなら、今は顔が真っ赤になっているだろう。いや朱里さんって呼んだ時から真っ赤ったんだけどさ。それ以上にってこと。

 だって、さっきからなんかやけにドキドキするし……私どこかおかしくなったのかな、なんて。

 でも、そんな風にきっぱりと言い切った私に対して、やっぱり予想外の反応だったのか、藤原さんは一瞬だけ面食らったような顔をした。そして、もう一度だけ私の頭を優しく撫でて


「まあ気にすんな」


 とだけ言った。

 藤原さんの顔は優しく微笑んでいて、その顔を見た瞬間、私の心臓はまたうるさく鳴りだした。

 ほんとに私、どうしちゃったの? さっきから、藤原さんの顔見たり、頭撫でられたりするとすごい胸がドキドキする。なんかやばい。例えられないけど、なんかすごくやばい気がする。


「ね、楓ちゃん。もう大丈夫?」


 胸がドキドキして一人でやばいやばいなんて言っていると、朱里さんがそう声をかけてきた。

 朱里さんに言われてはたと気付く。そう言えばナンパ男から解放された安心とかで力が抜けてたのに、今はそれがなくなっている。

 二人とのやり取りで、あの体験の恐怖が和らいだのかな。だとしたら、もしかして朱里さんと藤原さんはわざとあんなやり取りを……?

 はっとして朱里さんの方を見る。


「もう、気にしたらダメよ? それと、名前は今後も朱里って呼んでほしいかな」


 と、ウィンク付きで言われてしまった。

 私が怯えていたのを瞬時に悟ってこんなことができるなんて、朱里さんってすごい。大人の女性だ。

 そんな朱里さんに「はい!」と返事をする。「大丈夫? 立てる?」って聞かれたけど、大丈夫ですと返事をして自力で立ち上がる。二人のおかげで体の力が戻ったのだから、何も問題はないのだ。


「おーい、かえでー!」


 私が朱里さんに促されて立ち上がったところで、少し遠くから爽子の叫ぶ声が聞こえた。

 そう言えば私ってトイレに行くって言って爽子たちと別れたんだ。トイレにしてはあまりにも時間がかかりすぎていたから探しに来たのだろう。

 

「さわこー! こっちこっち!」


 そう叫んで、爽子を呼ぶ。私の叫び声に気付いた爽子がこっちを向いた。私の姿を視界に捉えた瞬間に、猛然とダッシュしてきた。そんな爽子の隣には和樹もいる。爽子と一緒に探してくれていたのだろう。

 なんていうか、本当にもう……ありがとうと言うか。間に合った間に合わなかったとか関係なく、私のことを心配して探してくれていることが嬉しかった。

 爽子たちはあと少しで私たちのところに着くだろう。そう思っていると、今度は後ろから声がかかった。


「あぁー、大洋と朱里速すぎ。完全に俺たち置いてけぼりだったじゃん」

「もう少し手加減してほしい。こちとら運動不足なんだから」


 聞き覚えのある男性の声に、バッと後ろを振り向く。

 そこには、ハーフパンツタイプの水着に、麦わら帽子。浮き輪やらビーチボールやらクーラーボックスやらを持った、完全に夏の海に遊びに来ましたルックの男の人が二人立っていた。

 片方は一度駅前であったことのある男性。酔っ払った藤原さんを担いで帰って行ったドラムの吉永さんだ。「あぁー、二人とも速すぎ」って言ってた方。

 もう一人はベースの笠原翔樹さん。黒髪のマッシュヘアで、目元が隠れ気味でよく見えない。時折ちらっと見える目は、切れ長の瞳で、ちょっと鋭い雰囲気をしている。もっとも、本人はその鋭い雰囲気があんまり好きじゃないらしく、目元の隠れる髪形をしているらしい。って前雑誌で言ってた。


「おー、二人ともお疲れさん。クーラーボックスの中身は大丈夫?」

「ビール入ってるのに走るわけないじゃん。もち大丈夫よ」


 肩からクーラーボックスをかけた吉永さんが答える。

 これで、『Bedeutung』のメンバー全員集合だ。そんな中に何故か私がいる。

 どうしてこうなった……? いや、元々『Bedeutung』の人たちと行くって話だったんだけど、その話は流れたはずで……。

 あれ? そういえば、今日は仕事が入ったから来れないってことになってたはずじゃ? だから私は和樹と一緒にきてるわけだし。

 そんな私の疑問をよそに、『Bedeutung』の人たちの会話が進む。


「その女の子はー?」


 という笠原さんの言葉に


「あ、駅以来じゃんね。久しぶりー」


 という吉永さんの声。それにつられて朱里さんが私のことを笠原さんに紹介している。

 ……うん? ほんとになんでこんなことになってるの?


「あー、大洋が言ってた女の子。君が。俺、笠原翔樹。よろしく」

「この間はろくに挨拶できなかったし、改めまして。吉永祐輔です。よろしくねー」

「あ、よ、よろしくお願いします!」


 初めましてのあいさつをする。笠原さんは口調は少し硬いけど性格は結構気さくで、吉永さんはしっかりしてそうで緩いところがあるつかみどころのない人だ。

 って、そうじゃなくて。なんでここにいるのか聞かないと。


「あの――」


 と口を開いたところで「かえでー! 心配したんだよー!」と叫びながら飛びついてきた爽子に中断させられてしまった。


「爽子……」


 もう少しだけ遅れてきてほしかったかなー、なんて。爽子が来てくれてうれしいんだけどさ。でも、大事なこと聞くところだったから、ほんとにもう少しだけ遅れてきてほしかったかなーって。

 なんて思っていると私から視線を外した爽子が周りをきょろきょろしだした。そして今更ながら、藤原さんたちの存在に気付いたようだった。


「あー! 『Bedeutung』の人たち! なんでいるの!?」


 爽子、ナイス! 遅れてきてほしかったなーなんて思ってごめん! その物怖じしない性格好きだよ!

 心の中で爽子に拍手喝采を送る。まさに私が聞きたいことをドンピシャで聞いてくれた。

 仕事で行けなくなった、なんて言ってたのに、今ここにこうしてメンバー全員でいる。なんでなの? 仕事は? どうしてここにいるの?

 爽子に遅れて和樹も到着する。私の無事を確認したところで、見慣れない人たちがいることに気付いたようだった。

 見慣れないといっても和樹も『Bedeutung』のファンではあるから、ここにいる人がどういう人たちかというのはすぐに気付いたようだった。


「んーとね」


 爽子の投げかけた疑問に朱里さんが答える。


「今日お仕事入ってたってのは本当なんだけど……」


 そこでちらっと藤原さんを見る。

 その視線を受けてか、藤原さんが朱里さんの言葉を引き継いだ。


「この海水浴場の近くで宣伝の仕事だったんだよ。いわゆる営業ってやつ? で、それが早く終わったからまだ楓ちゃんたちここにいるかなーと思って来たわけ」


 そう言って笑う藤原さん。

 そうだったんだ……知らなかった。って、なんで私宣伝の仕事のこと知らないんだ? そんな仕事ならホームページとかに載ってるはず……って、あぁ! そういえば、一緒に海に行けなくなったのがショックすぎてホームページ確認するの忘れてた! 何たる不覚……! ファンの風上にも置けない……。

 しっかり確認してたらこの近くで『Bedeutung』が宣伝しているのを見れたかもしれないのに。海水浴もするけど。宣伝も見たい。どっちもしたいの!


「楓がいるかなーってことでここに来たってことは、この後一緒に遊べるんですか?」


 和樹がそう尋ねた。


「そういうことになるね。いやー、ほんとは俺たちも楽しみにしてたんだ、海で遊ぶの。だからお仕事入ったってわかった時は本気でなんでじゃー! って思ったね」


 吉永さんが笑いながら言う。他の人もそんな感じで、みんなこれから海で遊ぶぞー! っていう気満々だった。

 ナンパ男につかまる前までは水族館に行きたいなーなんて思ってたけど、『Bedeutung』の人たちが来たんなら話は別だ。まだまだ海で遊びたい!


「楓ちゃん、一緒に遊ぶ?」


 藤原さんが問いかけてくる。それに対する私の返事はもちろん――


「こちらこそよろしくお願いします!」


 そうして、『Bedeutung』と遊ぶ夏の午後が始まった。

 「この男の子は?」なんていう笠原さんの声や「男の子って年齢でもないんですけど……武井和樹っていいます」という和樹の自己紹介の声、さらには「新庄爽子です! よろしくお願いします!」という爽子の挨拶。「爽子ちゃんね? 私は宮國朱里っていうの。よろしくね」という朱里さんの返事。「君らどの辺に場所とってるの?」なんて聞いている吉永さんの声。

 そして――


「じゃあ、目いっぱい遊ぼうか、楓ちゃん」


 そう言って私の手を引いてくれる藤原さん。

 朝はまだ引きずっていたけど、ナンパ男にちょっかいかけられたけど。

 今日は、最高の一日になるだろう。

 さんさんと輝く太陽と、真っ白に跳ね返す白い砂浜。キラキラと輝く青い海と、騒がしくもにぎやかなたくさんの人の中。

 私は、力強くうなずいたのだった。







「で、あの子を見てどう思った?」

「あいつとは全然別人だな。あの子はふつーの女の子って感じ」

「そりゃ、そうだ。あんな変な奴そうそういねーよ。でも――」

「質問には、答えたんでしょ?」

「まあね」

「あの子に対してはどうもしないんじゃなかったっけ?」

「だからどうもしてないじゃん」

「メンバー全員で海に行って一緒に遊ぶなんて、どうもしてるようにしか見えないんだけど」

「海に来るのはお前らが勝手に」

「まあ、まあ。私はあの子のこと好きだけど?」

「誰も好き嫌いの話はしてないだろ」

「実際、どうすんの?」

「……どうもしない」

「ふーん。まあ、それでいいならそうしよっか」

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