SF:戦慄のレヴァンテイン
春にも新たに咲き誇る鉄の華、その艶色はこの一戦にあり。
ふきのとうの如く慎ましやかに、しかし鮮烈に芽吹くロボ感想は、これだ。
戦慄のレヴァンテイン
https://kakuyomu.jp/works/4852201425154922473
作者 村雲唯円 さん(@SleePRING___)
カクヨム初期から連載を続けている、リアルロボット作品。
ある事件を経験した主人公が人型の陸戦兵器『レヴァンテイン』に乗り、仲間のため、世界のためテロリストと戦っていく王道ロボット戦記である。
敵に奪取されてしまう怪しい新型機から始まる戦乱、確かな人間模様、沸き立つ血の中でのしかかる疾走感――考えるな、感じろ。でも読め。
今や言わずと知れた人気を誇るこの作品は、一方通行的な姿勢で名を知らしめたわけではない。
この作品は作者もさることながら、最早読者を巻き込んで進化し続けている作品なのである。詳しくは、Step2をご覧ください。
更には他のカクヨムロボ作者が二次創作を手掛けるなど、戦レヴ・ワールドはまだまだ広がりを見せている。読者の皆様方、絶頂はもう不可避である。
第三章も先日始まったばかりである。楽しみだ。
というわけで、みんなも平茸おねえさんと一緒に、戦レヴワールドを紐解いてみよう!
菌糸を出す用意はできたかなぁ? さあ、イこう!
・Step1:作品概要(今回、引用です。何か問題があれば連絡を。)
日本の年号が『正央』となってから十数年。
警察組織が多くの汚職事件や不祥事を重ねた結果、その信用を失墜させてしまった時代。国内では凶悪犯罪やテロ事件が横行していた。
それらに実力を以て対抗するため新たに組織された、国へ帰属しない戦力『独立治安維持軍』。
全高七メートル程の二足歩行型独立機構『レヴァンテイン』の台頭によって、戦場は、日本は、そして世界は、少しずつその姿を変えていく。
その予兆は、正央十八年六月八日、青年・槻代級(つきしろしな)の、独立治安維持軍としてのとある出撃から始まる。
・Step2:いいとこ発見
まず、戦慄のレヴァンテイン(以下『戦レヴ』で)を紹介する上での鍵、それは主人公『槻代級』とその宿敵『ロキ』、この二人の因縁である。
全ての始まりとなったある事件以降、二人は何度も死闘を繰り広げている。
そして、物語の大きな局面では必ずと言っていいほどに、彼らもまた戦っているのだ。
さらに言えば、彼らが決着する際には邪魔も助けも入らない、二人の世界が基本的に演出されているのは良い見どころの一つだろう。
作中では、彼らが互いに意識し合っている事を、これ以上ないほど強調し続け、絶対に相容れない者として対比させている。それと同時に、ほんの小さな切っ掛けで同類へと堕ちてしまいそうな、綱渡りめいた危うさをも描いている。
対比と理解、
まさに紙一重の殺意をぶつけあうこの二人は、戦レヴという作品の根幹を成す、一つの象徴であると言えよう。
それらの要素を過不足無く読者へ提示するために何が為されているか。それをこのStep2では解き明かしていきたいと思っている。
ちなみにStep0――つまり前書きには書いていなかった事なのだが、平茸は初期型『戦慄のレヴァンテイン』を読んでいたことがある。もっと正確に言えば、最初からずっとストーキングしている。だから、辿ってきた道もしっかりと記憶している。茸だけど。
その記憶を元に語るならば、この作品はまず間違いなく、最初の頃より遥かに面白くなっている。それもちょっとではなく、ヤバいレベルである。
昔と比べると、純粋に満足度が高まっている。
だが、それは要素が継ぎ足されたという類のものではなく、むしろ余計なものを削ぎ落とし、作品の強みとなる因子を研ぎ澄ました結果であると考えている。
戦レヴはそれ故に、読者にとって超ダイレクトなリアルロボットアクション・エンタテイメント足り得るのだと思う。
平茸が見ている戦レヴの強み、がどのようなものかについては、これから紹介する3つの項目にギュッと凝縮している。
今や戦レヴは、熱い文章の妖刀である。
その世界を読んでしまったが最後、読者はその美しい鋭さから逃れられない。
ちなみに、このStep2にて解説する各要素を、よりマクロな見方にて解釈すると、『戦レヴはロボットアクション・エンタテイメントである』と集約できる。
これは後のStep6に繋がるキーワードだ。
そこまで読むつもりのある方は、是非とも頭に入れておいて欲しい。
○菌糸が戦慄しちゃうスピード――心臓がバクバクするような緊迫感と、弾雨の中を駆け抜けるが如き疾走感!
更新の度に、戦レヴを読んで思うことが一つある。
超キモチイイのである。
トラクターかなんかにロケットをつけて、某アウトバーンをカッ飛ばすとこんな高揚感が得られそうな気がするが、まあそれはそれとして。
その気持ちよさを色々説明する前に、レヴァンテインというロボットについて少し話しておこう。
(フィクションの中で)数ある人型兵器の中では、そこそこ小型の平均七mくらい。装甲は基本的に薄く、代わりに小回りが効く陸戦兵器……らしい。
運用面での特徴としては、ワンオフ機が比較的多く、ある程度の数を入手することが容易であろう事があげられるだろう。
実際に本編での戦闘では、主に欠点より利点を活かした機動戦闘が描写されている。小型のリアルロボットとして、納得の立ち回りと言えよう。
さて、それをもっともらしく描写するには、ただその動きを文章に投入する、だけでは物足りない。もっと何かが必要だ。戦レヴにはそれがある。簡単に言ってしまえばそれらの一つとして、スピード感やテンポがある。その他にも色々あるだろうけれど、この作品についてはそのあたりが強く描かれていると思う。そこがこの項目のテーマなのだ。
――ふとここで、『スピード感』などの言葉は、よりわれわれの感覚器に強く訴えかける例えや言葉で表せないだろうか、と平茸は考えてみた。戦レヴを読んでいる時の、最高にハイになるあの感覚である。
そう、この感覚は……『戦場の風』とは言えるのではないだろうか。
数多く創作されている人型兵器の中では小型でも、人間との力の差は歴然である。表に常に現れている力がそうなのだから、内包される暴力性は計り知れない。
ビル群をレッグ・スライダー(レヴァンテインの多くに搭載されている移動装置)ですり抜けるように疾駆するレヴァンテイン。アウトレンジからの火力集中にて撃破され、爆散しながら擱座するレヴァンテイン。民間人の目の前に落下する空薬莢。フェンサーブレード(レヴァンテインの多くに装備されている近接武装)同士での壮絶な打ち合い。衝撃波で次々と破壊される景観。踏み潰される美麗だが脆い花壇。
実際に存在しているのは文章であるのに、目の前でそんな戦闘が起こっているかの如き烈風、それを感じることのできるエンタテイメント性が、この作品には詰まっている。
砲撃の炸裂や、アクチュエータの動作音、更にはパイロットの激しい呼吸……これはまったく幻聴でなく、もうひとつの世界に本当に存在する音が、文章により我々の思考へと惹起される。
そして、そのような力が込められている文章について、平茸はいつもこう呼ぶ。
『文章にトルクがある』と。
これは、先述の『戦場の風』を感じられる文章だけに限らない。
面倒くさいこの現実文明世界への認識を、一時、一瞬でも滅茶苦茶に虚空へとぶん投げてくれるような力がある文章について、こう言い表している。
その力は、まさに作中で繰り広げられている機動戦闘のように目まぐるしく、我々の心へと直撃を狙っているに違いない。
しかも、文章のトルクは、我々をかき乱すだけのものとは限らない。時には物語の導き手、読む動作への推進力ともなるパワーだ。
戦レヴの戦闘は、他の作品に比べると一つ一つにボリュームがある。と、思う。
そのボリュームを巧みに読ませる力とは、まさにそういった戦場の風を感じられる、トルクのある文章によって構成されているからではないだろうか。
○王道な面白さ、そしてその先へ――間口は広く、要素はシャープでソリッドに
今Stepの前書きにも書いたのだが、主人公とその宿敵、二人の関係は戦レヴの重要な構成要素の一つである。無論、それだけで成り立っている作品で無いことは、読んだことのある方はおわかりだろうと思う。
さて、戦レヴとはじゃあ何の物語なのか、と考えた時に、思い浮かんでくる要素としてはそう多くない。読んでいる側として語れる所は多いものの、人に紹介する際に思考へと出てくるキーワードは、実にしっかりしているいくつかに絞られてくるのである。
それらを集めて完成するキャッチこそ、Step2冒頭に記した『戦レヴはロボットアクション・エンタテイメントである』この一文に集約される。
このシンプルな一文で済むのは、まさに戦レヴが王道を貫いているという証明であり、またキャラクターの配置で奇を衒っておらず、非常にわかりやすく、且つ無駄なく配置されていることに起因するのだと思う。
そしてこの二つには相関があり、切っても切り離せない。
熱い正義感を持つ主人公は鉄板であり、彼に密かな想いを寄せる戦友のヒロインもまた、創作ではお馴染みの設定である。その周りには、気丈に振る舞いながらも主人公の悲しみを受け止めてくれる子や、偉大な父親に悩み続ける戦友がいる。
味方側のメインキャラクターは、物語上明確な役割を持っており、なおかつ戦レヴという作品に必要とされている人物たちなので、読者は存在を受け入れやすい。
対する敵側は、その味方側から向けられる対比のターゲットになっている。
とてもそれが分かりやすいのは、主人公である『槻代級』との対比になっているキャラクター、『ロキ』だ。
彼は常に戦いを切望しており、激闘の中で渦巻く恐怖や憎しみ、激情といった感情を楽しむ人間である。護るために戦っている主人公とは、まさに真逆の人間だ。
そんな彼らとの間には決定的な壁があって、陰と陽のような区別がつけられている。
その関係性が読者にどんな影響を与えるのかと考えると、これはすぐに分かる。
視点の提供、もしくは立ち位置の提供である。
どちらに肩入れをすれば見やすいのかが、しっかり提示されているのだ。
そんな読者への土台をしっかり作った上での、時折見せる光と闇の交じり合い、心の拮抗を描くことで、仲間が倒れていく中での主人公の無念さや、それでも『人々を護る』という信念を保とうとする苦しみ、そして彼が持つ正義というものの危うさが表現されている。
そのようなキャラクター達は、無駄なく物語の構成へしっかり組み込まれている。
結果として『このキャラはこういった状況でこういう行動をするだろう』というのが予測でき、なおかつ確かな存在感と関係性があるという前提によって、まさに読者が『王道』をひた走ることの出来る作品へとなっている。
要素を絞り、残った数少ない精鋭の要素を磨き上げる事で、読者にも物語全体の見通しが立てられる。見通しが立てられるからこそ、期待ができる。
そして、その期待は裏切られない。
王道でありながらも爽快感と独自性が噛み合った結果、読者にはやはりこれは戦レヴなのだ、と分からせてくれるのだ。
そうして戦レヴは、自らが『戦慄のレヴァンテイン』であることを、内外に主張できているのだと考える。
なお、王道を作り上げているのは、何も若者だけではない。この作品では大人達の存在もまた、それを裏付けるものとなっている。これについては次の項目を読んでもらいたい。
○大人のカッコよさ――やはり、重ねた年齢は伊達じゃない。
ロボットアニメやそれに類する作品には、お約束のようなものが多数存在する。
その中の一つに、主人公の上司やそのまた上の上層部がクソ、ないしは無能であることがある。今でもそこそこ頻度高いよね、これ。老害のレベルのことすらある。
大概はその濁った目が敵ではなく自分の利権や地位などに向いていて、まわりまわって主人公たちがその悪影響を受けることはぶっちゃけ結構多い。
これについて、作劇上の意味合いは色々とあるだろう。
これは主人公やその周りが、謂わば「ヒーロー」、ないしは正義、清廉潔白であることを際立たせるための手法の一つではある(勿論効果はそれだけではないけれど)。
しかし、どこかをサゲて主人公達をアゲるというやり方のため、意外と実は扱いが厄介なお約束ごとなのである。上司に少し文句は言えてもそうそう殴れはしないし、そんなムカつく奴がそのままだと視聴者(読者)も腹の虫が収まらないかも。
だからこそ流れ弾で艦橋が吹き飛んだり……これは別に関係ない?
というのは置いておいて、忘れちゃいけない戦慄のレヴァンテイン。
この作品においては、上司や上層部、目上というのはサゲる対象ではない。
むしろ、その逆である。彼らの豊かな人間性は、物語の中でこそ映える。
メインキャラクター中のそういった人物は、人生の酸いも甘いも知る、頼りがいのある大人として描かれているのだ。
若き主人公達が倒すべき敵は、腐った大人たちや上層部ではなく、あくまで人々を直接脅かしている
しかし、頼れる方の大人たちも、完璧な人間ではない。
軍人としての矜持があれば、苦い過去もあり、そして覚悟がある。それらを象徴する好例は、数々の激戦において冷静に闘いぬいた『東堂清次郎』総司令や、主人公の愛機たる『メリッサ』を整備し、そしてその改修機である『メリッサ・グラム』へと魂を引き継いだ整備のおっさん、『唐木田』さんがまず挙がるだろう。
彼らは紛れも無く、人々を護るべく使命を果たさんとする、格好良い大人達だ。
結果、主人公達が従い、信頼を以って応える対象たる大人達に、存在感が生まれる。
そんな大人達からの命令を、命懸けで遂行する主人公達には、説得力が生まれる。
仮に、ミリタリーモノのロボット作品として見た場合に、ちょっとロマンチックだと言わざるを得ない流れがあるかもしれない。
でも、『だが、彼らなら』と、読者を納得させてしまうだけの準備がなされている。
そういった意味で、大人達と主人公たちの関係性そのものが、王道を王道として活かすための説得力となるのだ。
そうして生まれるこの『戦レヴ』の戦場に、我々読者は圧倒されるのである。
・Step3:ロボット
○円月強襲型
機体は軽やかに、しかし鉄杭の一撃は強力で、決め手に欠く事は無い。
まあそれはともかくとして、いぶし銀な武装と、酒に喉焼かれたおっさんとのコラボレイションとは、どうしてこうも甘美なのだろうか。
○ダインスレイフ
誰が乗っているのかは内緒。第二部をその目で是非確かめて。
攻守共に隙がなく、菌糸を唸らせるその力強さは、まさに魔剣だ。
・Step4:平茸が選ぶおすすめ
○楽園――青年を救ったのは、一人の仲間の声であった。
ロボもので是非やってほしいこと、やってますね! THE王道。
気丈に振る舞いながらも奥に暗い過去がある系の子って大好きなんすよ、平茸。髪からいい香りがしそうだし。
ただのクラスメイトなどではこうはいかない。
砲弾飛び交う戦場を駆け、共に戦った仲間だからこその言葉である。
このエピソードは、第二部にも効いてきて、襞を優しく……詳しくは、読むべし。
○火蓋 1――整備のおっさん×主人公機改修=?
ここを読んだ時、思わず股間に手が伸びたことを覚えている。
……ああ、茸には股間も手も無いんだった、失敬失敬。では、誰の記憶なのか……。
とにかくここは、人型兵器たるレヴァンテインの魅力を引き出している。
徹底的にコンディションを保つ側と、その巨人に乗って戦う側……どちらも魂という名の燃え上がる生命を、お互いに物言わぬ機械を通して託し、繋がり合っているこのドラマ性がとてもイケる。とりあえず、読むといいです。このエピソードはシコいので。
○火蓋2〜の模擬戦――二人がぶつかり合う「武」の戦い。そこに、レヴァンテインの新たな可能性を見る。
このエピソードが来るまで、レヴァンテイン同士の戦いは徹底的に『殺し合い』として描かれている。それまでの激戦は全て軍VSテロリストだったのだから、まあ当たり前なのではあるが。
だが、ここにきて兵器としての側面だけが書かれているレヴァンテインの源流が、汎用性を求めて開発された人型の重機(平茸はこう解釈します)、であることをしっかり確認できるのだ。それは、殺し合いではなく、模擬戦という闘技場にて、である。
共に戦ってきた仲間との闘い、それは単なる腕試しという側面だけに留まらず、今までも、そしてこれからも同様に肩を預け合うための過程であるのだろう。更に言えば、レヴァンテインという機械が相手を殺すだけではなく、仲間を護ることも出来るという証明でもあるのだ。
・Step5:最後に
レビューは今回で、記念すべき五回目である。平茸がこの企画を始めてから、半年とちょっとが経過している。その間にも新たなロボ作品は生まれ続けていて、レビュー候補については、色々とタイプの違う候補が考えられるくらいには賑わっている。
そして今回、満を持して戦慄のレヴァンテインをレビューさせてもらった。
実を言えば、戦レヴは企画発足当初よりレビューする可能性の高い作品の一つであった。他にも数個のストックがある――尤も、比較的高いというだけだが――内、何故戦レヴを選んだのかと聞かれると、弱い。正直な所、厳密に答えられるだけの材料は存在しない。単純に、戦レヴがHOTであると感じたからなのだ。
しかし、後悔は無い。こうしてレビューを書く過程で、協力者と徹底的に戦レヴの魅力を洗い出す作業をした結果、また違った視点にて読み直す事が出来、また強烈な対比や原理を見出すに至った。
その辺りの発見については、Step6に詳しく書くこととする。
そういえばStep2のところに、前から平茸は戦レヴを読んでいた、そう書いている。
では何時から読んでいたのかといえば、戦レヴの連載が始まってすぐの事である。
あの頃と今の戦レヴ、決定的に何が違うのかについては一概に言えない。まあ具体例としては、序盤のテロリストが自害する方法が違った、とかだったか。戦レヴ作者さんならば、どのあたりかすぐに分かるかもしれない。
だが確かな事はあって、Step2に書いた通り、戦レヴは旧レヴ(?)より確実に面白くなっている。もっと正確に表すならば、進化しているのだ。平茸の個人的感想から言えば、ガン○ムからνガ○ダムくらいには違う。
読者の声と作者の血肉を食らった戦レヴという作品は、もう劇団カクロボ座の一大演目と言っても過言ではないだろう。この作品は究極にフィクションで、エンタテイメント性を突き詰めている。その辺りについても、また後述するとして。
これから読む読者さんには、是非朝の通学時や昼休み、もしくは夕食を食べる前などのシチュエーションで鑑賞することをオススメする。
またはスーパーハイテンションになりたい、あの技を使うには気力が十足りない等の時に、頓服として摂取するのがよい。
逆に、夜寝る前に読むことはあまりオススメしない。
何故なら、目と頭が最高にハイって奴になってしまい、眠れなくなるからだ。
これは、平茸が実際に体験した事である。
今回は戦慄のレヴァンテインが持つ強力な演出性を、大きく取り上げている。理論化するのはちょっと難しい問題のため、論調として『ヤバい』や『すげえ』などの、抽象的かつ主観的な要素が多分に含まれてしまったことをまず陳謝したい。その上で図々しくStep6でもそこを推していくので、興味が在る方は是非付き合って欲しい。
特に、作品が伸び悩んでいる作者さん達には、続きも見てもらいたい。その上で戦レヴを読むと、何かを感ずることが出来ると考えている。
戦レヴは、連載初期の頃から大人気だったわけではなかった。
だが、物語が進み、そして進化するにつれてどんどんとパワーを蓄えて、今の人気ぶりがある。手が少し届きそうなサクセスストーリーだ。そんな物語が楽しく読めて、興奮できて、夜のオカズにもなるとあれば――選択肢は一つだろう。
次のレビューは、少し発掘要素を加えてみたいと考えている。
無論、作品を読みたくなるようなレビューを書くことが、平茸の存在理由である。
よって、手を抜くことはしない。少しばかりお待ちを。
村雲唯円氏(@SleePRING___)には、超級大感謝と共に、平茸謹製タケリタケ型のトロフィーを送りたいくらいである。
StepEXはこれからの期待も込めているので、一読していただけると幸いです。
ここまで読んでくださった方々にも感謝を。
それでは、またの機会に。
・Step6:あの行列の先には
戦慄のレヴァンテイン、という作品が人気作であることは、あまり疑う方は居ないと思っている。が、平茸的にはどうなのか。というところについて、近況ノート
https://kakuyomu.jp/users/Lampteromyces/news/1177354054883098307
にて書き表しているので、是非ご一読を。
○ついつい読み返したくなってしまう雰囲気と、適度なスキマ
今までのStepで散々、戦レヴはエンタテイメントだぞッ、と書き表してきた。
StepEXでもそこが重要となってくるのだが、まあひとまずそれは置いておくとして、エンタメ性がどう人気に繋がっているのか、についてだ。
今回は平茸の独自解釈が強いので、ご容赦頂きたい。
理論的な話では、正直なところない。
だが、新しい見方を提供することができるかもしれない。
戦レヴを何回か読みなおして気付く事がある。
何度読みなおしても、スカッとするものがあるのだ。スピード感があるからスルスルと喉に入っていくし、また『やっぱりここはこう対比されているのだな』と再確認できる時もある。
そんな中、ネット上に点在する戦レヴの感想を少しばかり、見て回った時があった。
色々な意見があり、そこではと気付くのが、『解釈そのものは比較的自由』になっているということだ。戦レヴはそこが強い。
数作の戦レヴ二次創作も存在し、それぞれに個性があるなか、戦レヴ世界や兵器としてのレヴァンテイン、象徴としてのレヴァンテインに至るまで、様々な見方があることを再確認した。
その上で、この土壌こそが人気の秘密の一つではないか、と私は考える。
Step2で、見やすい視点が提示されている、というような趣旨の一文がある。
しかし戦レヴはあくまでも、提示の段階に留まっているのだ。
すなわち、『この席から見ると物語が見やすいけれど、まあ君の好き好きで外野からでもどこからでも見ていいよ』こういうことなのだと思う。
そのような作りとなっているため、本編では描かれていないところを二次創作でやってもなお、やっぱりこれもちゃんと戦レヴ・ワールドの話だよね、となるのではないか。
――勿論、村雲氏は勿論のこと、各二次作者の方々が戦レヴを読み込んでいることは間違いない。その上でも自ら世界を埋めたくなる引力が、きっと働いている。
他にもエンタテイメント性を支える要素が存在する。
レヴァンテインというロボットへの姿勢である。
兵器としての特徴はStep2にてある程度書いておいたが、この物語の中でその機体状態がどう変化していくか、機体の佇まいは何を表しているのか。
ここに戦レヴらしさがあるのではないか、と考えている。
――そう、戦レヴという作品において、レヴァンテインというロボットは、その中に存在するパイロットを外から映し出す、水晶玉の役割を果たすのだ。
これはいかにも、日本のロボットアニメ作品の流れを汲むものであるように見える。
物言わぬロボットが、パイロットの意思や現在を、悠然と代弁するのだ。
特に戦レヴはこの傾向が強い。
例えば第一章では、敵を引き付けるために敵前へと飛び出す『オーディン』からは、パイロットの強靭な意思や、悩む自分を振り切るための覚悟が垣間見える。
他にも第二章の格納庫では、数々の戦いを潜り抜け、傷つきながらも成長してきた主人公が、新たな場所で再び人々を護る意思を固める。
そういった心機一転のタイミングの象徴として、共に戦った愛機から魂を引き継いだ新たな力が、彼の目の前に屹立していたのだ。
他の機体についても、そういう目で舐めるように見ると、何かしらの教えが得られるかもしれない。この辺りは、平茸もまだまだ未熟な菌なので、これからも頑張っていきたい。
もうひとつある。戦レヴは『戦場を演出している』のだ。
これは、フィクションさを極限まで高めることにより、逆にリアリティを出している、とも言える。
戦闘のさなか、戦レヴでは基本的に邪魔が入らない。
都合の良い援軍は来ないし、タチの悪い流れ弾は飛んできようがない。
そこでは純粋に、闘争だけが用意されているのだ。
それ故に、悪運も良運も機能しない。
そして、己(もしくは共に戦う仲間)だけが頼りとなる。
そこに結果として存在する生死や勝敗といった終末は、究極的にリアルで、不変のものと化す。物語上の都合すらそこには介入できないように見えるほどに、強固なものとなるのである。
この部分は少しStepEXにも関わってくる。興味が湧いた方は、是非。
長々と書いたものの、では何が人気の秘密なのだ、と思う方はそろそろだ。
最後に、今までのことを踏まえてちょいとまとめよう。
戦レヴがロボットアクション・エンタテイメントである事は最早間違いない。
その上で、この作品は最早ジャンルが『戦レヴ』という新しい境地を開きつつあるように思えるのである。既存の作品の流れを汲みつつも吸収した、亜流とも言えよう。
そこには読む者を納得させる、王道のキャラクター付けがあり、読むための追い風ともなるスピード感もあり、そしてひたむきなロボットへの欲求がある。
これは、作者さんが始めから真剣に『戦レヴ』と向き合い、自らを鍛え上げた結果だろう。
三十万文字という長編であっても、その魅力は全く失せることがない。
むしろ、物語が進むごとに、面白さも、続きを読みたい気持ちも増強される。
そんな三十万文字がずっと継続し、読者の情熱へと深く訴えかけているからこそ、今の戦レヴがあるのだ。
WARNINGWARNINGWARNINGWARNING
ここからは更に深刻なネタバレと毒成分、そして平茸自身の趣向や偏見が含まれている可能性があります。精神が不安定な方、自分に責任を取れない方、ネタバレされると死んでしまう方は、このStepEXを読むのは控えてください。
WARNINGWARNINGWARNINGWARNING
いいんですか? ネタバレがガッツリありますよ?
確かな意思を持って、冷静に読むことが出来ますか?
それでも読むという方は、この先へどうぞ。
・StepEX
StepEXは、今までのレビューと意味合いが違います。
なので、近況ノートのような口調で毒もありますので、ご了承を。
そして、強烈なネタバレもあります。何かマズければ、御一報ください。
○視界について――文法の問題ではなく、戦闘が濃いからお茶漬け的なやつ
もう一回注意勧告をします。今回は第一章『Ⅰ:Scars of Calamity』だけでなく、割と最近終わったばかりの第二章『Ⅱ:Code of Ragnarök』のネタバレも含んでいます。
もしかしたら、第一章は読んでいるけれど第二章はまだ読んでないよ! という方がいらっしゃったとしたら、可能であれば第二章の中盤くらいまでは読んで頂いたほうが、StepEXの話をもっと理解できるかと思います。念のため。
さて、戦レヴは一回一回の戦闘がボリューミーで、濃いのが特徴です。
そこに強烈な対比や憎悪、仲間との絆、爽快感などがギュッと詰め込まれていますね。
さて、今回は『視界』です。一人称二人称三人称神視点とか、その辺りの話ではございません。もっと観念的というか、ふわっとしたものを指しています。
ちょっと言い換えると、これは『戦場におけるの真の視界』と言えるかもしれません。
分かりづらい? では、もう少し一般化しますと、『マクロ』とか『大勢』となります。
今回のStepEXで指摘するのは、非常に勿体ないなあと感じている所。
それは、『戦局がどこでどう動き、どんなに決まっているのかよく分からない』ということです。これはStep2などで先述したエンタテイメント性が強いことなども原因だと思われるのですが、まずは戦レヴの戦闘について、少し解剖してみましょう。
戦レヴの戦闘は、Step6にて書いたように、外からの不確定要素が殆ど入らなかったり、もしくは潔いまでの完全タイマンとなることが基本です。
これは、構造上戦闘の場面がそれぞれ『第一の戦場』『第二の戦場』といった小単位、つまり『第一のミクロ』『第二のミクロ』になっている事に繋がります。
さて、この構成単位同士が、同一世界上にあることは言うまでもありません。
同一時間軸上(同時という意味ではなく、同じタイムラインに乗っていることです)にあることもまあいいでしょう。
しかし、ここで一つ。『作劇空間上』において、これらの構成単位に明確な繋がりがあるのか、ということです。平茸的には、否となります。
何故かといえば、それもまた戦レヴのエンタテイメント性に起因するものでしょう。
『戦レヴ』は言ってしまえば、『リアルな生命のやり取りをする戦場』を『エンタテイメントとして視界へと<演出>している作品』だと考えています。
この構造に似ているものが世の中にはいくらか有ります。
例えば、『演劇』です。有名な劇団がいくつかありますよね。あれです。
演劇はステージという空間――専門的に何か呼び方があるのかも知れませんが――上において、様々な道具と人間が写り重なることで生まれる娯楽となります。物語は繋がっていき、やがて大きな局面を迎える事になりますが、ここで大事なのは空間が『切り替わる』ことにあります。背景や役者が入れ替わることで場面が切り替わったことを表します。その瞬間、ステージからはそれまであったものが無くなったことになります。つまり、作劇空間上から消えるのです。そして『繋ぎ』にはナレーションなどが入ったりと、ある意味では観客の視界を完全に掌握していると言えるでしょう。
もうひとつ似ているものを紹介しましょう。『ゲーム』です。
それも、ステージ制・またはフェーズ制のゲームが今回の例えに繋がります。
これもまた、ステージやフェーズといった『空間』が切り替わる事によって進行します。
その条件はクリアやゲームオーバーなど様々ですが、これも演劇と同じようにプレイヤー(観客)の視界が、ゲーム内の枠組みにおいて制御されていることを意味しているでしょう。そして、新たなステージなどに入ると、また違った演出により、異なる作劇空間へと切り替わります。
その間には『繋ぎ』として、形式的なミッション説明だったり、もしくはアゴヒゲの生えた上官がウィットに富んだジョークで『戦況は絶望的だが必ず生きて帰ってこいよチェリーボゥイ』みたいな事を言ってくれるかもしれません。
さて、二つの例えを出した所で、戦レヴの話といきましょう。ここからが本題です。
戦レヴの流れは、第一場面→第二場面→第一場面→……のように戦闘が続いていくのが基本のようです。割りきっていますね。
さて、演劇やゲームは場面(ステージ)→(繋ぎ)→別の場面→(繋ぎ)→……といった感じとなります。戦レヴと何が違うのだと言えば、繋ぎの存在です。戦レヴはこういった構造を取っている割には、繋ぎが極端に少ないのです。
繋ぎとは先程説明した通り、ナレーションやまたは結構どうでもいい話だったりしますが、役割を考えると重要な事が分かります。この場合、その役割は今までのまとめ、これからのあらすじ、そして観客・プレイヤーの息抜き・準備の時間となるのです。
特に戦レヴに少し求めたいのは、一番目と三番目、つまりまとめと息抜きです。
三番目については、戦レヴが持っている強烈なエンタテイメント性から、読む側へ精神的エネルギーを要求しているためだと考えられますね。
そして一番目は、簡単に言えば『もっとマクロの描写があれば、読者側からでもより戦闘に見通しが立つのでは』ということになります。
これら二つの要素が欲しいと特に思った箇所は、第二章で起こる人工島での戦闘です。ここでの一連の戦闘は非常にシームレスに感じられるようになっており、なおかつ激烈な戦闘が継続するため、ミクロが列車のように連結しています。
しかし、その列車がどんな形をしているか、どのくらいの車両数なのか、そのミクロ連結列車に載せられている読者にはよく分かりません。
列車の中にあるものしか見えない(読めない)読者にとっては、マクロが見えない(把握できない・しづらい)のですね。
そのミクロの数々が、マクロにどう影響した・しているのかを、読者が把握する余裕とタイミングがあまり無いのです。
タイマンや大ボス対少数精鋭は燃えます。ロマンチックです。シコれます。
ですが、主人公たちが組織の一員として戦っている以上、そのミクロだけで戦局が決まるのは、フィクションとして鋭すぎると言わざるを得ません。
そのあたりを緩和するために、多くの作品では、大なり小なりマクロな視点からのまとめを適宜設けているのでしょう。
戦レヴもまた、ミクロだけで戦局が決まっているわけではありません。
しかし、戦闘開始時や戦闘終了後などに、まとめて様々な状況が説明されている――マクロ的な説明が集中する傾向があるようです。
あ、トップヘビーやボトムヘビーのロボは好きですけど、それとこれとは別です。
始めと終わりにそういった説明を集中させ過ぎない方が、戦闘の流れとしては飲み込みやすいのかもしれません。
作劇上の主な視界は、ミクロな部分です。
とはいえ、マクロな視界が切り捨てられると、流れが掴みづらいのですね。
無論、戦闘の中、長々と説明などをしろ、ということではありません。
あくまで構造上の役割としては『繋ぎ』なのです。
そして私が戦レヴに必要だと思うのは、まさにその部分。
ミクロとマクロは相互に高め合う関係性にあり、繋ぎはそれらの効果をより強くする効果があるのだと、私は考えています。
つまりは繋ぎをより上手く構成できれば、戦レヴ・ワールドはより強靭に、更に鮮烈になるのではないか。私はそう思ってなりません。
これはあくまで平茸案ですが、ここは大人達を上手く使うといいのかも知れません。
主戦場にいる人間よりも有効な大局観を持った人間が戦況をまとめ、読者に繋ぎで伝えることで、よりマクロが明確となるのが一点。
そしてもう一点は、前線から数歩引いたところに居ると考えられがちな彼らと、前線で戦っている主人公たちが、本当はある意味で一体となって戦っているのだと感じさせることが出来る、という事です。キャラ付けも強化できて一石二鳥……というほど簡単にはいきませんが……。
今回のStepEXも勿論、ああしろこうしろという論旨では全くありません。
平茸は戦レヴをこう見てるけれど、作者さんはどうですか、って感じのものです。
自らの作品を再び見つめなおす良いきっかけとなれば、これ以上のことはないです。
ここまでお付き合いくださった皆様に感謝を。
村雲唯円氏には、もっと感謝を。
是非、ロボットアクション・エンタテイメントとしての戦レヴで、カクヨムロボ界隈をこれからも牽引してください。
それについていった作品群に、平茸は菌糸を伸ばすのです。
勿論、戦レヴには住み着いております。
そして、村雲監督ありがとう。
――月夜平茸
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