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 あの夜。百合子は震える声で言った。

 ありえない思いつきを。どこか高揚感に満ち。危ない橋を渡ろうとするような緊張した顔つきで。


「いや、……もとにしてって、右京先輩、どういう」

「そのまんまの意味」

「そのまんま……って、この、これをですか?」


 問いただした左門と斜丸はそれはそれは驚いた顔で百合子を見ていた。それは二人だけじゃない、ガッツも、かなみも、百合子の言うことには大抵従う垂瓦でさえ口をぽかりとさせていた。


「今の、みんな見たでしょ。ちょっと気持ち悪かったけど、凄いインパクトだったと思わない? あの出だし! 普通じゃない、普通じゃないわ、普通の感性してたら撮れないわよあんなもの! そうよ、あれこそあたしたちが求めていたインパクトそのものじゃないの⁉︎ 心臓が止まりかける恐怖、あれのことよ、あれを使えば勝てる! 大人だってギャフンと言わせられる、コンクールに充分通用できる作品ができるはずよ、ねえそう思わないみんな⁉︎」


 息巻く百合子、だが。少ししてから興奮かそれとも酔いか、どちらにせよ燃え上がっていたなにかが冷めたらしい。


「ごめん……いきなり何言ってんだ、って感じだよ、ね」


 と、しぼんだ声で言った。


「確かに、いきなり何言ってんだって感じだよ」


 ガッツが呆れ顔でその場に寝っころがる。


「でも、インパクトあるってのは同意」

「……うん、私も、……本物かと思うくらい心臓が止まりかけた。多分あれが本当の恐怖って言うんだね」


 続いて発言したのはかなみ。まだ顔を引きつらせながら、考えるポーズを取っている。


 それを心配そうに眺める後輩たち。流石に、あの謎めいた不気味映像をリメイクするなんて馬鹿げている。彼らはそう思っていただろう――しかし。


「リメイク、案外いいかもしれない」

「俺も、やってみる価値はなくはないと思う」


 かなみとガッツの遅れた賛成意見に三人の後輩たちはこれ以上ないほど口をあんぐりとさせた。

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