第33話 闘技について
料理が来るまでの待ち時間を利用して、レラが闘技についての説明を始める。
琉斗は闘技について知らないわけではない。『
それではなぜレラに教えを乞うているのかと言えば、『
確かに『
そもそも、世界を滅亡の一歩手前まで追いやったと言われている龍皇の「闘技」と、人間の闘技とが同じだと考えること自体が不自然なことなのかもしれない。
そういうわけで、琉斗はレラに「人間たちの闘技」についてレクチャーを受けることにしたのだ。
「まず、そもそも闘技とは何なのかについて確認しましょう」
「ああ、頼む」
「闘技とは、人間が内に秘めている闘気を力へと変える技のことです。直接相手へと放つ技と自身の能力を高める技に大別することができます」
「魔法とは何が違うんだ?」
「いい質問です、リュート」
出来のいい生徒に、レラが嬉しそうに微笑む。
「闘気を力に変えたものが闘技であるのに対し、魔法は魔力をその源として行使されます。ですから例えば、私は闘気の操り方を心得ているので闘技を使うことができますが、魔力についてはわかりませんので魔法を使うことはできません」
「なるほど。闘気と魔力は異なるものとして理解されている、というわけか」
そんな琉斗のつぶやきに、レラの瞳がきらりと光る。
「ところがです!」
「うおっ!?」
突然のレラの大声に、琉斗が思わず椅子ごと後ろにのけ反る。
そんな琉斗の様子になど構わず、ずいと身を乗り出すと、レラは何かスイッチが入ったかのような勢いで猛然と語り始めた。
「実は、闘気も魔力も本質的に等価である、という説があるのです! その説によれば、魔力も闘気も、その根源は生物が内に秘める生命力らしいんです。ですから、十分に腕を磨けば、魔法に闘気をこめたり、逆に闘技に魔力を上乗せすることもできるはずなんですよ」
「へえ。レラもそれを目指して?」
「はい。恥ずかしながら、まだ全く芽は出ていないんですけどね」
困ったような照れ笑いをすると、レラは再び熱弁を振るう。
「でも! その説を裏付ける有力な根拠があるんですよ。リュート、それはいったい何だと思いますか?」
「ううん……何だろう」
「それはですね、禁呪ですよ。その説によれば、禁呪とは術者が魔法に自らの生命力を注ぎ込んだものだと考えられているんです。事実、かつて強大な魔族を禁呪によって滅ぼした大魔術師エファルは、それが原因で命を落としていますし、禁呪が禁忌の力とされるのも、人間の生命力を蝕むものであるからだと言われています」
「ふぅん、恐ろしい力なんだな」
「でも、闘気と魔力、二つの力をうまく操ることができれば、より大きな技を編み出すことができると思うのです。私は一級冒険者としてより高みを目指すために、その二つの力の融合に取り組んでいるんですよ」
まだまだその域に達するのは遠い先の話になりそうなんですけどね、とレラが苦笑する。
実のところ、レラが主張していた説は正しかった。彼女が言っていた通り、闘気と魔力は生命力を根源とする、本質的に等価な力だ。それは『
彼女の話から察するに、どうやら人間の間ではその二つが根本的に異なるものであるという理解が支配的であるようだった。魔力のみ、闘技のみで行きつける終点が、人間たちが最上級魔法などと呼んでいる『
「でも、リュートも風の闘技を使うことができるんですね。私も何だか嬉しいです」
「も、ってことは、レラも風の闘技を?」
「はい。自慢ではありませんが、リュートのあの技にも負けない自信はありますよ。対戦したあかつきには、ぜひともお見せしたいものです」
「どうかお手柔らかにな」
そう笑いながら、琉斗は内心で苦笑する。
予選で見せたあの技は、実はギリギリのところまで力を抑えていた。何せ『
力の加減にだけは細心の注意を払わなければな。琉斗は密かに己の肝に銘じる。
そんなことを考えていると、店員がうまそうに焼き上がったビーフステーキの皿を持ってきた。
レラが嬉しそうに声を上げる。
「来ましたよ、リュート。冷めないうちにいただきましょう。本当においしいんですから」
「なあ、ひょっとしてレラって、食べるのが凄い好きなのか?」
「はい、大好きです。……ひょっとして、食いしん坊は嫌いでしたか?」
少しだけ恥ずかしそうにうつむくと、レラが上目遣いにそんなことを言ってくる。その恥じらいの表情が、何とも可愛らしい。
「いや、おいしそうに食事をする女性は魅力的だと思う」
「もう、リュート、そういうことはあまり面と向かって言わないでください。恥ずかしいですから」
「でも、事実だからな」
「もう、年上をからかうなんて悪い子です、リュートは」
やや顔を赤らめたレラが、目の前のステーキをナイフで切り分けていく。
琉斗もステーキにナイフを入れると、意外にもスッと肉に刃が沈み込んでいった。昔の牛肉はゴムのように固いなどという話をどこかで読んだことがあった気がするが、目の前のステーキについてはそんな心配は無用であるようだ。
ほどよく脂が乗った赤身のステーキを、フォークで口の中へと運ぶ。
香ばしく焼き上がった牛肉は適度に塩と胡椒で味付けがなされており、現代人の琉斗の舌にも十分以上に美味なものであった。
「ね、おいしいでしょう?」
琉斗の表情を見て、レラが嬉しそうに尋ねてくる。
「ああ。本当にいい肉だ。いい店を紹介してくれてありがとう」
「どういたしまして。リュートに喜んでもらえてよかったです」
レラが花のような笑顔を見せる。
それからしばらくの間、二人は素晴らしい夕食を楽しんだ。
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