絶対に許さない

 敵はキッチリ2週間後、何も知らずに長男の誘い通りに伊勢谷家へとやってきた。


 4人での食卓はヒナタを中心に終始和やかな雰囲気で過ぎていく。


 リビングでの食後のカードゲームも一段落し、時計が夜の9時を指そうとしていたころ、バスルームからお風呂の湯が沸いたブザー音が鳴った。


「サトシ君はお客さんだし、先お風呂入んなよ」


「え、イイんすか?」


「もちろん。オレたちはヒナの部屋で集まってるから、出たら上がっておいで」


 いそいそと風呂場へと向かうサトシの背中を眺めつつ、キョウスケはアオイに〝今夜決行〟の視線を投げアオイもそれに対して軽く頷いた。



 ◆◇◆◇



「お先でした~」


 Tシャツと短パン姿で髪をガシガシと拭きながら、サトシはヒナタの部屋のドアから顔を覗かせる。


 テレビゲームを楽しんでいたヒナタとアオイは一旦手を止め、隣で文庫を読んでいたキョウスケも顔を上げた。


「早かったね」


「じゃあ次はヒナ入りなよ。眠くなんないうちにね」


「はーい」


 ヒナタの部屋に残った3人はしばらく他愛ない話をしていたが、ふと会話が途切れた時にキョウスケがおもむろに口を開いた。


「ヒナタもあと30分は出てこないだろうし、サトシ君、今ちょっといいかな」


「? なんすか?」


「隣、移動しようか」


 ヒラヒラと手を振るアオイを部屋に1人残し、2人は隣のキョウスケの部屋へと移動する。



 本が多いっすねーなどと言いながら素直について来たサトシだったが、次に突然突きつけられた物を見た時は一瞬固まった。


「これ、持ってる?」


「これって……ゴム、っすか?」


「そう。コンドーム」


 想定していなかった事態に動揺し、目線があちらこちらに泳いでいる。


 その表情は、彼女の兄を前に持っているのか持っていないのか、どちらを答えるのが正解か判らず混乱しているように見えた。


「えっと、いや、あの……持ってないっす……」


 ははは、と引きつった笑いで答えるサトシに対し、キョウスケが一歩距離を縮める。


「持ってない……? 今日、ヒナタとセックスするつもりだったんだろ?」


 先ほど談笑していた時の穏やかな雰囲気とは一変。


 キョウスケをまとう空気が一気に絶対零度まで下がったように見え、サトシは蛇に睨まれた蛙のようにその場から動けなくなってしまった。


 固まるサトシの視線を逃さないまま首をガシリと掴むと、一瞬息が詰まったようでコホッと苦しそうに眉を寄せる。


「す、すいま、せ……」


 下心を見破られた上に自分の答えが不正解だったのだと思い、とっさに謝罪を口にする。


 キョウスケは、さげすむように口元を少し上げた。


「持ってても許さないけどな」


「ンぅ……!!」


 持ったままの首をグイと引き寄せ、噛み付くようなキスを落とす。


 サトシが逃げるように引こうとした腰は、すでにキョウスケの強い腕によって固められていて身動きが取れない。


 侵入した舌がねっとりと咥内を一周し、奥へと隠れようとする舌をつかまえて舐め上げ何度も深く絡ませた。


 時折ぷはっと酸素を求めるサトシの口元からは唾液が漏れていたが、意識が朦朧とする中でそれを拭う余裕などない。


 キョウスケはカクンと力の抜けたサトシを抱きかかえるようにしてベッドへと寝かせ、その上に覆いかぶさった。

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