第12話

「早速修行だっ.....っつ!」


 急にうずくまる理。


「そりゃあんだけボコボコされたら動けないわ.....骨、折れてんじゃないの?」

「知るか、気合いだ。気合」


 全身を走る激痛に耐え、よろめきながらも立ち上がる。


「気合で骨はくっつきませんけど?」

「うっせ、一日しかねえんだ。ちんたらしてらんねぇ」

「呆れた.....」


 楚歌は理のカンフー服のチャックに手を掛けてを脱がせようとした。その手を理は払い除ける。


「な、なにすんだ!」

「動かないで」


 突然、触れられることで理は照れる。彼の顔は真っ赤になっている。


「ん? あれ?」と理は肩を回す。


「痛くねえ?」

「全部は治ってないから油断しないでよ。骨に入ったひびを治したくらいだから」

「んあ? お前、触っただけでけがを治せんのかよ!」

「これも功夫クンフーよ。でも、まあこの能力は自分専用みたいなもんだから、他人に使うときはあまり回復させられないの。調子乗ってるとまた悪化するわよ」

「大丈夫大丈……」飛び跳ねる理。膝をかがめた瞬間、


「いってー!!!!!!」地面に転がる。

「呆れた……」


 痛みに悶える理を見下ろしながら楚歌はふとあることが気になった。


「そう言えば、アンタ。何で私の居場所が分かったの?」

「あ? ああ、何でだろうな。なんとなく分かった」

「気持悪」

「うっせー! 何でそんなこと言われなくちゃなんねーんだ!」


 楚歌は踵を返して理から離れていく。


「ちょ、ちょっと待てって」


 楚歌は首だけ後ろを向く。その顔は微笑んでいる。初めて見る彼女の笑みに理は魅せられた。


「明日、早朝にアンタの道場に行く」


 今すぐに功夫クンフーを習得したい理であったが、楚歌の言葉と表情に何も言えなくなってしまった。


「じゃあね」


 すたすたと歩いていく彼女の背中を理は眺めたまま動けない。


 自分とは格が違う力を持っている彼女に対しての敬意が彼の中で生まれていた。そして人間として彼女のことが好きになっていた。


 理は笑って立ち上がる。先ほどよりはましであるがまだ、体は痛い。骨折はおそらく完治していないのだろう。しかし、体は何とか動かせる。


 彼は自分のこぶしを握って開いてを繰り返す。


 ――自分も、あの力を。


 理は口元を緩ませて、『燃龍館』に帰って行った。

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