第24話 頑張るのは君のため


「どうか、俺の愛を受け止めてくれないか?」


「ごめんなさい・・・貴方の愛を受け入れる事なんて出来ないわ」


演技とは分かっている。


だけど、練習で見つめ合う高宮くんと宮内さんを見ているのは辛い。


宮内さん、高宮くん好きみたいだし。


「蜜葉ちゃん、大丈夫?顔色悪いけど・・・」


「だ、大丈夫!」


「そう?」


学園祭準備が始まってから私は毎日一時間睡眠。


というのも、学園祭の準備だけでなく連載会議に出す漫画を制作しているからだ。


大賞をとって終わりではない。


デビューしてからが始まりだ。


まずは1作連載を持たなければならない。


学園祭に関しては私は役が無いので色々な仕事をしている。


衣装作り、セット作り、ポスター作り、チラシ作り、看板作り。


身体一つじゃ足りない。


「ごめんね、みっちゃん。あたし、バイト行かなきゃいけなくって。店長にどうしてもって頼まれちゃって」


「大丈夫だよ!綾ちゃん、バイト頑張って!」


「ごめんねー!」


「桜木、俺が手伝・・・」


「高宮くん!練習行こ?まだ不安なとこがあって」


「おい!」


あ・・・


高宮くんは今日も宮内さんに手を引かれ、練習へ。


また二人で屋上で練習かな。


「桜木さん、後よろしくぅー」


「え?あの・・・」


「うちら、バイト忙しいからぁ!全部やっといてね」


「桜木さん器用だし、すぐ終わるでしょ?じゃね!」


「ユカー、何歌う?」


「セカオワかなー!最近ハマってるー!」


女子3人組はバイトと言って帰ってしまった。


あの子達、私のネーム破ってた人達だし、私に反感持っててもおかしくないよね。


どうしよう。


三人分やらないと!!


「でも、学園祭まであと2日。言い出しっぺの私が頑張らないと」


高宮くんがもう一度頑張ろうって思えるステージにする為に!


今日は姫島くんも委員会でいないし。


「やるぞぉ!!」


負けるな、私!!


「漫画家になるには体力が大事だからね!今から特訓ー!」



だけど


「やだ!全然終わってない!」


3人に任されたのはセット作り。


よく準備サボって話してたからなぁ。


「えっと、まずは下絵を描かないと。リビングだから暖炉と、壁時計と・・・」


何だろう。


頭がぼーっとするし、熱い気がする。


「とりあえずブレザー脱ごう」


私はブレザーを脱ぎ、作業に取り掛かる。


だけど


だめみたい。


何だろう。


視界が揺らぐ。


だめだよ、私。


まだまだたくさん仕事はある。


今日は皆忙しいのか、クラスには気付いたら私しかいなかった。


3人に任された仕事、今日中に終えないと・・・


でも、もう、だめ・・・。


「桜木、宮内から上手く逃げた。作業手伝・・・桜木!?」


意識が遠のいていく。


「桜木、おい!桜木!」


高宮くん・・・?


高宮くんの声が聞こえたような気がした。



「おい、何でこんな事になった?」


「俺が着いた時にはもう桜木は倒れていた・・・」


姫島くん、高宮くん・・・?


どのくらい眠っていたのだろうか。


瞳はすぐ開かない。


だけど


意識が戻り、高宮くんと姫島くんの声が聞こえる。


「保健の先生によると、過労らしい」


「桜木、夜中に漫画も描いてたみたいだからな。最初に衣装作りは少ししか手伝わないって聞いてたんだが、今は衣装作りもがっつりやってるんだよな」


「桜木が?」


「ああ。何で無理させちまったんだろう・・・」


「桜木は何であんなに無理して・・・」


「ん・・・」


「桜木!!」


私は目を開ける。


「良かった。倒れたから心配した」


「桜木、無茶しすぎだ。お前は」


「心配かけてごめんね。高宮くん、姫島くん」


だけど


「陸斗、お前のせいだ」


姫島くん!?


「っ・・・」


「桜木はお前を心配して演劇って案を出した。ただでさえ漫画で忙しいのにお前の為に時間を使った。お前が簡単に夢を諦めようとしなければ、こんな事には・・・」


「姫島くん!!やめて!私が決めてやった事だから。倒れたのも私が自己管理できてなかったからで・・・」


「桜木、何で全部自分だけで解決しようとすんだよ」


「姫島くん・・・」


「陸斗、お前・・・自分の事ばっかで桜木の事、全然見てねぇんだな」


「俺だって気付いてやりたかった。気付いてやりたかったよ・・・結斗や綾斗みたいに俺だって桜木の側に・・・」


「本当に腹立つわ、お前。何で陸斗なんだよ・・・親友なのに、今は陸斗に腹立って仕方がない。桜木を振り回しやがるお前が嫌で仕方ない!」


「俺だってそうだ!桜木がせっかく舞台用意してくれたのに俺は結斗や綾斗に・・・」


「やめて!!」


「桜木・・・」


「私がいけないの。自分の限界分からなくて。二人にたくさん心配かけた。ごめんなさい。二人は何も悪くないよ」


「でもよ・・・」


「私、意外と元気だし!大丈夫だよ?作業は明日にするよ!ほら、帰ろう!二人とも!」


一番皆を振り回してるのは私だ。


だけど


姫島くんと高宮くんは帰り道、全然話さなかった。


二人をケンカさせたかったわけじゃないのに。


「高宮くん、王子様の衣装もうちょっとで完成するから楽しみにしててね」


「桜木。綾斗に任せて良い。桜木の作業時間増えるだけだ」


「私が作りたいの!それに、明日は上手く時間配分考えるよ」


「俺も手伝う、明日は」


「ありがとう、高宮くん!姫島くん、綾ちゃんが姫島くんの衣装、すごいの作ってたよ」


「ああ。姫の姉の衣装な」


「姫島くんのお姉さん役楽しみにしてるよ」


「ああ」


空気が重い・・・。


「桜木、悪い。俺、琴莉と約束していて・・・でも・・・」


「大丈夫だよ!姫島くん!もう元気だし」


「結斗、俺が桜木送って行くから大丈夫だ」


「陸斗・・・」


「俺が責任もって桜木、家まで送るし」


「はぁ。仕方ないか。任せるわ」


「た、高宮くん!私は大丈夫だよ!」


「倒れたばっかな奴が何を言う。久々に話したいし、桜木と」


「わ、分かった・・・」


姫島くんは不機嫌な顔をしている。


こんなギスギスした状態で部活やっていけるのかな。


姫島くんと別れ、私は高宮くんと並んで帰る。


「桜木、すまなかった。今日は本当に」


「そんな!高宮くんは気にしすぎだよ!」


「明日は作業手伝う。台詞覚えたし」


「大丈夫だよ!高宮くんは練習して?」


「俺が桜木をちゃんと見ていたいから」


「えっ」


た、高宮くん!?


「桜木が無茶しないようちゃんと見張る役。練習も宮内に頼んで教室でやる」


そ、そっか。


心配してくれてるって事だよね、友達として。


「ありがとう、高宮くん」


「あのさ、桜木」


「ん?」


「が、学園祭・・・一緒に回りたい。桜木と」


「え・・・」


「だめ?」


「じゃ、じゃあ!綾ちゃんと姫島くんも誘って・・・」


「・・・二人で」


「えっ?」


「桜木と二人で回りたい」


っ・・・


「せ、せっかくだし!皆で回ろうよ?高宮くん。私は皆で回りたいかな」


「桜木は俺と二人っきりが嫌か?」


「い、嫌なわけじゃないよ!で、でも・・・私は皆で回りたいな」


「そうか・・・分かった」


ここで高宮くんと二人っきりで回ったりしたら、部内が余計ギスギスしてしまう。


本当は二人で回りたい。


だけど


私はさっきの姫島くんを思い出す。


創作研究部という存在を失ったら、私達4人の繋がりも無くなる気がして怖くなった。


「高宮くんの王子様役、楽しみだなぁ」


「綾斗が野獣の被り物作ってくれた」


「あ、被り物は私・・・まだ見てないんだよね。どんな感じなのかな?」


でも、高宮くんはどうして私と二人っきりが良いって言ったんだろう・・・。


「高宮くん、送ってくれてありがとう」


「ああ。今日は絶対9時に寝ろ、桜木」


「へ?」


「分かった?」


「う、うん!約束する」


「よし」


なんか、いつもと立場が逆転してるような?


「じゃあ、また明日ね。高宮くん」


「ああ」


高宮くんは私の頭を優しく撫でると、帰った。


小さくなる高宮くんの背中を見つめ、私は胸を痛める。


「二人っきりで回りたかったな・・・」


だけど


それは出来ない。


皆でいる為に私はこの恋を封印している。



「おはよう、蜜葉ちゃん」


「おはよう・・・」


翌日になると、すっきりした気持ちで登校できた。


久しぶりにたくさん寝たからね。


だけど


「桜木、来た!」


え?


昨日私に仕事を任せた女子3人組が私を囲む。


「全然終わってないじゃん。どういう事?」


「言い出しっぺのあんたがサボり?作業大分遅れちゃったじゃん。どうしてくれんの?」


っ・・・


「ご、ごめんなさい。体調崩して途中で帰ったの。でも、ちゃんと遅れは取り戻・・・」


「は?責任者のあんたが体調崩すとかなんなん?自己管理ちゃんとしてよね」


「作業遅れたらうちらに迷惑かかるんですけど・・・」


私・・・


「ちょっと!あんた達、そんな言い方無いんじゃない?蜜葉ちゃんは昨日、一人でずっと・・・」


「あんたは黙っててよ!」


私を庇う優里香ちゃんにリーダー格の子が冷たく言い放つ。


「作業遅れてるってマジ?」


「時間ないよ?当日まで・・・」


クラス内がざわつく。


だけど


「は?一番サボってたくせに何言ってんだよ」


綾ちゃん!


綾ちゃんが彼女達をぎろりと睨み、言った。


「た、橘くん?」


「僕、見ちゃったんだよね。あんたらがカラオケから出てくるとこ」


「ひ、人違いじゃね?」


「みっちゃんに嫉妬して嫌がらせするとかさ、本当性格悪いね。僕、あんたらみたいな女子だいっきらい」


綾ちゃんは冷たい瞳で言った。


あ、あ、綾ちゃん!?


「た、橘だよな?」


「いつもより声低いし、ぞっとしたわ」


「てか、橘だって昨日帰ったじゃん」


「アルバイトだったからね。でも、ほら」


綾ちゃんは衣装を机の上に置く。


「ぜーんぶ終わったよ?昨日中に」


「あ、あんなにあったのに!?」


「てめぇらとはちげぇんだよ」


あ、あ、綾ちゃん!?


「橘くんが男子に見える」


「あんな男らしかったっけ?」


すると


「お前らよ、桜木に頼りすぎじゃね?部活、バイトって言い訳して。昨日、教室には桜木だけだった。これはどういう事なんだ?」


姫島くんが教卓を叩き、皆に向かって言う。


「今日から皆で頑張ろう。俺は素晴らしい舞台にしたい。だから、皆で頑張って作ろう」


高宮くんは優しい表情で皆に言う。


「確かにそうだよね。倒れるってかなり負担かけてたって事だもん」


「桜木さん、ごめんなさい!」


「俺らも今日から手伝うよ、委員長」


皆・・・


「バッカみたい」


「あ、リカー!」


さっきの3人組は教室を出て行った。


皆・・・


「が、頑張ろうね!皆で良い劇にしよう!」


私が言うと、皆は笑った。


創作研究部の皆に救われたなぁ、今日は。


やっぱり皆との絆はしっかりある。


大事にしていきたい。


「いやぁ、しかしさっきの綾斗マジ怖かったよね」


「やっだぁ!忘れて!可愛くなかったもん!」


優里香ちゃんに言われると、綾ちゃんは顔を赤らめながら言う。


ホームルームが終わると、私は綾ちゃんと優里香ちゃんと話す。


新しい綾ちゃんを発見した気がする。


「あ、綾ちゃん!ありがとう!」


「良いのよぉ!今日はずーっとみっちゃんの側にいるね。全力でサポートしちゃう」


「うん、ありがとう!」


「みっちゃん」


えっ?


綾ちゃんはいきなり私の手の甲にキスをした。


「あ、綾ちゃん?」


「みっちゃんは僕が守るから。僕の事、もっと頼って?」


やっぱり綾ちゃんが男子モードになるとドキッとする。


慣れない。


顔が火照る。



だけど


「このスケベカマ野郎!」


姫島くんがいきなり私の肩を抱き寄せてきた。


「桜木はやらねぇかんな!」


えーっ!?


「独り占め、良くない。綾斗、結斗、悪い子」


「た、高宮くん・・・」


えっ!?


「きゃあああ!!」


私は目の前に野獣が現れ、驚いてカーテンの中へ。


「桜木、俺。陸斗」


「た、高宮くん!怖いよ!」


「ふふっ。あたしが作った被り物めちゃくちゃ怖いでしょ?」


「被り物ってレベルじゃないぞ、綾斗。姫が逃げるわ」


「ユイユイったらひっどーい!」


「桜木、俺だ。高宮陸斗。怖くない」


「高宮くんって分かっても怖いよ!」


「桜木が逃げる・・・桜木を笑わせるつもりで被ったのに」


「陸斗はやっぱり天然ね」


演劇、盛り上がると良いな。


頑張って高宮くんの野獣姿に慣れないと!!


でも、怖くて今は涙目です。



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