チーム八代

「……向こうから仕掛けてきたって……。まだ奴は何も手ー出してへんやんけ……」

 

 俺は利伽りかの呟きに、半ば呆然としながら、呟くようにそう反論した。

 そりゃ、そうやろ? 浅間あさま 宗一むねかずが明らかな敵意で俺たちの前に立ったっちゅーてもといっても、別に有無を言わせず襲いかかってきたっちゅーという訳やないわけではない

 それをゆーたらいったら、先に手を出したんは、明らかに利伽の方や。身の危険を感じてー………ゆーた処で、過剰防衛もえーとこやったいいところだった

 

かまへん問題ないかまへん問題ない。気なすることなんかあらへんでー』

 

 そんな利伽の暴論に加勢したんは、遠く離れた大阪の地から念話で参加してる、俺のばあちゃん「不知火しらぬい みそぎ」その人や。

 

『ウチも大概、あの“ガキんちょ”の遣り方にはイライラしとったんや。ここは一つ、パーッと盛大に暴れて、思いっきりぶち壊したらえーんやでー』

 

 なんちゅーなんという過激なことゆーねんいうんだ! 到底、齢八十を越える老人とは思えん言い種や! ……まあ? 見た目は? 二十代そこそこやねんから質が悪いけどな。

 そんな会話を(念話含む)してたら、宗一の方も応戦の構えを取り出した! 奴の前面に、無数の霊気の塊が浮かび上がったんや!

 それは、今の宗一の霊気を宿したからなんやろうか、気持ちの悪いくらい、黒に近い紫色をしてる! 丁度、利伽の放つ霊気の色とは対照的や!

 ただ宗一の霊気塊には、その禍々しさに見合った攻撃力があることはすぐに分かった!

 

「おい、利伽。先制攻撃で挑発するんはかまへんけどいいけれど、宗一のアレ……防げるんやろな?」

 

 今の利伽は地脈の力も得て、見た目も実力も神人のそれや。攻撃力もさる事ながら、防御力かて常人のそれやない。

 

「……いや―――……それがな―――……。どうやら私、攻撃特化型みたいで、防御はあかんみたいや……」

 

 タハハ……とでも続きそうな声音で、利伽が俺の問いに答えた。……って、あかんやんだめじゃないかっ!

 

「なっ……なに―――っ!?」

 

 ―――キュキュキュキュンッ!

 

 俺の叫びと、宗一の攻撃が放たれたんは同時やった! この場におる俺以外……利伽は勿論、ビャクやよもぎはなんとかなるかも知れんけど、全くの一般高校生状態な俺にはどうにか出来る事態やない!

 

 ―――ギャギャギャギュンッ!

 

 無差別に、無数に放たれた宗一の霊気弾は、強固に張られた防御障壁が完全に防ぎきった! こんな障壁を瞬時に張れるんは……。

 

「はぁー………。私の主様達は……揃いも揃って……ノーキン・・・・なのですね……」

 

 表情の乏しい顔で、わざとらしい大きな溜め息をついた蓬が、彼女には似つかわしくないまさかの毒を吐いた。

 しかも強ち間違って無いんやから、俺も利伽だって反論出来んかった。

 

「またまたー、蓬ちゃーん。そんニャンそんなんゆーて、単に覚えたての言葉、使いたかっただけニャろだけやろー?」

 

 なんや、居心地が若干悪くなった空気を、蓬の後ろから出てきたビャクが、彼女の肩に手を回しながらそう言って吹き飛ばした。

 

「……な……何ですか……バカ猫。そんな事は……」

 

「んーもー。蓬ちゃんて照れ屋やニャー」

 

 またも辛辣な蓬の言葉やけど、これはビャクの言う通り。顔を真っ赤にした蓬の悪態なんか、精神的優位なビャクにはこたえんかったんやろう。ビャクは蓬に頬擦りするくらいに顔を寄せ、蓬は顔だけを背けてこらえてる。


「は……離れなさい……バカ猫……」

 

 蓬の抗議も、ビャクの体を引き離すには至らんかった。一体いつの間に、こんなに仲良くなったんやろ? って言う程のイチャつき方やけど、何て事はない。ただビャクが蓬をからかってただけやな。

 

「……それよりも……ビャク……。あなたは……何をサボって……いるのですか?」

 

 コホンと軽く小さな咳払いをして、未だ顔を赤らめたままの蓬は、話題を変えるべくそうビャクに質問した。

 蓬の照れ隠しは兎も角、確かに好戦的なビャクにしては、攻撃されたにも関わらず反撃に出てないんは変な話や。

 

「ウチもそうしたいんはヤマヤマやねんけどニャー……。相手のご指名が、利伽様みたいニャから……」

 

 蓬にそう答えながら、ビャクは宗一の方へと視線を向ける。

 

 ―――ビリビリビリッ!

 

 その瞬間、信じられへん位の圧がビャクと宗一の間に生じて、その余波が俺らの場所とこまで伝わってきた! ビャクの奴、なんちゅー殺気を放つんや!

 それを受けて、浮かべた笑みを崩さん宗一も流石や! どれ程の自信が奴にはあるんか、見当もつかんな……。

 

「一対一の勝負ね? 望むとこやわ!」

 

 利伽も今のやり取りを見てたやろーに、気丈にもそう言い捨てて一歩前に出た。こっちは宗一程の余裕はなく、どっちかってゆーと虚勢の笑みなんか、若干ひきつり気味や。

 その利伽の更に前へと、蓬が彼女を護る位置に進み出た。無言のまま採られたその行動に俺は勿論、利伽も一瞬、呆気にとられてた。

 

「……貴女を……護るのが……私の役目……ですから……」

 

 蓬の表情は毅然としていて、異論なんて頑として聞かんっちゅー雰囲気がビシバシ伝わってきた。

 

「で……でもあいつは、私を指名だから……」

 

 それでもオズオズとやけど、利伽が蓬にそう意見した。もっともそれは、どうにも蓬に気を使こた、なんか恐縮した言い方やけどな。

 

「利伽様には……彼奴きやつの攻撃を……真っ向から防ぐ手立てが……あるのですか……?」

 

 相変わらずその話し方だけは、どこか気だるげな、所々言葉を句切ったもんやったけど、有無を言わさん迫力が込められてる。

 

「それに……向こうは此方が何人でも……構わないようですが……?」

 

 言葉を封じられてる利伽の答えを聞かんときくことなく、蓬は話を続けて、その視線を再び宗一の方へと向けた。

 

 ―――それと同時に!

 

 ―――ギャギャギャギャギャンッ!

 

 蓬の張った防御障壁が、さっきよりも強く激しい衝突音を上げた! 宗一の、有無を言わさん攻撃は、蓬のゆう通りいうとおり此方は何人でも構わんっちゅーかまわないという言外の意思表示や!

 

ほなそれじゃあ、戦闘開始ニャねー。さぁさぁ、タッちゃん、ウチらは邪魔んニャらんとこ行こか」

 

 そう言ったビャクは、そっと俺と手を繋ぎ、グイグイと引っ張り出した。その顔は何でか嬉しそうや。

 

「で……でも……。利伽が戦うんやで? 俺も……」

 

「手伝いニャんか、蓬がおったら十分ニャで。タッちゃんは今回、お呼びやニャいって、利伽様もアイツもゆーてるわ」

 

 確かに……強さに拘ってた宗一は、何や最初から利伽をターゲットにしてた節がある。そして利伽も、それを知ってた風や。

 

「じゃー俺は、何も出来んと指咥えて見てるしか出来へんでけへんのか?」

 

 利伽が……幼馴染みが……大好きな女性が戦うっちゅーのに、俺には何も手出し出来へんのか!? それは、あんまりあまりと言えばあんまりあまりや!

 

「だいじょーぶニャって! タッちゃんには、“解説”って枠がちゃーんと残ってるニャ」

 

「……っ!?」

 

「ああ、“実況”でも問題ニャいニャ。どうせ頼まんでも、一人でブツブツ実況なり解説するんニャ?」

 

「……!!」

 

 俺は……今度こそ本当に……絶句した……。

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