番外編 シロの裏側なんてありません……たぶん。

従兄のリサ兄様がやっぱり従姉のクレハ姉様に捨てられたってきいたの。

迂闊街道まっしぐらなの。


王宮に緊急呼び出しされたので放課後にとりあえず顔出したの。

フキイロ伯母様の執務室に顔出してみるの。


「フキイロ伯母様、リサ兄様は? 」

「シロちゃん、迂闊男は屋上でたそがれてるわよ」

フキイロ伯母様が端末から顔をあげた。

「ありがとうなの」

「シロちゃんになぐさめられるなんてうらやましいわね」

「フキイロ伯母様もおつかれなの」

私は伯母様を見上げたの。


シロちゃん〜あの残念な弟と迂闊な義妹の子なのになんて可愛いの〜とフキイロ伯母様に抱きしめられたの。


なんとか脱出して屋上に上がったらリサ兄様が柵にもたれかかってたそがれてたの。


「リサ兄様、大丈夫なの? 」

「シロさん……シロさーん」

リサ兄様が足早に近づいてきたので避けたの。

銀の長い髪に青い目の美青年でも突撃されたら痛いから嫌なの。


シロさんひどいとリサ兄様がうるうるした目でみた。


「クレハ姉様になんで捨てられたの? 」

「見解の相違です」

リサ兄様は目線をそらした。


結婚秒読みだったのにどういうことなの?

話すのとリサ兄様に圧力をかけた。


渋々リサ兄様が話しだした。


今日もリサ兄様……ブルー・ルリーナの王太子殿下は愛しの従姉妹のクレハ姉様に執務の補佐をしてもらってたの。


午後になって一休みのお茶の時にある情報を得たリサ兄様がクレハ姉様に話を切り出したの。


「そう言えば、クレハの友達婚約したそうですね」

内心ドキドキしながらリサ兄様はルリ茶を飲んだ。

「苑夜ちゃんの事? 確かに婚約したって聞いてるけど、何で知ってるの? 」

クレハ姉様がビックリした顔したそうなの。

「苑夜さんも婚約したんですね」

掴んでたのは別の婚約のことだったのセントリニアの王太子殿下の婚約者さんもクレハ姉様のお友達なんだって。

「クレハも私も仕事ばかりでそう言う出会いがありませんね」

クレハ姉様の美しさに内心見とれながらリサ兄様は微笑んだ。

「クレハ・ブルー・ルリーナ・アルファンガス・宇水」

正式な名前を呼んでクレハ姉様の注意を向けて

「とりあえず、私と婚約してみませんか? 」

ここでつまづいたんだって。


とりあえずはまずいの。


「とりあえずですって!? 」

何よ、その怪しい勧誘みたいなプロポーズ!

とクレハ姉様が叫んで止める間も無く菓子袋を切るためにおいてあったハサミで王位継承権がある印の長い銀髪をバッサリ切ったそうなの。


「クレハ?何を!? 」

「お断りしますわ、王位継承権も破棄致します、仕事も辞めさせていただきますわ」

美しい銀髪を風の魔法で吹き散らしながら極上の鬼気迫る笑みを浮かべてクレハ姉様にふられたそうなの。

「いったい、どこが気に入らなかったんですか? クレハ? 」

慌てて言い募ったけどクレハ姉様は荷物をまとめてザンバラの髪をルリ焼きのお店の『ムギット』でもらった手拭いでかくしてすくっと立ち上がったの。

「辞表は、のちほど郵送致します、リサ王太子殿下! 」

オロオロしながら、クレハ姉様の髪の毛を拾い集めてる間に笑みをそのままにクレハ姉様は王宮を出ていったらしいの。


「……とりあえずは駄目なの」

「わかってます、でもこれくらいで捨てられるなんて……」

リサ兄様が屋上のベンチにうなだれた。

「クレハ姉様に謝るの」

「許してくれるかどうか……」

「押して押して押しまくるの」

お父様がそうやってお母様を落としってきいたの。


シロさん……やってみます。

リサ兄様は立ち上がって階段を降りていったの。


頑張るの。


王宮の庭はいつでもきれいなの。

たぶんあそこで庭仕事してるの。


「元祖残念王子直伝の方法で大丈夫なのかなぁ」

帰りにリサ兄様の弟のハナ兄ちゃんのところによったの。

ハナ兄ちゃんは案の定庭仕事してたの。


元祖残念王子ってお父様の事なの?


「残念元王子です、シロまで呼ばれたんですか? 」

銀の短い髪に緑の目の美男子なお父様が顔を出したの。

「お父様とそっくりの私も残念なの? 」

「シロは天然ですね」

お父様が私を抱き上げた。


神族が強い私の成熟度はすごく遅い。

白金様とよく似てるって言われてるの。


白金様はうーんそれよりあの子のちっちゃい頃と似てるって遠い目してた。


あの子って誰なの?


本当はお父様と白金様が似てるから私もにてるの。


「まったくたかだか当代残念王太子が失恋したくらいでうちの可愛いシロを呼び出さないでください」

「その残念王太子が失恋して失踪したら僕にその地位が押し付けられるじゃありませんか」

シロさんしかなぐさめられそうにありませんしとハナお兄ちゃんが私の手を握った。

「何なの? 」

「シロさん、お願いします、クレハさんを説得してきてください」

ハナ兄ちゃんが頭を下げたの。


だから、うちのシロを巻き込まないでくださいとお父様が顔をしかめたの。


コノハお姉ちゃんに聞いてみるの。


懐から子ども端末を出した。

コノハお姉ちゃんにメールするとすぐに返事がかえってきた。


「リサ兄様、行動速いの」

「現残念王子はもうアルファンガスの屋敷に行ったのですか? 」

逆効果ですねとお父様元祖残念元王子が人の悪い笑みを浮かべた。


そうなの?

私が小首をかしげてるとクレハ姉様からメールが入った。


『シロさん、私は失踪します、落ち着いたら連絡するから遊びに来てくださいね』

わーん、リサ兄様〜まずいの〜

『クレハ姉様がいなくなったら寂しいの』

『私もシロさんと会えなくなるのは寂しいけど……女にはけじめをつけなければいけないことがあるのです』

メールを返したら速攻で決意表明が帰ってきた。


リサ兄様〜ごめんなさい〜逆効果だったの〜。


「お父様、私、クレハ姉様止めてくるの」

「痴話喧嘩は犬も食わないといいますよ」

だから帰りましょうとお父様が私を抱き上げたまま歩き出した。


そうなのと思って放置したらその後クレハ姉様は異世界紫世界のルーリーナ魔王国と言う国の女王様になっちゃったの。


そして素敵な旦那様を見つけて結婚してたの。

リサ兄様は完璧に捨てられたの。


ごめんなさいなの〜



王宮のー廊下をお父様に抱かれたまま歩いてると向こうから見覚えある人が来たの。

「リカ、大事件です」

「セレ、その件は犬も食わぬことなのでほっておきましょう」

「お母様〜」

私は母様に手を振った。

シロ最終兵器まで引き出したんですね」

母様がうつむいて目をおおった。

「王太子殿下付のセレがいない間に現残念王子はやってしまったようです」

私だって一年以上かけたのに生意気にも短期決戦したからですよと父様が鼻で笑った。


ああ~もっと早く帰ってれば仕事が減ったのに~と母様がぼやいた。


王太子付きの政治官の母様は踵を返そうとして父様に襟首を捕まえられた。


「セレ、リサはもう役に立たないので帰りましょう」

「そうして明日から残業三昧十倍部屋はいやー」

母様がじたばたしだした。


十倍部屋行くとバイオリズムが狂うのよーとよくわかんないことを叫ぶ母様の腰を抱いてそれは大変ですねと父様がニコニコと家に歩き出した。


元祖残念元王子強しなのー。



次の日ヘロヘロな母様が空が黄色いですとよくわかんないこといいながら仕事に行ったの。

その後ろをつやつやの父様がセレ危ないですよとついていったの。


相変わらずラブラブなのと思いながら学校に行ったの。

休み時間の教室でお友達に話したの。

「と言うことがあったの」

「この残念姫……」

リンダちゃんがビヨーンとシロのほっぺを伸ばした。

「いひゃいにょ」

「いとこ王子の恋路を爆破したくせに」

ばくひゃなんてしてにゃいにょ〜と私は抗議した。

「シロタエちゃんは天然すぎる」

手を離してリンダちゃんがため息をついた。

「いつか自分が落とし穴におちるんじゃねー」

ソラリス君がシロの頭をポンポン叩いたの。

落とし穴には落ちないの。

「因果応報とも言うのよ」

ティアちゃんがシロはおバカさんねと指を振ったの。


十数年後……私はまさに天然のせいで落とし穴にハマりまくり因果応報受けまくったのは別のお話なのです。


「シロ、頑張ってクレハお姉ちゃん探すの」

「美しすぎる王太子付上級政治官クレハ姫まで爆破? 」

ティアちゃんがツンとシロの鼻の頭を突いた。

「美しすぎる上級政治官ってクレハ姫にピッタリだな」

「本当にでもシロちゃんのいとこよね」

ソラリス君の言葉にリンダちゃんがうなづいて私を見た。


容貌だけなら超美少女だけどなぁとソラリス君も私を見た。

銀の足元まで綺麗な直毛に緑の目……二重まぶたにバサバサのまつげの人形みたいな綺麗な少女が口を開けば残念姫とリンダちゃんはため息をついた。

王家のデフォルトの残念姫だからねと楽しそうにティアちゃんが笑った。


美しすぎて超残念すぎるのがうちの国の王族だよなとソラリス君がシロを上から下まで見たの。


クラスのみんながうなづいたの。

ひどいの〜。


でもシロ考えてみれば王族じゃないの。

お父さんは元王子なの貴族なの。


だから残念王族に入らないのと言ったらみんなに生暖かい目でみられたの。


どうしてなの〜残念貴族ってなになの〜。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

華やかな王宮の裏側なんてこんなもんです。 阿野根の作者 @anonenosakusha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ