解説1

【解説】


万葉集・1巻28番歌 持統天皇

〈春過ぎて 夏来たるらし 白栲の 衣干したり 天の香久山〉

〈はるすぎて なつきたるらし しろたへの ころもほしたり あめのかぐやま〉



これは何を詠んだ歌かといえば、『おっ香久山に白い布が干してあるな。ってことはもう夏かぁ』と、それだけの歌です。

…いや、こんなアトソンくんみたいな説明したらまでこさんに怒られてしまいそうですね…。ですが万葉集の多くはこうして見たもの、感じたものを率直に歌にしたものが多いのです。

一見単調にも思えますが、こうした歌は詠まれた情景を思い浮かべた時にその真価を発揮します。


春の暖かさも過ぎゆき青く高く晴れ渡る空の下、新緑の山々に白くたなびく衣が干されている。たった三十一字の和歌がまるで色彩を持ったかのように鮮やかに景色を伝えてくれるのです。


だからまでこさんもそんな風景を絵にしてみようと思ったのでしょうね。

ちなみに山の形を見ただけでこれが香久山だと当てられる人は、地元の人か相当の通だと思います。

もちろんまでこさんに写真を見せれば一目で当てられます。どうして判るんだろう…?




【解説】


万葉集・3巻317番歌 山部赤人

〈天地の 分れし時ゆ  神さびて 高く貴き

 駿河なる 不尽の高嶺を  天の原 振りさけ見れば

 渡る日の 影も隠らひ  照る月の 光も見えず

 白雲も い行きはばかり  時じくそ 雪は降りける

 語り継ぎ 言ひ継ぎ行かむ  不尽の高嶺は〉

〈あめつちの わかれしときゆ  かむさびて たかくとうとき

 するがなる ふじのたかねを  あまのはら ふりさけみれば

 わたるひの かげもかくらひ  てるつきの ひかりもみえず

 しらくもも いゆきはばかり  ときじくそ ゆきはふりける

 かたりつぎ いひつぎゆかむ  ふじのたかねは〉



いやーこれまた長い!長いけど作者が初めて好きになったカッコイイ万葉集でもあるので紹介させていただきます!


まず出だしが〈天地の別れし時〉から始まるんですよ?格好良よすぎません?

天地開闢てんちかいびゃくですよもう中二時代の作者の心はここでガッチリ掴まれましたね、ええ。

天地が別れた時から存在する、神々しくも貴き富士の高嶺を天空を仰ぐように見上げれば……と歌い始めている訳です。それを表す言葉のひとつひとつがもう格好良いの塊ですね。

次に行きましょう。


〈渡る日の影も隠らひ 照る月の光も見えず〉

ここ!太陽と影、月と照の対比ですよ!そして富士の大きさを太陽が隠れ月も見えない程の……と比喩にて伝えている訳です。

太陽を影と表現するのがなんかお洒落で作者はこの表現が大好きです。

ちなみに「影」というと現代は英語のシャドウやシルエットの意味として使われていますが、元々は日・月・灯火などの光を指す言葉でした。遮蔽物から伸びる「影」だけではなく、光源から伸びる光の帯のことも「影」と呼んでいたのではないでしょうか。

今も名残で月光を指す「月影」という言葉があったりもします。


そうして日も月も閉ざされ、雲も行く手を阻まれ、絶え間なく雪が降り続ける。

語り継ぎ、言い継いでいかなければならない。この素晴らしい富士の姿を。


というように、隅々まで神々しく、雄大に富士を讃えているのがこの長歌なのでした。

万葉歌人の豊かな感性には驚かされますね。



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