第2話ゲテモノ料理の良し悪しは見た目で判断しない

「あ」

エストリカは下駄箱の取っ手に手をかけるとそう声を出してしまった。

「またですかエストリカさん?」

こむぎの声ももう慣れっこのような様子だ。

うちの学校の下駄箱には鍵が付いていない。だが下駄箱が開かない。

エストリカ・エレンコフの下駄箱ではよくあることだ。

「100均のアプリかなあ…」

よくイタズラされるのである。今やアプリはピンキリだし、100均一でも買える。

恐らく南京錠のようなアプリだろう。のりのような文房具の強度ではエストリカには無意味なのはここの生徒ならよくよく知っている。

そうつぶやくエストリカの耳に始業のチャイムが鳴るのが聞こえた。

「しょうがない」

ガシャンッ!

取っ手ごと素手で取り外すエストリカ。

「3つめでしたっけ?」

「忘れちゃった」

エストリカの悲しい笑顔をよそに1時限目が始まる。


「うちで直しとくからいいよ」

「毎回悪いよザラメちゃん」

昼休み、朝の出来事をこむぎが話題に出したらザラメとシオは慣れ切ったという風な顔をしながらも内心ご立腹だった。

「しっかし、エストリカへのイジメがこうもつづくと流石に胃にくるでしょ?」

「あたしのね」

「なんでザラメの方やねん」

「あはは…」

「でも、しょうがないよ…私こんな身体だし…」

「まあ、小さいころの虐待まがいの教育方針でできた身体に文句はいえないね」

ザラメは手元のスマホで下駄箱直しの手配をメールで送りながら答える。

「いい筋肉なんですけれど」

「こむぎ、フォローなってへん」

そうして次の授業、体育が始まるのだった。


「あ」

こむぎがそう声を出したのは、体育物品の入った倉庫からなにか聞こえたからだった。

「猫でも入っちゃったのかな?」

隣にいたエストリカがそうつぶやき、倉庫に近づいたとき中から声が聞こえた。

『助けて~!鍵があ~!!!』

「ひっ!怪談ってヤツですか!?」

こむぎが何故か怖い系統に決め付ける。

「しっ…大丈夫?どうしたの!?」

エストリカが中に向かって叫ぶも声は聞こえなくなっていた。

「またエストリカさんへのイタズラでしょうか…」

「…」

エストリカはこんこんと扉を叩く。

「多分違う。学生の買えるアプリだったら単純応答しかできないはず。特定人物が近寄っただけで声がするほど高性能なのはないはず…」

エストリカはそのままジャージの上着を脱ぐと軽々と引き裂く。

「な、なにするんですかエストリカさん!」

「木製の5センチ…素手でいけるかな?」

「む、無茶ですよ!私がエストリカさんのデバイスを持ってくるか、先生呼んできます!」

「遅い。中が酸欠になってたら危ない……ふっ!!!」

そういったとたん、エストリカはジャージを巻き付けた拳で扉を貫き壊す。

「あわわわ!!!!」

こむぎがいつもは愛でている筋肉が綺麗なストレートを描き扉を壊す。

2つの穴ができると、両開きの扉の穴に手をかけ力の限り引く。

「ふぐぐぐぐぅぅぅ!!!!!!」

バキバキペシピシという木の折れる音、金属がひしゃげる音だけが響く。

そして開いた先には3人の女の子がいた。

女の子たちは、扉が開いた先にいたエストリカに死に物狂いで抱き着く。

「ありがとぅ…ありが…ひっ!?」

最初は感謝の言葉を言っていた彼女たちだったが、その人物がエストリカだと確認するに、逃げるように走り去っていった。

「勘違いじゃなかったんですね。でもあんな反応酷すぎませんか?」

その言葉にエストリカは悲しそうな笑顔で答えた。

「しょうがないよ、こんな腕だし」

体育着から覗くのは筋骨隆々とした腕だった。



翌日

「あ」

「どうしましたエストリカさぁん?」

そう向かいの下駄箱から声をかけたこむぎだったが、エストリカは下駄箱から上履きを取り出し履きながら答えた。

「なんでもないですよ~」

そう答えたエストリカの下駄箱の中には、ゆるきゃらが「ごめんね!」と謝っているホログラムアプリのスタンプが浮かんでいた。

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