第26話 逆襲のインガ


心に刺さったトゲはいつまでも抜けることなく

治まることなく 痛みから逃れることなく 苦しみ続ける

それを無理に排除しようとするならば

のた打ち回る程の激痛を味わうことになるだろう



 第二十六話 『逆襲のインガ』



 戦火の咆哮が、くすんだ空にむせび泣くよう木霊する。

ヤマトの世界において最下層に位置し、『禁断の地』と呼ばれる不毛の地。

そこでは、ヤマト軍とレジオヌール軍の両軍が激突していた。

戦武艦と呼ばれる超ド級の戦闘母艦。そこから発進される大量の武神機。

それは今までにない、大規模な戦闘へと拡大しつつあった。

今まではの武神機同士の戦いは、一対一で決着をつけるのが普通であった。

だが今では、飛び道具による遠距離戦が加わり、団体で組む陣形なども重要視されるようになった。

ヤマトの世界は、戦いひとつとっても変貌しつつあるのだった。


「このエリアにヤマトの軍を寄せ付けてはなりません! 何としても死守するのです!」

レジオヌール軍を率いるは、まだ幼いながらも、民衆や兵の心の共感をつかんだインガの天才児。

レジオン=ド=シャルル。

「小童ごときに何ができる! ヤマトの戦力を思い知らせてやれッ!」

一方、圧倒的な軍事力で、この世界の統治を進めるヤマトの国、皇帝アマテラス。

お互いの国の切り札とも言える戦武艦を拠点に、激しい攻防戦が繰り広げられていた。


 そして、打倒タケルを誓い、死の淵から蘇ったリョーマ。

リョーマは今までの己を捨て朱雀という仮面を被った。

タケルを倒すまでは、この仮面を取らないと自身に誓う。

タケルと朱雀。ふたりの勝敗の行方は如何に。

そして、お互いのインガは極限まで高まり、光の玉となってこの場から消滅した。

はたして、ふたりはどこへ消えていったのだろうか?


「き、消えた! あの光とともに……!」

「あれれ☆ 隊長どこいっちゃったんですかぁ?☆」

銀杏たちは、タケルがこの場から消えたのを見て驚いた。

それはレジオヌールでも同じだった。

その時、シトヴァイエンでひとつの事件が起きたのだった。

「朱雀の武神機の反応が消えました! どこにも見当たりません!」

「わかっています……ふたりはこの戦場にはいません……」

「そ、それはどういうことで……シャ、シャルル様!?」

レジオヌールの兵は驚きのあまり声を失ってしまった。兵が驚くのも当然だ。

シャルルの体がボウッと白く光り、歪みながら半透明になっていった。

「わたしもいかねばなりません……あとを頼みます……」

そして、シャルル自身も、この場から消えてしまったのだった。

「しゃ、シャルル様が消えた! い、今の光はなんだったんだ……」

「え、えぇ~い、早くシャルル様を捜すんだ!」

「さ、捜すって言ったって、いったいどこを……」

「そ、それは……と、とにかく捜せぇ~っ!」

戦武艦シトヴァイエンのブリッジでは、突如消失したシャルルのことで大騒ぎになっていた。

一体シャルルはどこへ消えてしまったのか?

タケルと朱雀がインガの光と共に消えた事と、何か関係があるのだろうか?


「今のインガの膨張……そしてあの光……まさか!」

アマテラスは大きな光が消えた方向をずっと凝視していた。

(シャルルのヤツめは、この世界の変動に気づいておるようだ……

タケルをあの場所にいかせたのは、まだ早かったのかもしれんな……

それがどんな結果になるかわからんが、結局、人は運命に従って生きるしかないというのか……)

遠くを見詰めるアマテラス。その言葉には、どんな意味が隠されているのだろうか?


 ガキィン! バチィッ!

「てめぇ! いいかげんにしつこいぜ、朱雀!」

「それはワシのセリフじゃ、タケル! いいかげんにワシに討たれるぜよ!」

「バカヤロウ! やなこった!」

タケルの操る武神機『ヤマトタケル』と、朱雀(正体はリョーマ)の操る『芭王無(バオーム)』。

ふたりは、何処とも知れない異空間で戦っていた。

そこはインガの光の玉の中だろうか? それとも、まったく別の空間なのだろうか?

「それにしても、この薄気味悪いとこはどこなんだ!?」

「どこでもいいぜよ! おんしゃが討てればな!」

「まったく!」

ギャアイィン! ギリギリ……バチバチバチ!

「くっくっく……」

「なに笑ってやがんでぇ!」

「いや、なに。ワシはこうして朱雀の仮面を被り、おんしゃはヤマトのサムライになるとは、なんともお互い皮肉な運命じゃのう! 笑わずにはいられんぜよ!」

「へん! 笑ってる場合かよ!」

お互いの刀の鍔迫り合いが続き、インガウェーブが火花のように放出する。

バチバチ! バリバリバリ!

次の瞬間、ふたりは光の玉に包まれたかと思うと、何かの力によって引っ張られていった。

ぐんぐんと濁流のように流れていく背景。それはまるで、時空を越えてしまうような勢いだった。

「な、なんじゃーッ!?」

「うおーッ!」


 ドザァッ!ズガガガァン!

ヤマトタケルは光の玉から投げ出され、上空から 地面に激突してしまった。

「うあっ!……いってぇ~……」

タケルはモニター越しに、辺りの様子を伺った。

「いったいここはどこだ? あの変な光に弾かれたと思ったら、どこか別の場所に出てしまったようだぜ」

ウィィィン……パカ

タケルはコクピットのハッチを開け、武神機から降りて辺りを見回した。

「げっ! ペッ、ペ!」

突風が吹き荒れ、タケルの口や目に砂が入った。

広い荒野には、砂嵐が巻き起こり、頭上には紫色の闇が、おぼろげにどこまでも続いているようだった。

そして、その先には、うっすらと緑色に光る鍾乳石のような岩場が見えた。

それは、ヤマトの世界でも見たこともない異様な光景であった。

「たぶん、俺と朱雀のインガがぶつかって……それでこんなトコに飛ばされちまったのか……」

タケルは、もう一度辺りをキョロキョロと見回した。

「それにしても薄気味悪りぃところだぜ……こりゃさっさと脱出しねぇとな」

見渡す限りの荒野では、戻る方角さえ見当がつかず、まるで別世界に紛れ込んだようだった。

「とにかく、ここにいてもラチがあかねぇ。どこか嵐を防げる場所でも探すか」

タケルは、砂に埋もれたヤマトタケルの上体を起こし、あたりを見回した。

「どこもかしこも同じ風景だぜ……ん?」

ピコーン!

突然、コクピットの赤い水晶がチカチカと光りだした。

「ヤマトタケルが何かに反応している……そっちに何かあるってのか? よし、行ってみっか!」

タケルは、ヤマトタケルが反応を示す方向に向かってみることにした。

「こいつが興味を示すなんて、何かがあるってことだな?……へへ、こんな時だってのに、嬉しくて体がうずいてきやがったぜ!」

ビュオオ……

タケルは、しばらくその砂嵐の中を進むと、そこにはアーチ状の岩場があり、大きな洞窟が見えた。

「おっ! あそこなら砂嵐を防げそうだぜ」

タケルは、洞窟の入り口にヤマトタケルを着陸させ、コクピットから降りて辺りを注意深く見回した。

切り出された石材で造られた壁に、赤いコケのようなものが怪しく光っていた。

そこは自然の洞窟ではなく、明らかに人工的に造られた洞窟であった。

ザシュ! グオン!

「うおっ?」

タケルが振り返ると、ヤマトタケルは起き上がって砂嵐の空へと飛んで行ってしまった。

「お、おい!……俺を置いて行っちまいやがった……ここには大事な用事があるってことか? それを済ませて来いと言うのか?……よっし、何が出て来るか知らねぇが、確かめてやろうじゃねぇか!」

タケルは、ダンゴっ鼻をグィと擦ると、その不気味な洞窟の奥へと進んでいった。

内部は洞窟と言うよりも、まるで神殿のようだった。

「ここはまるで遺跡のようだ……あのサエナ神殿に似てやがるな……」

伝説の武神機の正体、邪心竜アドリエルと出会った神殿を、タケルは思い出した。

「まさか、ここにも伝説の武神機がいるってんじゃねぇだろうな?」

壁や天井に生える赤いコケが、先を照らし出してくれるおかげで道に迷うことはなかった。

まるで道案内をしてくれているようで、それがますます不気味に思えた。

そしてその先に、うっすらと明るい部屋が見えてきた。

「やっと到着ってトコか。さって、どんな怪物が現れるのか……うっ!」

タケルはその部屋に到着した瞬間、まぶしい光で目を瞑った。

そしてそこに見えた物は一体何?



 場面変わって、ここは獣人族の基地。

「それにしてもよぉ、ボブじぃ。その禁断の地ってトコには何があるってんだ?」

獣人族の王、『我王(がおう)』がソファーに寝そべりながら、バナナをひとふさ食べ終えてそう言った。

「ふぉふぉ、やはり気になるか? 我王よ」

「へん! 俺はただ強いヤツと戦えればいいだけだ。ヤマトやレジオヌールの阿呆どもが必死になって探してる、クソくだらねぇモンが何かと思っただけだよ!」

「ふぉふぉ、下らないと申すか……確かにな、アレはワシら獣人にとっては下らぬ物じゃ。しかし、人間のヤツらにとってはかけがえのない大切な物じゃろうて」

「俺たちにはくだらなくて、人間には大切……なんだそりゃ? わけわかんねー!」

「ふぉふぉ、益々混乱してしまったかの。言うなれば、あれは人間どもの災いの歴史……とでも言うておこうかの」

「災いの歴史、だとぉ?」

「そうじゃ、いずれ人間どもは気付くじゃろう。己の犯した過ち、そして新たなる世界の来訪を……な」

「へん! まったくわからねぇや。ま、俺の頭じゃ考えるだけ無駄だぜ。もう考えるのやーめた」

「ふぉふぉ、我王よ。考えなくてもその答えは自ずとわかってくるもんじゃ。時が来たればな」

「もういいよ! ボブじぃが喋ると余計難しくなっちまうからな。それより伝説の武神機のありそうな場所、少しは思い出したか?」

「……う~む、さっきから必死に考えておるのだが、一向に思いだせんのぉ……」

「あ~、イライラするぜ! さっさと思い出せっつーの!!」

ドバキャッ! ガッシャァン!

我王はソファーから突然立ち上がり、ボブソンの後頭部を思いっきり蹴り飛ばした。

ボブソンは、勢いよくガラス戸を割って外に飛び出してしまった。

「あてて……まったく無茶しおるわい……おっ! 今のショックで少し思い出したぞ!」

「へへ! どうだ、俺のケリは良く効くだろ? 何ならもうイッパツぶちこんでやるぜ!」

「ドアホ! もういいわいっ! ワシを殺す気か!?」

「ちぇ、退屈でしょーがねぇぜ。誰でもいいから殺し合いしてぇッ!」

獣人族の、のどかなひと時であった。



(ま……まぶしい……)

閃光のようなまっ白い空間へ、一歩足を踏み入れたタケル。

黒い大理石に赤く輝くコケに覆われた石碑。

それらがいくつも立ち並び、銀のレリーフには丸くて赤いクリスタルが装飾されていた。

それは明らかに格調高い特別な空間であると感じられた。

壁や天井を見上げると、薄暗い空間に、見慣れぬ円形をした模様と文字が刻み込まれていた。

不思議なことに、その模様は軌跡を残すように、ゆっくりと回転しているように見えた。

全てが突然であり意外であるその空間ならば、それらが錯覚として見えてもおかしくなかった。

さて、この場にいるタケルはというと、その部屋の空間を見たまま硬直していたのだが、もうひとつ。

ある意外な人物との対峙によって硬直してしまったのかもしれない。


「ひさしぶりね……タケル……」

その聞き覚えのある声。タケルはその人物を知っていた。

まさか、この場所にこの人物がいるとは誰が想像できただろうか?

「お、おまえは円……鉄円(くろがねつぶら)か?」

長かった黒髪はバッサリ切られ、口元には紫の口紅。以前の円とは、かなり雰囲気が変わっていた。

円は黙ったまま歩み寄り、タケルの横を通りすぎると目線をタケルに移した。

タケルは円の方を振り向かずに、そのまま微動だにしなかった。

「意外と早かったわね……で、感想は?」

タケルは、円の意味不明な言葉に、返事を選択する気が失せたようで吐き捨てるように言った。

「イメチェンした感想でも聞きてぇのか? そうだなぁ……ちょっとは色っぽくなったぜ、円」

「ふふ、ありがとう。まさかあなたが誉めてくれるとは思わなかったわよ?」

「いやいや、お世辞ぬきでも色っぽいぜ」

タケルはニヤリと笑った。円もクスリと笑う。

「口の方も達者になったわね。どうやら、いろいろと心境の変化もあったようだしね」

「へん! 色気と言っても殺意むき出しの色気だがな。俺を殺したくてウズウズしてやがる感じだ」

「ふふ……これは礼儀よ、タケル」

「礼儀だと?」

「だって前触れもなく黙って殺すなんて卑怯者のやることだわ。鉄一族は暗殺者じゃないんだからね」

円はタケルから視線を外し、手に持ってるクナイを握り締めた。

「おっと、相変わらずぶっそうな女だな。もうちょっと作法ってのを勉強しやがれよ、烏丸薊のように」

「やはりあなたは知っていた。烏丸薊(あざみ)のことを知っていたのね?」

「何を言ってやがる。俺達がヤマトの国へ侵入した時に、俺たちの敵として第二の門を護っていたのが、白狐隊の烏丸薊じゃねぇか?」

「違うわ、あなたはその前から烏丸薊を知っていた……そして……」

「この烏丸神のこともね」

その部屋の真ん中に位置する、巨大な石碑の上から声が聞こえ、誰かがそこに立っていた。

逆光で見辛かったが、それはまさしく神選組のひとり、烏丸神であった。

そして、その横には春菊もいた。

「待ちかねましたよ、タケルさん……いや、それはあなたの本当の名前じゃありませんでしたね?」

「何だと、何を言ってやがる? 俺の本当の名前だと?」

「わからなくて当然かもしれません。だってあなたは自分のことをタケルさんだと思い込んでしまっているのですから」


 烏丸神は一体何を言っているのだろうか?

ここにいるタケルがタケル本人ではなく、自分をタケルと思い込んでいる別人のタケルとでも言うのだろうか。

だとすると、ここにいるタケルだと思われる人物は何者なのか?

そして、それならば本物のタケルは一体何処にいると言うのだろうか?


 しばしの沈黙。

「や~れやれ……おめぇらのチンプンカンプンな話にはついていけねぇよ。俺は帰らせてもらうぜ」

タケルは頭をボリボリと掻き、くるりと背中を向けた。

ビシュッ! パシッ!

その瞬間、円がクナイを放った。タケルは背中を向けたまま、そのクナイを手でつかんだ。

「こっちも冗談言ってる場合じゃないのよ、タケル」

「へへ、そうかい。じゃあ俺にどうしろって言うんだ? おめぇら大根役者と三文芝居でも続けろってのか?」

「そうね、お芝居にも興味あるわ。だから、ちょっと付き合ってもらうわよ……」

「ふん……」

「あなたを殺す芝居にね!」

ザッ! バシュシュ!

円の攻撃。超スピードで放たれた五本のクナイがタケルの頬をかすめ、血がしたたる。

「そりゃとんでもねぇ芝居だな! だがしかたねぇ、付き合ってやっか。で、配役はどうする?」

「もちろん主役はあたし……と言いたいところだけど、冗談はそこまでにしなさい!」

「へん! そっちこそッ!」

タケルは円に向かって突進し、右の拳を大きく振りかぶって振り下ろす。

ボゴオォン!

「そんな大振りな攻撃じゃ当たらないわよ!」

地面の石畳が陥没し、大きくはじけ跳ぶ。それをジャンプ一番でかわす円。

「違う! すでに後ろにまわっています!」

そう叫んだのは烏丸だった。

「えっ?」

「当たりだ!」

円の背後にまわったタケルは、すでに第二の攻撃態勢に入っていた。

それをとっさにインガの盾で防いだ円。だが、弾かれた勢いで地面に叩きつけられてしまった。

「キャアッ!」

ドシャァ!

「ぐぅっ、強い!……やはり体を乗っ取っただけのことはあるわね!」

「へん! まだわけわかんねぇこと言ってやがるのか。今にその口がきけねぇようにしてやらぁ!」

ドスッ! バキャ! ガギャン!

「おりゃ、おりゃ、おりゃーッ!!」

タケルの鬼のような猛攻。円は防御のインガで防いでいるのがやっとだった。

「おらおら、どしたぁーッ!」

(ううっ! 全ての攻撃力が段違いだわ! パワーも! スピードもっ!!)

地面に倒れ、無防備状態の円に、タケルの一撃が炸裂する。

「くらえッ!」

石畳が吹き飛び砂塵が舞う。

バッガァン!

だがそこに、円の姿はなかった。

「ち、烏丸のヤロウ!……人の戦いに割り込んできやがって!」

タケルは後ろを振り返ると、そこに円を抱えた烏丸神が立っていた。

「勝負に水をさすのは気が引けますが……これは一対一の戦いではないのですからね。私もこの戦いに参加させてもらいますよ」

「一対一ではないだと? どういうこった? まるで俺が二人がかりで戦っているみてぇじゃねぇか!」

「その通りなのですよ、タケルさん」

「なんだと?」

「今のあなたはひとりではない。もうひとり……いや、もうひとつの人格と融合しているのです」

「ぷはは! まったく揃いも揃ってワケわかんねぇこと言いやがって。くだらねぇ宗教にでもはまったか?」

「残念ながら私は無宗教なのです……信じる者は己だけですから……」

「そうかい! そのうぬぼれ、目を覚まさせてやらぁッ!」


 ガガガ! ドギャ! バゴォン!

タケルと烏丸の激しい猛攻。

お互いの卓越したインガの振動で、まわりの石碑がゴトゴトと崩れていく。

烏丸神は思った。

(くっ、やはり……やはりあの男の精神と融合したタケルさんのインガは、格段に上がっている……

それは神選組の称号を得た私と同等……それも当然か、あの男も、私と同じ神選組なのだから……

いや、それ以上かもしれん!)

「どうした烏丸! ばかにおとなしくなっちまったじゃねぇか、おめぇのインガは!」

「くぅ!」 

(ちがう! 私のインガが落ちているのではない……タケルさんのインガが私を上回っているんだ!)

ドズッ!

「うぐっ!」

タケルの一撃が、烏丸神の腹部にめり込み、口から血が吹き出る。

そして、タケルの追撃の蹴りを喰らい、地面に向かって弾き飛ばされた。

それをなんとか体制を立て直し、くるっと一回転して着地した烏丸神。

タケルは石碑の上で腕を組み、ニヤリと笑って烏丸を見下していた。

腹を押さえ、苦しげな表情で見上げる烏丸神。もはやお互いの格差は逆転していた。

「くくく……くわっははは! どうしたい、烏丸! 雪山で俺をコテンパにし、ヤマトでは両腕を切り落としたおまえが今ではこのザマだ! くははははッ! 本当に気分がいいぜ!」

「……雪山での一件を覚えているのですか? では、萌さんのことは?」

「あぁ? 何言ってやがんだ! あんな邪魔な女は俺が殺してやったよ!」

(どうやらタケルさんの記憶は、覚えている事といない事があるようだ。ならば、アレを見せるべきか……)

「どうしたい烏丸? それがヤマト最強のサムライ、神選組の力か?」

「うむぅ……」

「どうやら俺の方がてめぇよりも強くなっちまったようだな、えぇ、おい? クールなツラしてたおめぇの顔に余裕がねぇぞ? はーっはっはっは!」

「く! 私を愚弄するのですか!? それだけは……それだけは許せませんよ!」

「待って、烏丸神! 今のあなたではタケルに勝てないわ!」

「円さん! ではどうすると? このままあの男の暴挙を許すわけにはいかないのです!」

「そっ、それは……」

黙り込む円。タケルは相変わらず、嫌らしい含みのある笑みでふたりを見下していた。

「た、たしかにあの顔でバカにされるとムカつくわね!」


 ギギィ……

その時。部屋の奥から扉が開く音がした。

「ん? あっちにも部屋があるのか? そうか! そこに何かあるってんだな。よぉし!」

タケルはその部屋の方へと歩み寄った。

「よしなさい! あなたのような人が足を踏み入れて良い場所ではないのです!」

「へん、ずいぶんなこと言ってくれるじゃねぇか、烏丸よ」

タケルはさらに奥へと歩み進む。それを阻止しようと、烏丸神はタケルの肩を掴んだ。

タケルは振り返ると、殺気の篭った顔で睨みつける。

「早死にしたいのか? 烏丸神」

(ダメだ……今のタケルさんを止める力は、私にはない!)

その気迫に烏丸神は気圧され、掴んだ肩を離してしまった。その手はブルブルと恐怖で震えていた。

「気配を感じるぜ……それもとんでもなく強いインガを持ったヤツが……誰だ! 出てきやがれッ!」

暗闇の奥に向かって叫ぶタケル。その人の気配は、どうやらこちらへと歩み寄ってくるようだった。

しかし! その気配は異常であった!

その人物からは、空間が捻じ曲がるほどの強いインガが、吹き出すように放出されていたのだった。

「こいつだ! このインガの持ち主に俺は魅かれてきたんだ! てめぇは一体何者なんだッ!?」

すると、闇の向こうから、ヒタヒタと足音が聞こえてきた。

それは素足で石畳の上を歩いている音であった。

闇から歩んでくる者。それは体に何ひとつ衣類をまとってない女性。すなわち、裸の女であった。

「な……んだとォ? て、て、て、てめぇは……!」

タケルは女の裸に驚いた訳ではない。

そこに姿を現した女を、タケルは知っていた。なんとそれは、『飛鳥萌』であった。

「撫子さまっ! 復活されたのですね!」

そう叫んだのは烏丸神であった。その人物の姿が、明らかに萌であるにもかかわらず。

「撫子だと?……ど、どういうこった烏丸!!」

タケルは烏丸の方を振り返り、困惑の表情で問う。

「受け入れなさい……これが真実なのですよ、タケルさん……」

目の前に現れた全裸の萌。しかし、その人物は撫子と呼ばれている。

初めて見る、成長した萌の裸に、タケルが見とれてしまうのは仕方のないことだった。

幼い頃、一緒にお風呂に入った時とは想像もつかない程の、清らかな裸体であった。

その光り輝く白く透き通った肌は、女性特有の曲線を美しくコーティングし、見る者を虜にした。

「美しいわ……」

それは、同姓である鉄円も、思わず見とれてしまうほどの美しさだった。

烏丸は、黒いシーツを取り出し、それを萌に羽織らせた。

「久しいの……キトラ……」


 萌でありながら撫子と呼ばれる女。その女に、タケルはキトラと呼ばれた。

タケルの事を『キトラ』と呼ぶ、撫子と呼ばれる萌。烏丸神は間違いなく萌の事を撫子様と言った。

はたして、この二人にはどんな謎が隠されているのだろうか?


「キトラ……キトラだと? 誰のことだ? まさか俺のことなのか!?」

タケルは、烏丸神や鉄円の顔を見回した。

「ち、くそッ! 何が何だかさっぱりだ……説明しやがれ烏丸! 何とか言いやがれ円!」

しかし、烏丸神も、鉄円も、タケルをじっと見据えて口を閉じたままだった。

「このヤロウ……ここまで来て、まだもったいぶるつもりかよ! わかったぜ、なら自分で聞いてやる……おまえは本当に萌なのか? それとも撫子ってヤツなのか?」

「……」

しかし、その女は口をつぐんだままだった。

「一体、てめぇはどっちなんだ! 『萌』なのか! 『撫子』なのか! ハッキリしやがれッ!」

タケルは指を突きつけて怒鳴った。萌とも撫子とも思われる人物に向かって。

「余は萌でもあり、撫子でもある……そして、このヤマトの世界を統治する役目を背負う者……」

「何だって? 萌でもあり撫子でもあるだとッ!? 何言ってやがる、ワケわかんねぇぜ……うぅッ! あ、頭がいてぇ!」

タケルは頭を押さえてうずくまった。そして、萌とも撫子とも名乗る女が、タケルの前に歩み寄ってきた。

「キトラよ、そなたは今、記憶が混乱しているだけ……でもじきにそれも治る……そなたがタケルの意識を押さえ込んでしまえばな……」

「ぐうぅッ! お、俺はタケルだ! キトラなんて変な名前じゃねぇ……俺は……俺は!」

「目を覚ませキトラ! そなたと私の宿命! それが遥か数千年前から託された、この星の意思なのだ!」

「やめろ! 頭が割れそうだ! 俺は……俺は、オボロギタケルだぁぁッ!」

「キトラ……そなたはまだ完全にタケルの意思を取り込めないでいるのだな? それではまだ『大インガ』の発動ができん……それでは何の役にもたたん」

「大……インガだと? 何だそれは!」

「知りたければ、タケルの意識を取り込み、キトラとして復活すれば良いだけの話。それが出来ぬ今のそなたに話す口はない」

ヒタヒタ……スッ……

タケルに近づく撫子。そして、右手の人差し指と中指の先がタケルの額に触れた。

ピシィッ!

「てめぇ、何のつもり……うぐッ! か、体が動かねぇ!」

「ふふっ、どうだ? そなたはなぜ動けぬかわからぬだろう? それだけ余とそなたの力の差があるということだ。早く思い出せ、そして目覚めるのだ! さすれば強大な意思を継いだ我らだけが、『地球復活』の儀式を執り行えるのだ!」

「地球……復活だと?……どういうこった……」

タケルは驚きのあまり、それ以上の言葉を失った。

だがしかし、撫子の言葉には、どこか神秘めいた真実が感じられた。


 タケルはまだこの世界のことを知らない。

だが撫子は、遥か昔からこの世界の真実を、当たり前のように知っているようだった。

その自信の前に、タケルは撫子の言葉を信じざるを得なかった。


「よかろう……ではそなたの記憶が蘇るようにしてやろう」

撫子は左手の人差し指をピンと立てて構えた。そして赤く光るその指先を、タケルのこめかみに突き立てた。

ズブリ!

「このやろう! 何しやが……」

「怖がることはない、そなたの記憶に刺激を与えて思い出させるだけだ。少々荒治療だがな……もう聞こえてはおらぬか」

直立したままの姿勢で、タケルの脳内では、遥か彼方の記憶が鮮明に映し出されていた。



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<タケルの記憶>


「うわッ! うわわぁーーッ!」

そこでのタケルは真っ白の存在であった。

その世界を構成する色は灰色と白の二色。

無機質の空間に映し出されるタケルの記憶。

虹色のモヤが歪んだ球体のまま広がり、こちらに押し寄せてくる。

それを黙って見詰めるタケル。

やがてその虹色の記憶がタケルを包み、そこからタケルの記憶は蘇り始めた。


 ここは地球。そして俺の住んでいた町。


 そうだ思い出した! 俺は今、撫子という女と出会い、そして武神機に乗って戦っているんだ……

急激なインガを使った俺は、そのまま意識を失った。

気が付いたら、そこにカブレが横たわって死んでいた……

おそらく、俺を助ける為に、自分のインガを全部俺に送りやがったから、それで力尽きたんだ……

バカなやつ……

だけど、だけど最高の男……俺の人生の中で最高の友人だった……

過ごした時間なんて関係ねぇ。どれだけお互いの魂が共鳴したかが大事なんだ。

俺は泣いた。激しく咽び泣いた。

そして俺の体に、爆発するような強大なインガが満ち溢れてきた。

俺は向かったんだ……あの巨大な黒い渦へ……


「うおおおおッ! カブレッ! てめぇの恩は無駄にしねぇぜッ! そしてこの街は俺が守る!」

(萌……おまえは俺の命に代えても守るぜッ!)


 タケルと黒い渦との戦いは長く続いた。

なんとか敵の猛攻を避け、撫子とともに生き延びることができた。

そして、撫子の仲間達と合流し、正体不明の敵と戦うことを誓うタケル。

熾烈な戦いの中で、インガの力を増大させていくタケル……そして萌も。


 タケルは激流のような記憶を垣間見ていた。

最後の戦いは来た。敵の攻撃を受け、瀕死の状態の萌。地球はもはや壊滅状態であった。

戦いの中で自我を失ったタケルは、極限のインガ、『大インガ』を発動させた。

そして、黒い渦を封印し、新しい世界を創造するのに成功したのだった。

大インガの力によって、地球とは全く異なる空間に出来た世界、『ヤマト』。

タケルは新たな世界をも創りだしてしまったのだ。

それだけ、大インガの力は、とてつもない力を秘めていた。

しかし、大インガの影響で、自分の記憶を失ってしまったタケル。そして萌は瀕死の状態。

その虚しい勝利を悔やみ、撫子は自分のインガを全て託し、タケルと萌の精神をヤマトの世界に封印した。

地球復活の日を願う守護神として……


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『うわっああああーーーーッ! ハアッ! ハアッ……!」

長いようで一瞬、短いようで永遠。その記憶の旅路から連れ戻されたタケル。

タケルは地面に四つんばいになり、記憶の激流に打たれたショックで呆然としていた。

「どうじゃキトラ、思い出したか? そなたは地球人であるタケルの記憶を受け継ぎ、地球復活の偉業を成し遂げねばならない運命にあるのだ」

「お、思い出したッ!……いや、ムリヤリ思い出さされたぜ!」

「ふふ、そうか。やっと思い出したか」

「……そういうことだったのか……俺が地球から、このヤマトの世界にやって来たと思っていたのは勘違いで、このヤマトの世界こそが、地球を封印した時に出来た、いわば第二の地球……俺たちの避難場所だったってワケか……」

「そのとおりだ」

「そして、俺の精神は、何万年もずっとここに眠っていたんだな……キトラという肉体の中に、俺の記憶が紛れ込んでいて……それで、記憶がバラバラになった……」

「そこまでは順調に思い出したようだな。では我々は何者なのか思い出したのか?」

タケルは、しばし黙ってうつむいていた。

「……あぁ、俺の名前はキトラ……ヤマトの国生まれのサムライ……そして、アマテラスの息子……」

「よし。我われ双子は天命を受け、父アマテラスによりこの世に生を受けたのだ。そして……」

撫子は、またもタケルに記憶を送り続けた。



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<再びタケルの記憶>


 アマテラスの双子として生をうけた、撫子とキトラ。

ふたりは十歳になると、ヤマトの跡継ぎの試練として、禁断の地へと向かった。

ひとりの従者とともに旅をするが、撫子とキトラは崖から転落し、渓流を流されて辿り着いた場所。

そこが、タケルと萌の意識が封印されていた場所であり、鏑一族が代々守り継いできた聖地だった。

転落のショックで生死の狭間を行き来するふたりだが、奇跡的に一命を取り留める。

しかしそのショックで記憶を失い、自分達がヤマトの国の跡継ぎであることも忘れてしまう。


 鏑一族に介抱され、そこで技を磨き、インガを成長させていくキトラと撫子。

そして、寂しさを紛らわすために身を寄せ合うふたり。

次第に記憶を取り戻していくキトラと撫子は、自分達の使命を思い出す。

そしてここに封印されている、タケルと萌の精神こそが、父アマテラスから聞かされていた、地球復活の鍵だと知る。


「これが古の精神、タケルか……俺がこいつを乗っ取れば、ヤマトの世界はおろか、地球という世界までもオレの手に入るんだな、ようし!」

「待つのだ、キトラ! まだ貴様には早い、もっと修行を積まなければ無理だ!」

「うるせぇ般若! オレのインガなら出来ないことはないんだ!」

そこには若かりし頃の般若がいた。

「よせ! キトラ!」

「うおおッ! おおーーッ!!」

ピカッ! ガガッ!

古の精神が封印されていた要石は、閃光とともに砕け散り、タケルの精神は復活した。

しかし、キトラの体内では、タケルの精神を抑える事は出来ず、暴走した精神は禁断の地を飛び出していってしまった。

そして、キトラでもなくタケルでもない不安定な存在は、そのまま獣人の村付近で倒れたのであった。


===========================================



「どうじゃキトラよ、思い出したか?」

「う……くぅぅ……そうだったのか……これが俺の生い立ちだったのか……」

タケルの意識は現実に戻った。そして今ここに、タケルの記憶は蘇ったのだった。

「ち!……しかし、よりによってあの大将の息子だったとはな……それに一緒に旅に出たのがアジジだったとは……おまけに、紅薔薇とも姉弟ってことになる……」

「そういうことだ。さぁ、我とともに来るのだ。そして我とそなたのインガを合わせ、究極の大インガを発動し、地球を復活させるのだ! さぁ!」

撫子は両手を高く上げ、マントをなびかせた。

「やっと全ての記憶が繋がったぜ……太古の昔に地球を封印した人物、『タケル』。そして『大インガ』で『黒い大渦』を地球に封印し、『ヤマトの世界』を新しく創造した……」

「そうだ」

「そしてヤマトの世界に生まれた『キトラ』の体に、『禁断の地』に封印された、『タケル』の意思が乗り移った……そして俺の使命は、『地球復活』の儀式を行うこと……」

「ふふふ、いいぞ。全て思い出したようだな」

「これでわかったぜ……紅薔薇救出の為にヤマトに潜入した俺は、烏丸と戦って両腕を失い、それを治すために萌が両目を失った……それで自分の意識が飛んじまうほど感情が高ぶった俺の体に、キトラの残虐な精神が目を覚ましたってことか……」

タケルは自分の記憶が蘇るごとに、熱いドクドクとした鼓動を胸に感じていった。

「まてよ、そうするとなんで今の俺の姿は『タケル』なんだ? 体はキトラじゃねぇのか?」

「そこから先は私が話しましょう。よいでしょうか? 撫子様」

話を挟んできたのは烏丸神だった。

「よい、続けろ」

「キトラ様の精神の復活により、爆発的にインガが上昇していったあなたは破壊の限りを尽くした」

「破壊? 俺が?……そこは覚えていねぇぜ」

「よほど感情が高ぶっていたのでしょう。現に、ヤマトの四つの門一帯を、崩壊させてしまったのですから……そしてこのままでは危険だと感じた、ヤマトのインガ特殊部隊が総動員し、キトラ様の精神を抑えたのです。しかし、それでも完全に封印はできませんでしたがね」

「それでキトラの精神がまだ残っていた俺は、凶暴な性格になり、仲間を裏切って、ヤマトのサムライになったのか……だがタケルの精神が、今になってもとに戻りつつあるってことか……」

「不完全な精神の復活では、またもとに戻ってしまうのです。しかし、あの場合はそれで良かったのです。キトラ様に触発されて、撫子様まで復活してしまっては、とても抑え切れませんでした」

「そうか、わかったぞ! それで萌は、この禁断の地に運ばれたんだな。そして萌が死んだという俺の記憶は、まるっきりウソだったんだな?」

「それもインガ特殊部隊によって、偽りの記憶を刷り込んだのです。その方がこちらにとって都合がよかったのです。撫子様が目覚めるには、まだ時期が早かったからなのです」

「……」

「そして私も撫子様とともに、この禁断の地へ向かった」

そう呟いたのは円だった。

「円……おまえも一緒に?」

「そうよ。私が萌ちゃんに惹かれたのは、撫子様のインガを感じ取ったから。それで、真相を全て知った私は、すでに烏丸家に対する恨みなど消えていた……それどころか、この命に変えても撫子様の使命を全うさせるべく、お力になってあげたいと思ったのよ」

「ふん、おまえともあろう者が、簡単にこの女にシッポを振るなんてな」

「わかってくれとは言わないわ。そもそも、代々烏丸家と鉄家は、禁断の地を監視する責務についていたのよ。鉄一族党首であるお父様が、命がけで守ってきた精神が、今でも私の心に刻み込まれているのよ!」

「わーった、わーった、そう熱くなんなよ。まったくどいつもこいつも、撫子だ地球復活だと騒ぎやがって……まぁ、ある程度の話のスジは理解できたけどよ」

「そこまで思い出せれば上出来だ。ならばこれ以上の問答は無用、早々に支度をせい」

タケルに背を向け、外へ向かおうとする撫子。

「……おい、何か勘違いしてねぇか?」

「なに?……」

撫子はゆっくりと振り返った。

「確かに俺は、今までの記憶を全部思い出したさ……この俺の体はキトラ、そして精神はタケル……」

「そうだ。だからこそ貴様は私と共に来るのだ」

「けどよ……いまの俺の意識は、タケルでもキトラでもねぇ!」

「なんだと?」

「今までの話を聞いて思ったことはこうだ! 地球復活なんてクソくらえだッ!」

「バカな、私たちの運命に逆らうというのか!」

「地球では、今でも黒い大渦が封印されているんだろ? そんなことしたら、地球だけじゃなく、ヤマトの世界までブッ壊れちまうぞ! なんで俺が手助けしなくちゃなんねーんだよッ! アホが!」

タケルは大声で撫子に怒鳴り、拳を握って振るわせた。

「ぬうぅ、信じられん……まさかキトラでもタケルでもない、『第三の意識』が芽生えているというのか?」

撫子は険しい顔つきでタケルを見つめた。


「あいかわらず、先の読めない方ですね、タケルさん?」

ザッ……

「!……おまえは!」

そこに現れたのは、なんとシャルルだった。それに般若までも。

「まったく、どいつもこいつも……ここは人気スポットかよ? それともよっぽどヒマ人なのか?」 

「おまえには失望したぞ、オボロギタケル……そこまで愚かな男だったとはな」

「うるせい! やっとテメェの正体がわかったぜ。オマエはカブレなんかじゃない。顔はカブレそっくりだが、禁断の地を守護する防人、鏑(かぶら)一族だな!」

「やっと思い出したかタケル……いやキトラよ。代々この禁断の地で、タケルと萌の封印されし精神を守ってきたのが、我ら鏑一族なのだ」

「まったく、まわりくどいことしやがって! そんなら何故オマエは、最初に俺と会った時に全てを話さなかったんだよ!?」

タケルは般若に指を突きつけた。

「その時の貴様は、まだ記憶が不安定な状態だった。そんな状態で真の目的を告げても、貴様に理解できるハズがなかろう。だが、それが逆に災いしてしまったようだ……」

「へへへ、計算違いだったな。さっき撫子も言っていたが、どうやら俺の意識の中に、キトラでもタケルでもない、『第三の意識』が芽生えてしまったようだぜ?」

タケルはニヤリと笑った。

「……その通りだ。様々な人間との出会いが、貴様の心に新しい人格を作り出してしまったようだ」

「それがここにいる、『新しいタケルさん』というワケですか……まったく、あなたらしいと言うか……」

「へへ、そう褒めるなよ」

「シャルル様は褒めてなどおらん。呆れているだけだ」

「うるせぇ、般若」

「しかし、地球復活は遂行して頂きますよ。もはや時間はないのです。黒い大渦の封印が弱まっています。しかも、それに乗じてアマテラスが、この世界を乗っ取ろうとしているのです」

シャルルの真剣な顔つきには、決意が感じられた。

「バカな! アマテラス様はこの世界を平和に導くため、地球を復活させようとしているのだ!」

烏丸神がシャルルを睨む。

「なるほど……アマテラス殿は、よほど狡猾なお方のようですね。ここまで巧妙に兵をそそのかすなんて」

「アマテラス様に対し、それ以上の無礼な言葉は許しませんよ!」

チャリン。烏丸神がシャルルに刀を向けた

「ふふ、ヤマトの神選組、烏丸神か。相手に不足はない、この般若が相手になろう!」

般若も烏丸神に対して刀を抜く。

「おやめなさい般若。ここは戦いの場ではありません。タケルさんが、どちらの味方か決める場所なのです」

不適な笑みを見せるシャルル。

「味方につくだと? どういうこった、シャルル」

「意味はそのままですよ。だって今のタケルさんには、地球復活の意志はない。しかし萌さんを元に戻したい。当たってますよね?」

「お、おうよ!……でも、そんなのわかって当然だろーが!」

「だったらもうアマテラス殿のところにいる必要はないでしょう? 撫子さんを、もとの萌さんに戻せる可能性があるのはボクだけですから」

「萌をもとに戻せるだと?……だから、味方になれってぇのか?」

シャルルは笑みのある顔で、コクンと頷いた。

「待て、我を元に戻すだと? 小童にそんな生意気な口をたたかれる覚えはないぞ?」

「やはり完全に、撫子さんに心を奪われてしまったのですね……だったら仕方ないですね……」

「何をワケのわからんことを……我もこの場所で戦いたくなかったが、引導を渡してやるぞ、小童」

撫子が手を上げて構えた。

「いいでしょう、いずれは戦う運命。手出しは無用ですよ、般若」

「しっ、しかし! シャルル様!」

戦いの構えを取り、睨み合う撫子とシャルル。

「おいおい、シャルル。今おめぇが戦う場所じゃないと言ったのによ。ばかに好戦的になっちまったな?」

「ふふ、変わったのはタケルさんも同じこと」

「そ、そうだけどよ……」

シャルルのインガは静かに増大していった。

「ほぅ、小童のくせに、なかなかのインガをまとっておるな。こんな小童がまだおったとは」

(それも当然ですよ。だって私はあなたの……)


 ドッガガガァン!


 突如、禁断の地に衝撃が起こった。

「なんだ! この強大なインガは!」

「コイツは……このインガは朱雀だな!」

タケルは天井を見上げてインガを感じ取った。

「どうやら始まったようですね、シャルル様。それにしてもこの近くで戦闘をはじめるなど……やはり朱雀は信用ならぬ奴です」

「まぁ、いいでしょう。朱雀の戦闘能力は利用できます。今は自由にやらせておきましょう」

「……そうですか、シャルル様がそうおっしゃるのなら」

「とにかくここを出ましょう、シャルル様」

「そうですね、ではタケルさん、考えておいて下さい。どちらについたほうが、あなたにとって都合が良いのか。そしてあなたは、いま何をすべきなのかをね」

スッ

般若がマントをひるがえすと、シャルルとともに、暗闇に消えた。


「撫子様、我々もここを出ましょう。なにやら只ならぬインガが立ち込めています!」

「ふむ、少しばかり禍々しいインガだな。まぁ、我の敵ではないがな」

「はい。ですが、撫子様の復活を皆も待ち望んでおりますので」

「それもそうだな。よし、ヤマトの軍と合流するか……」

撫子は、タケルの方をゆっくりと振り向いた。

「キトラ……いや、今の性格はタケルの方が色濃いようだな」

「ふん、そうらしいな」

「ではタケル、ヤマトの国に戻ってくるのを待っておるぞ……だが、もし我と違う道を選ぶというなら……」

「なら……なんだってんだ?」

「その時は容赦せん。必ずキトラとともに、地球復活を実現させてみせる。キサマの精神を封じ込めてでもな……」

「へん! 俺はてめぇなんかに従わねぇ! 自分の生き方を貫く! そして萌も助ける! 絶対にだ!」

「ふふふ、頼もしい言葉だが、ただの戯言に終わらぬようにな。ではまた会おう……」

カツン……カツン……

撫子と烏丸神と春菊は、ゆっくりと闇の奥へと消えた。

鉄円もそれに続くが、タケルの方を振り返った。

「萌ちゃんは……いいえ、撫子様は私が守る。今のあなたでは、広い目で世界を見ることができないわ」

「へっ、言ってくれるぜ、円!……だけど、萌だけは守ってくれ……頼むぜ」

見詰め合うタケルと円。だが円は、タケルの言葉に答えることなく、振り返ると去っていった。

グゴゴゴッ!

またもや大きな振動に洞窟が揺れる。

「くっ! 外で相当ハデにやっているようだな! よし俺も行くか!」

(ここにはまた来ることになるかもしれねぇな……禁断の地か……)

タケルは、そんな予感を背中に感じ、この場を去った。


 禁断の地にはびこる強大なインガ。

淀んだ紫色の空に、雷鳴がとどろく。

一筋の閃光とともに、爆発音が立て続けに響き渡る。

そして、爆炎の中に、一機の武神機が空を翔けていた。


「くっくっく……ハァーッハッハッハァッ!!」

その武神機に乗った男は、笑いを堪えきれずに、大声を上げて猛った。

「この武神機、『芭王無(バオーム)』! この圧倒的なパワー! こりゃ笑いが止まらんき!」

ブオンッ! ボッゴゴォン!

手に持った肉厚の刃と、両肩と両足にあるクローの攻撃に、ヤマトの武神機はハエのように落ちていった。

「くっくっくっ、地獄の底から這い上がってきたワシのインガを舐めるなよ! もうワシは誰にも負けん!」

「聞こえるか、リョーマよ?」

そこに般若から通信が入った。

「ん? その声は般若か……ワシの戦い方に文句があるなら、キサマもブッ殺してくれるぜよ!」

「相変わらず危険な男だな。シャルル様は、何故このような男に武神機を与えたのかわからぬ……」

「くははッ! 教えてやろうか、般若! それはワシがキサマよりも強いからじゃ! くはははッ!」

「やれやれ、まったく鼻持ちならないヤツだ。だが、シャルル様の命令だけは聞いてもらおう。ここから西へ移動し、ヤマトの残党の追撃をするのだ」

「ふん、そんなまどろっこしい事するより、ワシが直接ヤマトの戦武艦を叩いちゃる!」

「命令に従え、リョーマ。まだ光明をやるには早い。もっと戦力を消費させてからだ」

「いやじゃ! ワシはワシの好きにさせてもらうぜよ!」

「何だと! キサマというやつは!」

「……じゃが、ワシにも恩義くらいある。シャルルに免じて命令を聞いてやるわい」

「貴様ッ! シャルル様を呼び捨てにするなど恐れ多い! 取り消せ!」

「ふん、堅苦しいやっちゃのぉ……じゃ、お掃除に行ってくるわい!」

バシュオーッ!

リョーマの芭王無は、ヤマトの残存部隊を殲滅しに向かった。

「まったくあの男には困ったものだ……しかし、これで良いのですね? シャルル様」

「はい。今この場で戦われては困ります。今この禁断の地は、強大なインガが集中し過ぎて何が起こるかわかりませんから……」

「確かに、これ以上この場に留まっているのは危険な気がします」

「おまえも感じるのですね、般若。それに、このままタケルさんが黙っているとは思えません。とにかくここを離れましょう」

「はい、では早速……」

般若は、自分の生まれ故郷である禁断の地を眺めた。

以前、キトラがタケルの精神を取り込む際に暴走し、鏑一族は全滅したのだった。

ただひとり、般若をのぞいて。

「般若、あなたにとって、ここは思い出深い土地だとは思いますが……」

「いえ、もう私にとっての故郷はここではありません。レジオヌールなのですから」

般若の言葉の裏には、どこか悲しい感情が残っていた。

「そうですか……そう言ってくれるのはありがたいことです」

(私なぞに気を遣って下さるとは、この般若、あなた様に忠義を尽くしますぞ……)

戦武艦シトヴァイエンに戻ったシャルルと般若は、この禁断の地を離れようとしていた。

様々な思いを残しつつも。



 一方タケルは、ヤマトタケルに乗り込み、光明のもとへ向かっていた。

タケルは今までの出来事を思い返していた。

(アマテラスの子供であるキトラの体に、地球復活を願うタケルの精神……それが今の俺……

そして、撫子とともに大インガを発動させるのが俺の使命だった……

しかし、その使命に従って、地球を復活させるのが本当に正しいことなのか?

それに、一体どうやって大インガってヤツを発動させるんだ?

わからねぇ……わからねぇことだらけだ……

とにかく大きなインガが光明に向かっている! 放っておけねぇ!)

複雑な心境のまま、タケルは戦場に赴こうとしていた。

だがそれが、不幸な結果に繋がってしまうことを、タケルはまだ知らない。

とにかく急げ! タケル!



 ボボボオゥンッ!

「わははッ! この程度か、ヤマトの軍は! あまりにもあっけなさ過ぎるぜよ!」

リョーマは、戦武艦光明に帰還しようとするヤマトの武神機を襲った。

その力の前に、ほぼ全滅状態であった。

「それ以上はやらせん!」

ガッキィン!

そこに現れた武神機と、刀をまじえる芭王無。

「ほぅ、このインガ、どこかで会ったことがあると思ったら、犬神隊長だったかの?」

「何ッ!? その声はリョーマ! リョーマなのか!?」

犬神は驚きを隠せなかった。

以前、餓狼乱の基地を襲った際、インガを膨張させ過ぎ、バーストして死んだと思われたリョーマが、今、目の前にいるのだから。

「くくく……お久しぶりじゃのぉ、犬神隊長。元気にしてたかのぉ?」

「なっ、何故キサマがレジオヌール軍にいるのだ!?……それにどうやって生きていたのだ!?」

「ふん! そんじょそこらのサムライと一緒にされてはかなわんき。ワシは地獄から舞い戻ってきたぜよ!」

「ば、バカな……キサマは、タケルとやりあって死んだハズだ!」

「そうじゃ、リョーマはあの時に死んだ……いまここにいるのは、復讐に燃えるサムライ、朱雀ぜよ!」

「す、朱雀だと?」

「そう言えば、タケルのヤツはヤマトの国のサムライになったそうじゃの?」

「そ、そうだ! だが、ヤツなどにヤマトの特殊攻撃部隊隊長の資格などないッ!」

「ほー、どうやらおんしゃとタケルは仲悪そうじゃの。ま、だいたい予想はつくが」

「どういう意味だ!」

「あいつの強さは、知らぬ間に人の恨みを買ってしまう……凡人では追いつけない驚愕した強さじゃ!」

ガッシィン!

刀を振りかざす犬神の武神機。それを芭王無が腕をつかむ。

「なんだと! それではまるで、私がタケルの強さに嫉妬しているようではないかッ!」

「どうやら図星のようじゃの? キサマらしいわい。さぁ、そこをどくんじゃ!」

ドバシュッ!

芭王無の剣がムチのように伸び、その一閃が犬神の武神機を斬った。

「ぐっ! くっそおぉぉ! 覚えておけよ、リョーマ!」

下半身を斬られ、地面に落下していく犬神の武神機。

「朱雀だと言っているぜよ。ワシは頭が悪いき、キサマみたいなカスなど覚えておれんのじゃ……ワシが覚えているのは、タケルへの恨みだけじゃ!」

タケルへの恨みを増加させ、完全に蘇ったリョーマ。いや、朱雀。

その強さは、タケルへの憎悪によって数倍に跳ね上がっていた。

「くふふ……それにしても、さっきの犬神といい、強くなって人から羨まれるのは気分のいいもんじゃ! ワシのインガはそれを吸い取ってどんどん強くなっていく気がするぜよッ! くははははッ!」

朱雀の芭王無は、さらに邪悪なインガを放出していくのだった。

「ん? この感覚……そうか、来たか……」

猛スピードで、朱雀に接近するタケルの機体。それを感じ取った朱雀。

「いいじゃろう! ワシは今、最高の気分なんじゃ! 今度はキサマを地獄に落としてくれるわ、タケル!」

ボボシュ!

突如、背後に火弾を感じた朱雀は、それを瞬時に感じとって避けた。

「あっ、当たるハズなのにっ☆!」

背後から朱雀を狙った銀杏の武神機、ハルジョオン。しかし、反対に後ろを取られてしまった。

「このハエめがッ!」

芭王無のムチのような剣が、ハルジョオンを襲う。

「きゃぁぁ☆!」


 バッギャァン!


「どうやら間に合ったようだな銀杏。おまえは下がっていろ!」

「た、タケル……隊長ーっ☆!」

ハルジョオンを脇に抱え、ヤマトタケルが芭王無の攻撃から救った。

「やっぱテメェか……」

「やっとお出ましか、タケル。そして待っておったぞ、タケル!」

両者、武神機ごしに睨み合う。

「このとんでもねぇインガの正体は、やっぱおめぇだったか、リョーマ……」

「リョマーではないぜよ! ワシは地獄の底から舞い戻ってきた朱雀じゃ!」

「地獄を体験したのは、てめぇだけじゃないぜ!」

「来るぜよ! タケル!」

そして、宿命の対決が、斬って落とされようとしていた。だが、タケルのとった行動は、なんと。

「やめた」

そう言い出したのはタケルだった。

「なに? 今何と言った? や、やめるじゃと?」

「俺さぁ~、今、禁断の地の洞窟で、すっげぇヘビィな話を聞いてきたんだよ。だからもう戦いなんてしねぇで、ゆっくりフロ入って寝てぇんだよ。わかる、リョーマくん?」

呆気に取られるリョーマ。

「ふ、ふん! ずいぶんと余裕じゃの……だったら寝かせてやるぜよ! 永遠になッ!」

バキィン!

芭王無の一太刀が、ヤマトタケルを襲う。

「だーかーらッ! 俺は戦いたくねぇって言ってんだろ!」

「タケル!……おんしゃ、心ここにあらずって感じじゃな……何かあったな? 言ってみろ!」

「へぇ~、相談に乗ってくれるってか? バカに優しいじゃねぇか」

「ふん、腑抜けたキサマを倒しても意味がないんじゃ!」

「まったく、いつまでそうやって復讐するつもりだよ? そんなことしたって、ヒナモとおみんは喜ばねぇぜ」

「ふん、また説教かいの……ワシは誓ったんじゃ! ワシの力でこの世界を変えてみせるってな! それがヒナモとおみんに対するはなむけなんじゃ!」

「はんっ、そんなもんで喜ぶやつがどこにいる! 相変わらず根暗な野郎だなッ!」

「だまれッ! 目的を失い、ヤマトでのうのうとしとるおんしゃに言われとうないぜよ!」

ガッギィィン!

「くっ!」


 実際タケルの心は揺れていた。

禁断の地の洞窟で蘇った記憶。そしてタケルの生い立ち。

それは、自分が何者であるかを知る、驚愕の事実であった。

遥か昔に起こった地球封印。そしてキトラの肉体と、タケルの精神を併せ持つこと。

それがわかってしまっただけに、事の重大さを簡単に受け入れることが出来なかった。

そして、タケルは迷っていた。

はたして、自分は本当にこの世界に必要な人間なのかを……

そんな中途半端な気持ちでは、戦いに集中できないのは当然であった。

朱雀は、そんなタケルの気持ちを読み取り、タケルへの攻撃をやめた。


「はぁっ、はぁっ……どうしたリョーマ、もう終わりか?」

一方的に攻撃を受け続けていたヤマトタケルはボロボロだった。

「今度はワシの言うセリフぜよ。やめじゃ! 今のおんしゃを倒しても意味がないぜよ。それならキサマがもっと本気になるようしてやるぜよ!」

朱雀の芭王無は、インガを更に増大させ、戦武艦光明へ向かっていった。

「まずい! ま、待てリョーマ!」

芭王無を追いかけるタケル。

「タケル! 今のキサマのような腑抜けに用はない! 以前のような熱いインガが感じられんのじゃ!

「なんだと!?」

「だがワシは違う! ワシは自分の魂の赴くまま、その命を突き動かされているんじゃ!」

「!……魂のまま……突き動かされる!……」

リョーマの言葉が、タケルの胸に突き刺さった。

確かにタケルは、自分の運命を追い求め真実を知ることができた。

だが皮肉にも、今は困惑し、自分を見失っていることを否定できなかった。


 戦武艦光明に接近したリョーマ。

「アマテラス様! 高速でこちらに向かってくる武神機がいます!」

「何ッ! インガセンサーに反応しなかったのになんて速さじゃ! 即座に迎撃するのだ!」

「ま、間に合いませんっ!」

「はあああッおおッ!」

光明の前に立ちはだかる芭王無。禍々しいインガはさらに増大していった。

「艦のコントロールが利きません! あの妙なインガが原因だと思われます!」

緑色に光り、光明にまとわりついてくるインガ。朱雀の放つインガは、戦武艦すらも覆いつくそうとしていた。

「ぬうぅ……この現象は、あれが原因だとでもいうのか?……早くこの場から艦を発進させるんじゃ!」

「ふははッ! 無駄じゃ! 遅い遅い、遅すぎじゃーッ!」

芭王無の放った一閃が、光明を直撃した。

カッッ! ズドォォン……!

閃光とともに響き渡る爆音。

「しまった! 間に合わねぇッ!」

そこにやっと駆けつけたタケル。

「ふははッ! 今頃何しにきたんじゃ、タケル! 心折れた人間なぞ、ワシの相手ではないぜよ!」


 芭王無の直撃を受けた光明は無事なのか? そしてアマテラスは?

地獄の底から這い上がってきたリョーマに、今のタケルは勝てるのか?

終わることのない宿命の対決は、ここに実現してしまった。

そして、新たなる伝説の武神機の目覚めを、タケルとリョーマはまだ知らない。

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