第12話

鉄男が小学校三年に上がると、長男も入っていた、『少年サッカーチーム』に無理やり入れられた。

これまで習い事は、ピアノ、習字とやってきた。お菓子につられて最初は行くのだが、お菓子の至福の時間より、習い事を押し付けられている苦痛の時間の方が多い事が不満で、どれも二週間ほどしか続かなかった。

サッカーにはお菓子の時間も無いので、こんなものが続くわけないと思われたが、鉄男の辞めたいという意思は、今回は通らなかった。


近所の、広場でよくサッカーをしていたツワモノ連中も、チームに入った。

チームは、上級生も合わせると、二十〜三十人ぐらいになった。


練習初日で、シュートの練習をした。

ゴールの十メートル程先にボールを置いて、一人づつ蹴っていく。

順番待ちの列は、シュートの放たれるゴールの後ろに五メートルほどの間隔をおいて、横並びで続いていた。

上級生の蹴った強烈なシュートが、バーを超えて、順番待ちの鉄男に向かって一直線に飛んできた。

鈍臭い鉄男に避ける猶予はなくボールはミゾオチに直撃した。

鉄男はしばらく息ができなかった。

開幕早々にして、痛い洗礼を受けることとなった。


トラップの練習があった。

コーチがランダムな高さに投げるボールを、その高さに合ったトラップで受ける練習だった。

この練習も、列を作って一人一回交代で行われた。

鉄男の前の人間が、高めに来たボールを、上手に胸で受けた。

次にコーチが投げたボールは、低めで、明らかに足でトラップするボールだった。

しかし、前の人間の鮮やかな胸トラップが頭に焼き付いていた鉄男は、それを無理やり胸で受けた。

その姿が滑稽で、周囲の嘲笑をかった。


三人で上手くパスを回して、二人のディフェンダーをかわして、ゴールを決める練習があった。

その際、下手な鉄男にはボールが回ってこなかった。コーチが急遽ルールを変更して、一人一回、必ずパスを回すことになった。

開始直後、止まった状態で三人でパスを回し、鉄男を置いて、他の二人がゴールに向かった。

鉄男にパスを回していたのでは、二人のディフェンダーを交わすときの邪魔になるから、そこに行き着くまでに、一人一回パスを回すルールをこなしておく寸法であった。

これにはコーチも渋面であった。

やはりここでも、鉄男は一段下の存在であることを意識せざるを得なかった。


自分のセンスのなさに嫌気がさした。

練習で毎朝六時に起きなければならないのも苦痛だった。布団でグズっているところを、長男に蹴り起こされた。

この当時の長男は、基本、鉄男には優しかったが、こういうウジウジした態度の鉄男には厳しかった。


こうして、憂鬱な毎朝の日課がプラスされることとなった。


コーチは、毎日欠かさず練習に来る鉄男に関心し、たまに試合に出させてやったりしたが、無論、活躍するどころか毎回恥をかく結果に終わった。


鉄男は、サッカー・野球・バスケ等の、チームでの連携を必要とするスポーツは、苦手だった。

サッカーにしても、鉄男の興味を引いたのはいわゆる“個人技”で、連携とはかけ離れた分野だった。

リフティングは難しかったが、二回、三回とできてくるにつれて喜びも増えていき、夢中で練習した。結果、サッカークラブの中でも中レベルぐらいまでできるようになった。

ヒールリフトを初めて見たときには感動すら覚え、眼を光らせて練習に励んで、これも習得した。

宿舎前の広場でサッカーをした帰りなど、自分の家がある二階に登るための階段で「一段につき、ボールを二秒間指の上で回す」と言って練習した。

空いた手で回転の助力さえしてやれば、指の上で永遠にボールを回せるようになった。

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