腹黒男子の叱り方


「……は……ぁ」


 キョウスケの慣れた手つきになす術もなく、サトシの身体はだんだんと熱を持ち始めていた。


「んぁッ!」


「そんな大きな声出してもいいのか?」


「……?」


 一瞬、疑問を浮かべたサトシだったがすぐにその意味に気づく。

 遠くで階段を上がってくるヒナタの足音が聞こえたからだ。


 快感に負けそうになっていたサトシの表情は引きつり、今は隣の部屋の会話に全神経を向けている。


『お待たせ~。あれ? お兄ちゃんと先輩は?』


 驚きで目を見開くサトシに気づいたキョウスケは耳元で少し楽しそうに囁く。


「よく聞こえるだろ。この壁、薄いからな」


『あー、サトシ君が気分が悪くなったみたいで兄貴の部屋で休んでるよ』


『えっ。大丈夫なのかな……。わたし見てくる』


『ヒナ! もう寝てるだろうから今日は残念だけど休ませてあげな』


 わかった、というヒナタの落ち込んだ声からすぐ、先ほどのテレビゲームの音が続いた。


「?! なん、で」


「なんでお前が気分が悪いことになってるか、って顔だな」


「まさか……最初、から」


「ああ。こうするつもりだった。最初からな」


 そう言って指の動きを再開すると、サトシの逸れていた神経も一気に引き戻りアッと声が漏れた。


 慌てて口元を手で押さえるサトシとは反対に、どこかキョウスケは楽しそうだ。


「んッ……!!」


「ああ悪い。隣に聞こえたらまずかったな」


 一番良いところは触らずあくまでも擦る程度に抜き差しし、ギリギリの快感を与え続けるうちにサトシの目尻からは涙が伝う。


 何度か往復させたあと、早くから気が付いていたしこりをダイレクトにこすった。


「っん! な、にっ?! そこ……ッ!」


「さあな」


「はッ、ん、ソコ……ヤベっ、んん」


 指を3本に増やし執拗に弱いところを責める。


 後ろだけの刺激では達することができないようで、もう限界のサトシは荒い息を吐きながら自分自身で前のものを触ろうとする。


「勝手に触るな」


「だっ……て! イケな……」


「まあいい。そのかわりもう片方の手は───」


 片方で自身を握らせながら、もう片方の腕はキョウスケの腕によって拘束し声を押し殺す手段を奪う。


 後ろからは相変わらずグチュグチュと卑猥な音が響き、サトシの羞恥心を最大限に煽っていた。


「ヤ……声でる、って!」


「俺は別にかまわないが」


 本能のままに必死に自分で扱きとっくに限界を迎えているにもかかわらず、まだ理性が残っているのか声を殺そうと口を引き結び快感に耐えている。


 すると胸の突起を責めていたキョウスケは位置をずらし、固く閉ざしていた唇に先ほどとは違うゆっくりとしたキスをした。


 ほぐすような溶かすような意外なキスに、サトシの口端からは短い喘ぎが流れ落ちる。




 荒い呼吸を繰り返すサトシを寝かせたまま、突然キョウスケはベッドから下りて何かを探していた。


 しばらくして戻ってきたキョウスケは、何事もなかったようにサトシへの愛撫を再開する。


「……も、やめ……!」


 再びくる絶頂にむけ喘ぐことしかできないサトシを見ながら、キョウスケはピタリと手の動きを止める。


 すると、先ほど探して見つけたスマートフォンを取り出し何やら操作し始めたのだ。

 突然動きが止まったことを不思議に思い、虚ろな目でキョウスケと手の中のスマートフォンを捉える。


「おれの……スマ、ホ?」


「たしか、こいつだったな」


 ディスプレイ表示されているのは、先日サトシがトイレで話していたであろう〝変態〟の男友達の名前。


「……?」


「こんな変態に聞かせるのはお前の声で十分だろ」


 思い出した怒りもあいまって、何の躊躇ためらいもなく発信ボタンを押す。


 さすがにキョウスケが何をしようとしているのか感じとったのか、一瞬覚醒したサトシがとっさにスマートフォンを奪おうとする。


 それをキョウスケは強い力でベッドに押し戻し、更には器用に片手でサトシの両手を封じていた。


 なんで知っているのかという切れ切れの問いには、侮蔑ぶべつの視線だけを向けた。




 しばらくプルルルルという呼び出し音が続いたあと「もしもーし」と気怠けだるそうな男の声。


 それを確認すると少し離れたところにスマートフォンを置き、サトシの弱い部分をことさら強く擦った。


 いきなり再開する刺激に堪える暇もなく、サトシはいっそう高い喘ぎ声を漏らすしかできない。


 電話口の向こうでは〝嬌声〟に感づいた相手が興奮気味に聞き入っている様子が分かり、キョウスケの中には憤りと嫌悪感しか生まれなかった。



 先ほどすでに限界近くまできていた快感を引き出し、弱いところをゴリゴリと抉ってやる。


「ああッ! あ、あ……んあッ」


「声、聞かれてもいいのか?」


 サトシは真っ赤になった顔をブンブンと振り拒否を示す。


 キョウスケは、もう抵抗する思考と気力を失いつつあるサトシの腕を自由にし、主張するそれを握り込み乱暴に上下させ前と後ろを同時に責めた。


「っあヤバ、うし、ろ気持ち……い!」


 質の良いベッドが軋む音とぐちゃぐちゃという水音が、隣に聞こえる、友達にバレるというサトシの思考回路を完全に麻痺させていた。


 サトシの理性はどんどん壊されていく。


 限界を察知したキョウスケはスマートフォンをサトシの枕元に移動させ、あえて理性を戻させるために最低音で耳元に囁いた。


「イイ声、聞かせてやれよ」


「えッ?! あ、い、嫌ッ……だ、ぁ! イッ…く…い、あぁぁぁ!!」


 サトシは白濁を自分の顔にまで飛ばし、そのまま意識も手放した。




 ◆◇◆◇



「先輩と別れちゃった……」


 今度の理由を聞いてみると、「いろいろとゴメン」としか言われなかったそうでヒナタ自身いろいろの心当たりがなくて戸惑っているようだ。


 その一言の謝罪に改心した要素も垣間見えて、やはり灸を据えた意味はあったようだとキョウスケは一人思う。


 なにより、側にあった危険から妹を守れたことに安堵の表情を見せた2人は、沈んでしまった彼女の気分を持ち直させるため、今日も作戦会議を開くのだった。


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