第19話 今度はあたしが

「ここがてめぇらの墓場だぁ!! 『塵芥戦術』‼」

 五味山の頭上にスクラップの山が集まり、俺たちに襲い掛かる。俺はとっさに如月を抱き抱え、潰される寸前のところで躱した。俺達のいた場所はスクラップの山が新たにできていた。


「あっぶねぇ⁉」

 俺は如月を降ろして、周りを見回す。みんな無事だったようだ。

「僕もう死ぬかと思った…」

「丑門くん‼ 付喪神は私にまかせて五味山をお願いします。生身ですから『気合い』を込めて殴れば付喪神以上に効くと思います」


 晴瑠が付喪神と応戦しながら、俺にアドバイスを送る。でも五味山に拳すら掠らせてないってい俺に、どうやって殴れっていうんだよ‼


「ほう、俺様の『塵芥戦術』を躱したか」

 スクラップの山の反対側から芥山が頂上に登り、俺たちを見下す。俺は殴る蹴るしか能がねぇ。考えろ、どうやったら五味山を殴れる?


「さあて、次は避けれるかな?『塵芥戦術』!!」

「させっかよ!!」

「何!?」


 俺はスクラップの山を物凄い勢いで駆け上がった。『塵芥戦術』の鉄拳は出来上がるまでに時間がかかる。そこで出来上がる前に、その隙を突くというのが俺の作戦だった。


 俺の渾身の右ストレートが、芥山の顔面に迫る。その時だった。

「『凶器乱舞』」

 五味山が右手の中指を立て、くいっと動かした。すると、スクラップの山にある金属パーツが散弾のように俺に飛んで来た。





 五味山の攻撃を喰らった寅くんは、そのままスクラップの山を転げ落ちた。

「『塵芥戦術』はこんなこともできんだぜぇ?」

 五味山が山の頂上で自慢げに笑っている。


「寅くん!!」

 あたしは我に返って寅くんに駆け寄って、抱き起した。体中血だらけだ。

「如月……早く逃げろ」

寅くんは自分のことより、あたしのことを気に掛けてくれる。

「やだ‼」


 あたしは寅くんを必死に持ち上げようとした。でも本気を出せないあたしには、寅くんを持ち上げる程の力が出せない。どうして力加減のできないあたしが鬼なんだろう。


「寅くんが鬼だったら良かったのに。寅くんに力を分けられればいいのに」

 

「南天ちゃん!! 逃げてー!!」

 はるるんの声に反応したあたしは、自分の周りだけ暗くなっていることに気づいた。これは、影? あたしは上を見た。そこには大量のスクラップが浮いていた。


「スクラップの山に仲良く潰れとけ!! 『塵芥戦術』!!」


 五味山が叫ぶと同時に、大量のスクラップが一斉に降り注ぐ。あたしは仰向けになった寅くんを守るように抱き着いた。大学受験のときから、あたしはいつも寅くんに助けられてばかりだ。だから今は、今こそは――


「南天ちゃん!?」

「あたしが寅くんを助けるんだ‼」

スクラップの雨が地面に叩き付けられる音で、あたしの叫びはかき消された。





 音が止み、砂埃が晴れると、丑門くんと南天ちゃんがいた場所には一際大きなスクラップの山が出来上がってました。


 五味山は丑門くん達が下敷きになった、スクラップの山の上に登った。

「これで2人スクラップになったな!! すぐにてめぇらも同じようにしてやるよぉ!!」

 五味山は中指を立て、勝利を確信したかのように更に高らかに笑った。

 

 でも私は全然絶望していませんでした。なぜなら、スクラップの山の中に強い妖気を感じるから。いつもと違う南天ちゃんのただならぬ強い妖気が。


「どうした!? 今更怖気付いて震えてんのか!? みんな仲良くぶっ潰してやんよ‼」

「五味山忘れたんですか? くだんの予言を」


『鬼門を名に宿し人、鬼神の如き力あり』


 次の瞬間、スクラップの山が、五味山もろとも噴火するように噴き飛びました。


『その者、魔除けの鬼の眠りし力によりて真の鬼神となりて…』


 スクラップの山だった場所には立っていました。肌が朱のように紅く、歯は鋭く尖り、頭には二つの大きな角を携えたはまさにでした。

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