最終話 終わりと始まりと

 俺は自分の体を見た。なんか肌が赤いし、爪は尖がってるし、筋肉もついてる。しかもさっきの怪力…。

「これじゃまるで俺が鬼になったみたいだな」


 すると、晴瑠が俺のもとに駆け寄って来た。周りを見ると、付喪神はあらかた片付けたっぽい。晴瑠は俺の姿を観察したり、体や角を触ったりしていた。


「予言の南天ちゃんの眠りし力って『憑依』のことだったんですね」

「憑依? じゃあ如月はどこに」

『凄いよこれ!! 寅くんと合体してる‼』

「頭の中から如月の声が聞こえる⁉」

 周りを見渡しても如月はいない。どうやら俺の中に入り込んでいるようだ。なんだか変な感じがする。




「私には聞こえませんけど、互いに意思疎通はできるようですね」

『なるほど、寅くんにしか聞こえないのか…』

「俺の脳内に直接なに語り掛けるつもりだ、お前」

 俺は、脳内に流れ込んでくる如月の声とやり取りをする。


「さっきの丑門くんの様子を見る限」

『これが愛の力ってことだね』

「鬼の力な」

 俺は呆れるようにため息をついた。


「おいおい、なんだ今のは!? さすがの俺様もちょっと効いたぞ!!」

 五味山が首をこきこきと鳴らしながら、こちらに歩いてきた。


「五味山、王様の独裁政治はもう終わりだ。反乱を起こしてやるよ」

「一発当てたぐらいで調子乗ってんじゃねぇぞ!! 『凶器乱舞』!!」

 俺の挑発に五味山はこめかみに青筋を立てながら、叫ぶ。


 ブラウン管テレビが大砲のように凄いスピードで俺の頭部に飛んでくる。でも避けれない速度じゃない。俺が裏拳を放つと、テレビは木端微塵になった。



「…もうキレた。テメェら全員工場もろともぶっ潰してやる‼『塵芥戦術』!!」

 すると物凄い速さで芥山の両腕に、巨大なスクラップの腕が出来上がっていく。


 俺は跳躍して五味山のすぐふところまでもぐり込む。彼の驚いている顔がスローモーションに見える。

「さぁ五味山、歯ぁ食いしばれよ!!」

 俺の渾身の右ストレートで五味山の顔をぶっ飛ばしてやった。





 あの後、警察が到着し五味山はあえなく逮捕された。戦いが終わると俺は意識を失った。晴瑠が言うにはそれと同時に、如月が俺から出て来たらしい。一応俺と如月は病院に運ばれたが、なんともなかったそうだ。鬼神の力恐るべし。


 途中から薄影がいなくなってたが、戦えないからと先に帰ったそうだ。やはりアイツは本当に図々しい。ちなみに、霧雲は独りでに起きてどこかへ消えて行ったらしい。また俺のことをストーカーしているのだろうか。


 なんにせよ全て解決した、めでたしめでたし。やっと平和なキャンパスライフが俺を待っているんだ。といっても、五味山の戦いの次の週からテストですぐに大学生の長い夏休みに入った。




 夏休みに入って、花火大会に行ってきた。この前の仕切り直しということで、また俺と如月だけで巡ることになった。次はちゃんとはぐれないように手を繋いだ。


 屋台を回った後、俺と如月は花火がよく見える穴場スポットの公園に来た。二人でベンチに腰かけて、花火を楽しんだ。


「なぁ南天」

「なに寅くん、って今あたしのこと『南天』って呼んだ!?」

「お前今まで冗談半分で、彼女とか好きとか言ってきたよな?」

「…うん」


「俺、南天のこと本気で好きなんだけど、お前の本気教えて?」


 それから南天が俺の彼女ツレになったのは、また別のお話。


〈完〉




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妖怪(ツレ)のせいで平和なキャンパスライフが送れない クラタムロヤ @daradara

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