第16話

「断る」


 理は言った。


 二人の間に緊迫した空気が流れる。


「説明聞いてた? 『道場破り』をして、摩耗会の師範代と闘うのが一番手っ取り早いの」

「お前は道場ってのがどういう所か分かってない」

「は? カンフーする所でしょ?」

「ちげぇ、道場ってのは第二の家みてーなもんなんだ。俺はガキの頃からずっとカンフーをやってきた。だから俺にとって道場ってのは大切な繋がりのある場所なんだよ」


 だから、と理は続ける。


「誰かの大切な場所をぶっ壊すことなんて出来ねぇ」

「アンタねぇ、一体どうしたいわけ? 功夫(クンフー)を使えるようになりたいのか違うのか!」

「マスターしてーけど『道場破り』は嫌だ。だから別の方法で教えてくれ」

「絶っっっ対に嫌だ!」

「つーか、そもそも何で、お前ら姉妹は『道場破り』なんかすんだよ。そんな事.....」

「は? アンタには関係ないでしょ?」急速に熱が冷めたかのように楚歌は言う。

「お前ら折角強いんだしよ、誰かを傷つけることなんてせずに普通にカンフーすればいいじゃねーか」

「……うっさい。アンタには分かんないわよっ……。もういい! 勝手にしろ!」


 楚歌は顔面を真っ赤にして踵を返す。


「ボケ!」

「待てって!」


 理は楚歌の背中に向かって声をかける。


 聞こえていないのか、怒りに身を任せ、楚歌はずんずんと歩く。早歩きが彼女の怒りを表している。


「いてっ」


 理は自分の足に何かがぶつかったのを感じた。


 ん? と理は俯く。


 カンフー服を着た少年が尻餅をついていた。彼の顔は絆創膏があちこちに貼られている。


「わ、わりぃな。大丈夫か?」

「い、慰謝料払えよ」


 絆創膏の少年は理を睨みつけながら言う。理は少年の言葉を聞きながらも、どんどんと離れていく楚歌の背中を見ていた。


「マジですまねえ! でも、俺も急いでっからよ、わりぃ!」


 そういって理は走って追いかけようとする。楚歌は怒りで周りのことが見えていないようだ。かなり大きな声で理と少年が話しているのに全く気付かずに歩いている。


「お、おい! お前! オイラと金を賭けて決闘しろ!」


 理は立ち止まる。


「は?」

「ビビってんのか! オイラが怖いのか?」


「い、いや怖いとかそういう問題じゃなくてよ.....」


 ドギマギする理。


 彼に衝突し、決闘を申し込んできた少年は理の身長の約半分くらいの大きさしかない。


 見た目は完全に小学生で、カンフー服を着ているがサイズがあっておらず袖が余っている。どう考えても理よりも格下の相手である。


「おい、ガキ。喧嘩売る相手くらい考えろっての」

「うっせー!」

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