番外編 パンツ王子の華麗なる外交? の裏側

ブルー・ルリーナ王国の第三子な第一王子はパンツ王子と呼ばれている、別名は残念王子である。

……主に自分の執務室の面々と大事な婚約者にそう思われていることは自覚しているかどうか謎である。


窓を開けても風一つない夏の日差しにひまわりが高々とさいている。


ブルールリーナ王宮の一室リカ王子殿下の執務室は今日も忙しそうである。


「暑いですね」

リカが汗を拭いた。

パンツ王子と呼ばれても一応くさっても王子である。

執務室ではきっちり……していないようである。

「リカ王子、なんというか……Tシャツに短パンってどこのおじさんですか……」

新人ががっかりしたように言った。

美しい銀の髪をポニーテールにゴムでまとめて緑の瞳で端末に書類入力している王子殿下はその麗しさ半減のTシャツ短パン状態だった。


Tシャツには瑠璃の森にようこそという文字と瑠璃の木の下で憩うデフォルメされた羊が何故か描かれている。


「冷房費節減です」

麗しい王子はエコボトルの瑠璃ハチミツ水を飲んだ。

クールビズなのかみんなTシャツだったり短パンだったりしている。

「新人、こんなもんだあきらめろ」

ポンと新人の肩を政治官エアリが叩いた。

そんな彼も瑠璃魂と書かれたTシャツと紺の短パンだ。


ちなみに今年の新人は女性できっちりリクルートスーツっぽい正装をしている。


これが世継ぎのフキイロ王女のところであれば急な来客もあるので多少の服装の制限があるのだろうが、ここはそこよりゆるいのだ、夢をみてはいけないのである。


「新人さんがビックリするのでもう少しきちんとした格好してください」

セレスト・フェリア政治官がちらっと見た。


彼女は白の半袖ブラウスに紺のボックスの膝丈キュロットなので比較的まともな格好である。


「忙しいんです、王都花火大会があるのしっているでしょう? 」

パンツ王子がるりるりという文字とミニスカートのアイドルが描かれたうちわで扇ぎながら警備計画を見ていた。


イベント系があると忙しいのである。


「しってますよ、ムーラア帝国の皇帝陛下のご接待役だそうですね」

やや不機嫌そうにセレストは書類を端末に打ち込んでいく。

私だってセレと花火デートの方がいいですとリカがあわてて言ったがセレストは無視した。


「リカちゃん、ちゃんとそんときは正装でくるんだよな」

窓が開いてだれかが顔を出した、庭師のカナである。

オーバーオールを着て職人風だが父方の従兄弟つまり王妹の息子である。

明らかにリカ王子とにている美青年である。

王妹の息子であるが王位継承条件である長髪ではなく銀の髪を短く刈り上げている。

王妹は庭師に降嫁したからで家業ついでいるのある。

「カナ、僕だってそれくらいわきまえてますよ」

リカがうちわであおぎながら扇風機を机の前に移動した。

書類がヒラヒラ舞って新人があわててひろった。

「おい、ムーラア帝国のお偉いさんがくるってんだろう? しっかりしろよ」

カナが会場装飾用の花の計画書だとファイルを振りながらためいきをついた。


セレストに言われて新人がカナからファイルを慌てて受け取った。


「そうですよ、だからセレと見られなくてがっかりしているんです」

リカは憂いに満ちた顔ため息ついた。

どきっとするくらい色っぽい。

新人政務官エーリィ・イオールが一瞬見惚れた。

「忙しいですから」

当の婚約者、セレストはなれたものである。

「セレ、冷たいですね」

リカが横目でセレを見た。


「仕事が終わればなんとでも」

セレストは無情にいって端末入力に戻る。


セレスト政治官とリカは今一つわからない関係である。

愛し合っているのは確かなのであるが……


「パンツ買ってきてください」

リカがセレストを流し目で見た。

まるで愛の告白のように熱い目である。

「……そうですね、新人さんお願いします、サイズはMです」

セレストはさらりと新人に流した。


忙しいのは皆同じ、忙しくて部屋に戻れない時王宮売店で頼まれたリカのパンツ購入するのは新人の仕事である。


「え?あ、あの……」

新人エーリィとまどった。


エアリ政治官とカナ庭師が哀れんだ眼差しでリカを見た。


リカは恋人セレストに買ってきてもらいたいのである。


「適当でいいです、あ、瑠璃柄以外があったらそれで、これのついでにお願いします」

瑠璃柄飽和状態なのでといいながらセレストは花火大会の警備計画の書類をエーリィに渡した。

「は、はい……」

エーリィは困った顔した。

「……お願いいたします」

ため息ついてリカが微笑んだ。


なんだかんだ言っても美貌の王子である。

たとえ半袖短パンでもまるで花が散るかのようである。


その後ろで書類を書き込んでる婚約中の恋人は完璧に効果がないようであるが……


「さてと、パンツね」

書類を警備課に渡したあとエーリィが呟いた。

廊下の外を見るとカナが庭師仲間とひまわりの手入れをしているのが見えた。

「カナさん、こちらはどうすればいいんですか? 」

茶色の髪の若者がカナに聞いた。

「ああ、新人、それはな……」

カナは説明し出した。


他のところも新人呼ばわりなんだ……

そういえば名前で呼ばれたことないな

どうでもいいことを思いながらエーリィは売店に向かった。


売店は王宮見学可能地区にあるので今日もそこそこ観光客が入っていた。


「いらっしゃい、新人さん」

売店の店主が微笑んだ。


ブルー・ルリーナ王宮にいってきましたクッキー、瑠璃の森せんべいなど土産物が並ぶ隣に王宮に勤める人向けの商品もおいてある。

洗浄符に歯みがき粉…時空保存パックに入った軽食セット、文房具、当然のように下着もおいてある。


しかし観光客の人気は王族の写真がプリントされたファイルや絵葉書でリカのところが入荷待中となっていた。


美貌の王子の実態は観光客にしられてないようである。


「あの……男性用ぱ、パンツ……」

エーリィは乙女である。

さすがに言いづらいのである。

「リカ王子かい? うん、定番の瑠璃柄とこれがあるけどどっちにする? 」

店主がさっしてMサイズのパンツを出した。

定番の瑠璃柄は紫の瑠璃の実が緑地にたくさんプリントされている。

もうひとつは藍色に金銀赤のラメで花火散らされていて第65回王都花火大会と大きくプリントされていた。

「えーと~その瑠璃以外の柄とファリア先輩に……」

エーリィは顔を赤くして花火大会柄の方を指差した。

「あ~セレストちゃんも酷なことを……」

そういいながら店主がパンツを袋に入れた。

エーリィは端末を支払い端末かざした。


「新人ちゃんも頑張ってね」

店主は商品をわたしながら言った。


ここでも新人……エーリィは不思議に思った。

リカの執務室にはいってから新人としかよばれていないのである。


「お帰りなさい」

セレストが冷静に迎えた。

「あの……ぱ、パンツ」

エーリィがおずおずと包みを出した。

「パンツコレクション増えましたね。」

ぽいっとセレストは包みをリカに放り投げた。

「セレ、冷たいです」

なき真似しながらリカが包みを開けた。

いいですね~限定とニコニコしている様子は美貌の王子に見えない。

「あ、あの」

エーリィが口ごもった。

「代金ですね」

片手にパンツを持ったままリカが端末を出した。

慌ててエーリィも端末を出した猫のぬいぐるみ型である。

「……えーと」

画面をみると確かにチャリンと代金は魔ネーウォレットに入っていた。


最近は小銭以外魔化マネーで取引が多いので幻界ゲンカイウォレット、通称魔ネーウォレットの開設は必須であるのだ。


つまり現金取引がかなりの辺境に行かない限りないので魔ネーウォレットをもってないと不便なことこの上ないのだ、店で現金で買い物しても小銭がないのでお釣りが出せず買えない……小売店でよく聞く話である。


「さてと飯にするか、冷製パスタでいいよな」

エアリが備え付けの端末を手にとった。

社員食堂から出前を取るのである。

メニューも常備されていてブルールリーナの主食パスタが各種揃っているようだ。

「冷製瑠璃の実パスタはちみつがけがいいです」

リカがはーいはいはーいと手を上げて主張した。

美貌の王子は実は超がつくほど甘党なのである。

「……却下で冷製旨辛瑠璃パスタでお願いします」

セレストがリカの手を叩いた。

「セレ、冷た過ぎです」

リカがぼやいたのをセレストは甘いものの取りすぎですと一言で返した。


「あのお二人って婚約者同士ですよね」

エーリィがベテラン政治官アルマに小声できいた。

「いつもあんな感じだから気にしないで、何にする? 」

さらっと言ってアルマがメニューをさしだした。

「えーとパスタグラタンにしようかな」

エーリィが指差した途端みんなの動作が止まった。

暑いのに暑いのにグラタン……すごいとエアリがつぶやいてみんななんとなくうなづいた。


「暑いときに暑いものは体にいいんですよ」

みんなの視線を感じてエーリィは微笑んだ。

「チュ、注文済んだし、くるまで仕事だ」

すげえな若者とエアリがつぶやいた。


むしろおばあちゃんの知恵袋的知識といえよう。


「リカちゃん、瑠璃絹の正装は準備してあるのか? 」

「正装、暑苦しくて面倒だよ」

エアリの問に美貌の王子? はぐったり執務机に額をつけた。


ブルールリーナ……またの名を瑠璃色王国は瑠璃の実の産地でありそこここに瑠璃の木の畑が広がっている。


王城の裏には広大な瑠璃の森がひろがっていて瑠璃の森を管理する魔王がすんでいる。


瑠璃の木の実は種は栽培用を残し宝飾用、実は食品としてあつかっていてその皮や葉に含まれる青い色素で染めた布……ことに瑠璃絹は正装に使われる名物で黒と見紛う深い青の鉄紺から白に見紛う薄い水色の月白までその色はたきにわたり美しい。


「見てる分には綺麗ですけどね……着るにはつらーい季節ですよ」

長い重いマントにズルズルした足元丈の長衣〜。

長いこの銀髪さえ鬱陶しいです~と美貌の王子はそのままぼやいた。


「お仕事ですからね」

美貌の王子の婚約者は無情にも追加ですと書類をおいた。


ああ、早くセレも王族にして巻き込みたいと暗くつぶやく王子をみんな無視して仕事をしている。


そういう意味でチームワークは最高部署といえよう。


暑い夏の日約一名の恨み言を無視して仕事はさくさく進んで行くのだった。



王都花火大会は毎年恒例で夜店もでる賑やかなものである。

春の月まつり、秋の星まつりほど有名ではないが観光客が押し寄せる外貨獲得のチャンスな祭りといえよう。


「恋人と過ごすのに最適なのにムーラア帝国の皇帝陛下と花火観覧〜」

「いつまでぼやいてるのよ」

ぼやくリカに世継ぎのフキイロ王太女が突っ込みを入れた。

いつまでも情けないと言っているフキイロは既婚者で二人の子持ちである。

今回は皇帝アラシフォーラ3世がリカを案内役に指名したので楽だと思ったのである。


リカは四人兄弟で一番上がこのフキイロ王太女、二番目クレナイ元王女(降嫁済み)、三番目がリカに末っ子のタマムシイロ王女なのだ。


同じ未婚でも王女のタマイロより王子のリカの方が万が一があっても問題がないだろうとフキイロはおもった。


それにしても行事にめがけての来訪迷惑な話である。


花火大会の王族観覧席は王宮の屋上庭園にテントを設置してある。


ブルールリーナの王宮はもともとほとんどが木造なのでそんなに高さは誇らないが湖の辺りにありその岸辺で花火を打ち上げるので特等席なのである。


普段はくじ引きあたった一般国民が王族や貴族と一緒に観覧できるスペースもあるのだがムーラア皇帝のせいで庭園のない少し低いほうの屋上が今年は開放されたようだ。


「花火より麗しきリカ殿」

アラシフォーラ3世がさり気なくリカの手を握った。


本日の残念王子は夏らしい秘色色の詰め襟の長衣は王族の正装らしく瑠璃の勲章や装飾品で飾られ留紺色のマントも優雅にたっぷりと庭園の床すれすれまで落ちている。


きらめく長い銀の髪の美貌の王子(ただし本日は瑠璃の髪飾りで一部結ってる)……見ているだけなら眼福であろう。


ただし本人は暑いのに鬱陶しいと思っただけである。


「まるで銀のたきのようだ」

アラシフォーラがリカの髪を一筋持ってくちづけた。


明らかに口説きつつセクハラをしている状態である。


実はアラシフォーラは男女問わずというのが周知の事実である。


それをふまえてリカもさり気なく髪をとりかえしながら外交しているのである。


どうせならセレストを膝に乗せてイチャイチャしながらみたいと思いながらなのだがまさか隣りの男が自分を本気でどうにかしたい妄想をしてるとは思ってないのである。


湖に大きい花火が写った。


「今度ぜひムーラアにも来ていただきたい」

アラシフォーラが瑠璃ワインのグラスを持った。

紫の液体を通しての透明感のあるガラスに花火が写った。

「機会がありましたら、ぜひ」

リカは愛想笑いを浮かべた。

「機会は作るものだ、今度皇宮にお招きしよう」

妖しく微笑むフェロモンたっぷりの美中年をみてそんな機会はいらんとリカは心の中で思った。

「水晶竹のすばらしい皇宮は有名ですね」

「生きている水晶竹玉座は毎年彫刻家が彫刻し直すのだ」

当たり障りないことを話しながらリカは逃げアラシフォーラが肩を抱こうとする様子が王族のテントの近くの政務官の控え用のテントでもよくみられた。


「殴り倒したい」

いつも冷静に見えるセレストがボソリとつぶやき隣の新人エーリィがビクッとした。

「落ち着け」

エアリが瑠璃ソーダをセレストに渡しながら囁いた。


本日はみんな政務官の正装なので地味な濃紺から藍色のリクルートスーツっぽい格好をしている。


「パンツに私のものって書いておけばよかった」

「どうせ瑠璃の実柄だろう? 脱がせばへたるって」

セレストとエアリの会話にへたる? なんだろうとエーリィは思った。

「正装には瑠璃絹のパンツですよ」

「おお、徹底してるな」

王国の頭脳エリートがパンツの話ってなんだろうとエーリィは二人を見ながら思った。


ひときわ大きな花火が上がって湖に映った。


「リカ殿、私の想いをわかっていただきたい」

「花火はご堪能いただけましたか?」

「ぜひ今夜は付き合っていただきたい」

アラシフォーラ3世が囁いてリカの耳をアマガミした。


政務官のテントでカランと軽いものが落ちる音がした。


大丈夫ですか〜タオルタオル〜。

エーリィがあわててセレストが落とした瑠璃ソーダのカップをひろってる。


セレストは無表情でリカとアラシフォーラを見ていた。

正装が明らかに濡れている。


「花火をご堪能いただけたようで嬉しいです」

リカが極上で少し冷ややかな笑みを浮かべた。


このスケべ親父! セレストが固まったじゃないですか! そうに思いながらリカはさり気なく耳を拭った。


「リカ殿」

「最後の花火です」

アラシフォーラの言葉をさえぎりリカがひときわ大きな花火を指差した。


湖に映る紫の花火は美しくも物悲しい……セレストをどうにフォローしようとリカはため息をついた。



花火大会が終わっても季節は夏である。

王宮の庭のひまわりも高々と咲いて日差しが強い。


今日も新人エーリィは使いっぱしりである。


「おお、リカんとこの新人……エーリィさんだったか? 」

「はい? 」

庭師カナに呼び止められてエーリィは立ち止まった。

「あのさ、リカに泣き言を言われててなぁ」

カナは銀の短い髪をガシガシ掻いた。

「セレスト先輩に男好きの浮気者って言われた〜とかですか? 」

「そ、そんなことも言われているのかよ」

エーリィがおもいだしたように指を唇に当てた、カナはますます頭を掻いた。

「あ~この間の女子会でぼやいてただけです……アルマ先輩は本当のところどうなのかしらとキラキラしてましたけど」

エーリィの追加の言葉にカナはひまわりを見上げた。


ああ、どうすりゃいいんだ、あの唐変木に婚約者さんを逃したらあとがねぇってタマイロちゃんにどつかれちまうよ。カナは悲しそうに天を仰いだ。


タマイロはリカの妹である。


「そんなこと私に言われても……」

「エーリィさん、やっと新人呼びから名前呼びになったんだから手伝ってくれよ」

カナがエーリィの手を握った。

力仕事をしているカナはリカに比べてがっしりしている、それでも美青年でエーリィは少し顔があつくなるのを感じた。


「……名前呼び? 」

「なんだよ、呼ばれてないのかよ」

カナ怪訝そうな顔をした。

「そういえばお祭りが終わってから呼ばれてるような……」

さっきもエーリィ、総務に行ってきてくれとエアリに言われた事を思い出した。


リカがまだまだいるアラシフォーラの対応に追われていて忙しいのだ。


シュラバが終わって辞める心配もへったから正式に名前呼びになったはずだ、どこも」

「そうなんだ」

「そ、だから手伝いを……」

「じゃ、仕事頑張らないとですね」

「それも必要だが職環境をだな……」

「行きますね」

エーリィは力強く歩きだした。

後に困った顔のカナが残った。


信頼されるってうれしいです。

そうに思いながらエーリィは総務に向かっていった。




「ハア……また冷たくしちゃったよ」

王宮職員寮の前のベンチに座ってセレストがため息をついた。


珍しく部屋に帰ってきた婚約者のリカに対してお嫁入りはいつですかと憎まれ口を叩いてかつての住居の前までにげてきたところである。


「やっぱり相性悪いのかなぁ……父さん」

セレストはつぶやいた。

セレストの父親は地方で瑠璃の果樹農家をしていて離婚してシングルファザーである。


セレストは少々ファザコン気味なのでたまに父さんと言ってしまうのである。


セレストはベンチでうつむいた。


「可愛らしいお嬢さんどうしたんだい? 」

影がさして美声が聞こえた。


顔を上げると綺麗に整えられた髭の紳士が心配そうに膝まづいていた


「あ、あの」

「うむ、うちの皇帝陛下いろボケがなんかやったみたいだね」

セレストが話す前に紳士は心得た顔で髭を引っ張った。

「一発殴っときますかい? 」

金髪碧眼の瑠璃色の作務衣の長身な美人が木の影から出てきた。


守護戦士らしいとセレストは思った。


守護戦士とは本来キユリという世界一の占い師をはじめとするムーラア帝国の一角にあるキユリの町の守護をする戦士が元なのであるが世界中……果ては異世界までひろがり最強の戦士集団として有名だが……ある程度料金がかかるのでセレブリティや国家が雇っていることが多い。


「キーポ君、一発ですむ問題かい? 」

「百発でも千発でもお好きなだけどうぞ」

キーポと呼ばれた美人が軽く答えると紳士はまた髭を引っ張った。


セレストはあっけ取られた。


「うむ、まあお仕置きはおいといて、回収しないとだね」

「そうですぜ」

主従らしい二人はうなづきあった。


「お嬢さん、うちの皇帝陛下いろボケはいずこにいますか? 」

「え、えーと星見の塔です」

妙な迫力と二重音声に押されてセレストは答えた。

「案内してください」

「は、はい」

「うちのうなトロロがすみませんねぇ」

軽口の応酬に巻き込まれながらもセレストはさっきの落ち込みが嘘のように気持ちが浮上するのを感じた、もしリカにあったら許してもらえなくてもいい謝ろうとセレストは心に決めた。



星見の塔は王宮が面する湖の対岸にある古い塔でブルールリーナの守護神『白金シロガネ』が住んでいる。


その塔は普段から開放されていてとくに秋に行われる星祭りの時は最上階で恋人と愛を誓うと永遠に一緒にいられる言い伝えで大盛況である。


まさにデートスポットである星見の塔最上階を案内しながらリカの気持ちが乱れていた。


「リカ殿の髪は誠に美しい」

アラシフォーラがさり気なくバルコニーで王都を眺めるふりをしながらリカを追い詰めた。

「私の髪など白金様におよびません」

リカはくちづけしようと迫るアラシフォーラを押し返そうとした。


まさに絶体絶命である。

貞操の危機である。


このままこの親父に奪われるのかと案外力があるアラシフォーラに絶望しながらリカは思った。


セレストと仲直りしてイチャイチャしまくるまで負けない! と



「おやおや随分おいたがすぎるようですな」

美声が屋上に響いた。


護衛官たちが一斉に敬礼した。


「レインハルトか? 」

不機嫌そうにアラシフォーラが振り返った。

「ええ、我が君、他国の王子殿下に迫るとはいい度胸でごさいますな」

レインハルトと呼ばれた紳士が危険な笑み浮かべた。

「アルシード公! 」

リカが叫んだ。

「リカ王子殿下、うちのいろボケが大変ご迷惑をおかけしました」

キーポ君おやりなさいとレインハルトが手を振った。

とたん物陰から金髪碧眼の美人が現れて素早くリカからアラシフォーラを引き離した。


「仕事とお仕置きが待ってますぜ」

護衛官が職分を思い出し一歩踏み出した時にはもうアラシフォーラはキーポにうでをつかまれていた。


「キーポ」

「はいはい、行きますぜ」

「愛してる」

「浮気ものの言は聞きませんぜ」

ええ、本気だぞと言うアラシフォーラをお姫様抱っこしてキーポが星見の塔を飛び降りた。


守護戦士な美人にかかえられて絶叫したアラシフォーラの声が聞こえた。


「やれやれこまった皇帝陛下いろボケ皇后陛下キーポくんだね」

そこしれない笑みを浮かべてレインハルトは塔下を見た。


リカがチラッと目線をうつすと無事についたけど気絶しているらしいアラシフォーラにけりをいれてる皇后キィラポーティア陛下の様子がみえた。


皇帝夫妻は男男カップルでなく男女カップルである。


「さて、今度はあなたの番だ、守護戦士じゃなくて良かったですな」

レインハルトが髭を引っ張った。


扉のかげから下を向いたセレスト入ってきた。


「セレ……」

リカが呼びかけるとセレストが顔を上げた。

「リカ……ごめんなさい、お嫁に行かないで……」

セレストが涙を流しながらやっと言った。

「よ、嫁? まだそのネタ……」

「……私のこと嫌いになってもいいからブルールリーナにいて」

ポロポロとこぼれる涙にリカは一瞬たじろいだ。


そして足早にセレストの前にやってきて抱きしめた。


「セレスト、愛してる、この世の全てより……だから結婚しよう」

パンツ王子と呼ばれ昼行灯、唐変木と言われ続けた美貌だけはある王子が愛しい女性をしっかり抱きしめて言った。


瑠璃絹のシュルシュルした感触に包まれてセレストはリカの綺麗な顔を見上げた。


「私も……リカの事大好き、お嫁にしてください」

セレストはリカにしっかり抱きついた。


パチパチと拍手が聞こえてとレインハルトと護衛官にみられているのに気がついたセレストは離れようとしてリカにしっかり抱き込まれた。


「もう、離しません」

リカの色を含んだ声にセレストは少し寒気を覚えた。


「お幸せに、我々も下に行こう」

ニコニコとレインハルトは護衛官をうながして去っていった。


あとに残ったのは熱々? の恋人たち二人である。

その後二人がどういう話をしたのか、その年の星祭りにはセレストはリカの花嫁になっていた。


次の年には第一子ってパンツ王子早すぎと言う話が執務室に飛び交ったようだがそれらは少し未来のお話である。


ひまわりがまだ高々とさき庭師たちが暑い中世話をしている様子が見えた。


「エーリィ、また使いっぱしりか? 」

美青年な庭師カナが回廊を通る新人エーリィに手を振った。

「つかいっぱーって仕事です」

エーリィが言い返した。

「まあ、いいや今度ムギットにるり焼き食べに行こうぜ」

ワハハハと笑って手を振って美青年ば庭師は去っていった。

「私だって予定があるんですからね」

そうにつぶやいてエーリィはまた回廊を歩きだした。


もう一つの恋? も進行中のようである。


何はともあれやっちまったパンツ王子の顛末は終わりよければ全てよしというものであろう。


華やかそうに見える王宮の裏側なんてブルールリーナ王国ではこんなもんである。

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