12.手紙

 それからすぐに二人の警官に挟まれて僕は車に乗り込み、地元の警察署まで連行され、小さい部屋の中で取調べを受けた。僕はありのままに包み隠さず素直にしゃべった。殺すときに何も躊躇がなかったこと、そして現在も後悔がないこととその理由も含めて……。僕は正義のためにこの手を汚さざるを得なかったのだ。さもないと、ほかの人間の手によってどっちみち殺されたか、だまされた男たちの心が殺されていったことだろうと……。

 それを警官は真剣にとってくれたか、それとも相手にせず受け流していたか定かではないが、ともかく僕は殺人を自白したものとみなされ、逮捕されることが決まった。

 「二十三時四十八分に準現行犯で逮捕……。」

 準現行犯って言うんだ……。人って、こんなにすぐ逮捕されちゃうんだな……。

 とぼんやり思っていた。

 そして、いろいろなものを没収されてしまい、留置所入りとなってしまった。テレビ等でよく耳にする留置所だがまさか僕が入るとは……。とはいうものの特に起伏した感情は伴わずぼんやりと考えていた。

 やがて次の日に検察に僕は身柄送検となったようだが、引き続き留置所で拘留、夜に弁護士を連れ添って母親がやってきた。

 ありのままの事実を話すと母親は感情あらわに怒ったり泣いたりしながら、最後に励ましの言葉をかけた。

 ユリとユリの遺族へ償うために一緒にがんばって生きていこうという旨、そして女性から預かったという手紙を渡してくれた。可愛らしい犬のキャラクターのイラストに封筒で、あて先は若い女性の筆跡で自分の名前が書かれていた。差出人を見ると住所は書かれておらず潮崎さくら、川村絵里と連名で書かれていた。

 僕は母親達の後姿を見送った後に急いで中身を取り出した。あらかじめ中身は検閲とやらをされていたらしく、封は開けられていた。

 中身は封筒と同様に可愛らしい犬のイラストがプレ印刷されて便箋を僕はいささか興奮と緊張が入り混らせながら内容に目を通した。便箋を持っているその手は震えていた。

 文面は若い女の子らしいでしたためられ、内容は次のとおりだった。

 荒橋さんへ

 こんにちは!!もしかしたらご覧になっているタイミングによっては、おはようかもこんばんはかもしれませんが、許して下さいネ!!

 あの時は時間が無くなってしまい、言いたいことが最後までいえなかったことがあるので、手紙を書くことにしました。

 もうわかっているかもしれませんが、やはりどんな理由があっても、どんな人でも殺してしまうことは良くないことだと私達は思っています。

 殺人は当然殺す人がいて、殺される人がいます。殺す人は今痛みを感じないかもしれませんが、心に深い傷を負い、ゆくゆくはその傷が痛み始めることがあるとおもいます。そして忘れてはいけないのが、荒橋さんの事を愛しているお母さんやお父さん、兄弟や親類と友人の方々を悲しませてしまうと思うのです。そして荒橋さんが将来、好きな人が出来て、そして子供をもし授かった時も色々と悩み考えなければいけない時が来ると思います。

 人は感情を持っています。他の動物も感情を持っていますが、違うのは良いものも悪いものも残っていく事です。その中でも恨みや妬み、憎しみはあまり持ってはいけないと思うのです。

 戦争の悲劇がそうです。戦争はたくさんの人が殺しあいます。戦争が終わっても今もなお色々な人々が悲しみ、中には自分の先祖がヒドイ目に合わされた……という思いが恨みとなって今もなお抱いています。こうした負の感情が受け継がれてしまっている事が、本当につらい事だと思うのです。

 だからどんなに正義を語っても、被害者の方が悪い人でも荒橋さんの考え方には賛成できないです。

 荒橋さんはこれからまず罪を償っていくこととなり、つらい事があるかもしれませんが、がんばって生き抜いてください。そしていつかは許されるような時になったいつかは……どろーんとした廃線でこしをかけて、旅行や廃墟の話をできればと思っています。どうかがんばって生き抜いてください。恋人や好きな人同士ににはなれないと思いますが応援しています。

 潮崎さくら 川村絵里

 

 僕はその手紙を読み終えた。少し悔しかったのだけど、真冬の曇り空に薄日が差し込んできたように、少しだけ心が温まっている気がした。

 それは本当に不思議なぬくもりで、泣きはしなかったが少しだけ目頭がいたくなった。

 いつかはドローンとした廃線で……。彼女とまた廃墟、廃線や良好の話を自由に出来るのだろうか?

 音楽で形式に捉われないものを狂詩曲……ラプソディというらしいけど、

 何も制約や遠慮することなく、彼女とまた話が出来るのだろうか?

 短い時間だったが、本当に楽しいラプソディだった。何も気にすることなく、捉われることなく自分達の趣味に意気投合できる数少ない仲間……。その仲間……彼女と出会えたのが本当に幸福だった。さらに彼女の優しく明るい性格がその思いを強くさせる。

 またいつか話したい。彼女と廃線でラプソディを……。

 それにしても……。僕は奥歯に物が挟まったような、やや納得が出来ないものが残った。

 潮崎さくら

 この名前がこの手紙に無かったら、もっと幸せな気分になれただろうに。……というよりも、どう考えてもこの名前は僕にとって不要としか思えない。

 そう思うと、僕は思わず苦笑いを禁じえなかった。 

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廃線ラプソディ 乱橋 笑児 @ranbashi

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