第15話

「おいおい、摩耗会で何するってんだよ!」

「『道場破り』に決まってるでしょ? 呆れた」

「勝手に呆れんなっての! 俺は修行がしてーんだ。道場破りじゃねぇ!」


 楚歌はため息を一つ。


「アンタは功夫クンフーを実戦で学ぶのが一番。実際、私と闘ってる時にちょっと使えてたしね」

「待てって。つーかこの際、ちゃんと説明してくれ。一体功夫クンフーってのは何なんだ?」

功夫クンフーは人間の秘めたる潜在能力のこと。火事場の馬鹿力とか言うでしょ? ああいう、本来人間が出せる力の限界点を私達は功夫クンフーって言ってる」


 理は首を捻る。


「まあ、簡単に言うとガソリンみたいなものよ。功夫クンフーを自在に操ることが出来れば力が爆発的に上昇する」



功夫クンフーは人間の限界なのよ」



「じゃあ、俺達がやってるカンフーは何なんだ?」

功夫クンフーを扱えるようになるためにしてた基礎的な鍛錬がカンフーって呼ばれるようになったの」

「じゃあ俺達がやってたのは.....」

「本当のカンフーじゃない。ま、功夫クンフーは危険な力だから、その存在は師範代の中で秘匿にされてる」

「ん? じゃあ師範代は皆、功夫クンフーを知ってんのか?」

「あのね、強いから師範代になるんじゃなくて功夫クンフーを使えるから師範代になるの、わかる?」


 理は開いた口が塞がらない。


「じゃ、じゃあ俺がもし功夫クンフーの存在を知ることがなかったら.....」

「一生、師範代にはなれないわね」

「な、なんで親父は俺に功夫クンフーを教えてくれなかったんだ?」

「アンタが器じゃなかったか、それともアンタのお父さんは『安全派』だったからかもね」


 『安全派?』と理は復唱する。


「さっきも言ったけど、功夫クンフーは危ない力。だから最近は功夫クンフーの継承を止めて、安全なカンフーを世に広めようとしている師範代がいるのよ。大多数の師範代がそうみたいだけど」


「マジか.....」


「私が見る限り、アンタは功夫クンフーを引き出せる器は完成してる。あとはきっかけだけ。私と闘ってもいいけど命の危険を感じてないと潜在能力は出ない」


 楚歌と本気で対決したとしても緊張感が欠けてしまう。理は緊張感が修行には大切だということを知っていた。


 全身全霊で挑むことによって限界を突破できる。


 だからこそ、顔見知りの楚歌ではなく、摩耗会の人間と闘う。一応筋は通っている。


「だから『道場破り』をしろって?」


「そう。どう? やってみる気になった?」

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