第40話 剣と槍


大地を割る剣と天を裂く槍

恐怖と絶望によって崩壊する世界

人は立ち尽くす事しかできなかった

それは闇の咆哮か新世界の到来か

今、最後の審判がはじまる



 第四十話 『剣と槍と』



 空一面を覆う、巨大な黒い雲。

それは、この空間に満ち溢れんとしている、人の禍々しい心であった。

邪悪と同化した光明。その力を我がものとした撫子。

その力は、この世の全てを飲み込むまでに強大となった。

そして、今、我王が乗る戦武艦アシュギィネが、光明に特攻をかけた。

はたして、その結末は?


 バシュウーッ! ボボボバンッ!


 空を照らす幾重もの閃光。

あまりの眩しさに皆は目を閉じ、何が起きたか理解できなかった。

そこには、アシュギィネの特攻から光明を守った光が、いくつも点在していた。

その数およそ三十機ほど。

光は、武神機から放たれたインガであり、そのインガウェーブは、以前、感じたことのあるものだった。

「このインガしってる!……あっ! あの武神機は!」

最初に気付いたのはポリニャックだった。

「どうしたんだい、ポリニャック? あの光はなんだってんだい!?」

紅薔薇はまだ気づいてなかったが、目が光に慣れてきた頃、紅薔薇の顔が豹変した。

「あれは! 黒いハルジョオン?!……それに、どうしてあれから銀杏のインガが感じられるんだい!?」

皆はまさかと思って、アマテラス内で衰弱している銀杏の方を見た。

確かに、銀杏はそこにいたのだ。空中に点在するハルジョオンに乗っているはずがない。

「ど、どういうことだ?……まさか、ひとつ考えられることは……」

「マリュー! それは何だってんだい!?」


「ふう……今のは危なかったな、我も肝を冷やしたぞ……それにしても銀杏、よくやってくれた」

撫子の口から出た言葉、それは確かに銀杏と言っていた。

「どういうこと? なんでギンナンがいっぱいいるの!?」

ポリニャックは過敏に反応を示した。

自らが創り出した偽りの性格とはいえ、以前、ポリニャックと銀杏とは友達であったからだ。

その記憶が、ポリニャックの心の奥底に今でも残っていたのだろうか?

「ふふ、それほど驚くことでもあるまい? ここにいる銀杏は戦闘用培養人間……すなわち、いくらでも量産可能な使い捨ての銀杏なのだ」

「なっ、なにぃ~!」


「ボク……聞いたことがあります……」

「何を知っているんだい!? ザクロ!」

「はい……以前、ボクがまだヤマトで武神機の研究をしている頃、とある古い文献を目にしたんです。それには、前皇帝の娘が病死した時、科学者でもあった皇帝が、当時の科学を全て集結して、娘にそっくりの人造人間を作ったそうなのです」

「そんな昔に、そんな凄い技術があったなんて……」

「そうですね、あまり公にされなかったのは、それから前皇帝が暗殺され、新しい皇帝に代わった時、その技術は公にされず、極秘に戦闘用に利用されたといいます」

「そうなのか……まさか、その皇帝を暗殺した人物って……」

「そうです、アマテラス様です」

「銀杏にそんなカ過去があったなんて……どうやら銀杏には、昔からの因縁があったようだね……」

「はい、でも、それを戦いに悪用する撫子を、ボクは許せません!」


「己の駒をどう使おうと我の勝手。戦うことだけをインプットした銀杏部隊、少しは役にたったわ」

ボボボオゥ……

その銀杏部隊によって、戦武艦アシュギィネは沈められてしまった。

黒煙を上げながら各部が次々と暴発してゆき、アシュギィネは轟音をあげながら落ちてゆく。

「……うぐ……くそっ……やられちまったのか?……ボブじぃ、生きているか?」

「……」

額から流血した我王はボブソンに問いかけた。しかし、返事は返ってこなかった。

「いっちまったか、ボブじぃ……くそ、くやしいな……タケル、聞こえてているか?」

我王はインガを通して、タケルの意識に話しかけた。

(ああ聞こえるぜ、我王……じっちゃんは残念だった……それより、そこから早く脱出するんだ……)

「いや、俺様はもうだめだ……インガを全部つかっちまったからな……スッカラカンだ」

(よし、俺がいまからインガを分けてそっちに送る……それで……)

「バカヤロウ! いらねぇことすんじゃねぇ! おめぇは撫子を倒すためにインガを使えばいいんだ!」

(だけど、今の俺は、邪悪なインガに蝕まれてそれどころじゃねぇんだよ……)

「弱音を吐くんじゃねぇ! おめぇにはまだやれる……おめぇには俺様にねぇ力があるじゃねぇか!」

(俺にある力だって?……それは何なんだよ?)

「へん、てめぇで見つけな!……さて、そろそろ俺様はいくぜ……ぜったいに撫子を倒せよな……」

(我王!……早く、脱出するんだ!……)

「なぁ、タケル……命ってのは不思議なもんだな……昔は絶対に死にたくないと思っていたが、今では不思議と気分がいいんだ……やるべきことをやったからかな……」

(死ぬんじゃねぇ!……我王―!)

「悪くねぇ人生だったぜ……おまえと出会ったからかな……タケル」


 ボオオォンッ……!


 大きな爆発とともに、戦武艦アシュギイネは沈んだ。

獣人族のシンボルであったその船は、獣人の王である我王とともに最後を終えたのであった。

「が、我王さまーッ!!」

獣人族はみな悲しみ、雄叫びのような声で吠えた。

「獣人族の王、我王……立派だったぜよ……なぁタケル……むっ!」

「た、タケルさんの目から……!」

黒い大渦の邪気に蝕まれ、意識を失っているタケル。だが、その目からは涙がこぼれていた。

意識の中で、我王とタケルは分かち合い、友の死を悲しんだのだった。


 そこに、光明から脱出した小型艇が、なんとかタケルたちのもとへ着艦することができた。

それは、光明に特攻してスキを作ってくれた我王のおかげと言ってもよいだろう。

「タケルさん! 萌さんを救出しましたよ!」

烏丸は萌を抱えて走ってきた。しかし、萌の傷は深く、ぐったりしていた。

「タケルは何をしているの? え? 黒い大渦に取り込まれただって!?」

鉄円は、タケルの全身に蔓延っている黒いアザを見て驚いた。

「これはひどいわ!……すでに手遅れかも……もっと治療系のインガ使いはいないの!?」

烏丸薊は叫んだが、皆は顔を背けるしかなかった。

「タケルも萌も重症……いったいどうすればいいんだい……」

紅薔薇はうつむいて拳を握った。

リョーマは思いつめたように考え込むと、武神機へと走っていった。

そして、ジャオームに乗り込むと、指先にインガを集中させた。

グググググ!

「何をしようというのですか! リョーマさん!」

「烏丸か……見ていろ……こうするぜよ!」

ドバシュ!

ジャオームは、インガの集中した鋭い爪先で、自らの腹部を貫いた。

そして、えぐられた腹の中から、眩い光を放つ瑠璃玉が取り出された。

「うぐ……この玉に込められたインガで萌を治すぜよ……」

「し、しかし! そうしたら大インガが発動されなくなってしまいますよ!」

「烏丸よ、もはや五つの瑠璃玉を揃え、大インガを発動させても、あの黒い大渦を封印することは出来んぜよ。撫子もそれを知っていたからこそ、黒い大渦の力を吸収しようとしたんじゃ」

「では、どうすれば……萌さんを治療したとしても、黒い大渦は封印できませんよ?」

「ほんにニブイのう、烏丸は……だから、萌を治してから、萌にタケルを治させるんじゃ」

「確かに萌さんの治癒のインガは凄いが、それでも邪悪に蝕まれたタケルさんを治せるかどうか……」

「もうこれだから優等生はイヤなんじゃ! タケルと萌にある特別な力……な? わかったじゃろ」

「?……」

「まったくだめですわね、神は。気付きませんか? 男と女の間に生まれる素晴らしいパワーの存在……」

「それがタケルと萌の愛なんだね!」

紅薔薇は薊の顔を見詰めた。

「わかりました。私が媒体となって瑠璃玉のインガを萌さんに送ります!」

「ネパール、そんなことしておまえは大丈夫なのか?」

「安心して、兄さん。愛のインガを送るのは、やっぱり女じゃなきゃダメなのよ」

「そういうこと。ここは女に任せてもらうよ」

「そうだね、男どもはどいてちょうだい」

ネパール、紅薔薇、マリュー、円、薊は、萌の体の横に瑠璃玉を置き、その上から皆の手を重ねた。

「女の愛は無限の力なのよ! 萌! あんたにその役目を任せるよ!」

パワワワワァ……!

紅薔薇の叫びとともに、萌の体内に瑠璃玉のインガが注入されていった。

そして、萌の体が虹色に輝き、次第に萌の顔の血色が良くなっていった。

「……ううん……」

「やった! 気がついたんだね、萌!」

「紅薔薇さん……みんな……ありがとう」

萌は起き上がると、タケルの前へと歩み寄った。

「萌! タケルは黒い大渦の邪気に蝕まれてしまって……!」

「説明の必要はないよ。萌は自分のするべきことをわかっている」

「始めます!」

萌はタケルの側によると、タケルの体の上に覆いかぶさった。

そして、目を閉じると唇と唇を重ねた。

タケルと萌の体は虹色に輝き、タケルの体の黒いアザが少しずつ浄化されていった。

「あちゃ、恥ずかしくて見てらんないね!」

女達は皆、照れて顔を赤くした。

「タケル……もう寝ている場合じゃないぜよ! 早く復活するぜよ!」

リョーマは立ち上がると、黒い大渦を睨みつけた。

「いくぜよ! 獣人族! 死んでいった我王のためにも、負けるワケにはいかないのじゃ!」

「オオーーッ!!」

「タケルは萌にまかせて、あたしたちも行くよ! 撫子に敵わないまでも、銀杏部隊をおさえなきゃ!」

「で、でもあれは銀杏さんなのでしょ?……やっぱり……」

「いや、ちがうよ。あたし達の仲間の銀杏はたったひとり。そこにいる銀杏だけさ……」

「あ、ありがとう☆……」

衰弱した銀杏はニッコリと笑った。

「さて、私たちもいきましょうか、円さん、姉さん」

「当然ですわ。わたくしと円の愛のインガを、撫子にみせつけてやりましょう」

「ちょ、ちょっと薊!……もう、そうね、こうなったらふたりの愛でやっつけちゃいましょうか!」

「え? それは、どういう意味なのですか?」

「い・い・の。神にはまだ早いですわよ!」


 餓狼乱と獣人族とレジオヌール、そしてヤマトのサムライ。

ここに。すべてが一丸となり、打倒撫子のために皆が剣をとった。

そして、全ての命を正しい方向へ導くため、己の命を賭けるのだった。



「ふふ……ふはははっ! 愚か過ぎるぞ、人間どもが! 下賎の者が何人集まろうが所詮は下賎。我に敵うとでも思っているのか!?」

「いくぜよ、みんな! タケルが復活するまで持ちこたえるんじゃ!」

リョーマのジャオームを先頭に、皆はそれに続いていった。

「銀杏部隊はあたしらに任せて! リョーマは撫子のところへ!」

「すまんぜよ! 任せたぞ紅薔薇!」

リョーマは、銀杏部隊を振り切ると、撫子のいる光明へと向かった。

「どけぇー! ワシが用があるのは撫子だけなんじゃー!」

銀杏部隊を退け、リョーマのジャオームは撫子の目の前まで辿り着いた。

「やはりおまえか、リョーマ……だが、瑠璃玉の力のない伝説の武神機など、恐るるに足りんわ」

「おんしゃらしい思い上がったセリフじゃの。じゃが、もう今までのようにはいかんぜよ!」

「ほう、何か策でもあるというのか?」

「そんなものはないぜよ……ただ、皆がおんしゃを倒そうとしている……皆のインガがひとつに集結しているのじゃ!」

「ふはは! やはり下賎の者の考えなどその程度のものか。ひとりでは心細いので大勢なら恐くないというのか? それはただの群集効果という愚かな幻影にすぎん!」

「それでも、人は強くなれるんじゃ!」

「まやかしだ!」

「受けてみるがいいぜよ!」

ズバシュッ! ガッキィン!

撫子に攻撃を仕掛けたリョーマ。

しかし、黒い大渦と同化した光明との複合攻撃に、かわすだけで精一杯だった。

「援護します! リョーマさん!」

「しかたないけど、手伝ってあげる!」

そこに、シャルルとポリニャックが加勢し、光明の攻撃を分散させた。

そして、撫子のコスモス・ネオは、光明から離されることになってしまった。

「助かるぜよ! これで光明を鎧がわりにすることはできん。さぁ、覚悟するぜよ! 撫子ッ!」

「ふふふ……ふあっははは!」

「何がおかしいんじゃ!? 撫子!」

「貴様は、光明からの攻撃がなければ、我のコスモス・ネオと対等だと思っておるのか?」

「そ、そうじゃ! 今のおんしゃには、邪気と同化した光明の力はない! ヨロイを失ったも同然じゃ!」

「はたして、そうかな?」

「ハッタリはそこまでじゃ!」

 

 ズバッ!


 その瞬間、時が止まった。

突然、空を覆いつくす黒い雲の中から放たれた雷。それは、とても大きな大きな雷であった。

「ぐおッ!……こんな……バカな……」

天から降ってきたのは、武神機の何十倍……いや、光明の何倍もあるほどの巨大な槍だった。

「ふふ……コスモス・ネオの実体は、この体だけではない。この『天明神槍(てんめいしんそう)』も同じく体の一部なのだ」

「そ……そんな……」

天明神槍により、リョーマの乗ったジャオームは、真っ二つに切り裂かれてしまった。

一瞬にして、伝説の武神機を木端微塵にするほどの破壊力。

これほどまでの巨大な物体を操る撫子と、その槍に秘められたインガ。

はたしてどれほどの力なのか、想像もつかないほどの強大さを誇っていた。

「光明と我を離したのが逆にまずかったな。天明神槍を使いやすくさせたに過ぎん」

「こ、こんな……インガが圧倒的に違いすぎる……勝てるわけない……」

「そ、そんなのアリ~? ず、ズルイ……」

シャルルもポリニャックも戦意喪失してしまった。だが、それも仕方ないことだ。

撫子の強大なインガを、目前で見せ付けられたのだから。


 それまで、銀杏部隊となんとか互角に戦っていた仲間たち。

しかし、その絶望的な力の前に意気消沈してしまい、優劣に差がついていった。

このままでは、邪悪なインガを手にした撫子に、この地球は支配されてしまうのだろうか?

何をしているのだ、タケル! 皆はおまえの復活をまっているのだ! タケル! 早く起き上がってくれ!


「ここまでのようだな、餓狼乱ども……そもそも、人間の力を超越した我に刃向かおうというのが間違っていたのだ。下賎の者は下賎の者らしく、我の家畜となり、地を這いつくばって生きればよいのだ!

さぁ行け! 銀杏部隊! 皆殺しにしろ! そして光明よ! この地上すべてを焼き尽くしてしまえッ!」


「やめてー!☆」

そこにやってきたのは、タケルたちと一緒にいた銀杏であった。

衰弱した体で、やっとのことでハルジョオンに乗ってきたのだった。

「銀杏……オリジナルの方か……カスタマイズし過ぎたせいで、狂ってしまったか?」

「だめ☆……ダメだよ!☆」

「そんな弱った体で何をしに来たのだ? 貴様は培養液で調整せねば生きられない体。その技術はヤマトにしかない。ヤマトを抜ければ死ぬのはわかりきっているものを……愚かな」

「それでも銀杏は☆……た、タケルたちと一緒にいたかったんだよ☆……」

「奴等との接触で得るものがあったというのか? 所詮、お互いの傷を舐め合うだけに過ぎん」

「ううん☆……ちがうの……楽しいこといっぱいあった……ほんとに楽しかったんだよ☆……撫子」

「快楽という欲に絆されおって……その無駄な感情こそ、堕落だと気付かんのか!」

「大切だったんだもん!☆……銀杏にとっては大事だったんだよっ!☆」

「もはや問答無用、我が引導を渡してくれるわ。ここで死ね、銀杏。いや、木偶人形!」


 バギャリィン!


 ハルジョオンに斬りつけたコスモス・ネオ。

しかし、何者かのバリヤーによって、その攻撃は弾かれた。

「ぬ! このインガバリヤー……まさか!」

撫子の振り向いた先の地上には、邪悪に蝕まれていたはずのタケルが立っていた。

「それ以上人を殺めるのは、もう許さねぇぞ……撫子」

「タケル、もう大丈夫なのね?」

「ああ、萌、もう大丈夫だ。おまえのインガで助かったぜ。黒い渦の邪気も、すっかり消えた」

「ば、バカな! あの邪気を跳ね除けたというのか!?」

「俺ひとりの力じゃねぇ……みんなのインガが邪気を浄化した。そして俺を救ってくれた……」

「仲間のインガが貴様を救ったとでもいうのか?」

「だから今、俺はこうしている……」

「ぐ、偶然に過ぎん!」

「偶然とは己の必然を理解できない愚か者の考えじゃなかったの? あんたの口癖だったわよね?」

「くっ! 萌……きさま!」

「さぁ、下がっていてくれ、銀杏。あとは俺がやる」

「うん☆わかったよ、タケル……」

銀杏は、タケル達の前から下がろうとした。その時。

「待て、銀杏。まさか、このまま帰る訳ではなかろう?」

「もうよせ! 銀杏は病気なんだぞ!」

「病気だと? バカめ……銀杏は人工的に作られた人造人間に過ぎん」

「な、なんだっと!?……そ、そんなことが信じられるワケねぇだろ! なぁ、銀杏?」

「……」

しかし、銀杏は黙ったままだった。

「た、例え銀杏がそうであったとしても、俺たちの仲間に変わりはねぇ!」

「タケル……☆」

「ふっ、そうか、そうか。ならば、我は役目の終わった用済みの人形を捨てるだけだ」

「なんだと……まさか!……何をする気だ、撫子!?」

「我と銀杏の契約は終了したのだよ。これで……」

「やっ、やめろーッ!!」

「タケル☆……楽しかったよ……みんなといっしょで、楽しかったよ……バイバイ☆……」

「ぎ、銀杏! やめろ、撫子ーッ!」


 ボッゴオォォーン……!


 突如、銀杏のハルジョオンは爆発した。

これも、撫子との契約が切られたからなのだろうか?

「ぎんなーん!……撫子ッ! てめぇ!」

「そんな……ひ、ひどいわ……」

「仲間なんだろう? せいぜい悲しんでやるがよい。その無駄な感情でな」

「ゆるさない! ぜったいに許さないわ! 撫子!」

萌は涙を流して叫んだ。そこに、タケルが一歩前に踏み出した。

「萌……ここは俺がやる……」

「タケル……」

「撫子、おまえのしていることは正しいことなのか?……みんな死んでいったんだぞ?……銀杏も、ベンも、我王も、じっちゃんも、アジジも、キリリも、そしてサクシオン達も……」

「それがどうした?」

「みんな死んでいった……それなのに! おまえのしている事は正しいのかーーッ!!」


 バシュオォッ!


 突如、タケルの体から激しいインガが放出された!

それは、怒りと悲しみを超えた、光のインガだった。そして、そのインガはタケルだけではなかった。

横たわっているヤマトタケルは起き上がると、眩く輝きながらその姿を変えていった。

それは、聖なる鎧をまとったヤマトタケルであった。

「や、ヤマトタケルが、ぎ、銀色に光るだと?」

「てめぇを、ぜったいに許さねぇぜ! 撫子!」

(タケルめのインガが著しく増大しておる……この力、コスモス・ネオと同等か?)

「まったく貴様と言う奴は、絶体絶命の淵から何度も奇跡を起こしおって……気に入らん!」

「俺はもっと気に入らねぇんだぜ! 撫子!」

「ふん、いくら貴様のインガの力が上がったとしても、これには敵うまい?」

ゴズズズズ……!

撫子のコスモス・ネオの頭上には、大きな槍が現れた。

「我の天明神槍(てんめいしんそう)で貫いてくれるわ!」


「ムリぜよ、タケル! いくらインガをアップさせても、やつにはあの大きなヤリがあるぜよ!」

「大丈夫よ、リョーマさん。タケルだって負けてないから……」

「なんじゃと!?」

萌は、タケルと撫子の戦いを静かに見守っていた。


「ふはは! どうじゃ! 我の天明神槍! 貴様ごときには使えまい? これが選ばれし者の証だ!」

「……」

「どうした、万策尽きたか? ならば消えよ! タケル!」

「うおおおああーッ!」

ズガガガガッ!

タケルのインガが爆発し、ヤマトタケルの頭上からは、大きな刀が現れた。

それはまるで、コスモス・ネオの操っている槍と同じ程の巨体な刀だった。

「な、なにぃ!? バカな!」

「どうやら、貴様ごときにも使えるみてぇだな……撫子!」

「くっ! こざかしい! 返り討ちにしてくれるわ!」


 ヤマトタケルとコスモスネオ。伝説の武神機どうしの最終決戦。

二体の頭上には、巨大な剣と槍がお互いを牽制するかのように向き合っていた。

それはまるで、黒い大渦に取り込まれたこの地球すら、切り裂いてしまうかのようにも見えた。

がんばれタケル! 地球の行く末は、きみの手にかかっているのだ!


「ええい! 何をしておるのだ、銀杏部隊! タケルを落とすのだ!」

しかし、銀杏部隊は、タケルの重圧なインガに萎縮してしまっていた。

「我の命令が聞けぬのか!?」

撫子の一喝によって、銀杏部隊はタケルに襲い掛かろうとした。

「やめろッ!!」

今度はタケルの一喝があたりに響く。

「どうした? 臆したか、タケル」

「そうじゃねぇ。いくら複製された人間だったとしても、命があるのに変わりはねぇ。それに、なりが銀杏とそっくりだったら尚更だ。俺は無益に人を殺したくはないんだ……」

それを聞いた銀杏部隊は一瞬躊躇した。

「貴様ら何をしておる?……まさか、こやつの言葉を鵜呑みにした訳ではあるまいな? 貴様ら、誰のおかげで生きていられると思っておるのだ!」

ズゴァンッ!

コスモス・ネオの攻撃によって、黒いハルジョオンの一機が爆発した。

「こうなりたくなかったら、タケルを倒すのだ!」

「ひいぃッ!」

撫子の容赦のない攻撃に、銀杏部隊はタケルに攻撃を仕掛けるしかなかった。

「撫子てめぇ、そこまでするか……仕方ない」

ズピシュッ!

一瞬、空が輝いた。

すると、黒いハルジョオンの武器だけがなくなっていた。

ヤマトタケルの目にも止まらぬ攻撃で、ハルジョオンの武器だけを奪ったのだ。

(はやい!……我の目にも少しかすんで見えおったわ)

「どうやら、ここにいる銀杏部隊では歯がたたないと見える・……しかたない……さがっておれ」

撫子は、銀杏部隊に待機命令を出した。

「だが! キサマらのインガは使わせてもらうぞ!」

コスモス・ネオが手を振りかざすと、銀杏部隊のハルジョオンは、黒い玉に包まれた。

「何をするんだ!? 撫子!」

「ふふ……資源の有効利用だ。気にせずともよいぞ」

黒い玉になったハルジョオン。その数三十個ほど。それが、すべて撫子の手によって操られていた。

「よせっ! やめるんだ!」

「我に命令するとは片腹痛いわ。くらえッ! タケル!」

コスモス・ネオによって放たれた銀杏部隊の玉は、タケルめがけて襲い掛かった。

ギンッ!

その時、タケルの目が光った。すると、黒い玉にされていた銀杏部隊は、もとの姿に戻った。

「な、なんだとッ!?」

(バカな……今までのタケルには、攻撃系統以外のインガは使えなかった……

銀杏部隊のインガを解いたのは、特殊系統のインガが備わったということか……)

「いままでの貴様とは違うようだな」

「さぁな。ところで撫子、イッパツ勝負しようぜ」

「……どういう意味だ?」

「まどろっこしい事はやめて、全力の一発で勝負しようってんだ」

「ふ、思い上がるのもたいがいにしろ。確かに貴様は我の 天明神槍と同じ力を会得したようだ。だが、我には黒い大渦の力と、それと同化した光明の力もあるのだぞ?」

「……」

「どうした? 今更それに気付いても遅いのだぞ?」

「それがどうした……俺には関係ねぇ」

「なんだとッ!?」

撫子はインガでタケルの表情を察知した。

すると、タケルは余裕の笑みをしていた。よほど自信があるのだろうか?

「ハッタリに過ぎん! 我に心理作戦は通用せんぞ!」

「なら、やってみるかい? 撫子さんよ」

撫子とタケルの対峙は続く。


 それを見守るリョーマ達。

「タケルのやつ、たいした自信じゃが、撫子のインガは一筋縄ではいかんぜよ!」

「確かにそうだね……それに、黒い大渦の力も加わってしまっている、やばいよ!」

「じゃ、じゃあ、タケルさんには勝ち目はないじゃないですか!?」

「……でも、タケルのインガも相当に上がったハズ……もしかしたら……」

皆は、不安そうな顔を見合わせた。しかし、萌だけは、そんなタケルを無言で見守り続けていた。

(タケル……あなたなら大丈夫。あなたなら撫子を救えるわ)

はたして。この勝負の行方は、どちらに軍配が上がるのか?


「じゃあ、いくぜ。覚悟はいいか、撫子?」

「何の覚悟が必要だというのだ? 我には必要ない! 覚悟をするのは貴様ではないか!」

「フン、少しはおしゃべりになったようだな、撫子……動揺してんのか?」

「きさまッ! 我を愚弄することは許さん! くらえッ!」

「きやがれ! 撫子! うおおおッ!」

「えやああッ! つらぬいてやれ! 天明神槍!」

ふたつの巨大な槍と刀。凄まじいインガによって操られた絶対的武力。

それが、今、激突した!


 ズガッ!……ガオォーン! バギガガガッ!


 天地を裂くような轟音。天地をひっくり返すような衝撃。

黒い大渦によって真っ黒に染まった空は、目も眩むような閃光に包まれた。

「うぐっ! つああッ!」

「ぬぎっ! ぐがああーッ!」

「うぬっ! うあああ!」

「ぎっ! ずがああああーーーッ!」

「ばっ、バカな!……こっ、このわたしのインガが負けるというのか!?」

「最後だ! 撫子おおおおッ!」


 その瞬間。天が割れ、地が崩壊した。

あまりにも凄まじいお互いのインガの威力。

それは、この地上の全てをもぎ取ってしまったのだった。



 ヤマトの世界。

そこで、黒い空を見詰めるひとりの少女。リョーマと共に暮らしていたヒナモだった。

ヒナモは、自分の齢十五の人生を振り返っていた。

何故、こんなにも若い少女が、自分の人生を振り返らねばならなかったのか?

それは、例えるなら走馬灯というものだろう。ヒナモの目には、自然と涙が流れていた。

それは、悲しいのか、寂しいのか、どちらの涙なのかわからなかった。

ただ、圧倒的絶望を感じるまでに感情が表現した結果だったのかもしれない。

今、ヤマトの世界の上空は、目を背けたくなるような悪戯なインガによって覆われていた。

それは、やがて。地上の木や、川や、山や、谷や、村を全て覆っていった。

ヒナモは最後にリョーマのことを考えた。

そして、地球のどこかで無事に生きていることだけを祈り、黒い大渦に飲み込まれていった。

この瞬間。ヤマトの世界は崩壊したのだった。


 地球で起こった想像を絶する戦い。

それが、ヤマトの世界までも影響させてしまったのだろうか?

黒い大渦に飲み込まれてしまったヤマトの世界はどうなってしまうのだろうか?

そして、地球でのタケルと撫子の勝敗の行方は?

すべてが絶望であり、すべてが闇につつまれた。もうここに、奇跡は起きないのだろうか?

タケル!

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