第8話 ライバルと白煙

陽も高くなってきた翌日、つまりは今日。陽の光は森の影に輪郭をつけている。影から見物する酔狂な人物が一人。

「あら。遠いわね。ここからじゃ観にくいわ。もうちょっと近くで…」

彼女はじれったがって、影から踏み出しかける。

「あっ、あちちち………だめか」

たたらを踏んで森の影に後退した。



剣を交えたままの相手ライバルの視線が揺らぐ。さっきから目つきが悪い。

「レフト、お前どうしたんだ。さっきからおかしいぞ」

すると、レフトは奥歯をかみしめて苦いものを食べたような顔になった。

直後、レフトの剣から力が消える。絶対におかしい。


何処どこからか植物のツタが伸びてきて、レフトの両手を後ろ手うしろでしばる。

戦闘の最中に武器を取り落とすのはライバルらしくもない。


つかまえたわ!」

ナリアさんがレフトの背後で、左手には首にかけていたペンダントを、

右手には剣とそれに巻き付いているツタを持っている。

縛りあげられたレフトに、ライドが近づいた。

「レフト、南に旅に行ったはずだろ?何でここにいるんだ。

それに、試合がしたっかったならちゃんと言ってくれよ。

沢山の人を巻き込んだんだ」

レフトは放心しているようだった。

「………レフト?」


レフトの顔を覗き込んだライドは、突然の衝撃に吹っ飛んだ。

レフトが頭を振ってぶつけたのだ。

「…おとなしく殺されろぉ!ライドォォ!!」

レフトの体に力が入り、後ろ手にしばつるがブチブチ、ギリギリと

耳障りな音を立て始めた。

「あなた、止めなさい。これ以上力を入れると怪我をするわよ!」

最後の一本がちぎられようとしている。

(ちぎれる)ナリアとライドがそう考えたとき、レフトの目は閉じ、

レフトがひざから崩れ落ちた。

「あっ!」

気付いたライドがすかさず抱きとめる。


「気を失っているわね。とりあえず、人を呼んでホテルまで運びましょう。

それから、ライド君の傷の手当てもしましょう?ちょっと見せて」

そういえば、目の上あたりがヒリヒリする。


「痛そう。血が出ているわよ」

電話をかけながらナリアさんは言った。

額から、白い煙がにじみ出るようにして出ているのだ。


この世界で、人から出るのは赤い液体ではない。白く見える蒸気のようなものだ。それを人は「血気けっき」と呼んだ。

血液の代わりに、オリジナル棒人間には気体がめぐっている。

血液と同じく、半分失うだけで死んでしまう。


「このくらいかすり傷ですよ。レフトと一緒に行かせてください」

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