第23話笑わない少女と聖女の末路

時間は進み、聖霊炉ル・ファーネスの間と呼ばれる部屋。

最近は人の、学者や魔法使いスペルキャスター等の出入りが少なくなった聖霊炉ル・ファーネスの間であったが、ここしばらくは様々な人の出入りが増えていた。



事の起こりは一週間ほど前、炉を起動させる手はないか? 王命を受けた学者達が20年もの歳月を掛けてすらなにも分からなかった現状は劇的に変化する。


今までなにも映さなかったモニターに文字が浮かんだのだ。

それも、聖霊炉ル・ファーネスを起動させる方法が……


この知らせはすぐに王へと伝えられ、さらに調査を重ねる事により炉を起動させる方法、その人物の存在が分かった。


それこそがコンティナ伯爵家令嬢ジョリーナである。


この事は国民に大々的に発表され、これは他国へのけん制も含まれるのだろう。そして現在のお祭り騒ぎへと続く。



聖女ジョリーナ。いつしかそう呼ばれ人々に称えられる彼女。

しかし彼女は知らない。王が、自分の父親が隠している事を……





その聖霊炉ル・ファーネスの間は現在人がいない、いやたった一人だけその部屋の中央にある椅子に腰かけていた。


ついさっきまで大勢の人がいた部屋は一人になると広々と感じ不安になったのだろう。

ジョリーナはその肩を抱きしめていた。

不安に思う理由は他にもある。


なぜ? なぜ救国の聖女と呼ばれる自分が、なぜ枷をはめられるのか?

ジョリーナの足と椅子には鎖で繋がれていた。

その椅子も彼女が何度か動かそうとするもびくともしない。この古代に造られたであろう椅子は。


「聖女であるわたくしに対する行為ではありませんわっ!」

そんな事を叫ぶ彼女の前に私は姿を現した。



「えっ? マキナさん? なぜここにっ!? ここはあなたの様な身分卑しい者が来る所じゃありませんのよっ!」

見るはずのない、いるはずのない人物の登場にジョリーナは混乱しながらもここに来た私を罵倒することも忘れない。。


「祝福しに来たのよ。ジョリーナさん?」

軽く小首をかしげそう言ってやると彼女の顔にはしばらく浮かんでいなかった傲慢な色が浮かんできた。


「そう! やっと理解できた様ですわね! わたくしのすばらしさが、この国を救う聖女であるわたくしを!」

「ああ、それ嘘よ」


そう言った瞬間、彼女はポカンと口を開けしばらくなにも言えなかったようだが、立ち直るとすぐに言い返してきた。


「嘘? なにを言っておりますの?」

「だから全部。祝福に来たことも……聖霊炉ル・ファーネスの起動にあなたが必要である事もね」


「はあ? ばかなことをおっしゃらないで! 聖霊炉ル・ファーネスの起動は陛下から賜った勅命ですわ! 第一、あなたごときがどうやってそんな事を……」



論より証拠かしらね?


管理人工妖精ヒューマリオン聞こえているわよね?」

『はい、こちらはNo.1523468 都市管理型システム。開発コードはC1688 感度良好です』


「なっなに!? どこから声が?」

リティシャと同じような態度を取るジョリーナに構わず話を続ける。


「この声は管理人工妖精ヒューマリオン、古代の都市を管理する妖精よ」

「伝説にある都市妖精? この声が……」

そうして辺りを見回している彼女の前にモニターを出してやる。そこに映っていたのは彼女も知っている文章だった。


聖霊炉ル・ファーネスを起動させうる魔力の持ち主に関する条件、もちろんそれはジョリーナに合致するようにしてあるのだが。


「これがどういたしましたの?」

「その文章を考えたのは私だってことよ」


なにを言っているのか? ジョリーナの顔はそう物語っていた。

そこで私はモニターに映っている文章を変えてやる。とりあえずジョリーナの悪口でいいかしら?

管理人工妖精ヒューマリオン、文章を変更しなさい」


『了解しました』


その声のあとすぐさま文章が変化する。

その文を読んだ彼女は顔を怒りで顔を赤くさせたが、事の次第に気付きすぐに赤かった顔を青ざめさせた。


「え? 本当に!? でもどうして妖精がマキナさんなんかの言う事を?」


この期に及んでもまだ自分の方が立場が上だとでも思っているようね。 まあいいけれど。


「理解が早くて助かるわ。それでね……っと始まったようね」


ジョリーナが座っている椅子の周りにある、今だ誰も解読出来ていない魔法文字によって書かれた魔法陣、カリヴァーンが言うには格好だけの意味のない文字の羅列らしいが。が青く淡く光を発し出した。


「国王の話では、これからあなたの魔力で炉を起動させるって言われたと思うけどそれは正しくないわ」

「どういう事ですの?」

「さっきは見せてなかったけど、モニターには本来術者の全ての力を吸い取って、と書いていたのよ?」


「えっ?」

「国王はもちろん、あなたの父親もそれは承知しているわ。おめでとう! あなたはまさしく聖女として名が残るわ……炉が起動しさえすればだけど」

「そんな! お父様がそんなっ!?」


「あなたの父親は国王から拝領されると聞いて一も二もなくその話に飛びついたわ。ジョリーナさん?」

「う、嘘よ! うそよおおおおおおおおっ!?」


ジョリーナは半狂乱になって暴れたが、彼女に繋がれた鎖はびくともしない。

そうしている間にも光は強まり、ジョリーナの体から魔力をそれが尽きれば生命力を吸いつくすために輝く。


「ああ、あああ!? 力が、力が吸われていく。マキナさん! マキナさん助けて!?」

「いやよ」


無情にも言い放った言葉にジョリーナは絶望の表情で、しかしあきらめきれないのかさらに言い募る。


「お願い! お願いよ!! なんでもしますからっ!?」

聖霊炉ル・ファーネスの起動にはね?」


そのジョリーナの言葉を無視して話し出す。


「本来100人規模の人数で少しずつ魔力を与えて起動させる物だそうよ? この部屋がこれだけ広いのはその人数を受け入れるため。 つまりあなた一人の魔力で炉が起動することはない」


「じゃあ、じゃあわたくしはただの無駄死に!?」


「ついでに言えば、炉が起動しなければ王は伯爵への褒美をしぶるでしょうね? 一度は与えてすぐに取り上げるかもしれないけど。そうならなくてもあの狭量で知られる王が領地を得て力を増すかもしれない貴族をほおっておくはずはないでしょうし。対抗できないように私兵である『バルバロイ・アックス』を潰したのだし?」


畳掛けるように言葉をぶつけられてか、力が吸い取られてか段々動きが緩慢になってきたジョリーナは、あふれる涙だけがとめどなく流れていた。


「お願いします助けて……たすけて、たすけ……」

半ばうわ言のように繰り返すジョリーナ。その彼女に向けて呟く。


「私がかつてそう言った時一度でも助けてくれていたら……」



生命力を吸いつくされ崩れ落ちたジョリーナだった物を一瞥し、部屋を後にする。



『No.1523468 都市管理型システムは待機モードに移行します。 ご利用ありがとうございました』


だれもいなくなった部屋に無機質な声だけが響いていた。




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