第11話 対立
「な、何を言ってるんですか。俺は辺鄙な所から来た、ただの田舎者ですよ」
誠一は、自分でも呆れてしまうほど白々しい嘘をとっさに吐いた。
自分の身に起きたことを言ったとしても、信じてもらえないだろう。
イカれた奴か、言い訳だと思われるのが関の山だ。
そして、何よりも、こんなにも楽しい人達に拒絶されたくなかった。
ホブスは誠一の返答を予想していたのか、表情を変えず言葉を続けた。
「悪く言うと、俺はお前を信用しきれてない」
「あ、まさか俺の制止も聞かないで料理を勝手に食べたのも、毒が入ってないか確認するためにですか」
「いいや、あれは匂いに耐えきれず、つい」
「おいっ!ぶっちゃけ過ぎたろ」
真剣な顔して言うな!
どこまでこの人は残念なんだと脱力する誠一。
しかし、いつものやり取りに心に余裕が生まれた。
このまま、話が終わらないかと誠一は願ったが、そうは問屋が卸さない。
「まあ、冗談は置いといて、まず1つ。料理の前に俺が魔法を使うと、驚いて聞いてきたよな」
「それは、俺が暮らしていた村では魔法を使ってる人がいなくて・・・」
「だったら余計におかしいんだよ。魔法を知らなかった人間が、見ただけで、すぐに使える訳がねえんだよ」
「―――ッ!」
「百歩譲って、それは良いとしよう。もう1つはコカトリスだ」
「・・・ホブスさんに見せた骨は本物ですよ」
「逆だ、逆。あれが本物なのがいけないんだよ」
「どういう意味ですか」
「あの化物は、たった一人で倒せるほど弱くない、いや、弱いはずがない。なんたって物語として語られるんだ。しかも魔法を知らない人間が倒したと来たもんだ。余計に有り得ないんだよ」
「・・・・・・」
誠一は完膚なきまでにホブスに論破され、黙るしかなかった。
ホブスは、どこか怯えた顔をしている誠一を見据えて、語りかけてきた。
「なあ、セーイチ。お互いに腹を割って話そうじゃないか」
「・・・すみません」
罪悪感で居たたまれなくなり、頭を下げ、ホブスに謝罪する。
しかし、誠一の言葉に、ホブスはわざとらしく驚いた顔をした。
「何故、謝るんだ?」
「え!?だって俺は皆さんを騙して―――」
「俺達に悪意を持って嘘を吐いたのか?」
「そんなつもりは有りません!」
「なら何故、頭を下げる必要があるんだ」
その言葉に戸惑う誠一。
誠一の反応にホブスはどこか恥ずかしそうに、そっぽを向いて片手で頭をかきながら語りかける。
「勘違いしているようだから、もう一度言うが、腹を割って話そうと俺は言ったんだ。このままだとお前を疑って、しこりが残っちまう。だから、信頼し合う為に話そうって意味で言ったんだ」
「ホブスさん・・・!」
「どんな事情があっても、人からしたら滑稽で現実的でない話でも、真正面から受け止めてやる。それくらいの度量が無ければ、父親は務まらねえからな」
そこで言葉を区切り、誠一の目をまっすぐに見て、云った。
「だから、話してくれ」
誠一は、目の前の大きな男の言葉に、思わず涙を流していた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「異世界から来た~?信じられないなあ~」
「さっき言ってた事と丸々違うじゃねえかっ!?」
返せ!俺の涙を返せ!
こいつ、俺の話を聞いた後、バカにした顔で感想を述べやがった。
「ま、冗談はここまでにして、信じるよ」
「全く、ボケずにはいられないんですか。・・・それは、過去に『勇者』の例があるからですか」
「何だ、分かってるのか。まあ、その通りだ。過去にいた勇者は異世界から来ていたとされ、転生するか召喚されるかの二通りあるらしい。勇者の共通点は、若い容姿に、化物じみた力を持ち、彗星の如く現れる。それこそ誠一のように」
「俺と同じ境遇の転生者だけじゃなく、呼び出される奴もいるのか。・・・うん?ということは、一人じゃないんですか?」
「そこは知らないのか。俺が知っているだけでも、過去の勇者は少なくとも三人いた」
へー、思ったりよりもいるんだな。
「他にも、魔族の住む魔界や東の小さな島国に現れた『勇者』もいるそうだ」
魔界に勇者って・・・まあ、魔界にとっては勇者に変わりないか。
だが、自分が『勇者』か。
想像してみるが、ないな。
あまりにも似合わなすぎる。
「まあ、国同士の戦争で使われた勇者もいれば、自由に生きて知識を広めた勇者とか、様々だけどな」
「やっぱり戦争があるんですか?」
「昔は頻繁に起きてたぞ。最近じゃ仲が良いと言えねえ所もあるが、どこの国も沈静化し、滅多に戦争は起きないがな」
異世界でも人間のすることは変わらないのだなと、誠一は半ば呆れる。
「まあ、セーイチが勇者だろうが、転生者だろうが、俺たち家族は気にしない。だから気にするな」
「ありがとうございます」
誠一はホブスに相談したことで心が軽くなっていた。
誠一にとって、異世界での初めての理解者ができたからであろう。
話も終わり、誠一は洗っていた食器を放置していたのを思い出し、ホブスさんに断りを入れようとすると、ホブスさんが浮かない顔をしているのに気付く。
「どうしたんですか?」
「いや、不可解なことがあってな」
「俺の事ですか?」
「そっちじゃなくて、コカトリスについてだ」
コカトリス?いきなり何で?
ホブスさんは感じている疑問について説明した。
「もともと、コカトリスは魔界に生息する魔物でな。魔界から遠くかけ離れたこの村に、何故いたのか。そこだけ理解できなくてな」
「魔界って、ガルテアの3つの大陸の内の1つですよね」
「正確には、全ての大陸が、橋が架かっているように繋がっているがな。何故あそこにいたのか?どうやって移動したのか?この謎があるわけだ」
「偶然・・・じゃ済みませんよね」
「有り得ないな。それこそ神様の悪戯で、偶然に偶然が重なったとしても、起こりえないだろう」
「そうですね、有るわけないですよね、ハハハハ、は・・・・・・・・」
俺は気付いてしまった。
いや、既に気付いていたが、無意識の内に気付いていないフリをしていた。
ホブスさんの言葉に、とても心当たりがある。
【ヒーローの幸運】が誠一の脳裏をよぎる。
まさか、全ての元凶って・・・・・俺!?
いやいや、流石にそれは無い!
運だけで、コカトリスが海を越えるわけないじゃん。
うん、有り得ない。
「どうした、急に顔色悪くなって?」
「イエ、ナンデモナイデス」
「そうか」
思わず片言になる誠一。
誠一の焦りに、ホブスは特に気にかけず、話をしめにかかった。
ホブスは誠一に手をさし出し、握手を求めた。
「まあこれからよろしくな、セーイチ」
「迷惑をおかけします、ホブスさん」
誠一はそれに応じ、二人は互いに笑い合った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
笑っていると、不意に後ろから声をかけられた。
「やっと見つけた!セーイチお兄ちゃん、探したんだよ」
「おお、アンちゃん。どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。お風呂の準備ができたから、呼ぼうと思ったら、食器が外に置いたままで、見当たらなくて心配したんだよ」
「あ、すっかり忘れてた。ごめんね」
「アン、セーイチに声をかけたのはお父さんだ。あまり攻めてやるな」
おお、ホブスさんが親らしいことを言ってる!
いつもこんな感じだったら、尊敬できる人なんだが・・・いかんせん、ボケて、シリアスが続かないからな。
そんなホブスに誠一は感心をしていると、
「そう言えば、セーイチ。俺の家にはベッドが三つしかないんだが、寝るときどうする?」
「雨と風凌げる上に毛布があれば、床でも十分ですよ」
地球にいた時でも、疲れはてて椅子や机で寝ていたこともあり、寝る場所がどこであっても気にしない。
すると、その会話を聞いたアンが、恥ずかしそうに顔を赤らめ、もじもじしながら誠一に話しかけた。
「・・・で、でね、セーイチお兄ちゃん。私からの提案なんだけど―――」
「「・・・?」」
「私、セーイチお兄ちゃんだったら、い、一緒に寝てあげても・・・いいよ」
「ブチッ(←誰かの血管が切れる音)」
「ガクガクガク(←殺気を向けられ体が震える音)」
「さ、先にお風呂入るね!」
「待ってー!俺を一人にしないで!」
爆弾を落し、顔を真っ赤に染め早足に去っていくアンちゃん。
しかし、アンちゃんは俺の声が聞こえてないのか、足を止めずに家に戻ってしまった。
取り残された男二人。
誠一は恐怖で後ろを振り向けない。
「・・・・・・・・・なあ、ロリコン」
「や、やだなあ、ホブスさん。俺の名前は誠一ですよ、またボケてるんですか?全く笑えませんよ、それ。HAHAHAHAHA!」
「最後の言葉はそれでいいのか?」
「落ち着け!俺は至ってノーマルだ!ってか、ついさっきまで俺ら、男の友情芽生えてたじゃん!」
「娘に比べれば、そんなものカスみたいなものよ」
「俺らの友情は、そんなに儚いものだったの!?」
「短い間だったが、楽しかったよ」
「お願いだから、その手に持った斧を置いてーッ!」
「死ねえええええええええええええええええ!」
「いやあああああああああああああああああ!」
悲しみに満ちた叫びと断末魔が、闇夜の村に響いた。
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