第22話笑わない少女と舞台裏

私が寮へと戻った時、部屋の前には不機嫌そうな表情のリティシャが待っていた。


「やっと帰ってきた。」


リティシャはそう言ってこちらに駆け寄ってくる。

続けて言いかける彼女を押しとどめて、ドアを開けて部屋へ招き入れる。


「いったいどうなってるのよ?」

部屋に入るなり待ちきれないとばかりに口を開くリティシャ。


「作戦は話したわよね?」

「こんなのは聞いてないわよ」

私の言葉に即座に切り返してくる。


「それは後で話すわ。それでジョリーナの様子はどう?」


私が学園から離れていた間、つまりあの騒ぎが起きる前からのジョリーナの様子を尋ねる。


「わかったわよ。 えーとね。最初はアンタを警戒してか、いつもビクビクしてたわね。お抱え冒険者が全滅したって報告を受けてからは特に。」

アベリナもいつもの余裕の表情が崩れてて笑えたとも付け加えた後、話を続ける。


「状況が変わったのはやっぱり三日前ね。授業中に王城から使いが来て城にへ向かったその夜だったかな? 城から通達があったのよね。」

要約でいいわよね? と言いながらその内容を答える。


聖霊炉ル・ファーネスは復活する。その復活を行なうのがジョリーナ伯爵令嬢である。ってね。本当はかなりクドクドと長ったらしい文章だったけど」

そう言い終え、やっと椅子に腰かけて一息ついた。


「で、その後はアンタも知っての通りの街を挙げてのお祭り騒ぎよ。それからジョリーナは見てないわ。アベリナ達も人に囲まれて近づけないし。」

そしてふてくされたような瞳をこちらに向ける。


「説明してくれるんでしょうね? 前に聞いた内容にはこんなのなかったわよ?」

まああれは簡単な説明しかしてなかったからね……


私は順を追って説明してやることにした。

黙って彼女の手を取って転移テレポートする。


「へっ? ちょっと!?」



転移したのは学園の地下、前にも来たコントロールルームだ。

「なに? ここ……」

突然景色が変わったことに驚き辺りを見回している彼女をほおって機関エンジンを起動させる。


『おはよう御座います。こちらはNo.1523468 都市管理型システム。開発コードはC1688 指示をどうぞ』


「ひゃああ!?」

突然私達以外に人のいない狭い空間に聞き覚えのない人の声がすれば驚くだろう。


管理人工妖精ヒューマリオン、指示していた映像を見せてもらえる?」


私は前に指示しておいた映像を見せるように管理人工妖精ヒューマリオンに命令する。


『了解しました。前方にモニターを表示します。』


そう言うと私達の前に空中に浮かぶ板のような物が現れる。


「え? なにこれ、ステータス画面?」

そうそれはまるでステータスのようにも見える。ただ数字もなにも映ってないが。


その空中に浮かんだモニターはすぐにある映像を映し出す。

それは王宮の映像……おおよそ三日前の。


しばらくあちこちを映し出していた画面は豪華な一室、謁見の間であろうか? に留まる。

そこでは丁度、王と貴族達そして、ジョリーナがいた。

その隣にいるのは父親だろうか? 内容がわからず不安そうにしている彼女と違ってとても誇らしそうな笑顔であった。


「楽にせよ。コンティナ伯爵令嬢よ」

そう声を掛けるのはこの国の王であるマジフ二世である。

彼の評価には意見が分かれることだろう、即位してすぐに王位継承権のある王族をことごとく処刑し、血まみれ王などと揶揄やゆされもした。

しかしその治世に関していえば国民からの評判もいい。

聖霊炉ル・ファーネスが停止して大きな混乱が起きなかったのも彼の手腕によるところが多いとの声もある。

そもそもの王族の処刑も増長していた外戚貴族の力を削ぐのが目的であったとの意見もある。

よわい50にしてなお老いを感じさせぬ佇まい。鋭く辺りを睥睨へいげいする眼光は鋭く。

しかしまた彼はその狭量きょうりょうさも伝えられている。

王に意見した忠臣を処罰した話は一度や二度ではない。


賢王か愚王か……のちの歴史学者はどう評価するのか?



そんな王に声を掛けられ緊張で顔が真っ青なジョリーナだが、なぜ自分が呼ばれたのか? その理由を聞かされその顔は喜色の表情を浮かべる。


その内容とは、今だ動かぬ聖霊炉ル・ファーネスを動かせる者が分かった。それこそがジョリーナであること。


儀式は五日後、それまで王城にて持て成すと言われた。おおよそ最高の名誉にジョリーナは浮かれ地に足のついてない状態で退室を許される。


後に残るは一部の腹心とコンティナ伯爵のみ。

内密での話に伯爵は青ざめていたが王の次の言葉に目を見開く。


「……その功績によりコンティナ伯爵に拝領を許す。場所は追って決めるが、よいな?」

「ありがたき幸せ」

深く、深く頭を下げる伯爵の顔は欲望に歪んでいた……


「……それが目的なのね? よくも思いつくわね。でもこれだとコンティナ家は力を増すんじゃない?」

「問題ないわ。それも考えてあるし。その流れでアベリナも狙いやすくなるわよ」


映像を全て見終わったリティシャは半ばあきれたような声を掛けてくる。

それに答えながら、ここからさらに地下にある聖霊炉ル・ファーネスがある地下室のあたりに目をやる。

このコントロールルームは独立していて専用の道からでないと入れないので現在の騒がしい聖霊炉ル・ファーネス室から入りこまれることもない。その存在すら知らないだろう。


『No.1523468 都市管理型システムは待機モードに移行します。 ご利用ありがとうございました』


管理人工妖精ヒューマリオンを終了させて私達は転移して元の部屋へと戻るのだった。





さあジョリーナ。今こそ血薔薇と踊ってもらうわね……





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