第30話 綾野祐介の日常2

 東條亜弥の元を辞した綾野は仕方なしに支

部長であるマリアに相談することにした。業

務に支障が出ても困るからだ。


「そうですか。それは一体何が見えているの

でしょうね。というか、欠損してしまった腕

などが痛いという疼痛のような種類のもので

しょうか。経過を観察してみないと判らない

かもしれません。十分気を付けて下さいね。」


「わかりました。今の所岸本君にしかその現

象は起こっていないので、また別の人が同じ

ように見えたとしたら何かわかるかもしれま

せん。」


「いずれにしても、あなたが見えている物は

あまり気持ちのいいものではなさそうですか

ら、私には見えないでほしいものです。」


「確かに変な気持ち悪い物なので見ない方が

いいでしょう。」


 こうして綾野は通常業務に戻った。


 数日後、綾野の元をある人物が訪ねてきた。

城西大学の橘准教授だった。東京の実家に帰

省したついでに旧知の綾野を訪ねて来たのだ

った。


「お久しぶりです、綾野先輩。」


「久しぶりだね、もう体調はいいのかい?」


 橘良平准教授はの封印を解く

方法を探して大英博物館に向かい、その過程

の中で少しの間拘束というか精神的なダメー

ジを受けて体調を壊して身動きが取れなくな

ってしまった。日本に戻れたのは全てが終わ

った後だったのだ。


「あの節は申し訳ありませんでした。何の役

にも立てなくて。」


「気にする必要はないさ。橘の気持ちは私が

一番よく判っているつもりだから。」


 そういいながら、綾野は視線を橘から外す

ことができなかった。岸本に纏わりついてい

るように見える何かが橘の傍にも見えたから

だ。


「お陰様で体調の方は大丈夫です。先輩、ど

うかしましたか?」


 綾野の様子がおかしいので思わず聞いた。


「いや、うん、それはよかったな。」


「何かおかしなことでも?」


「確か、橘はがその遺伝

子に入り込んでいた、ということだったな。」


「そうですね。唾棄すべきことですが何十代

も前のことなので今更どうしようもありませ

ん。自分が強い意志を持っていれば大丈夫だ

と思っています。」


「そうか。もしかしたら、それの所為なのか

も知れない。」


「何がですか?」


「いや、橘だから正直に言うけど、お前の周

りに何か変な物体が纏わりついているように

私には見えているんだ。」


「変な物体、ですか?」


「そう。表現し難いんだが。少し前にうちの

職員にも同じように見える子がいたんだ。理

由が分らなかったんだが、もしかしたら旧支

配者の遺伝子を引く人間にだけに纏わりつい

ている物なんじゃないかな?」


「そんなことが。それと、そんなものが先輩

には見えるんですか?」


「つい最近、見えるようになった、という感

じなんだ。」


「その物体は何か害を及ぼすような存在なの

でしょうか?」


「分らないね。今後の調査が必要だ。物質と

しては存在しないのかも知れない。私にしか

見えないのなら確認しようがないな。」


「ぜひ正体を確認してください。気持ち悪く

て夜も眠れませんよ。」


「そうだね。何かわかったらすぐに連絡する

よ。」


 気味の悪いお土産をもらって橘は関西へと

戻って行った。

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