第7話 強情

「たくさん休んだけど、けっこう登ってこれたね」

螺旋階段の下を覗きながら僕は言う。

上るほど先の段が見えてくるし、道のりはまだまだ長い。


「って、あれ?」

彼女は階段に腰かけてくつろぐ体勢になっている。

「前の休憩から六十段も数えてないのにもう休憩?」

「文句じゃなくて、大丈夫かって労わってくれてもいいのに……」


グダグダと呟いている彼女に僕は提案する。

「降りよう。上には到達できなかった、それでいいじゃん」


「大丈夫よ! 登るって言ってるじゃない」

勇んで立ち上がる彼女に畳みかける。

「くじいた足を引きずってるくせに。気付かない程僕は馬鹿じゃない」

どっちの足がくじいた足かわからないけど、動きが若干おかしいことには気がついていた。

「……くっ……」

何も言わないナリアにはこれがトドメをさしにいく。

「何も言わないなら調べる。足を貸して」

応急セットが入ったリュックサックを持って言う。

諦めの悪いナリアにはこのくらいがちょうどいい。


「バレちゃったか。大丈夫、もう治ったし!」

何もないように振る舞っている。


なんて強情なんだ。

「もっと体を大事にしろよ!火傷やけどとはわけがちがうんだぞ」

しまった。「火傷」は地雷だ。

「ごめん……」


ああ、手遅れだ。ナリアはうつむいて言った。

「手当は自分でするわ。ここからは一人で登る。私のわがままに付き合わせてごめん」


リュックサックから覗いていた包帯を奪い取るようにして、ナリアは上る。


もう一度謝ろう。今のは、口を滑らせた僕が悪い。


遥か先を行くナリアを追いかけた。

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