7


「ヒビキ君も。私が同じことになったら、こうして助けに来てくれた?」


 かなみ。

 え――。


 振り返った先は、今しがた出てきた暗い教室の入り口。


 そのぽっかりと空いた暗闇の中から白い手がすっと、扉のふちを掴み。


「でも、ヒビキ君はそんな人じゃないから、きっと私のことなんか見捨てちゃうのかな」


 何の前触れもなく、困ったような顔をしたかなみが、そこに姿を現した。


「へへへ、なんてね」


 かなみ……。かなみ──?

 かなみ、なのか……。


 うそだろ、なんで。


「どうしたの。ヒビキ君、珍しく変な顔」


 かなみは、僕を見てかわいらしい笑みを浮かべていた。

 短すぎないプリーツスカートに、程よい長さの綺麗な脚。艶のある、腰元までのストレートな黒髪。この体格にしては平均以上に見える、胸部の膨らみ。くりんとした大きな瞳に長い睫。ぷるりと肉厚な唇。

 

なにもかも、あの頃のまま。


「どうしたの? 私……なんか、ヘン」


 かなみ……、ほんとうに……?


「……ヒビキ君、なあに? なんでそんなこと聞くの?」


 そこで僕は自分に待ったを掛けた。おかしい。こんなの、おかしすぎる。現実的にありえない。

 それにかなみは透けていないし、足もちゃんとある。普通に、そこにいる。立っている。目の前にだ。


 だけど、だけど。かなみは――。


 ここにいないはず。それだけは、はっきりと言えるのに。何故だろうか、僕はその時、そこまで自分が驚いていないことに、気がついた。

 心臓も煩く鳴らないし、呼吸もしっかりできていた。恐怖も感じていなかったくらいだ。ただ。彼女に。久々に顔を見る彼女に。

 なにを言っていいか。わからなかった。


「ヒビキ君」


 彼女は教室から出て、僕の方に近づいてくる。

 長い髪が揺れて、そしてそのまま――、彼女は僕を追い越した。


「はやくいこうよ。はやく、映画の続き、作ろう……」


 言われて、僕は目元をこすり、振り返ろうとした。

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