国際宇宙人会議 ①

【 宇宙人は存在するか、いなか? 】

 

 この疑問は昔からテレビや雑誌で数多く取り上げられてきましたが、いまだかつて、その結論が出ていません。

 どうでもいいようで、実はとっても気になる疑問なのです。(作者・談)


                    *


 アメリカ、ニューメキシコ州に住む平凡な農夫、ボブ・オズワルドにはとんでもない秘密があった――。

 ボブはカルフォルニアキングサイズと呼ばれる、直径45センチの特大ピザを食べながら、ベースボールをテレビ観戦するのが楽しみだった。

 身長190㎝、体重180kの巨漢ボブは、働くよりも食べることが大好きな、ぐうたら中年オヤジだ。

「ボブ! ちょっと聴いて大事な話なの!!」

 女房のナンシーが大声でわめきながら部屋に入ってきた。

 ピザとテレビにしか興味のないボブは女房の方を見ようともしない。

「今日、NASAナサは大変な発表をしたのよ。偉い科学者が『結論から言おう、我々人類が、宇宙人、すなわち地球外知的生命体と接触した事実は無い!』って言ったらしいの。それでね、結論として宇宙人は存在していないと認定されちゃったみたい」

 一気にまくし立てる女房の話に、無心にピザを食べるボブの手が止まった。

「……じゃあ、俺たちのは何なんだ?」

「ホント! バカにしてるわよ。地球人が私たち宇宙人を無視するなんて!!」


 何を隠そう!(すでにカミングアウトしてますが……)

 一見、アメリカの小市民に見えるボブ&ナンシーの夫婦は60年前に地球に不時着したUFO(確認飛行物体)乗組員の子孫だった。――いわゆる在米宇宙人3世なのである。

 彼らの祖父たちは遥か遠い宇宙からやってきた地球外知的生命体だった。

 アメリカの砂漠地帯に不時着した時にUFOは破損して、そのまま砂漠の砂中に機体を隠していたのだ。グレーと呼ばれるサイボーグを乗せた偵察用UFOが、派手に爆発して墜落したので地球人に見つかってしまったが、お陰で母船のUFOは発見されずに済んだ。

 宇宙人の祖父たちは地球に着いたらスパイ活動するために、地球人と全く同じ容姿に身体を改造していたので、ボブは自分たちの本来の姿さえを知らないのだ――。

 当然、地球人と同じ身体なのでボブは肥満とコレステロールと高血圧に悩んでいたが食べることは止められなかった。

 宇宙人だといっても特別な能力がある訳でもない。

 不時着した時に機内の機械類は壊れて母国の星とも連絡が取れなくなってしまい、資料も失われてしまったので、どんな目的で地球に飛来とらいしたのかさえ、在米宇宙人3世のボブには分からないのだ。

 彼らは母星にも還れない、宇宙の孤児でしかなかった――。


 ごく普通に見えるアメリカ人の中年夫婦ボブ&ナンシーだが、辛うじて宇宙人としてのプライドだけは持っている。自分たちの存在をNASAが公式で〔完全否定〕した件には、さすがにカチンと頭にきた。

「ナンシー、この件をジャパンのヤマダやコリアのキムは知ってるのか?」

 宇宙人の仲間は全世界に散らばっており、約15名のロズウェルの同胞がいる。

「さっき、同胞たちから次々と通信があって、みんな困惑しているみたいよ。俺たちの存在を〔完全否定〕されたと怒ってるわ」

「分かった! 明日の夜、ここで会議をするので世界中にいるロズウェルの同胞たちに集合の通信を送っておいてくれ!!」

 そう言い放って、ボブはピザの最後のひと切れを食べようと手を伸ばした、その瞬間、女房のナンシーにピザを横取りされてしまった!

 悔しさに、ボブの巨体がブルッと震えた。


 翌日、世界中から宇宙人たちが自家用UFOでやってきた。

 彼ら全員地球生まれで、すっかり地球人として同化して生きている宇宙人たちなのだ。だが、今回の宇宙人をないがしろにしたNASAの〔完全否定〕発表には、たいへん不満だった。何とかして自分たちの存在を全地球に知らしめたいと思っていた。

 そして、砂漠に埋まった母船UFOの中で〔国際宇宙人会議〕が開催された。

「ロズウェルの同胞の諸君! 我々、地球在住の宇宙人としては今回のNASAの宇宙人〔完全否定〕発言は遺憾いかんであります」

 アメリカ支部のボブが会議の議長を務める。

「ハイ、議長!」

「ドイツ代表アドルフ君どうぞ」

「NASAの調査によると、『無限に広がる宇宙で、生命が生まれ、同じ時系列上で、他の知的生命体とコンタクトを取れる程に進化する確率は0.000002%程である』それであの宇宙人〔完全否定〕という結論に至ったのであります」

「それは単に確率の問題だけじゃないか!」

 ロシアのイワンが不満そうに口を尖らせた。

「ところが我々はこうして昔から地球に住んでいるのだ。そのことに気づいていないのは愚かな地球人の奴らの方さ」

 イギリス人のブライアンはフフンと冷笑した。

「我々はNASAに謝罪と賠償を請求するニダ!」

 コリアのキムが気炎きえんを吐いた。

「そもそも地球人たちに、存在を隠し続けた我々にも非があるんじゃないかなあ……」

 ジャパンのヤマダはいつも自責の念が強い。

「もう隠すのは止めて、我々は存在をアピールすべきでアル!」

 チャイナのリーが宇宙人の存在を、地球人にアピール宣言しようと言ったら、その意見にロシアとフランスとインドも同意した。

「先日、ロシアに落ちた隕石を撃ち落としたのは我々だ。地球のために我らは日夜働いているのだ。それなのに〔完全否定〕とは許せん! 宇宙人の存在を全世界に発信しよう!!」

「ちょっと待ってよ! 俺たちは地球人として暮らしているんだぜぇ。今さら素性がバレたらマズイよ。女房に俺が宇宙人だなんてしれたら……気持ち悪いって離婚されちゃうよ」

 イタリア人のフランコにとって、素性を明かすことは死活問題なのだ。

「会社もクビになるかも知れない。今の土地に住んでいらないぞ!」

 カナダとトルコとアルゼンチンがざわつき出した。

「損になることはお断りよ」

 スイス人の女性クララが計算機をたたきながら渋面でいう、彼女はお金にはシビアなのだ。

「う~ん。確かに『私たちは宇宙人です』とは世界中に発信できないわ。だって宇宙人だってことで弾圧されるかも……」

 ナンシーが不安そうに呟いた。

「……だよね、俺たちには今の生活や家族がいるんだから」

 カナダのジョンは大きな農園を経営している。

 しっかりと地球に根をはった彼らの暮らしぶりに、今さら宇宙人だとカミングアウトしても、マイナスの要素しかないのだ。


『宇宙人はいるんだけど、いないように見せかけて、やっぱりいた。表の裏はリバーシブルだったという事実』


 ――自分の思考にひとり悦に入っているボブだった。

 それにしても……昨夜、女房に食べられたピザの最後のひと切れは痛恨の思いだったと、ボブの肩がブルッと震えた。


「それじゃあ、地球にも宇宙人がいるんだという、何か証拠を見せるとか……」

 ヤマダが思案顔しあんがおで語ると、いきなり横から。

「アメリカ中の公園に、我々の偉大な先祖の銅像を建てるニダ!」

 銅像好きのキムが叫んだ。

「えっ? 銅像!?」

「そうニダ! 我々の存在を銅像でメモリアルにするニダ!!」

「ええ――――!?」

「するニダ! するニダ!!」

 最後はキムのゴリ押しでが決定されてしまった――のだ。

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