第33話 恋人に必要な衣服とは
33...
他のお客さんがいない頃を見計らって、千愛に下着屋さんに引っ張り込まれた。
白地のカップに色つきレース(淡色系)が好きだと綺麗な店員さんの前でバレてしまったこの恥辱、やばし。
千愛(ちあ)の呆れた顔も羞恥度高めでやばし。
「結局白なんだね……」
「じ、次点で黒もいいっていったろー!」
「想定の範囲内。他にはないの? すけすけとか、ヒョウ柄とかもあるよ?」
下着だらけ、店員さんも女子。
この状況下で彼女に履かせたい下着を声高に言うのはハードル高すぎるだろ!
「見てみて。赤のすけすけ」
ひょいっと飾ってある下着を手にとって見せてくる。
確かに千愛が見せてくれたやつは、股間の大事な部分ぎりぎりまでスケスケだ。
っていうかこれ、見えちゃうんじゃないか?
「切れ込みえぐいですね。持ってないなあ、そういうのもいいかも」
千愛さん!?
「穴が空いてるのもありますよ?」
「ほんとですか?」
「色々ありますから」
店員さんも半目の笑顔で俺を見なくていいから。
マジで。恥ずかしいからやめてください。
「まあそれはさておいても。普段使いから背伸びまで、色々取りそろえておりますので、お気軽にお声がけください」
「はーい」
笑顔で頷く千愛には敵いそうにないです。
「で? どれを着せたいの?」
「……いや、だから」
「スケスケ? あなあいてるの?」
「……白と黒一着ずつでいいっす」
「ネグリジェとかもあるよ」
「も、ホント、勘弁してください」
「すけすけだよ?」
身体にあてないでもらえます!
下着屋さんに他のお客さんはいないけど、その外にある通路を歩くお客さんにも見えちゃうじゃないの!
「……あたしに興味ない?」
「そこで悲しそうな顔するのやめてよ! 興味あるけどここで選ぶ目的なんて一つじゃん! 赤裸々すぎて……!」
「考えすぎだよ」
なんかもう微笑ましかったりめんどくさそうな目で見られてるし!
俺の精神ゲージはゼロですよ……。
「白のブラとショーツだと、どういうのがいいのかな」
「ナイトウェア、という手もございますよ。お値段はそれなりなんですが、シルクの――」
店員さんと話し込む千愛だけど、二人の会話がまるで頭に入ってこない。
居場所のなさがつらい……。
なんで居場所がなくなるように感じるってさ。
どの下着も千愛が着たらどうかなって想像して、それでちょっと興奮するわけで。
でも普通は普段着るための服を純粋に選びに来てるわけで。
救いなのは、千愛が気遣って他のお客さんがいない頃を見計らってくれたこと。
いたらさあ……見れないよ。だって想像しちゃうもの!
逆の立場だったら、無理だし。下着選んでる時に誰かに見られるの俺はいや。
でも、だからこそ、これは恋人に許された買い物で。
千愛は俺に選んで欲しい、俺の好みが知りたい、みたいな趣旨で入ったわけで。
だったら頭の中で妄想しちゃうよ。
千愛がこれ着たらどうなんだろうって。
それを脱がしたら、とか……考えちゃうわけで。
つまりさあ。邪なの俺だけじゃん……!
そりゃあ居場所ないよ、しょうがないよ……。
「んー。やっぱりまだ早いや。アルバイトちゃんと出来るようになるまで我慢!」
「そうでございますか。ブラはどうなさいます?」
「ショーツとセットで白と黒、ください」
「かしこまりました。レジへどうぞ」
コウ、いくよ。
そう言って俺の手を引く千愛は嬉しそうな顔をしていた。
「こういうの初めてだね」
「……慣れそうにないです」
「でもまた来ようね」
下着を買ってほくほく顔の千愛は、まだ見たりないのか店内を見て回っている。そんな時だった。
「人によって意見は分かれちゃいますけど……足を運んでいただく理由が一つでもあれば、来て、もしよければ買っていただけるだけお店にとってはありがたいので」
ラッピングして紙袋に入れた店員さんがはい、と手渡してくれる。
「どうぞ、他のお客さまのご迷惑にならない範囲でぜひまたお越し下さい」
そう言って送り出された。千愛と一緒に出て、ようやくひと息だ。
「コウの好みはこういうのなんだ。アニメとかみたいに、縞しまーとか、そういうのかと思ってた」
「違います」
男がいなくなったのもあるんだろう。
女性のお客さんがちらほらと下着屋さんに入っていく。
住み分けって……大事だよな。
「じゃあ次、コウの下着みにいこ」
「……千愛にも好みがあんの?」
「そりゃあね」
知らなかった……。
男の下着なんてトランクスとかであればいいんだと思ってた。
「行こ」
買い物を心から楽しんでる千愛に付き合うのは……慣れないからちょっと疲れるけど、でも……慣れてもいいことだと思った。
……地味に夜が楽しみだしな。
つづく。
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