渡辺ケンとのやり取り、僕らのメッセージ

ポポン。SNSの通知メッセージを伝える電子音が響く。

『チチンプイプイ、醜い青年を魔法使いに変えておくれ!』

ケンからのメッセージだ。

『聞いたんだね、杉田先生の話』

『その通り。俺は偏屈なサッカー少年から、箒にまたがる魔法使いに、君は偏屈な青年から、杖を一振り子ども達の憧れに。シンデレラストーリーさ』

『馬鹿言うなよ。そもそも子供は大っ嫌いだし、魔法使いだなんて嘘なのかもしれない』

『エルフだもんな』

『違う、そういう意味じゃない』

『どういう意味だっていうんだ?』

『真っ赤なウソなんじゃないかって話だよ』

『・・・というか、杉田先生から聞いたのか?エルフの話』

『うん』

『俺も、杉田先生から聞いたんだ』

『いつ?』

『今日。陽が落ちるまで話が続いた』

『えっ?』

僕がコーラを揺らし、図書館棟を出たころ、あたりはすっかり暗くなっていて、陽は確実に落ちていた。

そしてそれは今日の話だ。

『お前はいつ聞いたんだ?』『今日』

僕は思わず一瞬で返した。

『今日だよ。今日の夕方。』

『・・・魔法使いにはなんでもアリだな』

『きっと、そういうことなんだろう。』

『どこで聞いた?』

『図書館棟の書庫別室』

『そこは違うな。俺は第二小会議室だったから』

『あそこか・・・、新取調室』

『そう。お前と別れて、昇降口に向かっている途中で、学年主任に呼び止められたんだ。一対一で話すのなんて、部活辞めた時以来だったから、まあまあ驚いたよ。』

『うん』

『で、なんかやっちまったかななんて不安に思ってたらさ、小会議室に連れてかれて、最近はサッカーやってるのかとかいう世間話さ。そのあと、杉田先生が話したがってるそうだとか言ってさ・・・。』

『それで、エルフの話したのか』

『そう。』

『君はどう思う?信じるか?』

『お前は信じられないんだろうな。現実的だもの』

『僕は信じられない。ファンタジーは現実に存在しちゃいけないんだ』

『俺は・・・。』

『君は??』

『俺は、幼稚な考えで悪いけど、信じがたいという一方で、あってほしいという願望があるんだ。そういうファンタジーが、社会の裏側で起こっていてほしいとどこかで願ってる。うん。そうなんだよ』

『だからこそファンタジー。どこかにあって欲しい、だけど現実的には存在しない』

『もっと頭柔らかくなれよ。人間はこの世界のこと、知り尽くせたわけじゃない。わかんないことで一杯なんだろう?そのひとつだよ。そのひとつが、表に出るまいと戦ってるんだ。』

『戦ってる?違う。出るのが恥ずかしくて仕方がないんだよ。なにせ、知性がないんだから』

『お前の言いたいことはわかる』

『わかってるのか?本当に』

『そのつもりだけど』

『僕たち、馬鹿にされてるんだぞ?馬鹿にされるより酷だ。お前は動物だ。動物と同等なんだ。そういわれてるんだぞ?僕らは、名誉のへったくれも保障されない』

『代わりに、魔法を得る』

『どうしたんだよ?そんなにサッカーでセコいことがしたいか?』

『違う。そんなつもりじゃない』

『・・・ごめん、それは言い過ぎた。だけど、この話を心地よく迎え入れられる気がしない。そういうことなんだよ。』

『わかってる。俺だって』

・・・少し熱が入りすぎた。

ケータイを手に取り、窓を開けてベランダに出た。

夜風が心地いい。

普段なら、冬のこの寒さに耐えかねてすぐに部屋に戻ったかもしれない。しかし、今日の僕はそんな気分にはなれなかった。

あまりにも、情報が大きすぎる。質においても、量においても。

『なぁ、ところで、訓練すれば、動物とコミュニケーションがとれるんだってよ』

ケンがメッセージを送ってきた。

『それは初耳だ』

『杉田先生が言ってた。それが、ユートピアで行われていた原始的な会話だって』

『へえ・・・。』

『動物が何考えてるか、って非常に興味深くないか?』

『確かに。本当ならね』

『信じろよ、まあいいけどさ。魔法教室の先生、誰だか知ってるか?』

『知らないけど、どうせ杉田先生なんだろ』

『ちがう。聞いてびっくり、南条先生だ』

僕は思わずため息をついた。

杉田先生にケンに南条先生・・・。

どれだけエルフが増え続けるんだ?以外に、世界中にいっぱいいるんじゃないか? 

一度東京でお茶会を開けばいい。きっと、何日間かにわけて開催しなければならないほどいるんだ。

お茶の量は、東京ドームは何杯分必要なんだろうか。

『まったく、エルフだらけじゃないか。僕と杉田先生だけならまだしも、君に南条先生・・・』

『その通り。俺もあの学校の中じゃ、俺と杉田先生だけだと思った。だから君の名前を聞いたとき、すぎくびっくりした。世界は狭いな』

『エルフの世界が広すぎて、案外多くの人がそれに当てはまるのかもしれない』

『そうなのかもしれない』

『とにかく、今日は僕寝るよ。明後日直接会って、その時ゆっくり話そう』

『いいよ、俺も眠くなってきたんだ。おやすみ』

『おやすみ』

ケンの既読通知がついて、しばらくたっても返信はこなくなった。

彼には寝るといったが、僕に寝る気はない。というか、眠気も起きない。

なぜか。それは未だに納得がいかないからだ。

考えを整理しても整理しきれない。僕の思考回路は発散していくばかりだ。

僕はエルフ。知性のないことを証明されしエルフ。魔法が使えるかもしれない。野性本能の一部として。

まったく、わけがわからなかった。


  今でも、わけがわからない。

  きっと、理解できる日は永遠に来ない。

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