(15)きーこーえーなーい(みづき視点)

 私のしもべ、高橋仙太郎はおおむね人の好い男だ。

 気は弱いが、その分素直な気性で、いつも穏やかに笑んでいる。

 ごくたまに怒ることもあるが、道理は弁えていて我を押し通すことなどまずない。

 まずないのだが――


「仙太郎よ、お前、曲がりなりにも大学生であるわけだが、どうなんだ?」

「……どうなんだ、って?」

「世間では学生の就職内定の時期がどうこうなどとそういう話が続いていたりもするようだが、お前自身就職は――」

「きーこーえーなーい」

「……仙太郎?」

「きーこーえーなーい、きーこーえーなーい、きこえませーん」

「ちょ、せんたろ――」

「さぁー明日の朝ごはんの準備でもしようかなぁー! みづきさん白菜の浅漬けとか食べますかぁー?」

「あ、ああ、た、食べるが。その、しゅうしょ――」

「明日の朝ごはんから新米ですよぉー!」

「……」


 ――就職ネタは禁忌のようだ。

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