利伽の接続

「……それって、どーゆー事なん?」

 

 折角利伽りかが種明かししてくれたっちゅーのに、俺は更に質問を重ねた。


 状況を理解してる同士の会話やったらみなまで言わんでも話が通じるんやろーけど、俺にして見れば結論ゆわれても全てを理解するには至らんかった。

 勿論、理解せんでええっちゅーんやったら問題ないけどな。

 

「……もう……。しゃーないなー……」

 

『ほんま―――利伽ちゃん―――。アホな孫でごめんやで―――』

 

 ……なんや、この緊張感の無さは……。


 目の前に敵である浅間あさま 宗一むねかずが、闇落ちしたあげく臨戦態勢で対峙してるっちゅーのに、利伽とばあちゃんの会話は何処が余裕がある。

 

「ええか、タツ。むかーし昔、誰も住んでなかった地脈の力と魑魅魍魎が溢れる不知火の地に、何処からともなくフラりとやって来たご先祖様は、不知火山の地脈を使ってその地を平定しそのままそこへ永住しました」

 

「ああ、俺らのご先祖様やな」

 

 なんや利伽は、まるで子供にお伽噺でも聞かせるような口調で話を始めた。

 なんぼなんでも、それくらいやったら俺も知ってる。

 なんちゅーても、俺らのルーツに関わる事やからな。

 ガキの頃から散々聞かされてきたし、嫌でも覚えるっちゅーねん。

 

「……じゃー、ここで問題。ご先祖様は、何で不知火山の地脈と接続コネクト出来たのでしょう?」


「なんでって、そりゃ―――……」


 ……あれ? そう言えば何でご先祖様は見ず知らずの土地で、そこの地脈に接続できたんやろー……?

 答えられへん俺に向けて、利伽は真剣味を増した笑みを浮かべた。

 

「それはな、ご先祖様がどんな土地の地脈にも接続出来る、特殊技能を持ってたから……って考えられへん?」

 

「そりゃー……な―――……」

 

 そら、そんな凄い特殊技能なんて持ってたら、俺ら接続師コネクターにしてみれば、無敵……とまではいかんでも、すげー存在になれるっちゅーんは分かる話や。

 まー……もっとも、そんなんが当たり前やったら、縄張りやら地脈を巡る争いが横行して、いさかいが堪えへんやろうけどな。


「でもなー……そんな能力、俺は今まで聞いたことないで?」

 

「う……」

 

 俺のある意味正論に、利伽も言葉に詰まってもうた。

 そらーなんぼ正しいゆーても、無いものをやり玉に上げられてもそれは架空の話にしかならん。

 

『……もしそれが実話で―――全ての接続師の始祖しそやったら―――……どないする―――……?』

 

 答えに困窮してる利伽に変わって、ばあちゃんが引き継いでそう話し出した。


「おばあちゃんっ! それ、ほんまなんっ!?」

 

「はぁ? 紫蘇しそや何や知らんけど、その話って実話なんか?」

 

 ばあちゃんの勿体ぶった言い方に利伽は驚いた声で、俺は疑問を声音に乗せてそう返した。

 そらー、おにぎりは梅が好きや。

 その次に好きなんは紫蘇。

 でもそれって今、関係あるんか?

 俺の発言に、何でか二人は絶句してる。

 

『……ほんまに―――アホな孫でごめんな―――利伽ちゃん―――……』

 

 諦念の滲み出た、深い溜め息混じりなばあちゃんの念話に、利伽は苦笑いを浮かべるだけで何も答えんかった。

 何や? 何か間違ってたか?

 

『こんなアホは放っといて―――利伽ちゃん―――。早速試してみ―――。いつもと感覚がちゃうから―――慣れるのにちょーっと時間掛かるかも知れんけどな―――』

 

「……はいっ!」

 

 俺の事は放っといて (居らん者と考えられて)二人の間では話が終わり、利伽はどうやら接続を開始するみたいや。

 目を瞑り、口許だけで祝詞を唱え出した利伽の体が、淡い光に包まれ出す。

 その時俺の背後で、嫌すぎる気配が増大した!

 言うまでもなくそれは、今まで無視されてた宗一の放った禍々しすぎる気の高まった証やった!


 俺は見たくないのに、それでも見ずにはいられへん力に逆らえんでそちらに目をやった。

 宗一は、今の今まで放っとかれた怒り心頭で……なんて事はなかった。

 それどころか、利伽が接続を開始したことをさも喜んでるかのように、その顔に浮かんでた邪悪な笑みがますます歪んだ物へと変貌してたんや!

 今の奴を一目見ただけで、そのおぞましさが分かるってもんやった!

 俺は慌てて、利伽の方へと向き直った!

 

「っ利……伽……」

 

「……ほぅ……」

 

 俺は思わず、利伽の名前を叫ぼうとして……そのまま言葉を無くしてもうた。

 そして利伽は落ち着いた、何処か悩ましげでもある吐息を一つついた。


 利伽はその時、体から光を発してたんや。

 あの、地脈に接続した時独特の激しいけど優しい……温かさを感じる光に。

 

「利伽っ!」

 

 俺が再度声を上げたんと、彼女が一段と強い光に呑まれるんは殆ど同時やった。

 利伽の身に起きた兆候は、接続の完了を意味してる事を俺は知ってた。

 

「……つまり……俺らは……開祖の子孫やったっちゅー事か……」

 

 利伽から発せられてた光が失せて、中からは変形へんぎょうを終えた利伽が姿を現した。

 俺はそれを見て、思わずそんな事を呟いてもうてたんや。

 彼女の姿を見れば、そう思わざるを得んかった……。

 

 ―――利伽の姿は……綺麗やとか美しいとか凛々しいとか雄々しいとか輝かしいとか眩しいとか……そんな、彼女を褒めそやすどんな言葉も物足りん。

 

 ―――神々しい……。あえて言葉を付けるなら、この言葉以外に当てはまらんかった……。

 

 接続したら、誰でもこんな風に……まるで神様みたいに見えるんか?

 それともそう見えるんは……利伽やからか?

 利伽の力が、それほどに強いものやからやろうか?

 俺ん時も……こんな風やったんやろか?

 ほんの一瞬で色んな……それこそ、宗一との戦闘には何ら関係のない事が次々に湧いては消えていった。

 そんな俺の意識を思考世界から現実世界に強制送還させたんは、俺の目が写し取ってる利伽が動きを見せたからやった。

 

 ―――ジャキンッ!

 

 無言のうちに、利伽は右手に持った筒の長い……ライフルとバズーカを足して2で割った用な重火器を構えた。

 驚くべき事……なんやろうな。

 利伽はもう、武器の具現化を果たしてたんや。

 

 銃身は、利伽の身長より遥かに長い。

 長身ライフルやったらまだ理解も出来たやろうけど、その銃口はライフル弾を打ち出すには明らかに大きすぎると思たんや。

 まるでソフトボールでも打ち出すんかっちゅー大きさの銃口は、そこだけ見ればバズーカやロケット砲やな。

 兎に角、そんな近未来戦争物かロボットアニメに出てきそうな武器を携えた彼女の姿は、まるで神衣を纏った天女のような姿をしてる。

 さっきまでの学生服やなくなって、今は白い掛襟の見える白衣に、白い袴と白い草履、白一色の巫女装束や。

 その上からは七色に輝く千早を羽織り、五色の羽衣まで纏ってる。

 そんな出で立ちの利伽が、優しい表情を浮かべてるんや。

 天人と見紛ってもしゃーないやろ?

 

 ―――ギョホウッ!

 

 そんな事を長々と考えとったら、いきなり利伽はその巨銃をぶっぱなした!

 火薬の炸裂音とは似ても似つかん発砲音から繰り出された攻撃は、正しく霊気のビーム砲を連想させる!

 

「どぅわっ!」

 

 彼女の表情になんの変化もなかったから、俺は完全に不意を突かれて思わず間抜けな声を上げてもうた!

 当然、利伽の狙いは俺やない、宗一や。

 

 ―――カッ! バガンズガガガガッ!

 

 利伽の霊砲が、宗一の右側に着弾して爆発を起こした!

 床は壊れて、屋根も崩れる!


 一言で言えば……大惨事や!


 肝心の宗一はっちゅーと、最初から利伽が当てんと分かってたんか、その場から微動だにしてへん。

 頭上から落ちてくる家屋の木片は、奴の纏う霊気に弾かれて、宗一の体に塵一つ落としてへんかった!

 まるでバリヤーやな。

 それにしても……。

 

「おい、利伽……。なんぼなんでも、やり過ぎちゃうんか……?」

 

 問答無用で霊砲をぶっぱなして、大家である処の浅間家の家屋を大破壊……。

 普通やったら、家同士の問題に発展するところやで。

 

「べっつに―――? 向こうが先に仕掛けてきたんやし」

 

 俺のそんな懸念を余所に、当の利伽はケロッとした表情でそう返してきた。

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