第34話 聖龍剣闘祭 本戦



 聖龍剣闘祭、本戦の日がやってきた。


 聖龍剣闘祭の本戦は、三日間にわたって行われる。初日は一回戦、二日目に二回戦、三日目は準々決勝から決勝までという日程だ。

 特に初日は十六試合も行われるとあって、予選同様の過密スケジュールが組まれていた。




 大会初日の朝、琉斗とレラは会場となる闘技場の前へとやって来ていた。


 今日のレラは、初めて平原で会った時と同様に、露出が少なめな軽装の鎧と大きな槍で武装している。髪は軽く結い上げられ、白いうなじが朝日を浴びて何とも眩しい。その神々しいまでの美しさは、戦の女神と形容するに相応しいように思われた。


 試合の前に開会式があるということで、会場にはすでに多くの観客たちが押し寄せている。

 もっとも、彼らは開会式が見たくて会場に来ているわけではない。開会式に合わせて闘技場が開場するので、少しでも良い席を確保するためにこうして朝から会場まで足を運んでいるのだ。


 そんな観客たちが、会場前のいくつかの場所で何やら人だかりを作っている。


 レラによれば、あの人だかりの先には本戦の対戦表が掲示されているとのことだ。場内ではパンフレットのようなものも売られているそうだが、それは非常に高額なものらしい。

 チケットを手に入れるので精一杯という者たちは、ああやって臨時に設置された掲示板へと集まり、対戦表を必死に記憶して会場へと向かうのが恒例になっているとのことだった。



 しかし、レラはその人だかりには参加せずに会場の入り口の方へと向かう。


 入り口のあたりでは入場券の確認が行われていた。観客たちが続々と中へ入っていく。


 レラと琉斗は、あらかじめ渡されていた関係者用の入場券を係の者へと見せる。すると、他の者が二人を関係者用の入口へと案内してくれた。よくライブなどでも関係者向けの入り口を見かけるな、などと琉斗は小さな優越感に浸りながらそちらの入り口を通る。


 闘技場の中へと入ると、入り口からすぐのところに対戦表が掲示されていた。それを眺めていた二人の男がレラに気付いて驚きの声を上げ、ついで彼女と並ぶ琉斗に訝しげな視線を向ける。


 レラは軽く二人に会釈すると、対戦表へと目を向けた。琉斗も彼女にならって二人に会釈する。


「あ、ありましたよリュート。Aブロックですね」


「ああ、本当だ。レラはどこだ?」


「私は……ありました、Bブロックです」


 レラが少し残念そうに言う。


「リュート、私とはちょうど反対側のブロックになってしまいましたね」


「そうだな、これじゃ決勝まで勝ち残らないと当たらない」


 だが、次の瞬間にはレラは前向きな笑顔を見せていた。


「でも、これで楽しみが増えました。あなたとは、決勝という最高の舞台で戦うことができそうですね」


「レラどころか、俺が負けるということも頭にないようだな」


「当然です」


 レラがやんちゃな少年のような笑顔を見せる。その横では、対戦表を眺めていた二人が「何者なんだ、あのガキ?」やら「あのレラが太鼓判を押すほどの奴なのか?」やら、琉斗の方をちらちらと見ながら話し込んでいる。


 その話し声に若干の居心地の悪さを覚えながらも、琉斗はレラと一緒に対戦表を見つめる。


「あ、騎士団長もAブロックですね。リュート、ずるいです。私が雪辱を果たすはずだったのに」


「そんなこと言われても。それとも、俺が負けた方がいいのか?」


「いいえ、絶対に勝ってください。Bブロックにも、ガリシュ王国の一級冒険者、ナスルがいますしね」


「まったく、わがままな女だ」


「ふふっ」


 いたずらっぽくレラが笑う。


「ところで、俺の一回戦の相手はどんな奴か知ってるか?」


「アイザックですか。前回大会のベスト4ですね」


「強敵じゃないか」


「大丈夫ですよ。準決勝で私が勝った相手ですし」


 さらりとそんなことを言ってのける。


「まあ、レラがそう言うなら、俺も頑張るよ」


「その意気です、リュート」


「それにしても、本当に魔術師が出てもいいんだな。セレナさんの名前もBブロックにあるし」


「彼女も前回大会のベスト8ですからね。王国屈指の魔術師なだけのことはあります」


「凄い人なんだな」


「はい、凄い人です」


 そう答えるレラの声が弾んでいる。早く戦いたくて仕方ないといった顔だ。やはり彼女も根っからの冒険者なのだろう。そんな彼女につられるかのように、琉斗の気分も徐々に高揚してくる。


「他には注目するような相手はいるか?」


「そうですね、リュートの場合、きっと二回戦は推薦枠のアランと戦うことになるでしょう。他国の武術大会で準優勝の経験もある、腕利きの二級冒険者だと聞いています」


「へえ、それは用心しないとな。というか、Aブロックには何だか強い奴ばかり集まってないか?」


「そうかもしれないですね。リュートが羨ましいです」


「俺はできることなら代わってほしいくらいなんだけどな」


「駄目ですよリュート、それは贅沢というものです」


 実に羨ましそうな顔で言うレラに、琉斗も苦笑を返すよりない。




 しばらく対戦表を眺めた後、二人は試合会場へと向かった。出場する選手たちは試合会場へと集まって開会式に出席するよう、入場時に指示されていたのだ。


 係の者の案内に従い、二人は石造りの闘技場の廊下を歩いていく。乾いた靴音を響かせながら、琉斗はもうすぐ始まる本戦の試合に思いを巡らせていた。



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