ギルド→後患の弛緩と幕間の予感

 今さらなのだが、諸君に言わねば的なものがある。

 俺の選んだ転生先が『3.【2】でダンジョンに臨む訳だが』だった事。

 それを語る上で欠かせないのが、文字通りダンジョンである。数多あまたのモンスターを草木から生み出し、泡沫うたかたの夢を手に入り込んだ人間を喰らう、。それが、この世界もとい全異世界にけるダンジョンの形なのだ。

 俺はそのダンジョンに潜り、生還した。

 理由なんか聞くまでもないだろう。少なくとも、俺の実力とか秘められた力とかではない。確定的かくていてきなものを挙げれば、メレディスから与えられたひのき棒が素因そいんに化ける。

 ひのき棒は、テキトーに決めた呪文をテキトーに唱えるだけで実現化じつげんかさせる力――否、転送呪文と言うらしく、俺が呪文を唱えて何かを出す度に、世界は同価値の何かを失っていくそうだ。まあ、見たことはないし。実感が湧かないせいか、乱用してるけどな。

 ところでギルド。

 ここはギルドだ。

 間違っても、『ここは始まりの村だ』を延々とリピートする村人は居ない。

 居るとすれば、


 「おい、カナタ! 会員登録は済んだにょか!?」


 同棲してる幼女ぐらいなもんだ。いや、かわいいけど。


 「早くしゅるぞ、お仕事が最優先じゃっ」

 「もうちょい待ってくれ、スローイーターの意向を汲んでくれ」


 かわいいけど、ムラムラはしない。当然か。

 ここいらで、現在の状況についての説明をしよう。簡単にすると、


 ・俺死ぬ

 ・俺転生する

 ・俺ダンジョンに潜る

 ・俺メレディスに怒られる

 ・俺真面目に働こうとする ←イマココ


 だな。我ながら分かりやすい説明だぜ。

 要するに(結局コッチでまとめる)、ギルドで働く事にしたんだ。ダンジョンに潜っちまった以上、こうなるのは最早運命とも言えるらしい。

 運命じゃ、とか言ってたメレディスに連れられてギルドまで来た俺達には、腹ごしらえの後にギルドへの会員登録をするという予定がある。

 んで、スローイーターことカナタ・アトリ君はご飯に時間を食ってる訳だ。ご飯に時間を食ってる………フッ。


 「おい、はしが止まってるじょ」

 「考え事してんだよ。噛むと聞きづらいから、落ち着いて話せ」

 

 「むぎゅぅ」奇声を発するメレディスは、俺の心などいざ知らずな顔に、頬を膨らませるといったオプションを追加する。

 心を読めなくなってから、よりかわいいと感じる様になった。変な大人っぽさが消え、年相応な女の子らしい言動が増えたからだろうか。

 こいつが【力】を捨てた経緯は―――また今度話そうと思う。

 取り敢えずは、こいつが心を読めなくなったとだけ解釈かいしゃくしておいてくれ。


 「何を考えておりゅ、気になるにょ~」

 「勝手に気になってろ。食い終わったから、行こうぜ」

 「お待たせくらい言ってくれても………ちゅうか、言え」

 「あいよ、お待たせたせ~」


 ぽんぽんと頭を撫でながら席を立ち、歩を進めると、痛そうに見えなくもないって感じのメレディスが頭を抑えながらついてきた。ひょこひょこみたいな擬音をまとったメレディスは、飯を食べてた食堂の前で一礼。


 「バラクよ、食の命、有りがたく頂戴したじょ」

 「……最後以外はかっけーんだけどな」


 メレディスが食後に呟く謎の言葉だ。食前に言う時もある。


 「ご馳走さまでした」

 「プクク、カナタらしいにゃ」

 「………おい」

 「なんじゃ? 早く行くじょ!」


 いや、そっち出口なんですけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【2】でダンジョンに臨む訳だが 白侑俚佐 @siroarisa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ