第11話 ▲天使長ミカイール

 アマネセルは石畳の薄暗い廊下を裸足で走っていた。満身創痍だったが、かろうじて足を動かす事ができた。しかし、走っても走っても迷宮を抜け出せない。ラビュリントスはどこまでいっても脱出できなかった。廊下に人の形がうずくまっている。こんなところに。アマネセルは警戒する。一人や二人ではなかった。無数の老若男女たち。だが彼らは疲れきり、その場にうずくまり、壁に寄りかかるので精一杯という格好で、彼らを避けて通るアマネセルに誰一人注視しない。逃げてきたのか。突然、目の前に眩しい外の景色が開けた。どうやら脱出できたらしい。だが、暗い所に居たため、目が明るさになれない。立ち止まり、次第に眼が慣れて来ると、目の前の街が海中に没し、海に沈んだがれきの中に壊れた家々が横たわっている。石造りの建物ではなかった。ほとんどは木製のようだ。死屍累々。ここは……一体、どこなんだ。アマネセルはともかく戸惑うしかなかった。ラビュリントスじゃない。バラバラバラ……という音が空から響き、上空をヴィマナとは全く異なる乗り物が飛んでいた。それは、まるで巨大な金属製のイナゴのようであり、上部に着いた幾枚の回転する羽が浮力を生み出していた。

 突然眩い光が視力を奪った。地平線で巨大な太陽の様な爆発が起こった。アマネセルは絶叫もかき消されたまま、一瞬で焼け死んだ。


 ハッと目が覚めた。じとっとした薄暗い部屋のベッドの中で、アマネセルの身体はまだ横たわっている。入り口を見やると音もなくドアが開き、後頭部から光輝く交輪を発したアトラス帝が入って来る。王冠を乗せた長いブロンドの髪、あごひげ。まさしくそれは大帝だ。青い瞳。慈悲深いまなざしでアマネセルを見下ろしている。憐れんでいるような悲しみに満ちた目だ。

「父よ……、なぜ死んでしまったのですか」

「死んではいない。私は別の周波数帯に移行しているだけだ。父さんたちはまだそこで生きている。それが『シャフト』の本来の意味、すなわち次元上昇だよ。お前がソプラノ・マントラで目指した領域だ。今、私たちは聖白色同胞団とともにいる。だから私たちのことは心配せず、お前は自分のなすべきことをやりなさい。憎しみを乗り越えるものは、結局赦ししかない。でなければ憎しみの連鎖が延々と続く。我が娘よ。お前の中に火が宿っているのが私には見える。思い出しなさい。お前の中の火を世の中に灯すのだ。その火を決して絶やしてはいけない。その火を人々に分け与えて希望を未来につなげるのだよ。どうか勇気を出して。くれぐれも、私たちは消えたわけではないのだと。いつもお前とともにいるからね。そのことを忘れずに」

 ハッと気づくと父は消え、ドアは開いていない。


 夢か……。


 その部屋は、色とりどりのタイル美術や宝石で埋め尽くされている。モノトーンばかりが続く迷宮内で、この部屋だけ鮮やかだった。意匠を凝らした七宝の装飾がちりばめられた部屋の天井から、巨大な朱塗りの円柱が無音で不気味に浮かんでいる。

 アマネセルが幽閉されているこの「七宝の間」は、ラビュリントス構造の最奥に位置し、カンディヌスが到着する以前に、シクトゥス議長が自身で仕掛けていったトラップが作動していた。

 もし誰かが不用意にドアを開ければ、赤い円柱は姫めがけて落下する。

 頭上の赤い円柱を眺めながら、アマネセルは一切身動きが取れない状態でベッドに横たわっていた。白かった肌は満身創痍で、両手両足を拘束され、姫は全く動く事ができない。それは拘束のせいでもあったが、体力を著しく消耗した為でもある。

 身動きが取れないので、アマネセル姫は様々な想いを巡らすより他にする事がなかった。処刑された父母の事、脱出した兄の事、殺された数多くの仲間達、そしてとん挫した情熱党……。これまでの事、短い人生、そして、滅亡に向かって突き進むアトランティス帝国の行方。かつて歴史上に起こった大惨事、第一、第二の大洪水と全く同じ事が起ころうとしている。愚かしいアトランティス・シャフトによって、まもなく国土を完全に破壊する第三の大洪水が迫っている。このままでは残されたアトランティスは跡かたもなく沈む。しかし愚か者たちは、滅亡の道を地震の足で歩んでいるのだ。だが、自分もその一人だ。

 あぁ……早くアアルに還りたい。

 アアルとは天国の名称である。

 ベッドの傍らに白い巨大な翼が出現した。大白色同胞団の一柱たる天使長ミカイールの巨大な翼だった。部屋の中は純白の光で満たされた。「ラ・アンセム(創世神賛歌)」で物語られている、太陽神から遣わされた大天使は、人間が原初の楽園・ヱデンを追放されて以来、悪に陥りやすくなった後も見捨てず、歴史上常に善導する役割を担ってきたという。世界を破滅させるアポフィスと、旧神パワーズと共に最前線で闘う熾天使とも言われている。アマネセルは、十歳の頃に初めて大天使ミカイールと出会った。それ以来ずっと会話を続けてきた。しかし、アマネセルはミカイールを、妬めしげに一瞥した。

 帝の処刑から今に至るまで、幼馴染の大天使は姿を現さなかった。なぜ今さら、こんな時に。一体、陛下が殺された瞬間、何をしていたのか。

「間もなく救助隊がここへ来る。私が彼らを呼んだ。だから、決して希望を捨ててはならぬ」

 と言った。大天使はアマネセルに、上は上で忙しかったのだと云う。ようやく具体的に通信するまで手筈が整ったという話だった。大天使はここへ姫が移され、なおかつ無人になるチャンスを作った。一方で同じ大天使のガブリールはソプラノ・マントラ計画のツーオイの「受胎告知」以来、姿を見せていない。

 しかし助けてくれたところで、もうこの国は手遅れだ。一体どうするつもりなのか? アマネセルの頭は皮肉でいっぱいになっていた。

「そなたには今一度、働いてもらわねばならぬ事になっている。この物事が極みに極まった時、今こそアトランティスは、そなたの力を必要としている。救出されれば、希望をつなぐ事も不可能ではない」

 アマネセルは力なく首を横に振る。アマネセルにとって、情熱党こそ戦いの全てだったはずだ。それに敗れた時、自分の人生は砕け散った。父の上からの革命をバックアップする意味で、全力で戦った。それを大天使は、ただの前哨戦だったとでも言うつもりか。到底承服できない。あれほど全てをかけていたものはなかったのに。しかし、ミカイールは熱弁を続けている。

「何を弱気になっている! 私との約束を思い出せ。こういう時の為にバックアップの計画があったのだぞ! もともと今回の失敗を見越して、我々は万が一のバックアップの計画を用意していたのだ。それを成すには今すぐそなたが立たねばならない。でなければ時が尽きる。今こそ、そなたが中心となって立ちあがる時だ。その時が、来たのだぞ。よいな? 皇帝亡き後、この国を救うのはそなた達なり。それ以外にはこの国に誰も残されていない。これからが本当の勝負の時だ。アトランティスにはまだ、そなたたちが残されている。いいかアマネセル・アレクトリアよ! 今こそそなたの出番であると思え」

 アマネセル姫のミドルネームのアレクトリアは、アレクトロス大帝から来ている。アトランティス初期の大怪獣時代に、アトランティス全土を統一した帝。その城は現在、城跡が残るのみで、寂れている。歴史上、大帝と呼ばれるのは三人だ。アレクトロス、クロノス、そしてアトラス。アトラス大帝は、皇帝家が形骸化してから久しぶりの大帝と呼ばれる人だった。

 そのアレクトリアが着けられたのは、兄が幼少のころ優しい性格だった為で、男らしさをも一身に引き受けさせられたのだった。しかしその兄も、長ずるにしたがって次第に男らしくなっていった。

 大天使は情熱党の失敗には一切触れなかった。それは死にかけた自分の生命の灯が消えないように、その光を灯そうとしているようだとアマネセルにも思える。だが、やつれはて、気分も沈んだアマネセルにとって、ラッパの様に力強く励ます大天使の声はぼうっと聞く他にない。

「もう、疲れました。疲れたんです。どうかミカイール。私の事を放っておいてもらいたい……」

「そなたの人生はまだまだこれから。まだ終わった訳ではない! 帝が点火された火は、人々の間から、消えたわけではないのだ。まだ彼らの胸の中に煌々と輝いている。それを我ら聖白色同胞団が見捨てる事は、決してできぬ! その人々の火が消えぬうちに、そなたには行動を起こしてもらわねばならない。もちろんそなたの中にも、依然として煌々と燃えている灯が、私(わたくし)には視えている。その火は、よいか、大きな爆発を起こす点火の火だ。この闇世のアトランティスにな」

「……」

「そなたは弱気になりすぎている……。あれほど情熱党の時に燃え上がったそなたが」

 だから、あれ以上に燃え上がることなどできそうにないというのだ。全力で戦ってきたのに、簡単に言ってほしくない。にも、関わらず天使長はラッパに似た朗々たる声で説得を続けていた。

「自らの中に眠る無限の、爆発的なエネルギーの火をともせ! さすれば世の人々の心の中に、再び火が灯るであろう! その事を信じよ。イメージを描け。我らの言葉を信じよ。アマネセルよ、こらから集いし仲間を信ぜよ。仲間たちと共に燃え上がれ! このアトランティス再興の夢の為に」

「そんな力は、私にはない。自分は今日のアトランティスの状況に、非力だと悟った。つくづく。仲間はみんな死んでいった。父や母のような力もなく、兄もいない。情熱党も失敗した。今の私には……何もない。何も期待しないでほしい」

「このままでは、アトランティスは滅びてしまうのだぞ! そなたは、それが分かっていて、あの者たちを、むざむざ見捨ててよいというのかッ! 我らは決して見捨てぬ。地上に神の子供たちが残され、闇の中を、泥の中をはいずり回り救いを求める声がアアルまで聴こえて来るのだ。我らは彼らを決して見捨てぬ!」

「……どんなに。どんなに、神が……皇帝陛下を……父を通して、この国の者たちに語りかけても、あれほど熱狂的に支持してくれた人々は、あっという間にシャフトの言う事を信じた。たった一日。たった一日だけで。そして今や、誰も神の言葉に耳を傾けることなく、滅亡に突っ走っている。それならば、いっその事こんな国は、滅ぼしてしまえばいいのです」

 大天使の叱咤激励を、アマネセルは黙って聞いていたが、ようやく絞り出すように口に出して反論した。実際には、ほとんど蚊の鳴くような声だった。大天使は、聖白色同胞団は、一体なぜ帝と皇后を助けてくれなかったのだ。なぜ天はここまでアトランティスを見捨てたのだろうか。

 すると大天使の気配は遠のいていった。今度は、部屋の中は青い光で充満した。アマネセルは碧眼を見張った。皇后アルメルダ。ブルーマザーと呼ばれた母。

「……は、母上!」

 青い衣をまとった不老のマザーは長い金髪の髪をゆらし、長いまつげの切れ長の目でじっと娘を見下ろしていた。

「兄は……アメン皇子は? 一体どうなったのですか」

 エジプトに脱出したというが、地中海への巨神の柱は、タルテッソスの要塞都市ガデイラが海峡封鎖していた。単機の飛行船で無事で済むであろうか。

「お前の兄は生きている。彼には今、カブリールが通信している。兄のことは安心なさい。兄はエジプトでアトランティスの遺志を残すでしょう。アトランティスの神の掟の知恵、ラーの奥義を残すために神の掟の子らは分かれる必要があるのです。そこに新しい国が建設されます。そこに新しい文明が誕生する……。それは彼の役割です。今生、生きて会う事はないかもしれない。けどお前はこの国で、どうか私と陛下の意を最期まで人々に伝え続けてほしい。決して諦めることなく、仲間たちと共に。お前は一人ではないのです。ミカイールの言う通りに」

 それが死んだ母の遺志なのだ。アメンは、果たしてエジプトでヱデンを見つけるだろうか。アマネセルにそんな想いがよぎった。

「あなたなら、私と陛下の無念さがきっと分かるはずです。……アマネセル」

 優しく、娘を慰めてくれるものの、アマネセルはまた沈黙した。ブルーマザーは、大白色同胞団はずっと援助してきるのだと訴えてくる。しかし母の言葉でさえ、正直にいってアマネセルは半信半疑でしか聴く事が出来ない。

「まだ我々も諦めてはいません。まだアトランティスは滅んだ訳ではないのですから。今は辛くとも生きるのです……生きていればこそ、夢をつなぐ事ができるのです。あなたには、この国の人々に対する責任がありますよ。全ての民を導く、それが皇帝家の者の責務です」

 再び疑問がふつふつとわき上がってきた。アマネセルには母に聞かなければならない事が多々あった。

「もう時間です。彼らが到着しました。どうか仲間を信じて」

「い、行かないでください、母上ェ!!」

 ハッと、アマネセルは目覚めた。外に人の気配がする。それほど多くはないが、何人かの声が聞こえた。……よくぞここまで助けに来てくれた。アマネセルは安堵に包まれると同時に不安を抱いた。うかつにドアを破壊すれば、頭上の円柱が自分の身体の上に落ちてくる。しかし、アマネセルは声が出なかった。必死で声を出そうとするのだが、さっきは思念の会話で、結局声は出ていなかったらしい。


「どうも不思議だ」

「何がだ?」

「いや……『ホルスの眼』はやはり最初から迷宮を解く『糸』のようなものを見つけていた。つまり、ホルスの眼が探していたのは、ずっと『糸』だったんだ。だから同じところを堂々巡りした結果になった訳だが。最初から姫の部屋を探した訳ではない。堂々巡りしつつ、糸を探し出した。それで私はこの部屋までたどり着く事ができた。私が単にホルスの眼を操作しただけでは、こんな短い時間で迷宮を解く事はできない」

 ホルスの眼は、後の世のカメラ付ドローンのような魔術である。

「では、それが最初から張られていた迷宮を解く糸か」

「……やはり、以前に誰かがここに遺したとしか考えられない。シャフト以外の誰かが」

 「糸」についてオージンが考えると、あのラピスラズリの瞳を持った少女の顔が浮かんでくる。

「確かにヱイリアだな」

「鍵がかかってる」

「当然ですね。自動警備システムは完全に解除した訳じゃない」

 とインディックが何気なく言った言葉が周囲には皮肉に聞こえる。

「俺の拳が鍵だ。下がっていろ!」

「待て待てライダー。姫が幽閉されている部屋だ。それなら巧妙なトラップが仕掛けられているに決まっている」

「さっきの奴がまだいる、というのか?」

「いいや違う。元からこの城にあったものだ。この宮殿はトラップだらけだ。しかもこの部屋は、一見して何もないように見せかけて作られているが……」

「調べてみましょう」

 ライダーを制したオージンに代わって、インディックが進み出た。ドアは何の変哲もないぜい弱なものだったが、微かな異変に若きマギルド科学者は気付いていた。もともとあったものに、シャフトが仕掛けを付け足したらしい。

「トラップは確実に作動している!」

「オージン、もう一度『ホルスの眼』で透視してくれないか?」

 ライダーがホルスの眼を頼る。

「姫は今……、ベッドに横たわっている。だがベッドの上には、赤い円柱が宙刷りになっている!」

「一体何だ、それは?」

「これが問題だ。うかつに開けば、姫は天井からつるされた円柱につぶされるだろう」

「やれやれだ。危ないところでしたね」

 インディックは目をひそめてライダーを見た。あやうく、ライダーが念動力で破壊するところだったからだ。

「で、一体どうするんだ? 朝まで待ってたら、敵が大部隊を率いて戻ってくるのは確実だぜ」


 廊下から盛んに議論する声が聞こえてくるが、彼らは一向にドアを破壊する気配がなかった。どうやら彼らは、トラップの存在に気付いたらしい。軽率にドアを開けずに、話し合う声だけが聞こえてくる。聡明なグループだ。アマネセルはほっとした。

「一旦電力を解除してドアを開けます。その間に、こっちの携帯充電器に接続する。しかし、ドアが開き電力を切るとすぐさま円柱が落ちて来るため、その間はどうしてもライダーとオージンの二人が念力で円柱を浮かせる必要がありますが」

「そういう事か。しかし小僧、その仕事は俺一人で十分だぞ。オージン卿はちまちまクリスタルを飛ばすのに忙しいらしいからな。他の連中と共に姫を助け出せばよい」

「こんな所で意地をはるな。もし姫がつぶれたら、貴殿一人で責任を取れるのか?」

「フン! ならオージン、とっとと術をかけろ。俺はすでにやっている」

 オージンとライダーは、初めて協力的に念動力を使い、朱塗りの円柱を持ちあげた。ライダーには視えなかったが、確かに手ごたえを感じる。その間、インディックは、トラップを外す作業を行った。

「インディック、まだなのか?!」

 オージンが叫ぶ。ドアの向こうの円柱はどんどん重みが増していくように二人には感じられる。

「任せてください! もう少しです、この際お二人で仲良く念力トレーニングだと思って耐えてください。語り草にして後で親睦を深めてみては?」

「小僧、何を馬鹿な」

 ライダーが叫んだ瞬間、インディックは無事トラップを外すことに成功し、ドアは自動的に開いた。すぐに携帯電力に回線をつないでいく。

「よし終わったぞ!」

 オージンを先頭に、救助隊は姫の横たわるベッドへ駆けつけ、ベッドの拘束具を取り外し、部屋の外に出す。その痛ましい姿に、オージンは跪いた。

「これは……!」

「どうかしたか」

 ライダーは姫の様子を観察するも、オージンが何に気づいたのか分からない。

「足に呪いが仕掛けられている」

「なんだと?」

「足止めの呪いだ。姫が活動しようとするのを阻止する。シャフトに逆らった働きをするとき、体にロックがかかるんだ。敵は姫の身体に、呪いを撃ち込んだのだ」

「取れるのか」

「……今は何とも。姫は歩けないだろう。もしかすると危険かもしれない。後でゆっくり調べるとしよう」

「分かった。まずは安全な場所に脱出してから対策を考えよう」

「遅くなりました姫。もっと我らが早く行動していれば……」

 オージンは悔しさに歯ぎしりし、涙をにじませる。アマネセルはうっすらと笑った。やはり声は出なかった。

「急ぐぞ! きっとさっきの男が通報したはずだ」

「……いや、ここからは誰も出ていないはずだ」

 オージンは言った。『ホルスの眼』で索敵した結果である。

「だが、烏が飛び立った」

「烏? 誰かが逃げ去ったから、烏が飛んだんじゃないか」

「いいや、監視していたが、この館からは誰も出ていない。烏以外には」

「烏なんぞどこでもいる」

 烏はアトランティスで最もよく見る鳥である。

「しかし、シャフトが異変に気づけば連中はすぐ戻ってくる。もう詮索はいい、行こう」

 ライダーは姫を背負った。

 裏口から脱出すると、ちょうど水平線から昇ってくる赤い太陽が見えた。朝日は、彼らの顔をオレンジ色に照らした。朝日は姫のやつれた体にエネルギーを満たしていった。

「これで我々は天との絆を取り戻せるな。つまり、アトランティスを再興できるという事だ」

 オージンの胸の中は新たな決意で満ちていた。だが姫を救出してみると、ここに駆けつけるまでに、あまりにも時間がかかってしまった事が分かる。姫は、もう少しで衰弱死していたところだった。刻一刻と、時間が過ぎるごとに姫の体力は奪われていた。それに姫に仕掛けられた呪いの存在。一刻も早く姫の身体を休めなければならない。

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