解説2

【解説】


作者不明

〈色は匂へど 散りぬるを 我が世誰そ 常ならむ 有為の奥山 今日越えて 浅き夢見じ 酔ひもせず〉

〈いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす〉



言わずと知れたいろは歌です。

江戸時代に入る頃には文字の手習い書として広く市民にも知られていたようですね。

後の江戸では歌舞伎で『仮名手本忠臣蔵』という演目が扱われておりまして、


『仮名手本』とは手習い書の『いろは歌』のこと、そしていろは歌は47文字


……つまり“咎なく死した赤穂四十七士”を指していたそうです。


当時江戸中を騒がせたセンセーショナルな大事件である赤穂浪士の吉良邸討ち入り、それを脚色して創作されたのがこの『仮名手本忠臣蔵』です。


興味深いのは、本編で述べた“咎なくて死す”の仕掛けが広く世間一般にも知られていたという点ですね。この他にも隠された複数の言葉があるともいわれていますし、これほど有名にも拘らず、誰がなんの意図でこの歌をつくりだしたのかさえ解明されていません。

までこさんも言っていたように一説によると詠み人は柿本人麻呂とも言われていますが、彼とはゆかりもない後世の人が作ったよく出来た暗号文だとも言われています。

謎が好きな人は一度詳しく調べてみると、その奥の深さにハマってしまうかも?




【解説】



万葉集・4巻661番歌 大伴坂上郎女

〈恋ひ恋ひて 逢へる時だに うるわしき 言尽くしてよ 長くと思わば〉

〈こひこひて あへるときだに うるわしき ことつくしてよ ながくとおもわば〉



こちらの歌は創作物にも結構出てくるのを見掛けますね。それだけ印象強い歌です。


〈恋ひ恋ひて〉という繰り返しがまず恋という漢字のインパクトと、どんなに恋いているのかという切実な気持ちがひしひしと伝わってきます。

そして〈うるわしき言尽くしてよ〉の響きの良さ…好いた女性にこんな風におねだりされたらキュンときちゃいますね。


この〈長くと思わば〉はざっくりと『ずっとこうしていたいと思うなら』という意味です。これは今こうしている二人だけの時間を指すのか、それとも二人の恋人関係の存続を指しているのか…。

実はこの歌は大伴坂上郎女が娘の代わりに娘婿に贈ったものだと言われています。自分自身ではなく娘の身になって詠んでいる訳ですね。そう思うと『やっと逢いに来た時くらいたくさん好きだと伝えないとこの関係も長くは続かないわよ』という脅しにも見えてきます(笑)


和歌には時にそうした様々な背景があったりします。

までこさんは今回、今後も二人のよい関係が続きますように、という想いを込めてこの歌を口ずさんだようです。

純粋に和歌の内容を楽しむもよし、和歌が詠まれた背景に目を向け少し違った目線で楽しむもよし。までこさん曰く、そこが和歌の面白いところなんだそうですよ。



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までこさんと白妙の手紙 世間亭しらず @yuuyami

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