第16話 黒い鉄球

ジャラジャラと耳障りな音が大きくなる。

「あいつ、おもしをくっつけてやがる」

耳が隣のつぶやきを拾う。


黒い男の片足には、鎖がついている。その先についている鉄球。

「あの鉄球だね。何のために……」

嫌な煙の臭いがして、胸がむかむかする。


せろ!」

「っく!」

レフトのお陰で、鉄球を引きずってきた男の横薙よこなぎを避けることに成功する。

刀であの力を少しそらしたようだ。


「危ないな!」

悪態をつきながら、剣を振る。

レフトは避けられるので、結果大男の足に打撲させることができた。


「ち!」

盛大な舌打ちの直後、大男は鉄球をよこした。

「ぐうあっ」

肩と顎に衝撃をもろに食らい、体だけが必死に逃げようとする。

遅れてやってくる鈍重な痛み。


「くらえっ」

レフトが、その攻撃の間にできたすきにつけこんで斬りつけることができた。

「返事しろ、ライド!」

大男と斬りあいながら問いかけるレフト。


「ヴううっ」

口がしびれてきた。顔の一部を白い気体が覆っているのが分かる。

手は動くようだ。右手に握りっぱなしの剣を持ち直す。


体力の持久力では、レフトより勝っている。

ここは僕が切り込むしかない。

ヴぉけどけ!」


レフトとは反対側の敵の胴体に刺突。次に斬って、その返しと刺突。

「バカめ」

その攻撃の間に敵はレフトを放すので、ここからは僕の独壇場。


集中することで、時間がゆるやかに流れている気になる。

大男の斬撃から身を引き、大剣に刃を這わせてその大きい図体までも傷つける。


いつっ!」

刺すような熱さ。しびれる箇所が多くなる。

でも、痛いのは相手も同じだ。


刺突の格好を素早く持ち替え、刀を持つようにする。

「くらぁ!」

刺した方向と逆に走れば大きく動きが変わるはずだ。

こいつはあまりに強すぎる。


煙の濃度が上がる。敵に傷はついたみたいだ。


「今ここに捧げる、ヴァルハロンド!」

レフトの声が響いたとき、敵がいる位置に黄色と青の炎が舞う。


ここで、僕は勝てると油断した。


異常な甲高い音が、突然耳に入る。受け身は間に合わなかった。

ガコオンと鈍い音が地面を削り、破片に目を潰された。

「ふぐっ!」


地面を探って這いずっていると、熱い鉄球が手に触れる。

鎖はついているが、何処にもつながっていない。あいつは鎖を外したのか。

ふと、いびつな足音が聞こえた。


少し疲れた様子の、……二人。


速め三テンポに、重い音が混じる。

これは、二人三脚みたいだ。支えあっている。

意識の隅に、ある人の顔が浮かぶ。


「……ろーさん? その方は?」

「無事、ではなさそうだな。ライドとか言ったか。目が見えてないんだな?」

「目つぶしされてしまいました。誰ですか、もうひとかたいますよね?」

「スター第三隊長、キッドだ。巻き込んですまない」

声から察するに女性のようだ。でも、その謝罪の言葉は事務的過ぎる。

「僕から首を突っ込んだんです。謝らないでください」


「とりあえず、この水で顔を洗って」

女性の声の直後、空気が少しだけ変質する。

「水のにおい?」

顔に一滴、水がかかる。

「ありがとうございます」

顔を真上にあげると、顔に水がついた。目も見えるようになったぞ。

目の前には二人いる。不思議な帽子のローさんと、もう一方のこちらがキッドさんか。

獣の耳に猫のような尻尾、加えて大剣を携えた……。

「大剣の聖者……」

「えっ?」


おっと、声に出しちゃった。

「あれ――仮面の襲撃者のこと――と戦っていた方ですね?」

「ああ、あいつは特殊手配犯なのさ。ここで出くわすとは予想外だったが」

「ライドと、そちらはスターの指示系総統だと推察するが」

レフトがローさんに導かれて煙った中からやってきた。

それにしても視界が悪い。

突然、足元と周囲で爆音が発生する。

「私の背に固まれ!」

キッドからの指示が飛ぶ。範囲に入ったそばから、衝撃波が緩和される。防御力のある魔術も持ち合わせているようだ。


「お前達は大した怪我がないところを見ると、相当な腕前だな」

範囲内からローさんが声を張っている。無難な返答でいいだろう。

「素人ではないとは思いますよ」

「生死の駆け引きは初めてですけどね!」

レフトがすかさず補足してきた。ああ、全くその通りだ。

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