第22話 もう一度、頑張って


オーディションを受けて以来、高宮くんは元気が無い。


ミサンガ・・・外しちゃったんだ。


「おい、陸斗。部活は?」


「今日は帰る」


「待ちなさい、陸斗!シナリオも出来たんだし、ドラマCDの収録を・・・」


「俺みたいな三流声優を起用すべきではないよ、綾斗」


「ちょっと!陸斗!!」


部活にも出なくなっちゃった・・・。


「なんなんだよ、あいつ。ちょっと厳しい事言われたぐらいでよ」


「まあまあ、ユイユイ。今は気持ち的に声優をしたくないみたいだし」


「綾斗はあめぇよ!陸斗に」


「あたしだって部活に出て欲しいわ。でも、友達としてあの子を心配な気持ちもあるのよ」


「俺だって心配だ。でも、あんな事で挫けるなんてらしくねぇよ!」


「ユイユイ!」


高宮くんを救いたい。


高宮くんに夢を諦めないで欲しい。


「私、高宮くんを救いたい・・・」


「みっちゃん・・・」


「だって、あんな思い詰めた表情してる高宮くん、初めて見たもん」


「桜木、ほっとけよ。あいつが自分で解決すべき問題だ」


「でも、高宮くんは私がお母さんに夢を話せないでいる時、背中を押してくれた。一緒に頑張ろうって。ここで諦めさせたくない!私は高宮くんの可能性を信じてる!あのドラマCDだって高宮くんの演技を見て買おうって思った人がたくさんいたもん」


「そうよね。あたし達は陸斗に才能が無いなんて思えない。ユイユイだって小説を書いてるから分かるでしょ?批判されても書いてる?ユイユイは」


「ああ。確かに批判来た時はやめたくなった。でも、高評価くれる人もいてよ。やめるのをやめた」


「そうね。あたしもそう。陸斗は挫折を知らなかっただけ。あたし達で支えてあげなきゃよね。だって、友達だもの」


「うん!皆で応援しよう!」


「ね、ユイユイ」


「あ?」


「陸斗ってなかなか手強いわね。みっちゃんの心をずっと独り占めにしてる」


「そう・・・だな。でも、あいつに勝ちたい。俺は」


「ふふっ。僕も同じ気持ちだよ」


高宮くんの為に何ができるかちゃんと考えなきゃ。



「高宮くん、おはよう!」


翌日、私は教室に着くと、元気良く高宮くんに挨拶をする。


「あ、ああ」


「ね、今日は部活来るよね?」


「悪い、桜木。今日も行けない」


「高宮くん・・・」


「というか、俺はもう部活にはいられない。今日、綾斗に辞めるって話そうと思う・・・」


「えっ?」


「俺は皆みたいに才能が無い。あんな大手事務所のオーディションで落とされたんだ。向いてないに決まっている」


「そんな事言わないで、高宮くん。私は高宮くんの才能を信じてるよ?」


「桜木は友達だからそうやって気遣って言うんだろ?声優の事よく知らない桜木に何が分かる?」


「あ・・・そう・・・だよね。ごめん。私に言われてもって感じだよね」


「桜木・・・俺っ・・・」


「ごめん。でも、私・・・」


どうしよう。


涙が出てきちゃった。


高宮くん、困らせたくないのに私・・・


「桜木・・・ごめん!でも、俺は・・・」


「陸斗!」


え?


いきなり姫島くんが高宮くんを殴った。


「きゃああ!!」


「何!?」


「今、姫島くんが高宮くんを殴った!?」


クラス内がざわつく。


「てめぇがそんな弱虫だとは思わなかった。がっかりだ、陸斗」


「結斗・・・」


「桜木に八つ当たりしてんじゃねぇよ!みっともねぇな!俺の好きな陸斗はよ、何があっても夢を諦めないで真っ直ぐ生きてる男だ!俺はそんな陸斗をずっと見てきた。憧れていた。でも、もうお前には失望した!」


「ユイユイ!ちょっと言い過ぎよ!」


「綾斗、こいつにはこれくらい言わねぇとダメなんだ」


「分かったような口を聞くな!結斗!」


高宮くんがいきなり、姫島くんの胸倉を掴んだ。


た、高宮くん!?


「オーディションの審査員の中には有名なベテラン声優もいた。そういう人からも酷評されたんだ。お前が俺だったらどうなんだよ?なぁ、結斗!」


「でも、それはまだお前の実力が足りないからでこれからもっとがむしゃらに頑張って実力を上げりゃあ良いだけだろ!父親と喧嘩してまで追っていた夢を簡単に捨てるのか?陸斗!」


どうしよう。


高宮くんと姫島くんを喧嘩させたかったわけじゃないのに。


私が・・・


「みっちゃん、行こ」


「ちょっと!あ、綾ちゃん!?」


私は綾ちゃんに突然、腕を引かれる。


綾ちゃんと私は空き教室へ。


「と、止めなくて良いの!?」


「先生がその内来るだろうし・・・それに、陸斗の事を一番分かってるのはユイユイだからね。陸斗もあんな怒ってるけど、結構刺さってると思うわ。2人は兄弟のような関係性だから」


「そう・・・だけど」


「みっちゃんのした事は間違いではないよ。ただ、陸斗がみっちゃんの言葉を聞く耳を持てなくなってるだけ。自信をすっかり失っちゃってる時って皆そうでしょう?」


「そっか。そうだよね・・・」


「陸斗に言われた事、気にしないでね。あの子、言った後すっごく後悔していたから。不器用よね、男子って」


「綾ちゃんは大人だね」


「僕も彼らと変わらないよ。不器用な男子高生」


「綾ちゃんも・・・」


「ね、みっちゃん」


「ん?」


「陸斗の事ばっか考えないで」


綾ちゃんは私をいきなり抱きしめ、言う。


「陸斗を心配する気持ちは分かる。だけど、僕の事もいっぱいいっぱい考えて欲しいんだ・・・」


「あ、綾ちゃん・・・」


「ワガママ言ってるのは分かってる。でも、僕・・・みっちゃんを陸斗に渡したくない、絶対に」


「っ・・・」


「僕はたまらなくみっちゃんが好きだから。他の男の事ばっか考えるみっちゃんを見ていたくない」


心臓がバクバク言っている。


綾ちゃんの気持ちを考えると、辛かった。


私は高宮くんを好きで・・・綾ちゃんの気持ちを受け入れられない。


だけど


「ごめん。ガキみたいな事して」


綾ちゃんは私の身体を離し、切ない表情で言った。


「だ、大丈夫・・・」


顔が火照っている。


私・・・


「教室、戻ろ?」


「う、うん!」


私が高宮くんを想えば想うほど、傷つく人がいる。


恋愛は難しい。


誰も傷つかない方法なんて無いのかな。


教室に戻ると、高宮くんと姫島くんの姿が見えなかった。


「優里香ちゃん、高宮くんと姫島くんは?」


「鬼島先生に捕まってお説教タイムなうみたい」


「そっか」


「高宮くん、最近やけに機嫌悪いよね?桜小路も心配してたよ?」


「う、うん。声優のオーディションで審査員から酷い事言われまくったみたいで」


「そっか。高宮くん、声優志望だもんね。そりゃあショックだよね」


「何とかしてあげたいな」


「そうだね。蜜葉ちゃんにならきっと救えるよ」


「優里香ちゃん?」


「蜜葉ちゃんは創作研究部の天使なんだから」


「わ、私が?」


「そう!高宮くんに必要なのは蜜葉ちゃん!」


私・・・


「では、これからホームルームを始めます。今日は学園祭の話をします。では、クラス委員に・・・」


一時間目はホームルーム。


だけど


私は集中できずにいる。


高宮くんの事が気になって。


教室に戻ってきた姫島くんと高宮くんは頬に傷を作っていて、険悪な雰囲気のままだった。


私が何とかしないと。


「・・・ぎさん。桜木さん!」


「は、はい!」


「学園祭の出し物決めの進行、お願いします」


「すみません!すぐ始めます」


先生に言われ、私は教壇の前へ。


学園祭の出し物・・・。


これだ!


「あたし、模擬店が良いー!」


「お!じゃあ女子の衣装はメイド服で!」


「うわっ!男子きっも!」


「俺はお化け屋敷が良いー」


「じゃ、田中お化け役なー!妖怪顔だし」


「誰が妖怪顔だ!」


クラスから出た意見としてはメイドカフェ、模擬店、お化け屋敷と定番なものばかり。


よし。


「あ、あの!学級委員ではなく、クラスの一員として私も意見を出して良いですか?」


私は勇気を出して言った。


「何、何?みっちゃん!!」


「聞かせろ!桜木」


綾ちゃんと姫島くんが反応する。


私がやりたいのは・・・


「クラスで演劇やろう!高宮くん主演で」


「え・・・」


私が言うと、クラス内がざわつき始める。


「高宮くん、声優志望で演技上手いし・・・注目集められると思う!」


「はぁ?うちら部活の出し物もあるし、演劇とか一番準備大変なやつだからやだ」


「うちも。バイト忙しいんだよね。てか、演劇部に任せなよ。演劇部も劇やるんだしさ」


「部活やバイトで大変な人の負担を減らせるように善処します!」


「でもさ・・・」


「メイドカフェで良いじゃん」


難しい・・・かな。


「おい、桜木。いきなり何なんだ?」


高宮くんが不機嫌な表情で私に言う。


「み、皆は高宮くんのかっこいい衣装見たくない?」


「そ、そりゃあ見たいけどさー」


「お願いします!!きっと楽しい劇にするから!!」


私は頭を下げ、言う。


「桜木・・・」


「あたしからもお願い!あたし、皆にとびっきり可愛い衣装とかっこいい衣装用意してあげるから!」


「俺からも頼む!皆でベストクラス賞目指してさ、すげぇ劇作ろうぜ!」


綾ちゃんと姫島くんも私の隣に来て頭を下げ、皆にお願いする。


「やろうよ!すごく楽しそう!」


優里香ちゃんが皆に言う。


優里香ちゃん!


「あたし、やりたい!」


「橘くんの作る衣装ってすごく可愛くてインスタで有名だよね」


「そうそう。あたし、インスタで橘くんのコス見た。ああいうの着たいって思ってたの!」


「姫島が頭下げたぞ」


「あ、あの姫島が。従わないとぶっ飛ばされるかもな」


「高宮くん主演って事は王子様とかやらせられるって事?超良くない!?」


あ・・・


さっきまで戸惑っていた皆の反応が変わる。


皆・・・


そして


多数決をとった結果、演劇に一番多く票が入った。


最初は難しいと思ってた。


だけど


綾ちゃんと姫島くんも一緒にお願いしてくれたからか皆の気持ちが変わった。


「では、学園祭の出し物は演劇に決定します」


私が言うと、皆が拍手した。


演劇か。


そう、私が演劇を提案したのは高宮くんに自信を取り戻させる為。


ちょっと強引すぎたかもしれないけど。


演劇の題目は明日までに決めて皆に発表する事になった。


だけど


「おい、お前ら!何勝手に決めてるんだ」


休み時間になると、高宮くんは私達を睨み言った。


「た、高宮くん!2人を責めないで!私が勝手に決めた事だから」


「桜木が?」


「高宮くんに自信を取り戻して欲しかったの」


「桜木、俺は・・・」


「もう1度頑張ってみよう?それでも無理だってなったらやめてみる」


「え・・・」


「高宮くん、お願い。私は高宮くんに夢を簡単に諦めて欲しくない。高宮くんの可能性を私は信じてる。だから、もう1度だけ、また頑張って!」


「わ、分かった。演劇はやる・・・」


「高宮くん!良かった!」


「っ・・・」


「高宮くん?」


「桜木は何故、怒らない」


「へ?」


「俺は桜木に八つ当たりをした」


「本音じゃないって私はちゃんと分かってるよ」


「そうか・・・悪かった、桜木」


「で?部活は?どうするのかな?高宮くん」


「行く・・・」


「良かった!」


「桜木がいるなら行くし・・・」


「へ?高宮くん?」


「明日発表する演劇の題目、俺も考える」


「ありがとう」


高宮くんがまた自信を取り戻せるようになると良いな!


「やっぱり、童話かしらね?」


「脚本は俺がやるわ。どうせ誰もやりたがらねぇしな」


「脚本はユイユイね。陸斗を主役にするのよね。やっぱり、桃太郎とか?」


「日本昔話かよ!」


「犬は結斗・・・」


「絶対陸斗なんかに仕えねぇからな!」


昼休みになると、私は創作研究部の皆と出し物の打ち合わせをしながらランチをする。


いつの間にか高宮くんと姫島くんはいつも通りに。


良かった。


でも


高宮くんの悩みが解決できたわけではない。


高宮くんを活躍させなきゃ、舞台で。


私はスマホで童話について調べる。


あっ!


「美女と野獣なんかはどうかな?」


「美女と野獣?」


「うん!他の童話って王子様が最後助けに来て終わりが多くて王子様出番少ないでしょう?でも、美女と野獣は王子の出番たくさんあるからね」


「桜木、俺が野獣役をやるという事か?」


「うん。嫌、かな?変な被り物はしなきゃいけないだろうし」


「やる!ワイルドな感じやってみたい」


「高宮くん!」


「じゃあ、俺は原作まず読んでちょっと脚本アレンジしてみるわ。陸斗を俺様に仕立てあげる」


「俺様なキャラを俺が?」


「声優オーディション、俺様キャラやってダメだったんだろう?だったら、リベンジだ。ダメな点があれば、俺らがアドバイスする。桜小路にもアドバイスしてもらう。なら、安心だろ?友人だろうと容赦なくしごくからな、俺らは」


「結斗、ありがとう。助かる」


「べ、別にてめぇのためじゃねぇんだからな!うじうじされてっと腹立つから仕方なくだよ!」


「やっぱりユイユイってツンデレなホモなのね」


「おい、綾斗!!」


良かった、皆が元に戻ってきて。


「綾斗、小説読んでもらえるか?ちょっと自信無くてよ」


「見せて頂戴」


放課後は頭を切り替えて部の展示品の作成をしていた。


今月はかなりバタバタしそう。


私も連載会議に出す原稿描かなきゃだし。


これからしばらく寝ないで頑張ろう。



「はぁ、今日はめちゃくちゃ頭使ったなぁ」


部活が終わると、姫島くんが言った。


「ユイユイは大変よね。脳が小さいから」


「てめぇ、ぶっ飛ばすぞ?綾斗!確かにこのメンバーでは一番頭悪いけどよ」


「やーん。ユイユイったらすぐ暴力的になるんだから。か弱い女子にひどいわぁ」


「柔道有段者が言う台詞かよ」


学園祭、楽しみだなぁ。


準備はかなり大変そうだけど。


「桜木」


「ん?どうしたの?高宮くん」


「姫役に桜木を推薦しても良いか?美女と野獣」


「た、た、高宮くん!?」


「他の女子は苦手、だから」


「高宮くん、ダメだよ!今から慣れないと。声優さんになったらそうも言ってられないんだよ?」


「でも・・・」


「宮内さんが良いって皆言ってたよ?私は原稿と部の仕事と裏方の仕事掛け持ちで難しいし」


「そ、そうだよな。桜木、忙しいんだった」


「高宮くんは私以外の女の子にも慣れないと!」


「女子が苦手なのだけが理由じゃないんだがな・・・」


「へ?」


「何でもない。俺、もう一度頑張ってみるよ、桜木」


「うん!頑張って」


本当は嬉しかった。


高宮くんにヒロインをやって欲しいと言われた時。


だけど


私じゃクラスで大ブーイングが起きるに決まってるし。


私よりも美人でクラスの人気者な子がやるべきだ。


そして


翌日、私の思惑通りになった。


「美女と野獣」を嫌がる人もいなく、ヒロインは皆があまりにも推すのでクラスで一番美人で人気者な宮内さんがヒロイン役になった。


脚本は姫島くん。


衣装は綾ちゃん。


私はその他の裏方の仕事全部請け負う事に。


部活とバイトで忙しい人の負担を減らす為だ。


クラスと部活の学園祭の準備と漫画の原稿作り、全部頑張らないと。


大丈夫。


何とかなるよね・・・?


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