第34話 桂田利明

 財団極東支部長であるマリアの

依頼は桂田利明にとっては無理な話だった。

いや、自分では無理だと思っていた。自分

にはそんな力はないこと、あったとしても

叶えることはできないこと、説得を試みた

が中々彼女は意思を曲げなかった。桂田と

しては何故そんなことをしようとしている

のか、全く理解できなかった。


 桂田利明は先日、山の

洞窟に探検に行ったときとい

う名の旧支配者(そう呼ぶのだそうだ。)

に一旦吸収されて同じように吸収された綾

野先生、橘先生、岡本浩太と洞窟の地下深

くに降りて行った。そしてに出

会いとの約束を果たしたのだ

が、の封印を解く方法を見つ

けるように言われて、その人質として彼だ

けがに融合されたまま残るこ

とになった。外の3人が地上に戻ったほう

が封印を解く方法を探すのに有効だったか

らだ。


 そして、3人は解除方法を見つけて戻っ

てきてくれた。ただし、その方法は現代で

は不可能な方法だったので

封印は解かれなかった。地上の現況兵器で

少しダメージを与えることに成功し、桂田

は無事融合を解かれて元に戻れた。


 だが、その後の検査で人間の遺伝とは半

分以上が合致しない生物に変容してしまっ

たのだった。それは自分でもショックなこ

とだった。元々あまり悩まない性格ではあ

ったが、さすがに堪えた。人間ではない、

と烙印を押されてしまったのだ。岡本浩太

は約3%程度が変容していたらしい。融合

させていた時間が長かった所為で自分は5

5%も変容してしまっていた。一部ではな

く過半数が最早元の自分ではないのだ。だ

とすれば、今このことを考えている自分は

一体誰なのか。答えは出せなかった。


 その後、時折意識がなくなってしまう事

があった。数時間、時によっては数日の記

憶がない。記憶がない間は多重人格者のよ

うな振る舞いをしているのだろうか。確認

するのが怖かった。


 ある日目覚めると、真っ白い廊下にいた。

見覚えのない廊下だった。そこで恩田准教

授や岡本浩太、新聞記者だという結城良彦

に出会い、地下深くの綾野祐介に会いに行

った。その際、自分にもよく分からない力

が備わっていることに気が付いた。


 そうこうしているうちに、また自分が分

からなくなってしまって、気が付くと神戸

にいたのだ。そこで普通に暮らしていた。

結構な期間の記憶がなかった。自分が自分

で怖くなってしまった。ただ、ただ茫然と

海を眺めている時間が多くなっていった。


 そして、また記憶が途切れる。特に桂田

が人生に悲観して自殺でもしようかと思う

と確実に途切れてしまうのだった。身体の

中の何かが自殺させまいとしているかのよ

うだ。それが何なのか。予想は付くが確認

することが怖かった。また、確認する術も

なかった。


 そんな、ただ無為無聊な日々を過ごして

いた桂田をマリアが訪ねてきたのだった。

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