第23話 どうしようもなく好きだ。


「みっちゃん、もう展示するイラスト描けたの!?」


「うん。部活でやる作業無くさないとクラスの作業と連載原稿やる時間無くなっちゃうから」


「寝てないんじゃない?」


「大丈夫!漫画家志望だから徹夜は慣れてる」


「なら、良いけど」


学園祭準備期間が始まって一週間。


私は学園祭の準備と漫画の作業に追われる日々を送っていた。


一時間しか寝てないから授業中、集中するのが大変だ。


でも


漫画家になったらこういう生活が日常茶飯事って言うし、慣れるには絶好の機会だよ、うん!


「蜜葉ちゃん、ごめん。あたし・・・演劇部行かないと」


「大丈夫だよ!優里香ちゃん、ヒロインだもんね。頑張って!!」


「蜜葉ちゃん、ちゃんと休んでる?」


「え?」


「無理してない?」


優里香ちゃん・・・


「高宮くんの為だから・・・それに、クラスで演劇やってみたかったんだ!中学はお化け屋敷とかだったし」


「蜜葉ちゃん、諦める気ゼロでしょ?」


「ゼロというか、難しいのかなぁ。はぁ、私って有言実行できる方なのになぁ」


「仕方ないよ。恋って病みたいなもんだし」


「病・・・」


「もう!我慢しないでどーんとアタックしちまえ!」


私は優里香ちゃんに背中を押され、誰かにぶつかる。


「わわっ・・・ごめんなさ・・・」


「桜木、大丈夫か?」


た、た、高宮くん!!


高宮くんの胸の中にダイブしたんだ、私!


「ご、ごめん。痛かったよね?」


「俺は平気。顔赤いが、熱あるのか?」


「だ、大丈夫!今日、暑いからさ」


「そうか?」


「練習は?」


「屋上で練習。宮内が2人っきりのが集中できるって言うから」


「そ、そっか」


女の子と2人っきり・・・。


私、やな女の子だな。


高宮くんは練習頑張ってるのに妬いちゃうなんて。


「桜木は?」


「私は綾ちゃんの衣装作りの手伝い」


「桜木も衣装を?」


「うん!お裁縫好きだから、私」


「王子様の衣装も桜木が?」


「どうかな?綾ちゃんに任せるべきかも。綾ちゃんすごい実力の持ち主だし」


「桜木が作って」


「へ?」


「俺の衣装、桜木が作って。そしたらもっと頑張れる気がする」


「つ、作る。わ、私頑張る」


「おぅ」


やっぱり高宮くんはずるい。


「今日も部活は出れないね」


「ん。今日も一緒に帰れない」


「皆で帰るのは学園祭後かなぁ。寂しいよね」


「結斗と綾斗は桜木と一緒に帰れる」


「うん。二人は出番少ないから裏方の手伝いをたくさんしてくれるよ」


「俺だけ一緒じゃない・・・」


「た、高宮くん!そんな落ち込まないで!」



こないだみたいに怒らないでまた皆と帰りたいって思うようになったのは良かったな。


高宮くんって意外と寂しがり屋さんなんだ。


「・・・桜木」


「ん?」


「俺・・・」


「たっかみやくん!」


あ・・・


宮内さんが高宮くんの元へ。


「早く練習行こ?」


「あ、ああ。すまない」


えっ!?


宮内さんは高宮くんの腕に自分の腕を絡ませてる。


「じゃ、じゃあ・・・私は綾ちゃんの手伝い行くねっ」


「あ、桜木・・・違う・・・」


高宮くんが女の子と仲良くしてるの見ていたくなかった。


「やっぱ、諦める気ゼロじゃん。バカ蜜葉」


宮内さんはクラスで一番人気のある女の子。


ショートボブで目が大きく、小柄で今流行りの広瀬なんとかさんっていう女優さんに似ている。


私にはかないっこない!


やっぱり高宮くんも男子だし、ああいう可愛い子に惹かれるに決まってる。


「もっとアイドル顔になりたい・・・」


「みっちゃん?手が止まってるわよ?」


「ご、ごめん!綾ちゃん!」


私は綾ちゃんの衣装作りの手伝いを家庭科室でする。


「もう!みっちゃんってば、もっと自分に自信を持ちなさいよ!橘綾斗と姫島結斗に告白されてるのよ?みっちゃんは!」


じ、自分で言った!?


「わ、私・・・内気だし、元ぼっちだし、根暗の地味子だよ・・・」


「最近は違うよ?みっちゃんは。クラスの皆に劇やろうだなんて言えたんだし。輝いてる」


「そんな事・・・」


「陸斗のせいってのが気に食わないけどね」


「へ?」


「さて、陸斗の衣装作らないと」


「あ!王子様の衣装は私が作るよ」


「みっちゃんが?」


「た、高宮くんにお願いされたの」


「あの男・・・急に本気出してきたわね」


「綾ちゃんに任せれば良いのにね。綾ちゃんの衣装大人気だから」


「みっちゃんって陸斗並みに鈍いのね」


「へ?」


「ま、気付かないでいてくれた方が良いんだけど。じゃあ、あたしは陸斗の野獣バージョンの衣装作るわ」


「か、被り物も!?」


「当たり前!綾ちゃんの本気、見せてあげるわよ」


「ついていきます、姐さん」


「やっだぁ!みっちゃんったら!姐さんなんてやめてよぉ!」


王子様の衣装、めちゃくちゃカッコよく作らないと!


「セットはどんな感じ?」


「おー、桜木。今、城を塗ってるとこだ」


私が家庭科室での作業を中断させ、教室に行くと、姫島くんが私の元へ。


「た、高いお城!」


「綾斗が下絵描いたからな。迫力あった方が良いしな」


「私も手伝うよ!綾ちゃん、家庭科室で仮眠させてきたから」


「ああ、あいつは創作研究部の部長業もあっからな。ありがとう、助かるわ」


「塗りなら任せて」


「さすが桜木」


「よし、塗るぞー!」


「桜木、待て。髪、くくった方が良い。多分髪についちまう」


「あ、そっか」


「ヘアゴムとピン貸せよ。俺がやってやる」


「へ?姫島くんが?」


「ああ。慣れてるし」


さすがお兄ちゃん!


「お願いします!」


姫島くんに私はヘアゴムとヘアピンを渡す。


「桜木、髪伸びたんじゃね?春に比べて」


「そうかも。私、早い方なんだ」


「変態なんだな」


「ち、違うよ!姫島くん」


「ははっ。男子の裸ばかり描く奴が言うなよ」


「あ、あれは仕事だから!」


「俺がモデルしてやっても良いぞ」


「そ、それは大丈夫!」


「ちぇっ。筋肉なら綾斗に負けねぇ自信あんのに」


「もう、秋なんだね」


「ああ。早いよな、一年って」


「最初は皆と関わる事なんてないと思ってたのに」


「俺も」


「姫島くん、私に素っ気なかったから嫌われてるかと」


「り、陸斗に近付く女子はろくな奴がいなかったから」


「そ、そっか」


「でも、今はめちゃくちゃ好きだけど」


「ひ、姫島くん!?」


「よし、できた!」


「あ、ありがとう・・・」


何かさらりとすごい事言われたな。


私は鏡で自分の姿を見る。


私の髪はサイドにおだんごという髪型に。


「こういう髪型したの初めて!」


「可愛いじゃん、桜木」


「あ、ありがとう・・・」


やっぱり告白されてから姫島くんには緊張しちゃうなぁ。


前よりストレートな発言も多いし。


「でも、最初は創作研究部なんてヲタバレするし、ろくな事無いわって思ってたが、入ると楽しいもんだな」


「コミケは良い経験だったもんね。私も部活に入る気無かったからびっくり。高宮くんに感謝だな」


「そういや、あいつだったな。桜木の秘密に気付いたのは」


「かなり焦ったよ、あの時は」


「俺が良かったな・・・」


「へ?」


「あ、桜木。そこピンクに塗って」


「あ、うん!」


「にしても、この城は薔薇に囲まれすぎじゃね?」


「綾ちゃんが薔薇好きだからね」


「ああ、そうだった。まるであたしとかキモい事ほざいてたわ」


「キモいとかひどいよ、姫島くん!」


「ははっ」


薔薇に囲まれたかなり不気味な雰囲気のお城。


私はファンタジーとか描かないから城を描く機会無いけど、綾ちゃんはファンタジーもよく描くから上手だなぁ。


「桜木はやっぱり塗りが上手いな」


「ありがとう!カラーは基本アナログだから」


「慣れてるよな、そりゃあ」


「でも、姫島くんのが綺麗に塗れてるよ?」


「そうか?まあ、工作よく手伝うしな」


「琴莉ちゃんの?」


「ああ。夏休みの宿題とか学校に出すやつとか」


「本当に良いお兄ちゃんだよね、姫島くん」


「あ、あいつが手伝えうるせぇから仕方なくな」


「ふふっ。やっぱり優しいよ」


「あぁ、もううるせ」


「姫島くん、照れてる」


「ほら、作業に集中!」


「はーい」


私は姫島くんと5時過ぎまで作業に取り掛かった。


作業が終わる頃には教室には私達だけに。


「姫島くん、ありがとう。脚本終わったばかりなのにたくさん手伝わせちゃって」


「良いよ。ラノベのアイディア浮かばなくてスランプ気味だったから手動かしたかったんだ。気が紛れると浮かぶしよ」


「分かる。私も!浮かばない時はお掃除とかする」


「だよな。そういや、綾斗は?」


「まだ家庭科室で寝てるのかもしれないよ?お疲れ気味だったし」


「ったく!しゃーねぇな、あのオカマ」


「た、高宮くんはまだ練習してるのかな・・・」


「ああ、そうじゃね?鞄、まだ教室にあるし」


「そ、そっか。高宮くん、皆で一緒に帰りたがってたから・・・」


「皆で・・・ねぇ?」


「姫島くん?」


「桜木さ、明日は俺に全部仕事振って良いぞ。綾斗の手伝いだけにすりゃ、楽になんだろ?桜木は漫画の作業もあるだろうし・・・」


「そ、それはだめだよ!言い出しっぺは私だし、部活やバイトの子達の負担減らしたいし」


「桜木・・・」


「高宮くんも遅くまで練習頑張ってる。高宮くんを強引に主役にした私が甘ったれちゃだめだよ」


「また陸斗・・・」


「姫島くん?きゃっ・・・」


姫島くんはいきなり私を後ろから抱きしめた。


「ひ、姫島くん・・・?」


「桜木、好きだ。どうしようもないくらいにお前がめちゃくちゃ好きなんだ」


「っ・・・」


「陸斗の為に頑張ってるお前見てると、苦しい。嫌なんだよ」


「姫島くん・・・」


「桜木、どうしたら俺はお前に好きになって貰えるんだ?俺はどんな手を使ってでも桜木を自分だけのものにしたい」


身体中が熱くなり、心拍数が上がる。


姫島くんの切ない声が私の胸を突き刺す。


「桜木・・・陸斗じゃなくて俺を見ろよ」


「姫島くん・・・私は・・・」


「みっちゃん!すっかり爆睡しちゃった!ごめんなさい!・・・ってユイユイ!?」


「げっ」


「てめぇ、何抜け駆けしとんじゃワレェ!」


「綾斗、キャラ変わりすぎだろ!落ち着け!」


突然、教室に入ってきた綾ちゃんは姫島くんを私から引き剥がし、蹴りを入れる。


「もう!ユイユイったらめっ!」


「蹴り入れた後、笑顔で言うなよ。こえーわ、綾斗」


「みっちゃん、帰りましょう!」


「あ、うん!」


高宮くん、やっぱりまだ練習してるんだな。


屋上で二人っきりで。


嫌な想像ばかりしちゃう。


こんな時も高宮くんの事を考えちゃう。


姫島くんとの事があったのに。


私ってひどいなぁ。


「腹減ったし、ラーメン行かね?」


「ユイユイったら!そんなもん食べたら太るじゃない!JK二人には厳しいわ」


「JK二人?JKとオカマだろ」


「オカマ言うんじゃねぇよ!」


「まあまあ、姫島くん、綾ちゃん」


高宮くんがいない創作研究部は違和感がある。


皆でまた帰れるのはまだまだ先の話だろう。


帰宅すると、私は漫画作業に取り掛かる。


新連載会議で採用される為にはもっともっと漫画の質を上げていかないと!



「蜜葉ちゃん、またクマが!!」


「あはは。漫画描いてたから」


「無理しない方が良いよ」


「あ、ありがとう」


翌日、私は優里香ちゃんに化粧品を借り、クマを誤魔化す。


女子としてやばいな。


毎日クマが!


でも


漫画も学祭も頑張らなきゃいけない事だから。


準備期間が終わるまでの辛抱だ。


「ね、早苗さ!高宮くんと昨日遅くまで練習だったんだよね?良いなぁ!」


「高宮くん、意外と優しいんだよ!うちが台詞覚えるまで同じとこたくさん練習付き合ってくれたし」


うっ!


宮内さんがクラスの女子と話しているのを聞き、私は胸を痛める。


「じゃあさ、いけるんじゃない?早苗可愛いし、優しいし!学祭で付き合うカップル多いって先輩が言ってたよ!」


「なんか、後夜祭のフォークダンス中に告ると上手くいくってジンクスあるらしい!」


「うちも聞いたぁ!」


「えー?じゃあ、しちゃおっかな。告白・・・」


え・・・


「早苗やるぅ!」


「絶対いけるよ!」


宮内さんが高宮くんに告白・・・?


「蜜葉ちゃん、大丈夫?」


「あ、諦めるって決めたのにな・・・」


「おはよう」


あ!


高宮くんが登校してきた。


「桜木、おは・・・」


「おはよう!高宮くん!」


宮内さんが高宮くんの元へ。


「昨日はありがとう!家まで送って貰っちゃって」


「いや。遅くなったら危ない・・・し」


「高宮くんって優しいんだね!!」


女の子とあまり話さなかった高宮くん。


だけど


今は違うみたいだ。


宮内さんとは仲良くできるんだ。


家まで送る仲なんだ。


部を崩壊させない為に高宮くんへの告白をやめた私。


だけど


やっぱり諦められそうにない。


苦しい。


高宮くんの隣にいたのは私なのに、とか考えてしまう。


私はだめな女の子だなぁ。


嫌だよ、高宮くん・・・。


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