第14話

 朝もやがかかる歩道を二人は歩く。


「テメーのせいで余計怪我したわ.....」

「は? 急に脱ぎ出すアンタが悪いんでしょ!」

「んだと! オメーが部屋から出ていかねぇから.....」

「アンタが悪い!」

「オメーが悪い!」


 二人は大声を挙げて睨み合う。額が引っ付くくらい至近距離。


「やあやあ、どうしました? おふた方」


「「ん?」」


 二人はいがみ合うのを一旦やめる。


「おはようございます。何やら揉め事かと思いまして.....」


 如何にも高級そうなポロシャツ、ピカピカの革靴を身につけている男。髪の毛はしっかりとセットされて綺麗な七三分けになっている。身長は大きく、百八十センチはある。しかし、細身なのでとてもスタイルが良く見える。


「い、いや。大したことじゃねーから.....。騒いですんません」と理が言う。

「そうだそうだ、謝れバカ」

「んだと、テメー!」


 再び喧嘩になりそうな二人の間に七三分けの男が割り込む。


「まあまあ、あなた達もカンフーをやっているのでしょう? 精神を落ち着け、広い心を持ちましょう」


 恐らく、二人がカンフー服を着ているのを見て判断したのであろう。


「つーかアンタもカンフーやってんのかよ? どこの道場のもんだ?」

「.....ん? ああ、君は青須理君か!『才拳』の」


 こっちの質問には答えないのかよ、と思いつつ理は首を縦に振る。


「という事はそっちのお嬢さんも『燃龍館』の門下生なのかな?」

「違う」楚歌はぶっきらぼうに言う。


 これ以上は訊かない方がよいと考えたのか男は話題を変えた。


「ああ、自己紹介が遅れたね。私の名前は干支えと宇人うじん。『摩耗会まもうかい』の者だ」

「『摩耗会』って言ったらすげー大人数の道場だよな」

「よかったら観に来ますか?」

「いやぁ、遠慮しとくよ。俺達はこれから別で修行すんだ」

「そうですか.....『才拳』が来たとなれば皆喜ぶと思ったんですが」

「わりぃな。また機会があったら行かせてもらうよ」

「はい、その時は是非」


「では、失礼致します」


 男は深々とお辞儀をして去っていく。離れていく背中を見ながら楚歌が理に話しかける。


「アンタ、有名人なんだね」

「まー、一応アマチュアの全国大会優勝してっからな」

「ふーん」

「つーか、なんで逆にお前は強えのに.....」

「私の家はそういう目立つのは避けてるからね」


 ーーそれもそうか。道場破りなんてしてるんだ。目立ってちゃ駄目に決まってる。


「ほら、じゃ修行する場所に急ぐわよ」

「おい、結局どこ向かってんだよ俺達は」


 楚歌は口を釣り上げ不敵に笑う。


「『摩耗会』」

「マ、マジかよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る