(14)年賀状の準備

 みづきさんが振袖を着てやってきた。

「どうだ、似合うか」

 黒地にレトロな色彩の御所車やら百花やらが大胆に配置された着物。金地に大きな牡丹の花の帯。

 上品でいて煌びやかな装いだけれども、美女神の名高い市杵嶋姫命御自慢の女官候補みづきさんが衣装に負けることなどまずない。

 そもそもおそらく女神様がお選びになったものだろうしね。

「すごく似合ってるよ」

 とりあえずは素直に褒めて、

「でも、まだ正月には早いよね……?」

 とりあえず気になったことを口にしてみた。

 似合ってる。ホント似合ってる。でも、みづきさんの周囲だけ何か年明けになってる。

 せっかく気合入れて着ているところに水を注すようなこと言っちゃったから機嫌悪くなるかなと思ったけど、

「確かに正月には早い」

 と、さもありなんといったふうにみづきさんは頷き、じゃあなぜ、とぼく問うより早く、真面目な面持ちで言った。

「これはな、写真入り年賀状を作成するための装いだ」

「は、はあ」

 せっかく着たから見せにきてくれたってことかな、ていうか、それ以前の問題として女官候補って年賀状作らなきゃなの……?

 そんな疑問は、みづきさんが次の瞬間きれいに吹き飛ばしてくれた。

「さあ、さっさと作成してしまうぞ、仙太郎」

「……え?」

「いくら人付き合いの狭いお前でも年賀状くらいは送るのだろう? さあ、私を被写体として年賀状を作成するがいい。羽根つきでも毬つきでも凧上げでも何でもしてやるからしてさっさと写真を撮れ」

「え、ちょっと待って」

「年賀状はこの通り、インクジェット用のを五十枚準備した。作成ソフトはノートパソコンに入れてある。準備万端だ」

 当たり前のように張り切っているみづきさん。

 ていうか、みづきさん被写体に写真入り年賀状を作成して、ぼくは送り先に何と説明したらいいのでしょうか……?

「何をぼーっとしている。最高の被写体になると皆申して送り出してくれたのだぞ」

「いや、僕はみづきさんのことを何て送り先に説明したら……」

「自分の主だと事実を告げればよいだろう。さあきれいに撮れよ、仙太郎」

 そうして五十枚、間違いなく美しいみづきさんの写真入り年賀状を作成してしまったぼく。

「さぁ、宛名を書け。投函してきてやろう」

 ……一応、こそっと、友達の妹ってことにしたけれども……。

 年明けが、怖いです。

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