第13話

森の中のぽっかりと切り開かれた場所。門などはなく、高い物見櫓が目立つ。地面は特に舗装されていないが、よく踏み固められている。

特に家が特徴的だ。煉瓦の様な壁だが、色が青い。塗料か、素材が違うのか。屋根は木だが、そこも青い。


ここは青い集落だ。


良く良く鼻を効かせると、青い部分から刺激臭がする。虫除けの効果でもあるのだろう。


しかし妙だ。先程から人の姿が無い。家の中から押し殺した様な呼吸音がする事から人はいるのだろう。俺達に警戒しているのか?

そう言えば先に向かったポノラはどこに……


「アイーーー…………」


む、これはポノラの叫び声。あいつも良く叫ぶな。

叫び声は割と近くであった為にすぐに現場に辿り着いた。


「ポノラ!大丈夫か!」


「ノリユキ、ヘッパイエ……」


集落の広場らしき所で何者かに抱えられているポノラ。いや、ポノラだけでなく他にも何人かの女が捕らえられている。多いな。10人か。

その何者かは、あれは人か?緑色の肌には毛が生えていない。耳は不気味に大きく、豚の様な鼻をしている。背は低いが筋肉質だ。身につけているのは腰蓑の様な粗末なものと、不恰好な棍棒だけだ。


「ポノラを離せ!」


取り敢えず一気に間合いを詰め、強引にポノラを奪い返した。そのままの勢いで抱えた奴を胴回し蹴りで沈める。

……やり過ぎたか?顔が陥没してやがる。


しかしポノラみたいに兎の耳をはやした人間がいるのだ。こいつらだってもしかしたら人間かもしれん。とすると話し合いで交渉した方が良かったか。


いや、流石にそれは甘過ぎるな。ポノラも含めて拉致しようとしていた。捕らえられている女はこの集落の者だろう。よく見れば周りの家やなんかも所々破壊されている。とすると、こいつらはこの集落にとっての敵で……。


「ギュララア!」


後ろから殴りかかられたが、それを見もせずに避ける。そのまま反転して回し蹴りを食らわし吹き飛ばす。

まあポノラを助ける為にこいつらのど真ん中に来た訳だ。当然囲まれてる。どいつもこいつも殺意を隠さないでいやがる。


「ポノラを拐おうとしたんだ。売られた喧嘩よ。その瞬間から、お前らは俺にとっての敵になったぜ」


……蹴り飛ばしたのは俺だから、俺が売ったのか?いや、深くは考えないでおこう。


言葉は通じちゃいないだろうが、こうも殺気の溢れた連中の事だ。やはり直ぐに襲って来た。捕らえていた女達は放り出して。

連携などは考えずに、力任せに棍棒を振り回してくる。空振った一撃が地面を陥没させる。中々に強力だ。

対する俺は未だポノラを抱えたまま。だがまあ余裕よ。今の俺には、こいつらがすこぶる鈍間に感じる。


棍棒をかわして、蹴る。振り上げざまに、蹴る。振り上げなくても先の先を潰して蹴る。

10なんて数はあっという間に倒せてしまった。相変わらず、我ながら恐ろしい力を手に入れたものだ。

捕らえられた女達が逃げる間も無く倒してしまったせいか、全員が間の抜けた顔で俺を見る。前の世界ではで無かったな、ここまで女に見られるなんて。まあ見た所目立った外傷もない。この緑色共も殺してはいないし、処罰はこの集落の者に任せるか。


しかしこの女達も中々に綺麗どころじゃないか。肌が白く……


ん?肌が白い?


兎の耳も生えていない。顔立ちは露助の様だ、嫌いじゃない。瞳は青が多いな。髪の色は薄い金色が多い。


ポノラと共通点が無い。もしかしてここはポノラの村では無いのではないのか?


「ポノラ、ここ、ポノラビレジか」


ビレジが村だとか集落だとかいう意味だと思う。


「ダ、ダ」


首を振りながらそう言うポノラ。ダは違うという意味だったはず。とすると……。


「ここはどこだ?」


ーーーーーーーー

ーーーーーー

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ーーー

ーー


その後は家の中から男衆が出て来て女達を保護していった。男衆の格好は分厚い生地で折った麻色の作務衣の様なものを着ている。女衆はもっとゆとりと彩りのある服だ。袖がダボついているのが特徴か。下は袴というよりもスカートだな。


男衆をよく見ると怪我しているものが多い。戦ったのか。昨日今日の怪我では無さそうだな。とすると、頻繁に襲われているのか。

それでその襲った容疑のかかっている緑色共はというと、女達を保護した後直ぐに老若男女が囲って私刑リンチにしていた。俺が弱らせていたというのもあるが、全員が全員恨みの困った視線で一心不乱に殴るわ蹴るわで直ぐに息絶えてしまった。それでもなお死体を蹴り続けていた。恨みが深い。余程か。死なば仏といえど、ここでは宗教が違う。せめて俺だけでも手を合わせよう。南無阿弥陀仏。


さて、そんなことをしていると代表らしき爺さんが俺達の前に出て来た。


「ラ、ブライマンイエ。ラ、シャンシャ、ヘッパイエ。モエ、ルズ、ラ、マンシャーノンイエ。ラ、ハー、ユマンナイエ」


長い。わからんが、感謝されてるのはまあ伝わる。さてどうするか考えていると、爺さんが手招きし、それにポノラがついて行った。俺も行くべきか。

2人の後に続くと、周りよりも大きな家に案内された。土足で大丈夫なようだ。いくつか部屋を経由する。すると大きな机と、それを囲うように切株で出来た椅子が並べられた部屋に行き着いた。奥の方からは良い匂いがする。なるほど、飯をご馳走してくれるという訳か。


しばらく腰掛けて待つ。その間もポノラと爺さんが何か喋っている。会話には入らないが、これまでの経緯でも話しているのだろう。時折アグノーだとかロブロジャーラだとかいう単語が聞こえてくる。その度に爺さんが眉毛に埋もれた目を見開く。まあ確かに、ここまでよく生き延びたも我ながら思う。驚くのも当然よ。


さて、そうこうしているうちに飯がきた。


流石に襲われていた集落だから贅沢な物は期待していなかったが、中々に美味しそうな物が出て来た。


麦の様なものを炊いたのに、野菜の沢山入った黄色い汁物。何かの生き物のモモ肉を焼いたものに、蟹の様な生き物の姿焼き。果物の盛り合わせまでついている。


味は、うん、初めて食べる食感だ。初めて食べる味だ。うん、美味い。


麦の様なものを炊いたのは粘り気の少ない米といったところか。汁物は甘味が強い。野菜の甘みが活かされている。モモ肉は鶏が近いか。酸味と香辛料が効いていて食が進む。蟹に関しては見た目は蟹なのにカリッとした食感に味は鮪だ。果物に関しては形容しがたい。が、野生種だからかあまり甘くは無かった。


この世界に来て、初めてまともな飯を食べたなぁ。美味い。とても美味い。


ああ、まともな飯を腹一杯食える日が来ようとは。両親にも食わせてやりたかった。いや、俺の特攻によって金は入ったんだ。銀シャリとまではいかないが、米を腹一杯食べてくれればなぁ。


ああ、美味い。美味い。うう……美味い……

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