第22話 報告
王都まで戻る道中、琉斗は質問への対応に苦労した。
レラのみならず、途中からモルグとセレナも加わって琉斗にあれこれと尋ねてくる。
特に隠すようなことはなかったが、自分の力を説明するのはなかなか難しい。まさか自分が神から龍皇の力を受け継いだと言ったとしても、彼らがそれを信じるとも思えない。
結局、エルファシア王女に話した時と同様、記憶喪失という設定であれこれと説明する。もちろん、それでも彼らは半信半疑といった様子ではあったが。
もう少しレラと話ができるかと期待していたが、モルグとセレナがあれこれと尋ねてくるおかげでレラと会話するどころではなかった。それでも、数少ない彼女との会話に琉斗の胸は躍った。
少し気がかりだったのは、ミューラーの様子だ。あれほど琉斗を意識していた彼が、今は表情も暗くうつむいている。
彼にしてみれば、自分より格下だと思いながらも意識せざるを得なかった人間が、実は魔法は剣のついでにもかかわらず、自分に匹敵する魔法能力を持っていたように見えているのかもしれない。それは魔術師の名門の出身である彼には耐えがたいことなのかもしれなかった。
もっとも、それは琉斗にどうこうできる話でもない。気の毒には思いつつも、琉斗はそれ以上は考えないことにした。
さほどの時間を要せず、琉斗たちは王都へと到着した。
そのまま真っ直ぐに冒険者ギルドへと向かう。
一仕事終えた冒険者たちが次々と入っていくギルドの扉をくぐると、琉斗たちは壁際の一角へと集まる。
そこでモルグが解散を告げると、新人たちは安心した表情で実地研修の終了を報告に窓口へと向かった。
だが、琉斗はそこで解放されず、レラと共にしばらく待たされる。
事情を説明に行っていたらしい指導員の二人が受付の方から戻ってくると、琉斗はそのままレラと一緒にギルドの奥へと案内される。
奥の一室に入ると、そこには何人かの職員がいた。琉斗たちに席に着くよう促すと、彼らはさっそくモルグに先ほどの戦いについて質問をぶつけてくる。
職員たちは琉斗が魔物を倒したという話に半信半疑、否、ほとんど疑といった様子だった。それも当然であろう。何せ目の前の駆け出し冒険者が、二級冒険者のセレナでも歯が立たなかった魔王軍の幹部をたった一人で討伐したというのだから。
困ったことに、魔物を跡形もなく消し飛ばしてしまったがために、倒した証拠となるようなものもない。
だが、試験員の二人のみならず一級冒険者であるレラが証人ということもあり、職員たちもいかにも仕方なくといった顔で無理やり納得したようだった。
当然、質問は琉斗個人にも向けられ、先ほどモルグたちに説明したような内容を答えていく。記憶喪失と聞いてギルドの職員は顔をしかめたが、特に細かく追及されるようなことはなかった。
やがて報告も終わり、琉斗たちは部屋から退出する。
モルグが琉斗の肩を叩きながら笑った。
「何にせよ、これで事件も一件落着したわけだ。お前のおかげだぜ、リュート」
「そうね、私もあなたみたいな新人が入ってくれて心強いわ」
「ま、今日はゆっくり休め。多分お前はこれから忙しくなるだろうしな」
「忙しく、ですか?」
琉斗の問いに、モルグが愉快そうにうなずく。
「おうよ。何せお前はあんな化物を倒しちまったんだからな。ギルドのおっさんたちは半信半疑みたいだが、俺たちが証人なんだから無視するわけにもいかねえ。お前、近いうちに級が上がるぞ」
「あなた、今は五級だったかしら? 少なくとも三級、もしかすると二級まで上がるかもしれないわね」
「そんなにですか」
「あたぼうよ。お前はそれだけのことをやってのけたんだ、当然さ」
思いがけない話に少々戸惑いながらも、琉斗は自分の行動範囲が広がりそうなことを内心で喜んだ。
「事件も解決したことだし、セレナ、この後一杯どうだ?」
「いいわね、もちろんモルグさんのおごりでしょう? 先輩なんだし」
「いやいや、そっちこそ二級冒険者サマじゃねえか」
モルグがレラに声をかける。
「レラ、お前もどうだ? 何なら俺がおごるぜ?」
「ちょっとモルグさん、どうしてレラにはおごって私には駄目なのよ」
こうして見ていると、まるで掛け合い漫才のようだ。
だが、レラはゆっくりと首を横に振った。
「お誘いは嬉しいですが、今日は少し用事がありまして」
「用事?」
うなずいて、レラは琉斗の隣に並ぶと身体を少し彼に近づけた。
「私は、これから彼にいろいろと聞きたいことがあるもので」
「俺に……ですか?」
琉斗の声がやや高くなる。まさかレラの方から声をかけてくるとは思っていなかったのだ。
「何だ何だ、一級冒険者サマはそういうのがお好みか?」
「下種なこと言うんじゃないわよ。その子の力が気になるんでしょう?」
「はい」
そう微笑む顔は、どこか無邪気な少年を思わせるものがあった。
「あなたはこの後何か予定がありますか、リュート?」
「いえ、俺も今日はもう何もありません」
「では行きましょう。それでは皆さん、私たちはこれで失礼します」
「おう、今度はつき合えよ」
軽く手を上げるモルグとセレナに一礼すると、レラは廊下を歩き出す。
琉斗も慌てて二人に挨拶を済ませると、その場を立ち去るレラの背中を追った。
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